3.打倒山王
土曜日の練習もハードで、も汗だくになりながら走り回っていた。
「集合!ハーフコートで試合だ!チーム分けをする!」
牧が叫び終わると、今度は笛が鳴ってマネージャーが叫ぶ。
「1年生の初心者組はこっちきてー!グラウンド10周!終わったらオフェンスの練習します!」
牧は監督に呼び止められ、お前が審判をやってみろと言われて一瞬動揺する。
「外から見るのも大事だぞ。」
「は、はい……。」
は、今日は君がリーダーやってね、と1人を指名し、戻ってきた時の練習メニューを指導する。
外へ向かう1年生達に笑顔で手を振って、水分補給はこまめにしてね!と声をかけて見送った。
そして皆の姿が見えなくなったら、すぐに試合をするコートに走り込んでくる。
「点数と!タイムキーパーやります!……え!?牧さん審判!?」
「なんかそうなった。」
「なんかそうなったんですか!!」
言い方可愛いな!と思うがそれ以上に試合する気満々だったのにできなくなってしょんぼりする帝王が可愛すぎる。
もう眼福だわ今日めっちゃ頑張れると思うが気合だけでなんとかなるレベルではなかった。
「おっ……と!」
「?」
くらりと目眩がし、一歩後退する。
最近体調を気にしていなかった。
貧血だろうか、と焦るが、すぐに持ち直す。
「大丈夫か?お前も水分摂ってるか?」
「だ、大丈夫です、さっき摂ったばっかりなんで……。」
コートでは盛大に気合の入ったくじ引きが行われ、ハズレを引いた人は次々と悔しそうに叫ぶ。
「やったー!神さんと同じチームで試合だー!」
「宮さんとは別れちゃいましたね。」
「遠慮しないからな。なー高砂。」
「ああ。」
「なんっっで俺が省かれるんだ!!くっそおおおお!」
武藤は叫んで膝から崩れ落ちていた。
「武藤~。じゃあ試合に溢れた奴らの指導頼むな~。」
「わかったよ牧~悔しいけどな~。~、何やりゃいいんだっけ?」
「フットワークやってスリーメンです。」
「……休憩も俺の采配でいいか?」
弱気な武藤の尻を牧が蹴ると、冗談だよ!!とまた叫んだ。
「は椅子に座ってやってくれ。」
「えっ?」
「顔色が悪い。倒れられたら迷惑だ。」
「えええ顔色……すみません。体調管理注意します……。じゃあお言葉に甘えて……。」
近くのパイプ椅子を運んで、得点板の近くに座る。
額から汗が滴り落ち、体が楽になるのを感じて、自分結構疲れてたな、と自覚した。
「さーん!俺頑張りますから見ててくださいー!」
ブンブンと清田が手を振るのを、通り過ぎ様に牧が一発殴る。
「いてえ!」
「浮ついた空気を持ち込むな。」
「すみません……。」
牧はちらりと高頭の方を見る。
とりあえず清田のスタメン入りは、この試合の活躍ぶりで決まるのだな、と感じつつ。
「じゃあ始めるぞ。……あ?笛……。」
うっかり忘れていたようで、ポケットに手をいれるが何も出てこない。
「マネージャー!」
まさか、と思い全員がぴくりと反応する。
は声に気づいて立ち上がった。
「お前の笛貸して「牧!!てめぇ素だから厄介だよな!!!!」
「そこは笛取って来てもらうとこだろー!!」
隣のコートから武藤が叫び、困ったように宮益も抗議する。
さっきはちょっと調子に乗ってふざけてしまったが、俺より牧さんの発言のが酷い!!さんに気を許しすぎだ!!と確信して、清田は少し安心した。
「ってゆーか俺が取ってきますからさん座っててください!」
清田が備品置き場に向かって走り出した。
ちょっと流れが分からなかったは、とりあえず何かを自分の代わりに取りに行ってくれたというのは分かった。
「清田君優しい……けどそんな顔色悪そうかくそー…。」
ストップウォッチの動作確認をしながら頬を膨らませる。
「今日は終わったらビブスの洗濯!バレー部に洗濯機を先には使わせん!洗濯中に部室の掃除できるかなー。」
明日は牧と買い物だから、なるべく今日出来ることは終わらせる。
「えへへデートだデートだ!」
そう考えるがいざデートと思うと緊張して話せなくなる。
明日になれば気持ちを切り替えてマネージャーとして牧の付き添いと考えるからいまのうちにふわふわと浮かれておく。
こういうときめきも大事だ。
清田がまた走って戻ってきて、今度こそ試合が始まる。
「頑張れ皆ー。」
牧のプレイが見れないのは残念だが、審判をやる姿も真剣な眼差しがかっこいい。
「あっ!」
