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14.仙道の隣と湘北3回戦



なまえは仙道の腕をポンポン叩いた。
「あっ!ほら!いた!神君と清田君あっちだ!ここの通路通ると思ったのに予想外した!」
「残念だったね。」
二人は湘北のゴール近くに座っていた。 湘北のオフェンスをじっくり観たい仙道は、単独行動で座りたい席で観たかったらしい。

「ねえ、向こう戻りたいなとか思ってる?」
「う……うーん本音言えばこのままここで見たい……湘北のプレー良く見えるし……。」

三井がシュートを決めた。 パタパタと手を振ると、こちらに気づいて笑ってくれたが、隣の仙道を視界に入れると怪訝な顔をする。

「二人には悪いけど、カメラ気にしないで見れるの嬉しいな。」
「じゃあ一緒にいよう?」
「うん!お邪魔します。」

仙道がにっこり笑いかけたあと、コートに視線を移す。 なまえも試合を見ようとしたが、長い脚が前の椅子に当たり、狭そうに猫背で縮こまる仙道が可愛くてぷ、と笑った。

「仙道君手足が長いから窮屈そうだね?」
「うん。」
「一番前の席のほうが通路あるからよかったかな?」
「あんまり目立ちたくはないんだ。静かに観たい。」

このつんつん頭は随分目立つと思うんだけどな……と困惑したが、仙道は冗談で言ってる様子もない。

「私ねえ、仙道君の長い腕がさ、しなる感じにシュートするの、すっごく綺麗で好きなんだ。」
「綺麗?」
「うん。」
「あんまり男に言う台詞じゃないな。」
「嫌だった?ならごめん。仙道君関節柔らかそうだよね。こう、肘がさ……。」

なまえが仙道の肘に手を添えると、すぐに仙道にその手を握られる。
「?あ、静かに観たいんだよね……!ごめんね!!」
「怒ってないよ。そうじゃない。」
「え?」
「手、握ってたら緊張するかなぁ。」
「は?」
「いや、彦一がさ、なまえに話しかけるの緊張するって言うから。」
「えっと、知らない人に声掛けるのは緊張するってことじゃ?」
「あいつ人見知りするのかなぁ。大体の奴とは話せるのになまえに話しかけ辛いとか失礼だよね。俺から言っておく。」

仙道がなまえの手で遊んでいるように、ぷらぷらと揺らしてみたり握ってみたりしているのをなまえはおとなしく眺めていた。 しかし、指と指を絡めて、恋人繋ぎの状態で遊ぶのをやめてポンと仙道の太ももに置かれたときは挙動不振に視線を動かした。

「!!!」
「お、なまえ見て。桜木ファール今日も好調だな。」

笛が鳴って、くやしそうに手を挙げる桜木を仙道が笑う。 ただいつも通り観戦してるだけのような態度に動揺する。
「……。」
も、もしかしてこの程度で狼狽えるなんて私気持ち悪いんだろうか?と、ぽやんとした表情の仙道を見てると思ってくるから不思議だ。

「……うーん。」
「?」
「ドキドキはしない……。」
あ、手のことか、と気づいて、どう返事をしたらいいか戸惑ってしまう。

「そ、そりゃ仙道君のファンは綺麗なお姉さんとかいらっしゃいますし?私と手を繋いだくらいじゃなんともならないでしょう……。」
「いや、落ち着く。」
「え?」

試合から視線を外し、お互いを見つめる。 なまえはきょとんとした表情で、仙道はにっこり微笑んで。

なまえの近くにいると落ち着くんだ。」
「あ……ありがとう……?」
絡む指を一瞬外して、また握り直す。 これ、この試合ではずっとこうしているのだろうか、と考えて動揺する。

「えっと。」
「なに?」
「あのね、三井さん、私の幼馴染なので……ちょっと注目してくれたら嬉しい。」
「幼馴染。」
「うん。」
「幼馴染って……。」
「ん?」
眉根を寄せて、何かを思案する仙道を見つめる。
「……一緒にお風呂入ったりするの?」
「そんな真面目な顔で考えた後の言葉がそれ!?」
「いや……そんなことを漫画で読んだような……。あ、なまえと一緒に風呂入るのはドキドキするな絶対。」
「は、入らないよ!」
「まあ機会がなかなかないよね。」
「なかなかじゃなくてないです!!!」
「あはは。顔赤くして可愛い。」
「ほんっと可愛いなまえちゃん。」

