最北端一揆~目指せ奥州編 1話



なんたること。

爺さんのせいで空間が歪んで

まさか、望まずとも戦国と現代を往復の生活ですか……。

いや、それよりなにより

「寒いー!!」

たどり着いたのは一面真っ白の銀世界。
自分で自分の体を抱きしめ、ぶるぶると震えながら立ち上がる。
予想外で、雪への備えなどしていないはズボンに付いた塊を払う余裕もない。

実は思いの外時間経ってて戦国は冬になったのでしょうか?
しかし確かめる術はない。誰か人はいないものか。
空はどんより曇り空。
後ろから、ザクザク雪を踏みしめる音が耳に届く。

「あんたぁ、そげな寒そうなかっこで何してるだか?」
訛りっぷりで地方に来ているということだけはすぐに分かった。
農村が広がっていると聞いた、青森のあたりだろうか。

「すいません、ここどこ……あの……わっ、私旅していて……迷っちゃって。」
「あんれまぁ、宿なんかここらにゃねぇだよ?凍えちまうべ?おらの家でよかったら来るだか?」
振り返ると、優しそうなおばあさんが心配そうな顔を向けてくれた。
「本当ですか!?ありがとうございます!」

できるだけ明るく、不審に見えないように振舞うが、寒さで凍えそうであまりに余裕がなくて声が震える。
周囲をよく見ればぽつぽつと民家が見える。
雪をかぶって真っ白だった。何日くらいか降り続けているのだろうか。

歩き出したおばあさんの後ろをついていく。
ざく、ざくと、腰を曲げたおばあさんの後ろで、厚い雪に足を取られながらのそのそ付いていく自分が頼りない。

その足音だけしか聞こえない。

息が白い。

静かすぎる。

「……あんたよくこんな時にここに来ただな。」
「え?」
「何もしらねぇか?可哀想に……もうすぐ南のお偉いさんが、この村を壊しにやってくる……。あったけえ格好したら、すぐ村を出るとええ。」
なぜこんな農村へ?食料が目当てか?
「南のお偉いさん?なぜですか?」
「一揆を起こそうとしていたのを知られて、潰しに来るらしいんだ……。」
一揆……。

どこか他人事だった。
これからここで起こるかもしれなかったのかと思うと、動揺する。
このお婆さんも苦しめられている人間の一人なのだろうか。

「ここだべ。」

たどり着いた民家の引き戸をガタガタと音を立てながら開く。
中に入ると、質素ながらも落ち着く雰囲気があった。
竈の火で、少し暖かい。
「座るとええ。」

促されて、ござの上に座り込む。

「……。」
周囲をきょろきょろと見てしまう。
これが農民の暮らしなのかと。

農具があって、食料は今日と明日を生きるための量。
必要最低限しかない。

おばあさんは藁で作られた防寒着の雪を玄関で払う。

「あの、厠お借りしても?」
「いいだよ。外だ。……お前さん変わった履き物はいてるんだな……。」
「い、いやぁ……。珍しいものが好きで……。」
こっちにきたらすぐ佐助さんにもらった下駄に履きかえようと思っていたからいつものノリでブーツを履いてきてしまったよ……。

荷物をもって厠へ走り込む。
そこで防弾ベストを下着の上に着込むと少し暖かくなった。

服が替わってたら怪しまれるかと思い、それ以上は着替えない。
ゆったりめのニットを着ていたから、防弾ニット着込んでたってさっきと変わらないだろう。
「南蛮人で通そうかな……。いやでもすんごい日本人顔だよな私…。」

戻って再びガタガタ戸を開ける。
「お婆さん、あのその藁で出来ているもの……どうすれば作れますか?」
暖かそうで羨ましいが、雪国じゃ必需品だろうと思い、売って下さいとも言えない。

「……そっちに、埃かぶってっけど、一個余分にあるだ。持ってけ。」
「え、でも。」
「おらの息子のだ……前の一揆で死んじまった。」
「……。」
「だからもう必要ねぇだ。」

こんな暮らしを……

潰しに来る?