でもすぐに部員達の本気のプレーに目を奪われる。
「おおー宮さんが最初に決めた!」
今年の海南も絶好調だ、インターハイだって絶対行ける、とわくわくしながら得点をめくる。
そんなこと口に出したら、勝負に絶対はない、と牧さんに怒られてしまうから心の中だけで。
練習もひと段落し、皆が体育館の床掃除をしてる間には洗濯機のある場所へダッシュした。
丁度テニス部の部員が洗濯し終わったものを中から出しているところだった。
「やった!ナイスタイミング!」
「バスケ部じゃん、お疲れー。」
「お疲れ様!次使わせて!」
「ちょっと待ってねー。洗濯機もっと欲しいよねー。」
洗濯機は3台並んでいるが、今順番待ちをしているもの以外は使われてる。
「地味に戦争だよね。」
「あんたらが一番発言権ありそうだから頑張ってよ。」
「まじか。」
「常勝でしょ。」
カゴを持ち上げてこちらを振り向く。
テニス部もそこそこ良い成績を上げているが、男子バスケ部ほど良い成績の部はない。
「それかあんたの色仕掛けで。」
「いやだ!」
胸を指さされたので咄嗟に後退する。 それを面白おかしそうに笑いながら、ごめんごめんと言って去ってしまった。
「スレンダー美女め……。」
頬を膨らませながら洗濯機にビブスを放り込む。
でも確かに、もう少し洗濯機があったら楽だ。
ちょっとお願いしてみようかな、と考える。
体育館へ戻ると、集合がかかり、皆が監督の前に集まる。
高頭は部員の顔を見渡し、ゆっくりと話始めた。
「今年のチームは非常に良い環境がそろってる。今年こそ、海南が全国制覇をする。」
あったりめーっすよ!!と声を上げた清田の口を神が塞ぐ。
「怪物と呼ばれた牧が3年に上がり、経験を積み上げた。皆がそれについて来た。」
「!」
名指しされるとは思わなかった牧が瞬きをする。
「そしてマネージャーが、皆が練習にめいっぱい時間を使えるように、動き回ってくれている。」
もまさか自分のことが話題に出されるとは思わず、うえっ、という声を上げてしまったが、部員はうんうんと頷いてくれていた。
「今年こそウチが一番になる。明日から対山王戦に向けた練習を強化する。」
山王という言葉に、1年はドキリとし、2、3年の眼光は鋭くなる。
昨年敗れた王者に、今年こそリベンジを果たす。
その日の部活終わりは妙に静かだった。
「お腹すいたー!ハンバーグ!俺ハンバーグにします!」
ファミレスに着くなり清田は騒ぎ出した。
うるさいぞと牧は注意し、は何ハンバーグー?と問いかける。
少し落ち着かなくて、牧、武藤、高砂、宮益、神、清田は残って練習したあと、腹が減ったと言い出す清田に賛同して、ファミレスに立ち寄った。
各々が食べたいものを自由にオーダーする。
料理が運ばれて、清田が大人しく食べ始めると、宮益が下を向いて呟いた。
「山王か……。」
「おう何だよ宮!その声は!」
「わぁ!」
横にいた武藤が宮益の肩を勢い良く叩いた。
「まさかネガティブになってんじゃないよな?」
「あ、当たり前だろ!今年は試合に出たいんだ!俺も戦力になれるように頑張るんだ!」
「宮さんかっこいい!」
「いよっ!宮さんその意気だ!」
と清田の声かけに宮益が赤面する。
「はは、ありがとな。照れるな……。」
宮益を皮切りに、今年こそ山王には負けないと口に出し始めるが、1人、牧は静かに頬杖をついていた。
そして何かを思い出したように目線が上に動いたと思うと、を見つめ出す。
視線に気づいて、が首を傾げると、牧が口を開いた。
「そういえば、沢北はがお気に入りだったよな。」
その言葉に牧とと清田以外がぶふぅと吹き出す。
「えっ!?なんすかそれ!?」
「やめて牧さん笑う!!」
「あの……私反応し辛いです……。」
普段冷静な高砂までテーブルに突っ伏して肩を震わせて笑っている。
「い、いや、昨年のインターハイでやたら山王見るなとは思ったんだけど、まあ注目されて周囲が騒いでるから目に付くだけだろと思ってたんだけどね。」
「が一人になった時に話しかけてきたんだっけ?」
「あ、あの時はびっくりしましたよ……。」
赤面したは肩をすくめて下を向く。
「俺もびっくりしたよ。ナンパされてるから助けなきゃとおもったら沢北だもん。」
神は口に手を当てて笑いを堪える。
「ナンパ……!そ、それどうなったんですか?」
「助ける前に河田さんが沢北殴って連れて帰った。」
