2.残念な策略
パスミスしたボールが勢いよくマネージャーの元へ飛んでいく。
危ない!と叫び声が周囲から飛んでくるが、は慣れてると言わんばかりの冷静さで、手のひらで弾く。
「おっと、ちょっと痛い。」
回転していたボールはそのまま真上に上がる。
「マネージャー!!」
声が掛けられ、はジャンプしてボールを掴む。
それを呼ばれた方向へ、アンダーハンドパスで投げた。
「牧さん!」
牧は手を上げて、ゴールの方向へ走り出していた。
からパスを受け取るとそのままレイアップシュートで決め、は拍手した。
「牧さんナイッシュー!!!」
「ナイスパス、!よし、10分休憩したら3on3やるぞ!」
はい!と返事をするとすぐに、パスミスをした部員がに駆け寄った。
「すみません!」
「いーのいーの、気にしないで。それより早く水分摂って次に備えて~。」
「あ、ありがとうございます!」
質も量も厳しい海南の練習で、いつもニコニコして怒らないの態度は癒しだった。
「マネージャー、ビブスの準備頼むぞ。」
「はい、監督。」
はついでに倉庫へ戻そうと思っていた救急箱を両手で抱えて、小走りで向かうと、それを牧が追った。
もちろんすぐに追いついて横に並ぶ。
「手伝うよ、マネージャー。」
「牧さんが……。」
は牧の後方に回り、手が塞がっているため牧の背に頭をぶつける。
「休んでないと!!一年生も二年生も休み辛いじゃないですかあああああ!!」
「おおおおお、分かった済まない!」
攻撃されて牧は背を手で押さえながら休む部員の元へ戻ってきた。
「微妙な攻撃された……。」
「今のは牧が悪い。体力有り余ってるからって。」
嫌味か、と指を指すのは武藤だった。
「頭ぐりぐりされた……。」
その光景を見ていた1年生がドリンクを床に置く。
「というか!俺たちが手伝います!!!」
「すみません気が利かず!!」
そして倉庫へ走り出し、備品の場所を聞き始めた。
あー……と高頭が頬を掻く。
「そうだな、マネージャーもやることがあるからな……。ついは頼みやすくて言ってしまうが、1年生にも手伝ってもらうようにするか。すまんな牧。」
「あ、いえそういう気遣いというわけでもなかったんですが……。でもそうして頂けると助かるかな……。」
牧も大人しく壁際に座ってスポーツドリンクを飲み始める。
が後輩に指導しているのを眺めつつ。
「牧さん見すぎ見すぎ。」
そこへ神と清田が近づいてくる。
「なんだ?」
「なんだじゃないですよもー。別にいいですけど必要以上に練習中に近づくのはもう少し1年が慣れてからにして下さいよ。」
「い、いや俺らはそんな気にしないですって!仲良くていいなーとかしか思ってません!」
「いや……あれがやりたかったんだ。今日はに色々任せてしまって話せなかったから今日の夜ちょっと残ってくれって耳打ちしたかったんだ……うまくいかんな。」
難しそうな顔をする牧に二人は言葉を詰まらせた。
何する気なの牧さん。
「お……俺も残るつもりなんですけど。」
「ああ、知ってる。」
「あ、ああ……居て大丈夫なんですね?」
「もちろんだ。」
清田は薄々感じ始めていた。
牧さんて結構天然なのかな……?
