三井さんとお化け屋敷



勝負を挑むも不調すぎて神に負けてしまった三井にが絡む。

「見ました!?うちの神君の凄さ!」
「るせえ!!てめえは神ばっかり応援しやがって!俺の応援もしろ!!」
「なんでですかー!!私は海南のマネージャーですよ!海南応援するに決まってるじゃないですかー!」
「海南のマネである前に俺の幼馴染じゃねえのかよ!時系列的に!!」
「えっ……!」

問答無用で海南の味方ですと押し通されると思ったが、それは正論かもしれないと思ってしまったのか、の動きが止まって困った顔になる。

「ええ……と……。」
「悩むな悩むな。俺の対応も困るだろうが。」

素直な性格も変わってねえな、とクスリと笑う。

「……二人共応援すればよかった……。ごめん……。」
「ぶっ!!!」
本気で落ち込みだしたに吹き出してしまった。
こういうチョロイところは気を許している人の前だけにしてほしい。

「そーだそーだ。俺の不調はお前のせいだ。」
腕を組んでにやにやと笑いながらを見下ろす。
「な、何ですと!コンディションを人のせいにするなんて!」
「うるせえうるせえ。何して詫びてもらおうかねえ。」
「わ……私は忙しいんで、そんなことしてる暇ありません!」
「逃げんのかよ?」
「逃げません!!」
「言ったな?」
「あ。」
目を丸くして、三井を見上げる。
つい、いつものテンションで意地を張ってしまった。

「よし。ついてこい。」

がしっと襟を掴まれて引っ張られる。

「え、ええ!!嫌だ!今日は牧さんとゆっくり過ごしたいんだあ!誘い文句も考えてきたのに!」
「へえ。なんて?」
「えっ。牧さん、一緒に文化祭回りませんかって。」
「普通だな!!!」
「言い出すまでが試練だから内容はいいの!という結論に至ったの!!」
「牧さん、を、三井さん、に変えるだけでいいから手間が少ねぇな。ほら、言い直してみろ。」
「牧さんと三井さんじゃ全然違う~やだ~言わない~!!三井さんから誘いやがれ~~!!」
「てんめぇ、俺に誘わせるとは良い度胸だなぁ!!」

そんな言い争いをしながら、三井がを引っ張り、は襟を掴まれた体勢で転ばないように、三井にぶつからないように歩く。

「行動的には三井さんから誘ってるしちゃんも付いていってるんだけど、口から出る言葉が合ってねぇんだよなー。」
変な幼馴染み関係だな、と宮城が笑う。
仲良しだというのは、とてもはっきり伝わってくるのだが。




「どこ行くのー?」
「面白そうな出し物ねーかな。お。」
三井が反応したのはお化け屋敷だった。
「お前あれ大丈夫だったか?」
「驚かされるのはびっくりするからちょっと……。」
「じゃあ入るか。」
「そっちかーーー!平気って言えばよかった!」

今度は腕を掴まれて引っ張られる。
2人分のお金を払ってくれたことには少し感謝してしまったが、後で請求されるかもしれないと考えて気を緩めないでいることにする。

「牧さんだったら、無理そうだったら言えよ、って優しく言ってくれるだろーな!!」
「お前は自分のこと分かってねーな。」
「む?」

中に入ると、和風のお化け屋敷で、敷き詰められたスノコが歩くごとにギシリと音を立てた。
窓は塞がれ、光は提灯の灯りだけで、雰囲気が出ている。
学生の作ったものだし、と考えるが、恐怖心はあって三井に寄り添ってしまった。
そこへ肩に腕を回され、三井がさらに引き寄せて来る。

「いつでも抱きついていい。」
「!」
「……って偉そうに言われる方が好きだろうが。」
「な。」

一歩前に踏み出すと、三井の手はすぐに離れた。
振り返ってからかわないで下さいと抗議しようとすると、後頭部にふわりと何かが当たる。
驚いて背後を見ると、真っ黒な長い髪に、生首付きで悲鳴を上げて三井に抱きついてしまった。

「マネキンだろーが!!わははは!!だせえ!!」
「びっくりしたのはびっくりしたんだーー!!黙れぇぇ!」
「へえへえ、可愛いことで。」
抱きついているのが自分だけで、三井は余裕たっぷりにポケットに手を突っ込んでいるだけというのも気にくわない。
離れて、また三井の横に並ぶ。

「三井さんは全然怖くないの?さっさと進もう……。」
「っつーか、高校の文化祭って結構手が込んでるんだな……。」
「?」
珍しそうにきょろきょろと見回す三井を不思議がってしまう。