第三者の声がして振り向く。なまえは焦り、仙道は目を丸くした。

「よお。仲良しだなあ?」

二人の座席の背もたれに手をかけ、藤真がにやにや笑っていた。 隣には付き合わされた感満載で困った顔をした花形がいた。

「藤真さんと花形さん。」
「こ、こんにちは藤真さん!花形さん!いらっしゃってたんですね!」
「俺は察したよ。なまえちゃん。」
「え?」
「湘北の試合見た方がいいですって連絡、遠まわしに会場で俺に会いたいってことだってね。」
「え。」
「え。」

なまえだけでなく花形も不思議そうな顔をする。 突然何を言い出すんだと汗をかく。

「えぇ?藤真さんとなまえってそんなやりとりすんの?俺にも連絡頂戴よ。」
「は?仕方ねえななんかあったら誘ってやるよ。」
「いや藤真さんじゃなくてなまえ……。」
「おい!先輩が誘ってんだぞ!」
身を乗り出して、藤真が仙道を睨みつける。 コートではブザーが鳴る。 前半の試合が終了した。

「おい仙道ちょっと来い。」
「はい?」
コートと時間を見て、藤真が仙道の肩を掴んだ。

「花形、後半始まる前には戻るから、ここにいろよ。」
「ああ。」
なまえちゃんを楽しませる会話をするよーに。」
「え。」
「翔陽代表として。」

びしっと花形を指差して、藤真と仙道は行ってしまった。
「楽しませ……?」
突然の指令に花形が戸惑う。
「あ、あの、お気になさらず……。」

なまえが体を横に向け、花形に苦笑いを向ける。
「す、すまん。気の利いた話題が出てこない。」
「いいえ。バスケのお話ならなんでも楽しいですよ。」
「……そ、そう?」
にこにこと笑うなまえにほっとして、その言葉に甘えることにした。

なまえちゃんはバスケやってたの?」
「あの、本格的にはやってなくて……。」
「そうなんだ。随分バスケ好きみたいだからなんかあるのかなって思ったけど。」
「いやそれが結構軽率な理由で始めてしまって……。」






花形となまえがのんびり会話をしている頃、藤真は仙道と向かい合って思いっきり睨みつけていた。
「やだな……怖いな藤真さん……。」
「なにしてんだよお前。牧がいねーからってなまえちゃんに近づいて。何手なんか握ってんだよ。」
「え、駄目ですか?」
「駄目ですかじゃねえよ。お前目立つんだからよ。注目されてる自覚ねえの?」
「隠れてたつもりです。」
「どこがだよ。変な噂出たら困るのはなまえちゃんだって分かってんのか?女の嫉妬は俺なんかよりずっと怖い。」
「…………。」

大きく瞬きした後に、にこりと笑う。
「そのときは責任もって俺が守ります。」
「……楽しんでないか?お前。」

手に負えねえな、とため息が出てしまう。

「それに別に牧さんがいないからとかじゃないですよ。」
「ん?」
「時間があればなまえと話したいですし。楽しいんです。」
「……バスケ仲間として?」
「それもあります。」
それも、ねえ、と藤真が頭を掻く。 人に言えないようなことは何一つしていないというような仙道の態度に、今は何を言っても無駄のように感じてしまう。

「そろそろ休憩終わるんじゃないですか?」
「……そうだな。」
「戻りましょうよ。飲み物でも買います?」

へらへら笑いながら、自販機を指差す。
「花形さんて何が好きですか?」
「コーヒーでいいんじゃね。」
「四本でいっすか……あ。」

仙道が自販機の前に立って、財布を取り出しながらどれを買おうか悩んでる隙に、藤真が千円札を入れてしまった。
「いいんですか?」
「先輩だからな。」
「男前。」
「それ本心じゃなかったら殴るやつだぞ。」
「本心ですよ。」

四本、同じ物を買って席に戻る。 花形と二人にして気まずそうにしてたらどうしよっかなと考えながらだったが、二人を見て目を丸くする。 花形が楽しそうに身を乗り出してなまえに話しかけて、なまえは困ったように照れながら顔を赤くしていて、口説いているようにも見えて焦る。