練習が終わり、神と清田はまたシュート練習を始めていた。
今日は横で牧とが向き合っていた。
「よし、!」
「はい!」
「の胸がもう少し人並みに見えるようにする計画について」
「計画名の変更を要請したい件について!!!!」
わあっ!とが顔を手で覆う。
その会話を聞いていた二人はシュートを大きく外してしまった。
「酷いですよ牧さん……。もう少しオブラートに包みましょう……。」
「清田くんにドン引きされちゃうじゃないですか!」
「し、しないです!大丈夫!!」
「す、すまん……変更を考える。とりあえずお前、今のままだと夏は汗疹が心配だろう。」
「は、はい。今でも結構汗が溜まるというか……。」
「そこでこうしてはどうかと考えた。」
牧は右手に持っていたシャツをに渡す。
「少し大きめのシャツを着ればだぼだぼになって緩和されるんじゃないか?」
「これを?」
「試しに着てみろ。俺のシャツだが。」
牧さんのシャツ!!!とは赤面する。
あ、あの失言のあとで赤面できるんだ切り替え早いな……と清田は感心した。
「いやあの牧さん……。」
神は何か言いたげだったが、は嬉しそうに着替えてきますね!と部室へ向かってしまった。
「よし!俺もシュートの練習混ぜてくれ。」
牧は達成感を感じた表情でボールを持った。
「牧さん!俺の相手してくれませんか!?」
「俺は容赦出来んぞ?」
「望むところっすよ!!」
牧と清田で1on1を始めるのを横目で見つつ、神もまたシュート練習を始める。
こういうのは説明するより実際見たほうが良いと思う。
は更衣室で畳まれていた牧のシャツを広げ、どきどきしていた。
「牧さんのシャツだ……牧さんの匂い……。」
真面目に貸してくれたというのに邪なことを考えて頭を振る。
胸を押さえるバンドを外して、いつもの下着に着替えたあと、シャツを着る。
「あっ目立たないかも!さすが牧さん!」
鏡の前でくるくる回ってみると、普段の自分より胸元がスッキリ見える。
牧のシャツはだぼだぼすぎてスポーツには相応しくないが、女物のシャツで大きいものを着れば良いかもしれない。
「これに上着羽織ればいいかな……ぴったりサイズより風も通るかも……。」
牧に見せに行こう、とまた体育館に戻る。
「お待たせしました~!どうですか?うわ!!」
練習後の個人練習、軽く汗を流しているだろうと思っていたが、牧と清田が真剣に1on1をしていた。
牧に何度も清田が吹っ飛ばされる。
「くっそ~!あ?牧さん、さん戻りましたよ。」
「おお、どうだ?」
「あ、い、いいですか?あの、結構、良い感じになったと思うんですが……。」
牧のシャツを来て彼の前に立つことにまた赤面してしまう。
「おお、いいんじゃないか?それなりに見えるな!なあ、清田!」
「俺に振らないで下さいよ牧さん~~~!!!女の子の胸をじろじろ見ろと言うんですか!」
清田はボールを顔面に当ててしゃがみこんでいた。
「おい、俺が変態みたいに言うのやめろ。心配しての行動だ。どうだ、やはり大きめのシャツだといいんじゃないか?それやろうか?」
「牧さん。」
神がの横に並び、肩に手を置いた。
「大きめといってもワンサイズくらいがいいと思います。」
「ワンサイズだとそんなに効果がないんじゃないか?」
「何言ってるんですか牧さん!この可愛いでしょう!!!」
はっきりと言う神に、牧ももきょとんとする。
それを聞いた清田もそっと顔を上げての姿を確認する。
「うわ!!ほんとだ!可愛い!彼シャツってやつじゃないですか!!!」
「「彼シャツ……?」」
やはり牧もも首を傾げる。
俗世になんて弱い人たちなんだ!と清田は驚く。
「想像してください牧さん。これは世間では彼氏の部屋に泊まった際にパジャマの代わりにシャツを借りるシチュエーションの女子です。妄想かきたてられてしまいます。」
「……それは……良くないな?」
「良くないです。」
「良くないの……?神君……。」
「良くないんだよ。」
「神さんも大変っすね……。」
そうか……と少し悲しそうな顔をする牧とにおろおろする清田だったが、神は気にしないといったようにシュート練習を再開した。
