伊達軍居候編 12話
荷物を馬に積むのを手伝って
いざ出陣らしいが
……もう夜だ……。
すでに政宗は馬に乗ってを見下ろして話している。
……うん、兜たくあんは良い出来だと思う…バランスとか……
というのは置いといて。
「暗くない?道とか間違えたりしないの?」
「夜道なんて慣れてるよ。十分確認したしな。」
城下まで見送りたかったけど、危ないからと城の門の前までしか許してくれなかった。
「じゃあな。行ってくるぜ。」
「うん、いってらっしゃい。」
政宗が背を向けて歩きだす。
その後ろを、小十郎が追う。
「小十郎さんも、お気をつけて。」
「ああ。もな。城はまあ、安全かもしれねえが、残っている兵もいるから、何かあったらそいつらを頼れ。」
「分かりました。ありがとうございます。」
一礼すると、小十郎も馬を歩かせる。
すでに進軍していた兵を抜き、先頭を政宗が走っていく。
「……え?政宗さんが先頭いくんだ?守られながらじゃないんだ?」
しかも手放しで走っているように見える。
いつもああなのだろうか、戻ってきたら聞いてみようと思った。
すぅーっと大きく息を吸って
「いってらっしゃああああい‼!!!!!!!」
幸村さんには勝てないけど、精一杯の大声を出した。
ついでに両手で大きく手を振って。
お―!!
と、兵の皆も反応を返してくれた。
ノリがよくて嬉しくなってしまう。
「さて、いつまでもここにいてもな……。」
城の中に戻ろうと振り向く。
何かお手伝いできないかと、人がいる場所を探す。
「あの~、すみません……。」
ひょこっと、声が聞こえた部屋を覗き込むと、女中全員がぐったりとしていた。
これは早速仕事が見つかった。
みなさんを介抱しよう。
「篠さん、お疲れさまです。」
「さんもお疲れさま。手伝ってくれてありがとう……。」
「え?い、いえいえ!!当然ですから!!」
様からさんづけなったのが嬉しく感じる。
少し、親近感を持ってくれたのだろう。
「あの、みなさん。」
へとへとの女中さん達の首がに向く。
「みんなで温泉入りませんか?私準備しますから!癒されると思います!」
「……え?」
「そんなこと……。」
え?
「みんなは……おんせん……。」
「あちらは殿や、戦終わりの兵達を労る場です。私たちは自分の家で済ませたり……。」
その話を聞き、いくら分からず政宗に言われたからといっても、居候の身で入ってしまったことが申し訳なく思ってしまう。
けれども、こんなに疲れている人達を目の前に、それはおかしい、と思ってしまった。
戦のために必死に働いているんだから、みんなだって労ってもらうべきだ。
「みんなだって頑張ってました!!入る権利は、あると思います!!」
「え……でも……。」
こんな事を言われるとは思わなかったのか、困惑している。
政宗は何も言わないのだろうか、と思ったが、顔を思い出すと言わなそうだなと感じてしまった。
そこら辺は放置で自由にしろといったスタンスで、自然と出来てしまった習慣かもしれない。
「入ったって、皆が戻る前にきれいに掃除したらいいじゃないですか!今くらい皆でゆっくりしよ!!それとも入りたくない?」
それを聞くと、周囲がざわざわしてきた。
「……私……一度で良いから入ってみたくて……。」
「で、でも殿方が入る湯船に私たちが入るなんて……。」
意見に耳を傾ければ、賛否両論のようだ。
「殿が戦してるって時に……私たちが休んでいいの?」
「でも、今回はさほど大きな戦ではないと聞いたわ……。食の補給も必要ないんじゃ……?」