「南から来るお偉いさんの名前は知っていますか。」
「おらはしらねぇだ。」
「知ってる方はいらっしゃいますか?」
「知ってどうするだ……?」
「絶対許せない。」

やっべぇ、自分でも引くくらい頭に血が上ってる。

「何言ってるだ!そりゃおらだって許せねぇが、仕方無いんだ!」
「一揆を起こそうとした人たちはどうしてるの?黙ってないでしょ……教えてください、どこにいるの?」
「死に急ぐでねぇ!」
「大丈夫!」
どこから湧いてくる自信か判らないけど

「放っておけない。」
ただそれだけだった。







「みんな、おらと一緒に戦ってくれるだか?」
「いつきちゃん!おらたち覚悟は出来てるだよ!」
「ようし!みんな!お侍さんを追い返してやるだよ!」

おー!って……
これ会議?

おばあさんに教えられた場所には比較的大きな屋敷があった。
で、今、村の偉い人達が集まって対策考えてるって聞いて来たんですが……。
聞こえてくるのは、作戦とも言えない気合いの声。
それで、いつきちゃんて……この可愛い声は一体……?

「すいません!」

周囲には警備の人もいない。
声が聞こえたのか、襖が開き、若い農民が顔を出す。
「誰だ!?」
「旅のものです!あの、どこかの軍勢が来ると聞きましてそのお話を教えて欲しくて……!」
「……かわええだ……。」
「は?」
「っ……おらはいつきちゃん一筋だべ!」
「はぁ……。」

何一人芝居してんだこの人……?

「え、ええと、一揆の統率者にお話を伺いたいのですが!」
「何だべ!?」

男の後ろからひょっこりと小さな人影が飛び出してくる。
この子がいつきちゃんなのだろうか?

「あの。」
「何しとるだ!早くとなり村に避難しろて、あれほど言ったでねぇか!誰かこの姉ちゃんを送ってやってけろ!」
「いつきちゃん~、この人旅の人だて。」
「おめぇさん、こんな時にここに旅を?」
「は、はい。」
はっきり言って驚いた。
この子が一揆仕切ってんのか?

「こんなとこでなんだ、中さ入れ。」
「どうも……。」

もう少し疑っても良いと思うが、ちょっと心配になりながらも中にお邪魔する。
とりあえず田舎の暖かさに乾杯。

「今会議してただ。終わったら話聞いてやるがらな。そこさ座ってろ。」
「はい。」
いつきちゃんがとことこと広間の中央へ。
歩くたびに揺れる三つ編みが可愛い。
「さぁて!続きだ!まずいつも通り、雪だるまを転がす地点は」
おいおい、私がどこかの潜入捜査員だったらどうすんだ?

「村の入り口はおらたちの部隊が守るだ!」
「……。」

さっきのお婆さんは村に残るしかないと言っていた。
頼る人もいないんだと。体力がなくて、となり村に無事たどり着けるかもわからないからと。
そんな人が他にもいるかもしれない。

「いつき門の前はおらたち親衛隊が守る!」
「いつもありがとな!」
「いつきちゃんのためならこのぐらい……!」
「……待った。」

農民の目線が一気に集まる。
先程までの態度とは一転したと思われていることは自覚している。
眉根を寄せて、不快そうな顔をしてしまうのを止められなかった。

「姉ちゃん、どうした?大丈夫だ、もうすぐ終わるべ!」
「農民が侍に真っ向から立ち向かう気?」

みんなうつむいてしまった。
痛いとこついてごめん。
いつきは強い目線を私に送る。

「何も知らねぇくせに何言い出すだ!?戦わねぇとやられちまう!そんなことさせねぇ!」
「知らないけど、雰囲気からいって劣勢なんでしょ?」
いつきが目を丸くして、唇を強く結んだ。

「……だったら!どうしろって言うだ!?降伏していいなりになれて言うのか!?」
「そんなことさせない。」

いつきの隣まで来て座り、広げられている地図をみる。

「……。」









そしてこの気候

「材料に不足なしでしょう。」
どこかの誰かさんみたいにニヤリと笑ってしまった。
不思議そうな視線を向けるいつきの肩にぽんと手を置いた。
「私は旅人です。農村の方に親切にして頂きました。そのお礼がしたい。」
「姉ちゃん……なにか、作戦があるだか……?」
「これから考えるんですけれども。伊達に旅をしちゃいない。少し、知恵を、聞いてくれませんかね?」

自分キャラ迷走しすぎだろ~と思いつつもペラペラ喋ってしまう。
信用してくれとまではいかないだろうが、少しだけでも話を聞いてくれないものか。

「ところでどこのお偉いさんに目を付けられたの?」
「……魔王だ……尾張の……。」
あら早速防弾ベスト役に立ちそう……。

あ?本当に?

そんな大勢力相手にしちゃう????????