「い、いいんすかあれ!神さん!」
「大丈夫だよ信長。こういうことしてるのは俺達の秘密だけど、慣れてね。」
「は……はい……。」
なるほど、セクハラとかそういうものではなく、さんは牧さんと神さんを信用してそういう相談したり指摘してもらったりしてるから自然と詳しくなってるのか。
先に復活したは、牧の手をギュッと握って笑顔を向ける。
「牧さん、ありがとうございます!こういうこと考えてくれるの嬉しいです!日曜日練習終わったらちょっと大きめのシャツ買いに行きますね!」
「……!いや、少しでも役に立てたなら嬉しいぞ……!」
「……。」
そしてそのまま牧も買い物があるから一緒にいこうという話になっていく。
「俺も一緒に行きたいな~……。」
「一緒に行っていいと思うよ。」
「えっまじですか!デートじゃないんですか!?」
「いや付き合ってないよあの二人。」
「ああ……なんとなくそんな気はしてました……。」
翌日、教室で休み時間に友人となんでもない会話をしていると、廊下の方から名前を呼ばれる。
「!神君呼んでるよ~。」
「はーい!!」
神とは昨年一緒のクラスで、バスケのマネージャーをするきっかけを与えてくれた人だ。
2年になると隣のクラスになってしまってちょっと寂しかったが、ちょこちょこ気軽に会いに来てくれたし、も会いに行った。
クラスでも部活でも神はそれほど変わらないが、部活とはまた別の表情が見えるのは嬉しい。
「ごめん、、数学の教科書貸してくれない?」
「えっ!?珍しいね!?いつも私が貸してもらう側なのに!」
「昨日の夜予習して寝落ちてそのまま机に置いてきたみたいだ……。」
「予習偉い!私ので良ければどうぞどうぞ!」
机に戻って教科書を取ってまた戻るというちょっとした時間。
クラスの女子の視線が痛い。
「ありがとう。」
「いえいえ。うちのクラス数学午後だから、暇なときに返して頂ければ。」
「うん、分かった。昼一緒に食べる?」
昼の誘いは小さい声で。
神も周囲の視線を感じていた。
「喜んで!じゃあ購買の前で。」
「分かった。」
神とは特別仲良くしているわけでもない。
他の部員ともよく話をしている。
スタメンの1人ということもあり、神がこういう誘いをしてくるときは何かバスケのことで話がある時が多いので、はできる限りは誘いを受けるようにしているというような状況だ。
そんなバスケ第一の事情を知らない、神に好意を寄せる女子にはただの嫉妬の対象だった。
席に戻ると、隣に座ってた友人が声をかけてくれた。
「大丈夫?。」
「何が?」
理解してくれて、仲良くしてくれる中学時代からの友人はそんなを心配する。
「窓側の方から殺気を感じませんでしたこと?」
「あー感じましたわねほほほほ。」
ふざけた口調で会話するも、ため息は漏れてしまう。
「大丈夫よ、あんた、立派にマネやってるし。」
「え?」
「この前練習見に行ったけど、めっちゃ頼りにされてるじゃないの。あの有名人の牧先輩にも。」
「そ、そうかな……。え、でも来たなら声かけてよ。知らなかった!」
「覗いてたの。」
机に頬杖をついてニヤニヤ笑う友人にはサッカー部の彼氏がいる。
いつもそっちの応援に行くのに、バスケを見に来てくれていたというのは嬉しい。
「最初はあんた、絶っっ対辞めると思ったけど。」
「え!?」
そんなことを言われるなど想像しておらず、素っ頓狂な声を上げてしまった。
「淡々とこなしてるみたいだったけど練習量凄くて有名だったし、グラウンド走ってるときとかあんた立って見てるだけなのに顔面蒼白でめっちゃついていけませんって顔してたし!」
「そ、外は、日光やばいやんけ……。」
「まあ日光やばいけどね!なんだろな~そんなバスケに執着もなかったみたいだし、遊べないしで秋までには辞めそうって思ってた。」
「そんな評価が……。」
やはり海南大付属のバスケ部ともなるとマネージャーも色々見られてるんだなと思っては下を向いてしまった。
どこで見られているか分からない。
日常生活にも注意せねばと思いつつ。
「でももう大丈夫そう。」
その言葉に顔を上げる。
友人は穏やかに微笑んでいた。
