伊達軍居候編 16話



夜寝る前に携帯電話を起動してみようとするが、真っ暗な画面は全く光る気配がない。

「ぐ……充電ついに切れた……。」

日にちは来たときからずっと二十四時間周期で現代の日付を刻んでいた。
時間は大いに狂っていて役に立たず、しかし意味があるのかもしれないとそのままにしていたが、変化があったとしても知ることができなくなった。
できるだけ長く持つよう電源オフにしていたが、ついに限界が来たようだ。

「大学どうなんだろ……。」

帰ることばっかり考えて、帰った後の事は考えてなかったな……。
いや、帰れなきゃ意味無いんだし……。

。」
「おや、政宗さんの方から来るとは珍しい。」

携帯電話を握りしめて布団の上でごろごろしているところを見られてしまった。
むくりと起き上がって着物を整える。

「お前が俺のとこ来すぎなんだよ。これ動かなくなったんだが。」
政宗の手の中には、同じく真っ暗な画面のiPadが握られていた。

「iPad!!いつの間に!?こっちも充電切れかぁ……。」

受け取って、起動させようとしてみるが、こちらも動きそうになかった。

「じゅうでんぎれだ?壊れたのか?」
「エネルギー源がなくなったの。」
政宗の目線が、布団の上に置かれた携帯電話に移る。
「そっちもじゅうでんぎれ、か?」
「うん。」
拾い上げて、真っ黒な画面を向けて見せる。

「じゃあくれよ。」
「だめですよ!使い捨てじゃないんです!未来に戻ればまた使えるようになるんですから!」
「ケチだな……。」
「この状態で持ってても役に立ちませんよ……。」

鞄にどちらも仕舞いこむ。
一番未来から来たことを証明するのに役立ったものだけに、心許なさを感じてしまう。
仕舞い終わったタイミングで政宗がの布団の上にあぐらをかいて座る。

「Photo、覗いたが怒らねえか。」
「フォト……うん、大丈夫、かな?」
なんの写真が入っていたかを思い出す。

大学の友人と遊びに行って撮った写真か。

「あれが未来の風景か。何がなんだか分からねえが、服は本当に着物じゃねえんだな。」
「着物の文化も残ってるよ。あの服のが楽でね……安いし。でも大した写真は入れてなかったな。」
「あと花とか飯とか……猫。」
「ねこ。」
「なんであんなに猫のPhotoが?」
「ねこ……可愛い……。」
「分かるけどよ。」
「猫ちゃんが接待してくれるお茶屋さんに行ったんだよ。」
「は……?」

政宗がぶふうと吹き出した。

「猫が接待……!?遊女じゃなくてか!?」
「そー。猫ちゃんが自由気ままに過ごしているのを拝見させて頂き、時折ご飯などをあげたり猫じゃらしで遊んで頂いたりするの。」
「……おい待て様子がおかしいな。人間が接待してねえか。」
「そうとも言います。」

終始真面目な顔のに、本当にそんな商売成立してるのか……?と政宗は眉根を寄せた。

「……やってみる価値はあるのか?収入が見込めるなら野良猫の家になるか。」
「待って政宗さん!猫ちゃんを集めたら病気に気を付けないといけないし、子を好き勝手生まないようにする対策が必要だよ!あと人間側もストレスを与えないようにむやみに触ったり抱っこしたりしないように…」
「あああ待ってくれわかった軽率に手は出さねえよめちゃくちゃ饒舌になったな!!!!」

そんな商売があるなら未来人どんだけ猫が好きなんだよ……と不思議になったが、これ以上に語らせたら止まらなくなりそうだ。

「政宗さんも猫っぽいです。」
「Ah?流れを考えると俺が可愛くて接待してくれるって話になるな?」
「あらぬ誤解を与えてしまった。反省。」
「棒読みすんな。俺がそんなこと言ったら喜んで~って言われんのによ普通は。」
「……じゃあ、喜んで。」

随分とお坊ちゃんなんだな、と笑ってしまう。
でも、色々あったと成実が言っていたのを思い出す。
は、自分の前では奥州筆頭ではなく未来に興味津々な年相応の男になれるのかもしれないな、と思う。
異質だからこその特権だ。