けれど、入りたそうにしている人の方が多い。
ここは、トップである政宗と話ができる自分がしっかりするしかない。
「男達が何か言ってきたら、私が返り討ちにします!!」
ぐっと拳を握り、任せて!!とアピールする。
それを見た女中達の目が輝いた。
「そうよね!さんが言えば、きっと大丈夫よ!」
「お……おうよ!」
頼りにされてしまうと、少しプレッシャーを感じたが、皆が楽しそうにしてくれているので何かあったら自分が守ろうと意気込む。
そうと決まれば話は早い。
入口に立ち入り禁止の札を貼り、女中全員で風呂に入る。
修学旅行のようだ。
しかし、周りを見渡し、武田軍に行ったときの光景を思い出し、改めて思った。
女中の人数が、少ない気がする。
それを聞いてみると、苦笑いで返される。
「ほら、伊達軍はその、変わってるでしょう?政宗様のようにくーるになるために、恋愛禁止とか……。気まぐれにいろいろ始まって……ついていけなくなると言うか……。」
「まぁ、もともと少なかったですしね~。政宗様は良い主なのですが、募集自体少ないし……。」
「そうなんですか。」
いや、それcoolか?というつっこみは無しにする。
最初は城のことや伊達軍の話をして、もこの場所の理解を深めていた。
だが、こんなに女が集まってるのだ。
恋の話が始まらないわけがなかった。
そしても、この時代の恋愛にとても興味を持っていたので、聞けるのが嬉しかった。
城下に恋人が居る人、
婚約者を戦で亡くした人、
兵の中に好きな人が居る人、
十人十色だったが、同じ女中の人でも、あなたそうだったの?という反応を示す人がいた。
あまりこういう話はしないのだろう。
これがきっかけで、もっと皆が仲良くなってくれたらいいなと思う。
そして話題は上層部へ向かう。
「成実様素敵よね!いつも笑顔で癒されるわ!」
「わ、私もそう思います!!」
は手を上げて、皆もそう思っているんですね!!と、嬉しさをアピールした。
「小十郎様だって、少々怖いけれど、強くて頭が良くて……!」
「庭で稽古してるの見ました!!すごく刀の扱いが上手いというか!!頭もいいんですね!!やっぱり!!」
そしてぱっと見怖いですよね!!私だけじゃなくてよかった!!とは頭で考えるだけにした。
「私は綱元様が憧れで……。」
「あの……。」
「先日来た、武田の方々も素敵じゃありませんでした?武田信玄の直属の部下とお聞きしましたので、文武に優れたお方なのでしょう……。」
「その……。」
は聞きたいことがあった。
でも、こうなると聞かない方がいいのかなとも思った。
でも
「政宗さんは……?」
全く名前がでてこなかったのでどうしても気になった。
嫌われてはいないと思うが、なぜだろう。
そう思っていると、女中が皆にやにやと笑いだした。
「え!!ええ!?なんですか……あの……。」
「やきもち妬かれたら嫌だもの。」
「は……?」
篠さんに視線で助けを求める。
篠さんはにこ―っと笑って
「皆は一番、さんの恋の話が聞きたいのですよ?」
優雅に言い放たれ、動きを止めてしまった。
初恋はいつだったかなぁと思いだす。
「ねぇ、そんなに細くて、政宗様のお相手は大丈夫なの?」
顔が青くなった。
「ちょっと!政宗様がこんなに大切にしてる方よ?優しくされてるに決まってるじゃない!」
顔が赤くなった。
「婚約はいつなの?私たちあなたなら大歓迎だわ!こんなに親しみやすい方が奥方になるなんて想像してなかったわ!嬉しい!!」
顔が黄色く……なるかぁ!!
あぁ!脳内混乱してきた!!