「海南のジャージを着ていたのに良い度胸だよな。」
頬杖をやめて腕を組んで牧が唇を尖らせる。
「それで終わったら良かったのに、あいつ手紙送ってきたんだよ。」
「手紙……。」
「学校に。」
「学校に!?」
「連絡先聞けなかったからって露骨にバスケ部マネージャー様って書きやがって、キャプテンの耳に入ったんだよな。」
「牧さんが間に入ってくれたんですよね。」
「あの時はすみませんでした!!」
「別には悪くないだろう。沢北が一方的に送ったものだってキャプテンもすぐ分かってくれたしな。」
神が前かがみになり、事情を知らない清田に顔を向けて話す。
「それで……返事をね……。」
「沢北の手紙めっちゃ連絡先知りたがってんの微妙に遠まわしに書いててな!!でも返事では総スルーな!!!!!!!」
武藤が机をバンバン叩く。
「それ以外は無難な文章だったな。多分読まれるの警戒してたな。」
「返事の差出人住所を学校にしたのはちょっと……やりすぎ……。」
高砂も起き上がって話に参加するが笑い顔から戻れない。
「なんすかそれみんなで返事考えたんっすか楽しそう!!」
清田がガタンと立ち上がって、羨ましそうに皆を見回す。
「あのくらいやっていい。ウチの大事なマネージャーはそんな軽い女じゃない。」
「うおおおおおおおありがとうございます……。」
牧の言葉にはテーブルに突っ伏した。
耳が赤いので顔も相当赤くなってるだろう。
「が沢北が好きなら別だが。」
「凄い人だと思いますけど……というか何で私……。」
「海南だから逆に目立っちゃったのかな?」
好きなら別だがって牧さん何部外者ぶってんですか、と思いながら、神は水を飲む。
「そのあとは特に何もないんだろ?」
宮益も身を乗り出してに質問をする。 心配してのことだった。
「今年のインターハイは!この清田信長が守りますよさん!」
「大丈夫だし、そんな沢北さん悪い人ではないよ……。」
「甘いよ!あんまり簡単に気を許さないの!」
「は、はい……。」
あの時以来沢北から連絡はなかった。
連絡先を教えなかったのだから当然と言えば当然だ。
勇気を出して手紙を送ってくれたのかもしれないのに、ただの日常会話とファンレターのような沢北を褒める内容しか書かなかったので気分を害しているのかもしれない、という思いがずっとある。
いつかどこかで会えたら、今度は普通に話せたら、そう考えても機会はなかった。
少し罪悪感を感じていたが、そんなに気にする必要はなかったということはすぐに知ることになる。
日曜日は強い日差しの中での練習となり、走り込みから帰ってきた清田が壁にもたれかかってドリンクを一気飲みする。
ぜえはあと息を荒げ、タオルで乱暴に汗を拭った。
「うわあ~タオル足りねえ!汗止まらねえし!水、頭から浴びてえ~。」
「洗おうか?この日差しなら今日中に乾く気がする。」
「さん!の、仕事を増やすつもりは!!」
「えっ!いや今日私暇してるよ!立ってるだけじゃん!」
昨日のようにフラついたりすると決まって次の日は事前に任された仕事以外は頼まれない。
時計を気にしつつ練習を見渡し、休憩のタイミングを見計らう。
「テーピング緩くない?大丈夫?」
「あっ!大丈夫です!ありがとうございます!」
軽い突き指をしていた1年生がボールを投げた後に指を気にしたのを見逃さずに声をかけた。
隣で清田がおお、と声を出すので振り向いた。
「何?」
「そーいうのしてるだけでマネっぽいのに、働きすぎですよ……。」
「海南のマネを舐めるな!」
「さーせん!」
「清田!いつまで休んでるんだ!」
「すいません!!」
牧の声にタオルとドリンクを投げ出してコートへ向かう。
は倒れたドリンクを起こし、タオルを畳もうとしたらぐっしょりしててうおお……と声が出てしまった。
「な、何と言われようとも洗おう……。予備のタオル出しとこ……。」
走って部室に向かい、棚からタオルを鷲掴みして戻ってくる。 先輩が残して行ったものや、寄付してもらったもので置きっ放しではあるが、定期的に洗っているので綺麗なタオルではある。
戻ると丁度休憩に入りそうだったので、籠を2つ出して、1つにタオルを入れた。
ついでにモップも持ち出す。
「じゃあ15分休憩する!ん?どうした、マネージャー。」
「え!?あ、はい」
休憩の言葉の後に笛を吹くのに咥えようとしたらまさかの牧に質問された。