「!」
猫を愛でるように、首筋や耳裏を指先で撫でる。
「よしよし。私結構猫ちゃんにはモテるんですよ。」
「完全に猫への接待じゃねえか!」
「そういう話だったのでは~?」

政宗に手を掴まれてしまい、ふざけるのもここまでか、とへらっと笑う。
しかし引き剥がされると思った手は、政宗の口元に押し付けられる。
「え!?」
「柔らけえ手だな……。」
唇が動き、ぴちゃ、と舌の感触がする。
は顔を真っ赤にして身体を強張らせた。

「……猫は舐めるだろ。」
「そうですけど……!」
続いて吸われる感触に、は焦る。
政宗の流し目がを捉える。

「離して頂けませんか……!」
「離して欲しかったら」
「政宗様こちらにいらっしゃるのですか?」

小十郎の声が廊下から聞こえ、政宗はすぐに手を離して勢いよくの膝に頭を置く。
「ぐお!!!」
勢いが良すぎては圧迫感に声が出た。

?」
「小十郎さんんんん……。」
「……。」
小十郎に背を向ける形で、首だけ振り返る、
政宗はの膝枕で表情を隠して寝たふりをしていた。

「政宗様が膝枕をご所望に?」
「え、いや……。」

政宗が小十郎に見えないよう、指先でトントントントンと膝を叩いて何か訴える。
訴えるということは本当のことは言うなということか、くらいしか分からない。
は無難そうな言葉を必死に考える。

「……お話してたんですけど、政宗さんが眠そうだったので膝貸しますかって言ったらほんとに膝で寝ちゃった。」
「微笑ましい話だな。」
小十郎がクスリと笑う。
彼に顔を見られてしまったら寝たふりなどすぐにバレてしまいそうだと感じて、は掛布団を引っ張って政宗にかける。

「何か御用でしたか?」
「部屋にいらっしゃらねえからどこへ行ったのかと。明日俺は昼間城下に行く予定が出来てな。ご入用のものはないかと。」
「起こします……?」
「いや、いい。……政宗様を甘えさせてやってくれ。」
「はい……。」
「おやすみ。」
「おやすみなさい。」
穏やかな微笑みで、小十郎が襖をゆっくりと閉める。

ぱたんと閉まると政宗は目を開けて身体を起こす。

「びびった……。」
「小十郎さんに見られるのが何なら良くて何ならだめなんだかよく分からなかったんですけど……。」
「小十郎は俺がガキの頃から一緒なんだ。」
「ふむ。」
「だから……。」

女に迫っているような姿を見られたくないが子供じみた甘えならまあ見られても、と思うが、この感覚をに知られるのがなんだか嫌だ。

「……色々あんだよ!!」
「はあ……。」
「はーーーくそ!!言い損ねたぜ!」
「!」

手を離して欲しかったら、の続きのことだと察して、はドキリとする。
また迫られても困るが、そんなに言いたかったことはなんなのかは気になる。

「変な事じゃなければ……今言っても……。」
「Ah?変な事ってなんだよ。」
「わ、わかんないですけど!無理難題やれといわれたら困るというか断らせて頂きますが……!」
の感覚までは分かんねえよ……。まあいいか、仕切り直しだ。」
「え。」
の腕をがしりと掴む。
慌てて引こうとすると体勢を崩し、政宗は丁度いいと言わんばかりの意地悪な笑みでの肩に手をかけ押し倒す。
「政宗さん……!」
「離して欲しかったら……」
政宗の顔を見上げると心臓の鼓動が早くなってしまう。
恐怖でも不快感でもなく、恥ずかしさで動揺しているのは本人も意外だった。
自分でも考えてる以上に政宗の事を尊敬して信頼しているのだろうか。

「もう少し俺とfrancに話せ。」
「ん?」
「意識して敬語にすんのはやめろ。俺の家臣じゃねえんだから。」
「話し方……?」
「自然になっちまう分には、まあ、いいけどよ。」

そんなことをお願いされるとは思っていなかったは目を丸くする。

「嫌だっていうなら……強制はしねえが。」
「政宗さんがそう言うなら、じゃあ、言葉遣い気にしないことにする……。」
「おう。それでいい。」
政宗があっけなく上から退いて、も身体を起こす。
そんなことを気にしてたのか、と思うと政宗が可愛く見える。