「ち、ちちち違います!!私本当に、あの、迷子で……行くとこなくて政宗さんに拾って貰って……。」
みんながきょとんとして顔を見合わせる。
「そうなの?そう言えば詳しい事情知らなかったわね。」
そんな感じでいいのか。
でもなんとなく政宗さんっぽい。
「おい……このたくあんなんだ?」
「お、いいなぁ、当たりだ!様が作ったそうだぜ。政宗様の兜の三日月を形どったらしい。」
「なっ……本当かそれ!?様が……政宗様のことを思って……それってもしかして……。」
「あぁ……そういう事じゃないか?」
顔を見合わせて騒ぎ出す。
「様、すごい『せんす』良いぜ!戻ったら様の服装やお言葉も注目しないと!」
「やっぱりそう思うよな!」
そんな話で盛り上がる兵達を成実が遠い目をして眺めている。
「戦場で不謹慎だけどさぁ、もうちょっと……色気有る思考回路無いのかね……。ちゃんと殿の仲噂するとか……せっかく女の子増えたのに……。」
「……そんなもの望むな。さぁ、政宗様を追うぞ。」
そんな会話も知らずに殿はyeah!と叫んで楽しそうに戦場を駆け回っていた。
翌日、静かな朝を迎えた。
朝は風呂掃除から始まり、お団子の作り方を教えて貰った。
政宗が戻ってくる頃には、一通りお手伝い出来るようになってやると気合を入れる。
日を追うごとに、城の人達を仲良くなり、自分に城下へお使いを頼んでくれる日もあった。
変化のある生活が楽しかった。
そして、政宗達が明日城に戻るとの連絡を、は小十郎の畑で収穫をしているときに聞いた。
勝ち戦だったそうだ。
爺さんが死んで
いっぱい血が流れたのだろう。
「……。」
そういえば、ちゃんと聞いてなかったな。
政宗さんは、天下を取ってどうするつもりなんだろう。
「……まぁ、基本優しいからなあの人。」
きっと、平和な世を目指してくれる。恐れずに聞こう、と思った。
収穫した野菜を届け、井戸で手を洗う。
一休みしようと、一度背伸びをして、整えられている庭を散策する。
大木の前で、ぴたりと足を止めた。
「…………。」
まいったな……
……誰か後ろをつけられている……。
女中さんだろうか。
なら、話しかけてくれるはずだ。
それとも残ってた兵の人が私を見はっているのだろうか?
足音がしたわけではない。
ただ、誰かがいる気配がするのだ。
「……。」
ゆっくり、懐に手を入れて、政宗さんが貸してくれた短刀を握りしめた。
刀を振ったことなど無い。
けど持ってるなどと思われてはいないだろう。
最初の一瞬ならば、脅かし程度にはなるから、びっくりして撤退してくれるかもしれない。
私って結構肝が据わってるのかも……。
と、自画自賛してみる。
「!」
先に動いたのは向こうだった。
刀を取り出す時間すら与えてくれない人物は静かにの前に立った。
黒い服に血のりを固めて。
「……小太郎ちゃん!?」
「…………。」
何でここに?
いや、その前に
「怪我してるの!?」
ふるふると首を左右に振る。
懐に手を入れ、すっと折り畳まれた紙を差し出された。
「私に……?」
受け取って、少し血に濡れ所々張り付いてしまった部分を丁寧に剥がして広げる。
『殿』
……。
『北条氏政』
う、氏政!?
何!?何で!?
あのさ!
「達筆すぎてそれ以外読めねぇぇぇ!!」
小太郎ちゃん!読んで!
ふるふる
こら!
「うぅ……。えと、滅びる、命?に、後悔は無し……。しかし、お主が、伊達……軍、にいる事が、気、がかり……。」
読む気になればなんとか読める。
間違いがあれば反応してくれるかなーと、小太郎の様子も伺いながら声に出して読んだ。
「小太郎を、……本日限りで、解……雇し、お主の……護衛の任を与えることとした!?」
ばっと顔を上げ、小太郎を見るが、ただ腕を組んで立っているだけだ。
「小太郎ちゃん……。爺さん、死ぬかもって時に、私の心配してくれたの……?」
「…………。」
何も反応が無い。
「……小太郎ちゃん……爺さんの事は……。」
やばい。
視界が潤んでいる。
「……あなた、爺さんの最後は、見てきたの……?」
首を横に振られた。
「そんな……。」
負けを悟って、小太郎をこっちに送ったのか。
大事な戦力である小太郎をこっちに送るということがどんなに大変で恐ろしいことか、にも分かる。
「そんなー!!爺さん馬鹿だよー!!!何してんだよ!こっちじゃ……1日だけしか会ってなくて……そんな……情かけられる事してないのにっ……!」
でけぇ置き土産してんじゃねぇよー!
夕日の馬鹿やろうー!
夕日などまだ出ていなかったが何かを叫ばずにはいられなかった。
涙がボロボロ出てきた。
「戦はどうなってるの!?終わったの!?政宗さんは明日戻るって……。」
小太郎は何も言わず、の手を握った。
「え?」
とにかくグイグイ引っ張られた。
「……どこいくの?」
まさか小田原?
「!」
ひょいとお姫様抱っこをされて、いつぞやの佐助のように
バシュ
ごと消えてしまった。
(どうなってんだ!?)