「夏くらいから何かあったのかってくらい変わった。雰囲気とかさ、目とかきらきらさせちゃって羨ましい。もう辞めないわあんた。」
「……う、うん。」
「誰かと付き合い始めたのかと思ったんだけど~?」
「それはないんですなあ……。」
「残念。」
教室で戻る時に神は神で視線を浴びる。
苦笑いしながら自分の椅子に座り、から借りた教科書を広げた。
「のファンも結構いるんだよなあ。」
「そこを果敢にに借りに行くあたり神も負けず嫌いだな。」
同じバスケ部のクラスメイトに声をかけられる。
「話が耳に入ってきたんだけど、の外見ばっかり好き好き言ってる奴ばっかりだよ。」
「高校生だぞ俺ら~。許してやれよ~。」
「そうもいかないかな。」
そう言えば、まあな、と帰ってくる。
頑張ってくれるマネージャーを変な目で見られて良い気はしない。
「なんかあったら守ってあげてえよなあ。牧さんには敵わないにしても。」
「いや牧さんは……頼もしいけどときどきとぼけてるから……。」
昼休み、廊下を元気に走って先生に怒鳴られる生徒がいた。
「ちょっとくらいいいじゃんかよ!くそっ!」
競歩に変えて、2年の教室へ向かう。
「かっかっか!この清田信長、さんの忘れ物を見つけてラッキー!」
朝練終了後に見つけてはいたのだがすぐに届けようとはしなかった。
「昼休みに届けに行って、あわよくば一緒に昼飯!さすが俺策士!神さんはさんの隣の教室って言ってたし!」
そんなに遠慮せずに教室へ遊びにおいでと言われていたが、やはり用事もなくというのは躊躇われる。
今日をきっかけにして、今後はもっと近づけたらいい。
「あっ!」
教室のプレートが見えたところで、ちょうどが出てきた。
「さ……。」
手を挙げて名前を読んだところで止まる。
そうか。
部活以外じゃ胸潰さないよな。
そうか……。
「あれ?清田君どうしたのー?」
チームでは小さい方といっても、は十分見下ろせる身長がある。
近くから見るとブラウスから谷間がわずかに見えてしまった。
そしてずっとジャージ姿ばかりで、帰るときも時間が合わなかった信長は制服姿を初めて見る。
「さん!あの、これ、部室に忘れ物……。」
「えっ?あー!生徒手帳!見つけて届けてくれたの?ありがとね!」
「い、いえ……。それでその、折角なんで昼飯一緒に食べたいなって……。」
「あ、いいよ!神君も一緒に!購買前で待ち合わせてるんだけど、そのまま中庭に行くと思うけどいい?」
「どこでもついていきます!」
じゃあ行こっか、と歩くの一歩後ろを歩きながら、信長は顔を赤らめていた。
「さすが海南大付属っす……!」
「なにが?」
部活中も可愛いけど制服姿が半端なく可愛い……!
揺れるスカートに、お前の威力すげえな!そうだな!さん半端ねえ可愛いよな!と心の中で叫ぶ清田だった。
すでに待っていた神と合流し、中庭に向かう。
「邪魔するなよ信長。」
「えっ!す、すみません!!」
「あはは!神君の冗談だよ!」
「神さんに言われると冗談にきこえないっす……。」
神を真ん中にしてベンチに座って弁当を広げる。
は二人の弁当箱の大きさに一瞬ぎょっとした顔になる。
「さすが高校男子。」
「はサンドイッチとヨーグルトだけなの?」
「さんそれだけで足りるんすか!?ダイエットですか!?あっ!!!」
必要ないっすよ!とテンプレを言おうと思ったがこの人には気軽に言っちゃいけない言葉だったと思い手で口を塞ぐ。
ダイエットしても……コンプレックスの胸が減らない……。
「私部活前にちょっと食べるからお昼控えめなの。あれだけ練習したらカロリー足りないもんね。男の人の良く食べるとこ見るの好きだよ~。」
気にした様子もなく清田に笑いかける。
「そ、そうですか!?いやじゃあもう遠慮なくガツガツいかせて頂きます!」
「清田、でれでれしないの。」
「でれでれなんてしてませんよ!!」
入部早々仲良くなる神と清田が微笑ましく、は笑顔になる。
清田の運動能力は群を抜いており、早くもスタメンに入るかもしれないと監督が言っているのが耳に入った。
牧は厳しい目で評価するが、それは清田に限った事ではない。
「良い子入ってきて良かったねー神君。」