「は、花形。」
「あ、戻ったか、藤真。何話してたんだ?」
「おかえりなさい、藤真さん、仙道君。」
「いや、お前らこそ、何話してたんだ?」
「俺たちは……。」

花形がなまえを見てにこりと笑う。 それを見てまたなまえは恥ずかしそうに俯いてしまった。

「ほら、部活帰りに藤真となまえちゃん飯食いにいったときさ、次の日藤真が大絶賛してたって話を。」
「えっ。」

その内容に今度は藤真が青ざめる。 今すぐに仙道の耳に栓をしたい。

「気がきくし話しやすいし面白いし凄い良い子だって、何回も言ってたじゃないか。」
なまえと部活帰りにデート?いいなー。牧さん伝いっすか?」
「仙道は黙れ。」

それを聞いた反応がなまえの赤面か、と納得しつつ、言うなよそれ本当それ言うなよ恥ずかしいだろ!!!!と藤真まで顔を赤くする。

「藤真がこんな素直に女の子褒めるとか珍しいからさ。」
「花形!!!!!」
「うお!!!!」

耐え切れず藤真が花形にコーヒーを投げつけた。 驚くも上手くキャッチして、なまえに渡す。

「あ、危ないぞ藤真……。ありがとな。はい、なまえちゃん。」
「わあ!ありがとうございます!!」

藤真の背に、ぽん、と手で叩かれる感覚。 めちゃくちゃ後ろを振り向きたくない。

「藤真さん。」
「黙れ仙道。」
「男の嫉妬は可愛いですよね。」
「嫉妬してない。」
「誰のこととは言ってないですよ。」

こいつくっそ可愛くねえ!!!!と睨みつけると、慌てたように仙道が離れた。 牧に報告してやる絶対!と思ったが、牧は牧で、ハハハ仲良いな今年の二年は、とのんびり笑いそうでまた腹が立つ藤真だった。








テストがひと段落して、牧は大きくあくびをした。 眼鏡を外して目薬を差して、答えが分からなかったところを教科書で調べる。

「湘北の試合はもう終わったかな……。」

携帯を見ると、神から連絡が入っていた。 勝敗と、詳しくは部活のときにでも、という少しの内容だった。

「ん?」

そして藤真からも連絡が来る。 今日俺行ったのにお前いねえとかまあ別にいいけどよ!!という自己完結した内容だった。

「????」

会って話したかったのだろうか、と思い、今日は試験があったんだ、ごめんな、と返しておいた。





「仙道のこと何て言ったら分かんなくてめんどくせえ彼女みたいなメッセージを牧に送ってしまった。」
藤真は項垂れて激しく落ち込んでいた。
「別にいいんじゃないか、なにかあったわけでもないんだし。仙道も熱心に試合を見てたじゃないか。」
「ま、まあな。」

仙道は彦一のしつこい連絡にめんどくさそうに、なまえは試合前に来ていた神の着信に今頃気づいて慌てながら、席を移動していった。
明日も来るから見かけたら声かけるね~と藤真がなまえにひらひら手を振ったあと、すぐに真面目な顔して携帯に向き合って、その結果がこれだ。

「仙道のあれは恋心かもって話か?でも別に女遊びするような奴じゃないし大丈夫じゃないか?」
「仙道何考えてるかわかんねえからな……。」
なまえちゃんを困らせるようなことをするならまあ……一言言っても……。でもなまえちゃんが真面目そうだからな。ちょっと迫るだけでも困っちゃいそうだよなあ。判断が難しいだろう。」
「花形レフェリー……。」
「れ、レフェリーではない。」

どうしたらいいかわからない様子の藤真が珍しくて、笑いがこみ上げてくる。

「まあ、迷わず仙道に一言言える状況ってのはあるよな。」
「何?」
「藤真がなまえちゃんのこと好きだったら文句言える。」
「…………。」
「あ。」

藤真が黙ってしまった。 まだ話しやすい良い子レベルで、恋愛感情には至っていないだろう段階にこのように口に出してはいけなかったかなと、少々後悔する。

「ごめん藤真。一応、冗談のつもり。」
「じょ、冗談でそんなこと言うなよ。なまえちゃんに失礼だろ。」
「そうだな。悪い。」

花形としては違和感を感じてしまう会話なのだが、藤真は自覚しているのだろうか。 お前、そんなに相手を気遣う優しい言葉を発するのはなまえちゃんの話題の時くらいだぞ、ということを。