「……ここどこ?」
「…………。」
小さな山頂のようだった。
見晴らしがよく、見下ろせば小さな村が見える。
遠くには紅葉し始めてる山を眺めることができる。
「……きれいだね。」
小太郎はを下ろして、そのまま座った。
着物の裾を引っ張られたため、も横に座った。
そのまま沈黙が続く。
日が傾いてくると肌寒くなった。
着物の上から肌をさすっていると、小太郎が背後に回り込んでぎゅっと抱きしめてくれた。
……暖めてくれてる……んだよね?
「ありがとう。」
青春くさくてちょっと恥ずかしいな…。
「小太郎ちゃんは寒くない?」
小太郎はこくんと頷き、そのままの肩に顔を埋めた。
「小太郎ちゃん?」
「……。」
あぁそっか。
小太郎ちゃん、今は独りぼっちか。
「こ……。」
また名前を呼ぼうとすると、小太郎がゆっくり顔を上げて前方を見つめた。
視線の先は、真っ赤な夕日。
山と山の間に沈んでいく。
空と地が真っ赤に染まっている。
「わぁ……。」
「……。」
「…素敵だよ。さっき馬鹿やろうって言ってごめんなさい。」
きっとお気に入りスポットなのだろう。
「…………。」
少しだけ、笑ってくれたような気がした。
しばらく夕陽を眺めていると、背後からカサッと音がして、小太郎が立ち上がると同時に背に携えた武器に手をかける。
「……。」
けれど、すぐに離して胸の前で腕を組み、俯いた。
「え、な、何……?」
敵ではないのだろうと感じてひとまず安心する。
小太郎の友人だろうか。
カサリ、と小さな音を立て、木々の中から人影が現れる。
金髪の、やたら胸元が開いて体の線が見える服を着た女性だった。
「し、忍……?」
その女性が声を発する。
「ふ、ふふ……。」
急に、肩を震わせて笑いだす。
「ま、まさか小太郎が…小太郎のこんなとこが見られるとは…。」
名前を知っているのだから知り合いだろうと思うが、こんなところにいるのだから北条軍では無いと考える。
「…………。」
「な、何を!?貴様言うようになったな!私は謙信様のおそばにいられればそれで良い!」
「……え?」
小太郎は何も言っていないが、女性は心外だと言わんばかりに怒りだした。
「……………。」
「えぇい黙れ!」
黙ってますよ?
自分だけが蚊帳の外というのは寂しい。
それに、文の内容を考えると、小太郎は伊達軍に来るというか“居る”ことになるのだろう。
小太郎の交友関係を知っていた方が良い気がする。
「あの、こんにちは……。」
女性はずっと、小太郎と同時にを観察するような視線を向けていた。
話かけると身体ごとこちらに向けられるが、眩しく感じられるほどの美しく整った顔、体に見惚れそうになる。
「お前は何者だ?なぜ小太郎と一緒にいる。」
「、と申します。ええと…。」
「北条にこのような娘や孫がいるなど聞いていないな。だが、姫か?小太郎と逃げてきたか。」
「違います。私、あの、北条氏政と面識がありまして、その、」
言葉に迷っていると、女性はため息をついたあと、こちらに一歩近づいた。
「どのような人間でも、今私はお前の命を取るようなことはしない。」
「わ、私も、状況がうまく分かって無くて。」
小太郎が、悩むの姿を女性から守るように前に出る。
「…………。」
「その娘の護衛だと?」
ここは小太郎に任せようと思った。
「北条が終わり、さっさと次の客の傭兵か。器用なものだな。」
「……。」
「北条の依頼か。何者だ。……まあ、口を割らないなら調べるまでだ。謙信様の害にならないなら、私は敵ではない。」
「あの!!」
険悪な空気が流れ始めたところで、は声を張り上げた。
「何だ。」
「なんで、小太郎ちゃんの言う事が判るんですか?」
「私たちは忍だ。読心術で分かる時は分かる。」
そう言うと、悔しそうに親指の爪を噛んだ。
「隠している時は、全く分からないがな……!!」
「そ、そうなんですか……。」
小太郎の技術が上で悔しがっているのだろう。
闘争心があって、好感が持てる。
「私、あなたの敵にはならないと思います!!」
「なんだ、突然。」
「だから、お名前をお聞きしてもよろしいですか?」
一瞬目を見開き、ああ、と呟いた。
