最北端一揆~目指せ奥州編 3話



「農民が、いきがってんじゃねぇぞ!」

分かっていたのに、このどうしようもない気持ちはどうしたらいいんだろう。
農民みんなで、怖い武将に挑む戦だと思いこんでたんだ。
現れた敵が、小さい子供だったから、動揺してしまって動けなくなった。

どうしてだろう

どうして子供達が戦わなきゃいけないんだろう。

「お前さん達の好きにはさせねぇ!」

森蘭丸と名乗った子が矢を射れば、いつきがハンマーを盾にする。
蘭丸が新たな矢を取り出す動作をすれば、いつきができるだけ間合いをつめてハンマーを振る。
二人の戦いは激しくて、農民も織田の兵も近づけない。
下手に加勢すれば巻き込まれる。
いつきに当たってしまうかもしれない。

「いつき……。」

私は見てるだけしかできないなんて

「……いつき……。」
ふらっと、一歩前に出た。

戦うなんて、もうやめよう。
明るい一揆なんてなかったよ。
もっと違う方法があるはずだよ。
止めたい。

「どうしたらいい?」

いつきがよろける。
蘭丸が横に飛び上がる。
蘭丸の後方に、鉄砲を構えた兵がいた。

「……いつき!!」

本能的に飛び出して、夢中で駆け寄った。

ドン


一瞬、周りが静まり返る。
「……?」
「いて……。」
背中に衝撃。
間に合った……なんとか間に合った……もうそれだけで嬉しかった。
「大丈夫?いつき……。」
っ……!!」
やったね早速防弾ベスト役に立ったよ。無駄な出費じゃなかったね。
あぁ、でもすげぇ痛い……。

心配かけたくないからにっこり笑って
いつきの頭撫でて


ザァッ

逃げよう、と言おうとした瞬間、竜巻のように雪が舞い上がる。

誰かがの体に腕を回す。いつきから引き剥がされて、脚が宙に浮く。
!」
いつきの声がどんどん小さくなる。
ーーーー‼!!!」

誰かに捕らえられたと気づいたときにはもういつきの姿は見えなかった。

「誰だ!離せっ……!!」
「私だ!」

その声。
この金髪。

「かすが!?」
「何をしているんだお前は!馬鹿か!」
「かすがこそ……?」
「今川と武田の戦を見ていたんだが、魔王の子がここに来ると聞いて急いでこっちへ来たんだ!……なぜ、あんなところで……!」

かすがの声は動揺していた。心配してくれたんだろうか。
「出血は!?」
「大丈夫!防具つけてた!」

戦線離脱、というにはあまりに長い距離をびゅんびゅん進み、どこかへ向かう。

「かすが……?もしかして越後向かって……?」
「治療せねば!大丈夫だ、謙信様はお優しいから……!!」

……荷物おいてきちゃった。

いや、そうじゃないか……ええと……いつきたち大丈夫かな……?

「……わ、私生きてるからね~いつき……。」

死んだと思われてたらどうしよう……。









「……農民が戦意喪失?」
「はい、織田に降伏したようなのですが、しかし……織田は拒否してるようで。」
「訳分かんねえな。せっかく来たんだ、行ってみるか。」
「ひー!!」

徐々に悲鳴が近づいてくる。
すたっと、小太郎が政宗の前に現れる。
恐怖に顔を歪めた人を抱えて。

「お?どうした小太郎?誰だそれ。」
「……。」

ずいっと、政宗の前に押し出す。

「あんた……農民だな?」
「ひー!お侍さんだ―!天罰だ―!許してけろ―!」

じたばたと暴れ出すが、小太郎が逃げるのを許さない。

「落ち着けって。別にとって食いやしねぇから。」
「浮気したからだ―!すまねぇだ―!いつき親衛隊でありながら……」

いつきちゃんのくるぶしも可愛くて好きだけんども、ちゃんの腰のくびれも大好きなんだ―!!

「……殿。」
「政宗様!」
「……。」
一斉に政宗に視線が向けられる。
全員が、その情報に喜ぶと思っていた。

「……あいつにそんなにくびれはねぇよ!!」

そこじゃねぇ―!!















「少しはあるわ!」
「何がだ?」
「あれ?さぁ?」

何かムカつくことを言われた気がしたが。

あっという間にかすがは上杉謙信の居る館に辿り着き、に一室用意してくれた。

「しかし……本当に丈夫な防具だな。軽量であるし、さぞかし高価なのであろう。」
「えへへ、ま―ね。私戦えないから、せめて守りはちゃんとしないとって、思って。」
かすががじっと防弾ベストを眺める。
なかなか返してくれない。

「少し、見直した。」
「え?」
「伊達政宗にもらったのだろう?あの男は気にくわなかったが、大切な者にはこのようなものを渡すのだな。」
「えっ、い、いや……あ……ま、まぁうん、優しい所、あるよ……。」
すごく恥ずかしいし全く違うが、政宗さんの評価が上がるなら良しとしよう。

「小太郎とはどうだ?うまくやっているか?」
「うん、でも今離れちゃってるから、奥州でうまくやっているか不安だな……。」
「なぜあんなところにいたのだ?情報が欲しいと言っていたな。あんなところに情報収集か?小太郎も連れずに?」
「はは……農民のみなさんが困ってたからさあ、無理言って協力させてもらってたんだ。」
無理があるだろうが、嘘はついていない、と思う。
かすがはふうん、というだけで、それ以上追求することはなかった。

「私はこれから偵察に行かねばならない。、すまないがしばらく越後に居てくれないか?奥州に向かうには、今は危険すぎる。織田軍の後続部隊が来るかもしれないし、敗れた今川軍の兵がこっちまで逃げてきているという情報もある。」
「今川……。」
「あぁ。武田に討ち取られた。」
戦したんだ……!
武田信玄様おめでとう!