海南の部員は多くて、笛でも吹いて意識をこっちに向かせないとの声量では全員に届かない。
笛はそのために出来た癖だった。
「替えのタオルあるんで、ぐっしょりやばくて洗いたいタオルあったら入れてくださーい!」
その言葉に、俺のせいだ!と清田が過剰反応する。
「えええいいですってさん!」
「うるさーーい‼臭くなって女の子に嫌われるぞ!」
「さんに嫌われるのいやだーーー!」
清田がぐすぐすしながらカゴにタオルを入れる。 それに続いて他の部員も入れ始めた。
そんな時にふざけるのは牧と神だった。
「~。清田のタオルと一緒に洗うのやだな~。」
「俺も~。」
「思春期の女子高生ですか!?」
唇を尖らせながらしぶしぶ籠にタオルを入れる様子に突っ込みつつも笑ってしまった。
清田は、嫌がらせ酷い!と騒ぎ出すが、可愛がられてるなあ、と思う。
「よーし、あとモップ……。」
モップがけに走りだそうとした時、牧の大きな手に肩を掴まれる。
「おっ!?」
「1年の仕事だ。お前は大人しくしてろ。」
「はい……。」
「モップが不足してるのでさんのモップ奪取!」
「あぁー!」
1年生にモップを奪われ、の手が宙を泳ぐ。
「でも私もやりますよこのくらい~!」
牧の顔を見上げようとするが、牧がの顔を覗き込む方が先だった。
じっと見つめられて、の顔は一気に紅潮した。
「……顔色は、良くなってるが、油断するな。」
「は、は、ははははい……。」
「あと、いいか。手伝うことと甘やかすことは違う。そのへんを間違えるな。」
「あぁ……ご、ごめんなさい。」
を叱る牧を見て、清田が驚いた表情をする。
さんには甘そうなのに本当に怒るんだなぁと思うが、どこか親子のようで微笑ましい。
「立ってるだけだとソワソワしちゃって……。今後は気をつけます。」
「よし。」
反省した様子に、牧は満足そうにの頭をわしゃわしゃ撫でる。
「わぁぁ!!」
「ははは。分かればよろしい。」
撫で終わると、牧はに背を向け、タオルを1枚取り外へ向かう。
清田もそれについていった。
「予備のタオルあると助かるなー。いつも出してたら大変?」
「神君。」
声をかけられて振り向くと、ぷ、と笑われた。
「髪ぐしゃぐしゃだよ。牧さんも乱暴だなぁ。」
「ほんと!?ケアしてきたのにー。」
「ケア?」
「今日牧さんとデートなものでグフゥ!牧さんと……買い出しなので……。」
デートと発して直ぐに恥ずかしさに耐えられなくなったようだ。
言い直した。
神はの髪を手櫛で綺麗に整える。
「あ、本当だ、サラサラだね。」
「げへへ。」
「そこ、えへへ、って言った方がいいと思うよ。照れ隠しだと思うと可愛いけど。」
その会話を聞いて、神ははっきり言うなあと宮益が感心していた。
「えっと、タオルいいよ!出すよー。平日も出す?」
「あ、土日だけでいいかなぁ。ありがとね。」
「ううん、むしろもっと早く気付けばよかった!ごめんね。では私は休憩が終わる前にタオルを洗濯機にぶっこんで来ましょうかね。」
持ち上げると、汗の重みで想像よりもずっしりくる。
皆が頑張ってる証拠だと、は嬉しくなった。
体育館を出て、走り出した。
「お。」
牧が水飲み場で顔を洗い終わり、タオルで拭いていると、元気に走るの姿が遠くに見えた。
「、今日は元気だなあ。」
「ぷはあ!!」
横で清田は頭を突っ込んで髪まで濡らしていたのを勢いよく起こして水しぶきが舞った。
「……清田。かかったぞ俺に。」
「え、あ!すみません!さんと聞こえたので!!」
「今、タオルを洗いに行ってくれたよ。」
「そうなんすか。なんか申し訳ないっす……。」
「いいんじゃないか。は頼まれると喜ぶタイプだ。」
「頼みすぎると大変じゃあないですか……さんが。それに今日は牧さんと買い物だから元気なんじゃないですか?」
「そうなのか?」
「そうだと思いますよ。」
「いっつも部活で顔を突き合わせてる奴と部活終わりまで一緒ってのを嫌がられないとは嬉しいな。」
ははは、と爽やかに笑って、牧は体育館に向かって歩き出した。
「えっ……。」
そのあまりの普通のキャプテンとマネージャー関係に見える発言に清田は驚く。
「えっそのレベルとっくに越えてるように思うんですけど……えっ。」
神さんも他の先輩も知らなそうなのに、やっぱり気になってしまう。
昨年の事件の時、牧さんとさんは何を話したんだろう?