「名前を聞いておいて、私は名乗っていなかったか。これは失礼。私はかすがだ。」
「かすがさん。」
「かすが、で構わない。その方が慣れている。」
「分かりました。かすが。では、私の事を呼ぶときは、でお願いします。」
「分かった。」
小太郎が退き、はかすがに近づいた。
「女性の忍にお会いしたのは初めてです。」
「女だからと侮るな。」
「もちろんです!!小太郎ちゃんの、お友達ですか?」
「違う。これまでは敵だったが、今はお前…の判断で敵かどうかは決まるぞ。」
「じゃあ、お友達ですね!!」
「と、友達、だと……?」
さらに近づき、はかすがの手をとって握る。ぎゅっと力を込めて、少しでも必死さが伝わるように。
「お友達に、なってください!!」
「……は……?」
「お会いできたらお話する程度で構いません!!!それで、いろいろ、教えていただけると嬉しいです!!」
「教えるとは…?しかし、お前は…。」
「私は今、伊達軍にお世話になっています。」
「だ、伊達軍だと!?」
「伊達軍と敵対してらっしゃいますか?でも、私は今帰るところがなくて、帰り方が分からなくて、少しでもこの世の情報が欲しいんです!!!先程も言った通り、私はあなたの敵にはなりませんので…!!」
「乱世だぞ!?小太郎を操るお前が敵対するかどうかなど分からない!!お前の意思でなくとも、敵対することだってあるんだ!!」
「絶対、なりません!!!!!!」
「な……。」
の必死さと、熱意のある瞳にかすががたじろぐ。
「なぜ……私……。」
「今日偶然会ったからです!!!!!」
チャンスを逃すわけにはいかないんだ、こんなところにいるなんて、きっと広範囲を移動する方なんだ、いろんなことを知っているに違いないと、期待に満ち溢れていて暴走する。
「ぷ……!」
かすがが、吹き出して笑いだす。
「偶然会ったから、だと!?あはは!!正直にも程があるだろう!!」
「だって……!!」
「はは……。私を利用したいのなら、私を欺いて情報を取り出すがいい。」
「そ、そんなこと、できないから……!!」
「ふ……!」
を見て、口元を上げる。
「悪い娘ではなさそうだな。いいだろう。その代わり、敵にならないという約束、忘れるな。」
「はい!!」
は笑顔になって、思いっきり頷いた。
「しかし、護衛が小太郎とは…。北条は好き勝手使っていたからそうでもなかったろうが、もし小太郎ときちんとした交流を望むなら苦労するだろうな。」
「う、うーん、そうか、読心術が、できればいいのかな…?」
小太郎がの隣に来る。
「どうしたの?」
「……。」
「……小太郎は」
「あ、そっか、うん!ごめんね、私の護衛、よろしくお願いします!!小太郎ちゃんが良いならぜひ居てほしい!」
そういえば手紙に書いてあっただけで、まだ許可していなかったことを思い出した。
「……判るじゃないか。」
「え?あの、今のくらいなら……。」
「…………。」
小太郎が寄ってきたので、握っていたかすがの手を離した。
「わわ。」
「……。」
腕を引かれ、小太郎に引き寄せられた。
「伊達軍にお世話になっている、か……。小太郎は伊達の忍ということになるのか?」
小太郎は横に首を振った。
そして手をの肩に乗せた。
「お前が護衛だけというのは想像し難いな……。せいぜい腕が鈍って戦場に出ないでくれると嬉しいが。」
「…………。」
「う……。」
そういえば小太郎は腕の立つ忍のはずだ。
自分の護衛なんかにつけていいものなのか、悩んでしまう。
「、小太郎に問題があったら必ず叱れ。きちんと教育するんだぞ。」
「そんなことしなくても……。」
小太郎ちゃんはそんな歳じゃないだろう……と思うが、何かあった時のために一応言葉を受け止める。
「はっ、しまった。早く戻らねば、謙信様が待っておられる……では。」
「謙信様……。」
の知る『謙信様』は、上杉謙信しかいない。
偉大な人間につかえているのだなと感心する。
「かすが、じゃあね。」
ひらひらと手を振り、バシュ!と消えるのを見送った。
「きれいな人だったなぁ……。」
「……。」
「お?」
がしっと
小太郎にしがみつかれる。
「こ」
バシュ!
移動するよと言え!
無理か!