「ふふ。」
「なんだよ。」
「ごめんなさい、我慢しようとしたけど無理!政宗さん可愛い!」
「はあ?訳わかんねえな。」
口に手を当ててが笑い出す。

「……もう遅い。さっさと寝ろ。」
「はあい。おやすみなさい政宗さん。」
立ち上がって、見送ろうと思ったが政宗がの寝間着を掴む。

「気にすんな、布団に入れ。俺が蝋燭消す。」
「え……。ありがとう……。」
やたら優しいな、と不思議がるが、もしかして元来の政宗のほうがこっちかもしれない、と考える。
布団に入ると、政宗が蝋燭を消して室内が真っ暗になる。
すぐに夜目がきき、政宗がの枕元に座り込んだ。

「……?」
「おやすみ。」
「おやすみなさ……!」
政宗がの髪を撫でる。
こんなに優しい人のところにお世話になれて、本当に幸運だとは感動する。

「政宗さん……ありがと!」
「いいから寝ろ。」

政宗の指使いが心地よく、目を閉じればすぐに睡魔が襲ってくる。

から規則正しい寝息が聞こえてくると、政宗がにやりと笑った。

「……人の事笑ってんじゃねえぞぉ……?」











「うあああああん!少しは倒れろ!えいえい!!おりゃあ!!!!」
「hahaha!倒れるどころか体勢崩れもしねぇな!」

今日も庭では朝チャンバラが行われていた。
日課になりそうだ。
今度は成実が縁側で茶をすする。
朝食を終えた小十郎がてくてくと近づいてくる。

「……どうした。朝から元気に殺気立ってるな。」
「殺気立ってるのはちゃんだけだけどね。朝起きたら隣に殿が居て、おはようの接吻されたんだって。」
「……。」
すまん、、何があったかわからんが昨夜政宗様を部屋にお送りすればよかったな…?

「といっても、おでこにしたらしいけど。」

おでこにあんな怒りを!?

「可愛いよね。ふふ、おでこであんなに修羅のような顔を……。」

修羅は可愛くないと思う。








「はぁはぁはぁはぁ……。」
「どうした?give upか?」
「疲れた……。」
「座ってろ。水持ってきてやる。」
「……ごめん、ありがとう。」
信用したのに、目を覚ますと自分を抱き枕の如くの扱いをしていた政宗に裏切られた気持ちになったが、疲れでもうそれどころではなくなっていた。

「おら、飲め。」
「どうも。」
だから何でただの水で立派な陶器使うかな、と一度陶器に視線を這わせた後に、一口、こくりと喉を湿らせる。
政宗が縁側に腰を掛けたので、その隣に座って残りの水をごくごくと飲んだ。

「小太郎ちゃんいつ戻ってくるかなぁ。」
「明日あたり来るんじゃねぇか?何事も無ければ。」
「物騒な事言わないで……あ、ごめ……そうだよね……。」
「……。」

戦国時代であることへの自覚が足りないかな、と思い訂正した。
何があるかわからないから、素直に心配していいのかもしれない。
「何事もないといいな。」
先程まで成実と小十郎がいたが今はもう居なくなっている。
「政宗さん。」
「ん?」
「政宗さんは、天下取ってどんな世の中にしたいの?」

何故だか、聞くなら今しかない、と思った。
やや間を置いて、政宗が口を開く。

「お前は世が荒れることがどういうことか分かっているか?」
「え、ええと、天下取りたい人が戦して、領地広めてって……。」

子供に説明しているようだ。
ため息をつかれた。

「一番辛いのは誰だ?」
「辛い……のは。」

働け私の頭!何でも良いから単語!
……そういえばこの時代、農民一揆とか起こってたよね……。 女性の地位だって低いし。

「あ……国民?」
「範囲広いな。」
「えと、農民とか商人、土地とられて年貢とられて……平等なんて与えられてなくて……。」
「そうだな。今日食った米だって農民が作ったものだ。それなのに上のモンは恩を仇で返す。ふざけてんだろ?」
「うん。」
「俺が変える。平和な世を作ってやる。」
「政宗さん……。」

正直ときめいたよ。
あぁ、だからこんなに格好いいんだよこの男。

「……惚れたか?」
「え?なにを掘るって?」

ばちこーん!