「そっすか!?」
「あはは、甘やかすと牧さんに怒られるよ?」
「それは怖い!!」
「牧さん、さんのこと怒ったりするんすか!?」
「いやそりゃミスったら怒られるよ……。」
なにかを思い出したようで、が静かに青ざめる。
「俺らに対するのよりは全っ然優しいけどね。」
「一緒だったらコエーっすよ!!!!」
「でもそのおかげでこの緊張感と責任感がなんたらかんたらで牧さんには感謝というか。」
「無くってもはちゃんと出来ると思うけど。」
「わー!!神君こそ私を甘やかさないで!!昨日1年生の怪我に気づくの遅かったんだから!」
ぶんぶんと手を振ってため息をつく。
監督とも牧とも良い関係を保ててるように見えて、いつもご機嫌で順調に見えるが、この人ももっと上を目指そうとしているのか。
「昨日はパス出ししててそこまで気が回らなかったでしょ。」
「もっとマネ募集とかしないんすか?」
「募集はしてるけど入らないんだよね。理由は分かると思うけど。」
「まあ……そうっすね……。」
「そうだよ!!負けない!!」
「え?」
急に拳を握ってぎりぎり歯ぎしりをして怒り出すにびくりとする。
「バスケ部のみんなと話してると嫉妬してグチグチ言ってくる女共がいるけど!嫉妬するくらいなら入ればいいんだよ!マネージャーやればいいんだ!できないくせに嫉妬とか阿呆か!嫉妬なんかしてないで大人しく好きな人にアプローチしてろちくしょう!!私を巻き込むな!」
「はー、やっぱそういうのあるんですねえ。」
「も負けず嫌いで良い傾向だよ。」
「私、この方向で行きたいと思います!」
がピースを二人に向ける。 清田もつられてピースをして返す。
「がんばれ、負けるな。がいないと困るよな。」
「何かあったら相談に乗るっす!」
「ありがと神君……清田君……。二人も何かあったら相談してね……。」
「楽しそうに話してるな、お前ら。」
「「「!!」」」
振り返ると、牧がいた。 いつからいたのか、聞かれて困る会話はしてないはずだと三人は先程までの話題を必死に思い出す。
「………………。」
は冷や汗が出た。
困りはしないが牧に心配かけるような発言は慎みたい。
「牧さん、どうしたんですか?」
硬直するに一瞬視線を向けて、神が問う。
「ここの中庭、俺の席からよく見えるんだ。」
「あ、そっか、あそこですよね3年の教室。」
もぐもぐと口を動かしながら、清田が教室を指差す。
「羨ましいじゃねえか。仲良く昼飯なんて俺も気軽に誘ってくれよ。」
誘いづれえーーーーーーーー!!!!!!むしろ誘って!!!!!と思うが口にできる者はいなかった。
「次移動なんだ。またな。部活で。」
「「「はい!」」」
牧を見送って、ふう、とは一息つく。
「あれ?なんすかさん、牧さんに緊張するんすか?」
「マネージャー業やってる時は普通に話せるんだけど、先輩後輩となるとだめだ~!」
「そういうもんっすか?」
「廊下ですれ違った時にがすっごい余所余所しくて俺なんかしたか?って牧さんが言ってたことあるもんな。」
「突然会うと緊張する……。牧さんかっこいい……。」
「あの牧さんに部活中攻撃できるさんがですか!?」
「部活中は牧さんが空気読めないの発揮するとちょっといかんでしょ!普段はいいの!部活中は止めねばならんの!!マネージャーという地位がそれを可能にするの!!」
納得……できるようなできないような、複雑な乙女心を前に、清田はうーむ、と唸っていた。
「日曜の、買い物は、平気なんですか?」
「それはマネージャーとして行きます。」
「そ、そんなきっぱり言うとか、キャリアウーマンみたいでかっこいいす!!」
「ふふ……。」
が清田にドヤ顔を向ける。
神もの切り替えの速さは練習や試合の態度でよく見ているので、本当に器用に意識を切り替えられる人だというのを知っている。
でもずるいところは、どんな時でも牧の前で見せる笑顔は自然体だというところだ。
好きだからというより、心から信用しているからというのが見えてしまって愛情よりもたちが悪い。
「楽しんできてね。」
「ありがとー!」
この二人の間は、羨ましいけど邪魔しちゃいけないな、と思う。