仙道と一緒になまえは通路を移動していた。
「彦一君なんて?」
「魚住さんといるってさ。そう言われたら行かないとな……。」
「あの、ありがとう。凄く勉強になった。」
「そう?」
「うん。上手い選手って難しいプレイも簡単そうにやるからあんまり、体への負担とか気付けなくて。藤真さんたちとあの動きすると膝に負担くるとか話してたのもっと聞きたかった。」

仙道を見上げると、優しく笑ってくれた。 いつもにこにこしているけれど、それよりも目を細めて心の底から微笑んでくれているような表情は特別な気がして、向けられると嬉しくなる。

「いつでも話してあげるよ。」
「ありがとう。」
「むしろ話したい。」
「優しいね、仙道君。」

にこ、と仙道が微笑むと、歩みを止める。

「俺、結構牧さんが羨ましい。」
「牧さん?」

なまえも止まり、仙道に体を向ける。

なまえって、見てるとこが違うよなって、思って。」
「見てるとこ?」
「牧さんが神奈川ナンバーワンプレイヤーとか、そういうの二の次でしょ。」

一瞬、意味が分からず首を傾げてしまったが、近くにいると見えるところが違ってくるというのはあるなと思う。
牧自身、常勝を貫くため自分やチームのことを考えて努力しているところを見て、傍でサポートしてればそんなの忘れて、他の選手と同様に応援したくなる。

「ううんと、……ミーハーじゃない、ってこと?」
「ちょっと違うかな。牧さんがトッププレイヤーってこと意識しないで接してるっていうか、等身大の牧さんを見れてるっていうか。だからきっと、牧さんはなまえのそばにいるのが居心地いいんだろうな。」
「!」
「そういう人がいてくれるのって、貴重だよ。」
「そ、そうなの、かな。ありがとう……。」

そんな風に見えてるのか、と、なまえは顔を赤らめた。 牧にとってそのような存在になれているなら、もっともっと頑張りたいと思えるのだから、自分にとっても牧は貴重な存在なんじゃないだろうか。

「仙道君の周りにはいないの?」
「俺は、俺もなまえに、そういう存在になってくれたらいいなって思っちゃうから。」
「え?」
「贅沢なんだ。」

眉を八の字にして、苦笑いしてなまえを見下ろす。

「まぁ、そういうのはなろうって言ってなれるもんでもないってのは分かってるけどね。」

また携帯の画面に仙道が視線を向ける。
「……はいはい。」
「彦一君?」
「越野。」

残念そうな顔をしながら、なまえの頭をぽんぽんと撫でる。

「牧さんによろしく。またね。」
「う、うん。えっと、皆さんによろしく。また。」

なまえは仙道に向かってひらひらと手を振る。 相変わらず飄々としていて、本心が分かりづらいなと考えながら。








「ごめん神君ごめん~~!!!」
「いいけど別に?俺たちより仙道と見る方が楽しいんでしょ?」
「ちょ、ちょっと!そんなこと言ってない!!違うもん!」
「神さん……そのくらいに……。」

戻ってきたなまえと神、清田は会場ロビーで待ち合わせた。 なまえに背を向けて、神が文句を言い、なまえは手を合わせて必死に謝る。
だが清田の位置からは神の表情が見えて、本当に拗ねてしまったと思ってるなまえを笑うのを堪えていた。

「酷いやなまえ……。」
「神君とも一緒に見たいよ!でもちょっと湘北のオフェンス側で見たかったから仙道君に誘われたのに甘えちゃって……ごめんね……!」
「!!」

なまえの方を向いてくれない神に寂しそうな申し訳なさそうな顔をして、神の背に手を置く。
後ろから顔を覗き込むように見上げられた際、神がぴくりと反応した。

「じ、神さーん……。」
絶対今柔らかいもの当たっちゃったんでしょ……と清田が目を細める。 役得すぎる。

「い、いいけど。戻ってきてくれたし……。」
冗談だよ、と言おうと思っていたが動揺してタイミングを逃してしまった。 顔を向けてニコリと笑うと、なまえも安心したように笑った。