練習が終わり、着替えに向かう牧がをちょいちょいと手招きして呼ぶ。
小走りで駆け寄ると、申し訳なさそうに牧が呟く。
「すまん、シャワーを浴びたい。30分待てるか?」
「すみません牧さん、乾したタオルを回収したいので30分後でいいですか?」
そんなことを返されるとは思わなかったので、牧は一瞬目を丸くした後、すぐに微笑んだ。
「じゃあ30分後に校門前な。」
「ありがとうございます!」
そのやり取りが羨ましくて、武藤と高砂は静かに牧を睨む。
「……なんだあれ。」
「の機転な……。」
「牧を立たせるやつな……。」
良い子だなくっそ~!!!!!と2人が身悶える。
しかしそのすぐ後にが着替え中の男子更衣室にずかずかと入り込み、タオル持ち帰ってね!!と置いていくのはポカンとした表情で見る武藤と高砂を、神は笑いながら見ていた。
「お、より俺のが早かったな。」
牧が校門の前にがいないのを確認すると、校舎の方を向いて待つ。
いつもは牧を待たせまいと待ち合わせには早く来るから、きっと牧を見つけたら驚いて慌てて走ってくる。
その反応があまりに簡単に想像出来て、笑ってしまう。
神は残って練習だし、清田はうずうずして一緒に買い物に行きたがっていたが、今日は遠慮しますと走って帰ってしまった。
「牧じゃねーか。」
「おお、お疲れ。野球部も今終わりか。」
野球部のキャプテンが牧に気付いて手を振りながら近づいてくる。
「おう。今年は俺らもバスケ部に負けずに頑張ってんだよ。」
「噂には聞いてるよ。試合も近いんだったか?」
「練習試合だけどな。再来週。誰か待ってるのか?」
「あぁ、マネージャーと待ち合わせだ。」
その言葉を聞いて、野球部主将は驚きの表情で固まった。
「お、俺おかしなこと言ったか……。」
「……マネージャーと??」
「あ、あぁ。」
「マネージャーと待ち合わせ??なんだその青春は?」
「そう言われても……お前らのとこにはマネージャーいないんだったか?」
「いる。いるが……だってお前んとこのマネージャー、俺見たことあるけど確か……。」
「あぁ、あいつだが。」
牧が指を差す方向を振り向くと、人と喋ってるため近づくのを躊躇って様子を伺いながら立っている女の子がいた。
「……羨ましい。」
「そうか?」
「そうかじゃねぇよ……。その……あの子さぁ……いや、なんでもない……。邪魔して悪かったな……。」
それだけ言い残し、野球部はとぼとぼと帰っていった。
が牧に近づいてくる。
「牧さん、遅くなってごめんなさい。」
「むしろ話し込んでて待たせたな。悪い。」
「いえ。野球部の方でしたっけ?」
「あぁ。」
話しながら、一緒に歩き出して、街の方向へ向かう。
「羨ましがられた。」
「え?」
「あんまりマネージャーと出掛けたりはしないらしくてな。」
「そうなんですか。帰る時間が違ったりするんですかね。私は牧さんといっぱい一緒にいたいですけど!」
えへへと照れながらは言い、牧はそんなこと言っても奢らねぇぞと笑う。
ただそう伝えたかったは、牧ならきっと軽く流してくれると分かってた。
「よし、スポーツ用品店回るか。お前は胸誤魔化しシャツ以外買うものあるのか?」
「そのネーミング酷いです牧さん!」
わあああとまた両手で顔を覆うに、慌てて、冗談だ!!というが冗談でも酷かったかもしれない。
「め、飯を、奢ってやるから、許せ!」
「怒ってないですけど!まさにそうなんですけど!!」
牧がの腕を掴んで引き寄せて、顔を覗き込んだりしている。
傍からみたら恋人っぽいのに。
「……か、会話が……。」
酷すぎる……と思いながら、先に帰ったと見せかけてちょっと観察していた清田は呟いた。