「お前から聞いてきたんだろうがしっかり聞け‼」
「いや!?聞いてたんだけど聞いてたんだけど最後だけ何⁉政宗さんそんな怒るやつ⁉」
ボケではなく素だったのだが、政宗はの後頭部を叩いて行ってしまった。






を殴った後、政宗は自室に篭もっていた。

「……。」

途中から、そういえばこいつこれから何が起こるか大体知っているんだった、と思い出してしまって急に語るのに抵抗を感じてしまった。
預言者に何を言われようが俺は俺だと貫けるのに、は勝手が違う。
誤魔化すために少し強く殴りすぎてしまった。

「普段そんな空気出さねえでのんびりしてっから余計だぜ……。」

次顔を合わせたときに謝ればいいだろう。

「……謝れば……いいよな?」

小十郎に、女性にはもっと優しく、と度々言われることを思い出す。
別にいいじゃねえか、俺の性格が合わねえなら早々に去ってくれた方がいい。

は俺の事が嫌になっても、他に行くところがねえから我慢してここにいるのかもしれないが……。

「……小太郎が戻ったら移動手段はあるか。」

武田か北条のところにでも行けばいい。
幸村がを結構気に入ってたようだし……

「……。」

無意識に眼帯に触れてしまう。
唇を寄せられたことを思い出してしまう。
あれは同情でも憐みでも愛情表現でもない、ただ大丈夫だという意思表示だ。

受け止めやすくて、嬉しかった。


もし奥州から出て行ってしまったら

そうなったら

俺は

「……んなもん考えるのは止めだ止め。」

また地図を広げて、考え始める。

越後の警戒は緩めず。

北は報告待ち。

もうすぐ武田と今川との戦が始まるだろう。
今の武田軍なら今川を落とすことは容易だ。
武田の兵力を推し量るにはあてにならない。

「……様子見……いや……。そうだな、南か……。」
筆と紙を取り出して、文を書き始めた。















「怒らせてしまった。」

は庭で小さく縮こまって沈んでいた。
掘れた?っていきなり聞かれても……芋?
それとも私の言動に……。
……怒るよな……。
本当に知らないんだもん……歴史……。

何でだっけ……?

そうだ、

霊ばかり見ていて、
傷が痛そうで
治してあげたいって子供の頃思って
その道目指して

「日本史なんて、試験関係ないって思って……。」

バカだ。
こんな人たちが居たのに。
日本の未来のために、民のために……

「命懸けで、頑張ってることを……。」

知ろうとしないで
関係ないだなんて

「私最悪じゃんって、思っちゃう……。」

申し訳なくて涙がでてきた。

いつからこんなに涙腺弱く

「……っひく……」

これは、長引くかもしれない。









そろそろ夕食の時間だ。
サンマが食いたい。
今日の分に追加させようか。
、あいつ魚の骨取るの下手だったな……今日こそ綺麗に出来るようしごいてやろう。

そんなことを思っていたら、前方から来る成実に気づくのが遅れた。

「殿、ちゃんは一緒じゃないの?」
「は?昼に別れた。どっかでちょろちょろしてんだろ?」
「いや、女の子たちがちゃんが居ないって言ってるんだ。いつも手伝いに来てくれるのにって。」
「部屋には?」
「片倉殿が見に行ったんだけど居ないって……。」
「何してんだあいつ……めんどくせぇな。」
「殿……。」

成実のひどく心配そうな顔。
他の奴らもこんな顔してんだろうな……。

「飯は全員そろってからな。」
「うん!」
草履を履いて庭におり、真っ暗な闇の中を二人別々の方向へ歩く。

「……まさか。」
ふと、思いついて、足を向けた。



「……目、腫れ引いたかな。」

泣き出してしまって、涙が止まらなくて、ずっと動けずにいた。
やだよ、こんな理由で泣いてたなんて。
みんな忙しそうだもん。心配かけたくな……
「心配かけてんじゃねぇよ。」