「あっちにいたから、2人のことは見えてたんだよ。なんか真面目な話してるみたいだったから戻り辛かったってのもあるかな。」
「そ……そうなんスか……。」

座っていたらしい方向を指差しながら、神と清田に交互に視線を向ける。

「何の話してたの?どのプレイ?」
それは多分なまえさんのことを話していたときです、としか思い当たらず、清田は狼狽えてしまった。

「宮城のノールックパスだよ。」
「あ!凄かったよねー!!私も見てた!」
すかさず合わせた神は、落ち着いてなまえとバスケの話を始めた。 まるで、聞かれるのは予想の範囲内といった様子で、清田はうっかり考えてしまった。 なまえさんの行動を先読みしながら試合を見てたんじゃ無いだろうか……。 二番目候補……伊達じゃないな……と。

「さて、学校戻ろうか。」
神が腕時計で時間を確認する。 そして歩き始めるのを、なまえと清田が追った。

「私、リサーチもしてきたからね!」
「仙道から?」
「うん。やっぱりテーピングはまだ同じの使う。神君に合ってたし。買いに行くね。」
「俺に合わせなくていいよ。通販のが楽でしょ?」
「仙道君も、使って選手も私も安心できた方がいいよ、って言ってくれたし。通販できるのも頼んでみて牧さんや監督に相談するけど、とりあえずは。」

話の流れが良く分からなくて、清田は二人に問いかける。

「神さんは合わないテーピングとかあるんですか?」
「はは。情けないけど肌弱いんだ。相性悪いとかぶれちゃう。」
「そうなんスか!」
「アンダーラップ巻けば大丈夫だよ。」
「でも神君は大事な戦力だし!手間より神君のお肌だよ!……女としては羨ましいんだけど……きめ細かいよねえ。白いし綺麗。」
「あ。」
なまえが手を伸ばし、神の手に触れる。 持ち上げて、両手で包み込んで肌を優しく摩る。

「…………。」

神さん、ぎゅって手を握りたいのめちゃくちゃ我慢してそう!!!と清田は同情する。 役得も良いことばかりではないのだろう。

「……ありがと、なまえ。」
「いいえ!今日部活のときにちょっと抜けて行っていいかな~。」
「部活の時か……俺も付き合えたら良かったんだけど……。」
「神君は練習に集中してください!」
「はぁい。」
「…………。」
にこにこ笑う神となまえを清田は交互に見る。

「……ぶはっ!!!」
「「?」」

そして吹き出してしまった。 神さんも牧さんに対してこんな気持ちなのかもしれない。
二人の会話や仕草が微笑ましくて可愛らしくて。
恋敵のようになってしまったが、なまえさんは俺のだ!なんて発想の前に、なまえさんは牧さんに憧れてて、牧さんはすっとぼけてて、神さんはそんな牧さんもなまえさんも大事に思っていて、俺はそんな先輩について行って……そんな間柄が楽しくて、ずっとこの関係が続いたらいいのになって思ってしまう。

「えっ、な、なんかおかしかった……?」
「すみませ……二人の会話が……。」
口を手で押さえて笑ってしまったことを申し訳なさそうに呟く。

「可愛くて……。信頼してるんだなあって。」

改めて言われると恥ずかしいのか、神もなまえも目を丸くし、互いに目を合わせた後に慌てて視線を逸らした。
「神君は、頼りになるもん。信頼してるよ……。」
「それは……俺だって。」
「見てて分かりますよ!俺嬉しいっす!!こんな先輩に恵まれて!!」
「清田君……!!」

にかっと笑う清田に、なまえは瞳を潤ませた。
「えっ!?」
「わ、私あんまり仲良い後輩とかいままでいなかったから……ちゃんと先輩できるか不安だったんだけど……嬉しいよ清田君~~~!!!!!」
「わああああ!?」

なまえが喜びのあまり清田の両手を取ってぎゅっと握る。 神さんの見てる前で!?と思い恐る恐る神の表情を伺うと、いつものにこにこした表情をしていた。
「あっ……。」

さすが神さんだ。 羨ましいとか嫉妬より、きっとなまえさんが喜んでる姿を見て自分のことのように喜んでいるのかもしれない。
これしきのことで慌てるなんて、俺は情けない。もっともっと、広い心にならないと、牧さんにも神さんにも追いつけやしない。 尊敬するぜ……。


「…………よかったねえ信長。」
「あっ。」

そうでもなかったと、神の低いトーンの不機嫌な声を聞いて焦る清田だった。