「湘北の文化祭はこういう感じじゃないの?」
「ん?あ、そ、それはだな……。」

鉄男達とつるんでいたから文化祭なんてまともに行ったことがない。
言葉に詰まってしまうと、はにやっと笑った。

「あー分かった!」
「何がだよ……!」
「めんどくせーとか言って真面目に参加してないんでしょ~。」

クラスに一人はいそうな、集団行動を避ける生徒を指しているようだったが、そんなレベルではなくサボっていた。
まあそれでいいか、と考えて、まあな、と返した。

「お。」
「えっ何!?」
「一瞬風吹いたな。」
「う、うちわとかで誰か……?」
「知らねえけど。そろそろ脅かし来るか?」
「ええ……なんか怖くなってきたよ本当に~~!!」

通路がカーテンで塞がれている。
来るならカーテンをめくってすぐか、何もなくて安心して少し歩いたところか、と推理する。

「ほら。行くぞ。」
「三井さんが先に~~!」
「分かった分かった。」

三井に手を繋がれて引っ張られる。
子供の頃もこうして歩いたなあと思い出して、懐かしくなる。
三井がカーテンをめくって先を確認した後で振り返る。

「かなり暗いぞ。離れんなよ。」
「うん……ああ!」
「あ?おお!?」
が指さした先を見ると、一箇所ぼんやり提灯で照らされる一角に血まみれの日本人形のイラストが飾ってあってびくりと震える。

「あああああああ…………」
「わああああああああ!!!」
「おおおおおお!?」
そして次にうめき声のような声が迫り、白髪で腰を曲げた、着物姿の老婆のような姿をした人物が近づいてくる。

「怖い!!ひさ兄ぃこれちょ、怖い!」
「大丈夫だ落ち着け。こっちだ。もうすぐ出口。」

三井に引かれて小走りで進む。
周囲をあまり見たくなくて、俯いたまま顔を上げられなくなった。

「足元気をつけろよ。」
「う、うん!」
三井の手を両手でぎゅっと握る。
もういいや、後でだせえだせえ言われてもいいや、と考えながら、とにかく三井を信用してついていく。
ドアにたどり着いて開けると、やっと陽の光が見えた。

「おかえりなさ~い!」
廊下へ戻ると、女子生徒が笑顔で待っていた。

「どうでした~?」
「見ての通りだ。」

三井にぴったり寄り添うを顎で示すと、嬉しそうに笑う。

「怖がってくれてありがとうございます~!カップルですと余計楽しめますでしょ?」
「カップルじゃねえんだわ。でも楽しめたから上出来だ。」
「あら?そうなんですか?」
「うう……怖かったっすわ……。」
もやっと顔を上げる。
予想通り、三井は笑っていたが、想像した見下したような笑いではなかった。

(うっ……。)

妹を見守るお兄ちゃんみたいな顔しやがって……!!

「おもしれーもん見れて満足。さて、行くか。」
「私の反応のことっぽい……?」
「もちろん。」
「うう……。」
また手を引かれて歩き出す。
ぶすっと頬を膨らませて、繋がれた手をじーっと見つめて、はっとする。

「手!」
「あ?」
「いつまで握ってるんですか!」
「……何怒ってんだよ。」
「お、怒りますよ!子供じゃないんですよ!恋人でもないのに、友達に見られて勘違いされたら困るんです!」
「ほーう。言うようになったな。」

そう言いつつ、三井も、確かに、と思っていた。
と歩くときはなんとなく手を繋ごうとしてしまう。
危なっかしくて守ってやらなきゃならないと思ってしまうのは、やはり子供の頃の記憶のせいか。

「子供じゃない、ねぇ。」
「な、なんですか。」
手が離されたと思ったら今度は腕を掴まれて乱暴に持ち上げられる。

「なにす……!」
手首に三井の唇が触れ、べろりと舐められて、抗議の言葉が止まってしまった。

「え。」
手首だぞ落ち着け私と思っても、顔が赤くなるのを止められない。

「えっ……!」
「ぶぁっははは!この程度で赤面するとかガキだろが!!」
「ず、ずるい、そういうの、ずるい……。」
「まーな。隙を突くのが好きな性格なもんで。」

卑怯というんだ、それは、と思いつつ、また歩き出す。
彩子に、三井に苛められたと告げ口して慰めてもらいたいなと考えてしまった。

「悪い悪い。手は無かったか?今度はちゃんと口にキスしてやっから。」
「いらない!!」