ジャリジャリと近づく足音に、肩ごしに振り返る。
「すいませ……。」
「飯だ。さっさと来い。」
「うん。」
うつむいたまま立ち上がる。

政宗が屈んで、の手を取って、握った。
そのまま強めに引っ張られ、歩き出す。

「どうしたんだ。」
「自分が、情けなくて。」
「……今に始まった事じゃねぇだろ。」
「ひっ、ひどいなぁ……。」

笑ってみたんだけど
政宗さんの手が暖かくて

「……ホントだよね……私……。」

また泣き出してしまった。
ごめんなさい。
政宗さんからみたら大したことじゃないのかもしれない。
でもそれでも

政宗さんの存在を知ろうとしなかった過去の自分が

仕方ないのかもしれないけど

政宗さんを拒んだようで

「ごめんなさい……。」
「どうしたんだよ……。」




の部屋に二人で並ぶ。
障子は開けられていて、入り込む夜風で少し寒い。

「落ち着いたか。」
「……うん。」

皆には見つかったことを告げて、体調が悪いから先に食べるようにと伝えてもらった。

「ごめんね、付き合わせて。」
「馬鹿か。最後まで付き合うって決めてる。」

いつからそんな風に考えてくれたんだろう。
ここまでしてもらう理由が見つからず、政宗に甘えてばかりの自分まで嫌になる。

「政宗さんはさ、何で私をここに置いてくれたの?」
「俺のせいでお前に傷が付いた。」

腕の怪我の影響だったのか、と思ってもなかなか納得は出来ない。

「……私が、勝手に飛び出したんだよ。政宗さんのせいじゃない。政宗さんなら……避けれたよ……。」

政宗さんが黙ってしまった。
……黙って欲しくなかった。
そう言われりゃそうかって、
そう思われたらどうしよう。

「……俺が嫌か。」
「!?」
「俺から離れたいか?武田に行きたいか?」

政宗から発せられた言葉が予想外すぎて驚いてしまう。

どうして

どうしてそう捉えられてしまったのか。

「なんで……?」
「俺のせいで泣いてるんだろが!!」


殿を裏切らないで


「違う……。」

成実さんの言葉の意味が

「歴史を知らない自分が」

政宗さんの傷が

「政宗さんのことを知らない自分が嫌だった。」

「俺はここにいる!!知りてぇならなんでも教えてやる‼だから、ふざけんな!」

「政宗さん……?」

「お前になら俺の全部見せたって構わねぇ!だから近くにいろよ!笑ってろよ!」

暗くて見えない。
どんな顔をして、政宗さんはそんな言葉を

「飯、持ってくる。ここで食おう。」
「政宗さん!私ご飯大盛り!」
「あぁ!?」
「泣いたら腹減った!」
「……贅沢言ってんじゃねーぞ!」
「だっていい匂いするじゃん!」

政宗さんが、少しだけふっと笑って部屋を出る。

私が泣けば政宗さんも辛そうで
私が笑えば政宗さんも笑って

なんだこれは

なんだこの関係は

落ち着け

「深呼吸~……。」
す~……
は~……

「ふう……。」

どきどきした胸の鼓動はまだ収まらないけど、頭は冷静になってきた。
なにかを、政宗さんは恐れてる。誰かに裏切られたのだろうか。だから成実さんはあんなことを?
全部見せてくれるって言ってくれた。
じゃあ私は、聞いてみようかな。昔、何があったの?って。
私は、拒まないって思ってくれたのかな。
拒まないよ。受け入れたいよ。



外を向けば綺麗な星空が見える。

「あ、今日は新月じゃん!」

満月もいいけど新月も趣がある。暗い夜空を仰いで、目を細めた。

ずっ……

「政宗さん?」
視線を屋敷に戻しても周りには誰もいない。

「あれ?」

ずずっ……

「何の音……。」

振り向けば、闇の中から
さらに深く暗い闇

これは

見たことがある

何で今……

「おい、飯!冷めちまって」

「政宗さっ……」

飲み込まれる。
知っている。
逃げられない。



「……?」


まるで最初から居なかったように

気配も匂いも消えていた。