って素直に思えないな~……。
戦ってやっぱり嫌だ……。
いやいや、信玄様だって平和目指して頑張ってんだし……
いやそれより
「今、織田軍の後続部隊とか言った?」
「ああ。」
「そんな……また襲われるの!?」
「もしもだ。念のために構えていた方が良い。それにしても、面白い戦だったな……。」
「面白かった?」
「ああ。あんな罠だらけの戦場を良く作ったと思う。今までの兵に対し真っ向から挑むよりもこちらの方が良い。」
「今までは、真っ向から挑んでたんだ……。」
眉根を寄せるをかすがが見つめ、察する。
の提案か?」
「え、あ、う、うん。ちょっとでもお役に立てるならって……。」
「しかし伊達軍が一揆衆に加担してるなど聞いたことがないが、お前の単独行動か?」
「うん。いつきと、友達になったの。」

かすががじっとを見る。
う、疑われているんのだろうか、と冷や汗が出る。

「そうだ!ねぇかすが、私たちが初めて会ったのって、どのくらい前だったっけ?」
「……忘れたのか?確か九日位前だったか。」

そのくらい
ということは
こっちに来たときは私が未来に戻った次の日だ。
すぐ戻ってこれたんだ。

安堵していたら急にかすがが姿勢を正した。

部屋の襖が静かに開けられた。

「謙信様!」

現れた姿に息を呑む。
中性的な美しさに視線を逸らせなかった。

「わたくしのつるぎよ……らいきゃくにあいさつさせてくれませんか。」
「こちらから伺うべきでした。申し訳ありません、謙信様。と申します。」

かすがが突然礼儀正しくなった私に驚いて、
謙信様に無礼がなくて安心して、
もしや美しさに惚れてしまったのでは!?と、怒りを露わにしている。

……忙しいな、かすがは……。

「かわいらしいおじょうさんですね。わたしはうえすぎけんしん……あたまをあげなさい。」
「はい。」

威圧感があるけど、睫毛が長くて肌の透明感凄くって、不思議なオーラがある。
上杉謙信の話なら結構知っていると思っていたが、この謎多い姿を目にしたら頭から飛んでしまう。

「謙信様、この者は敵ではありません。このかすがが戻るまで、こちらに置いていただけませんか。」
「かまいませんよ。わたくしのつるぎのごゆうじん、かんげいします。」
「ゆっ……友人!?」
「あ!何その反応!かすがと私友達です!」
かすがの瞳が揺れて、顔が少し赤くなる。
……あ、それは嬉しいな。

「でっ、では謙信様……。このかすが……引き続き任務の方に向かいます……。」
「たのみますよ。」
「はっ。」

シュッとかすがが消えて、部屋に謙信様と二人になる。

「ここで何か私にできることございませんか?」
「きゃくじんなのですから、ゆっくりしているとよい。」
「いえ、でも申し訳ないです……。お手伝いしかできませんが、何かさせて下さい。」
「……うつくしい。」
謙信様が近づいてきて手を伸ばした。
うっ……美しい……!?
そんなかすがの方が圧倒的美人なのにかすがに比べたら断然芋な私になんという言葉を謙信様!?

頭が混乱していると、首元に手が触れた。

「これはなんですか?」
ネックレスの話でした―!!
はい!ベタだなー!!

「お気に召しましたか?よ……よろしければ……。」
「よろしいのですか?」
「謙信様が付けてくれるなんて、このアクセ…装飾?も幸せでしょう。」
シルバーの細いチェーンに小さな誕生石がついたシンプルなネックレスだった。
外して、謙信の胸元に合わせてみると中性的な美しさがより際立って見える。
「とてもお似合いです。」
「たいせつなものなのではないですか?」
「一目惚れして買ったものなのです。そんな高価なものではないのですが。」
あ、確か似たデザインのブレスレットがバッグに入ってるかも……。
かすがにあげたいなぁ……お揃いになるよ!!

「お金の持ち合わせがないので、お世話になる代わりに受け取って頂けませんか?」
「……では、ありがたくいただきます。」
付け方、外し方を教えると即座にマスターしてしまった。
小さい留め具なのに、指先の感覚が鋭いのだろうか。

「謙信様―!!」
部屋の外から、男の声がする。
叫び声でも伊達軍の兵たちの声とは違い気品が感じられて、兵にも主君の特色が出るのかな……?と考えてしまった。
「いままいります!、たいかはいただきました。ここではゆっくりとくつろぎなさい。」
「はい!ありがとうございます!」

去る謙信様の背を見送ると、部屋の戸をしっかり閉めて、張り詰めた緊張を解いた。
「結構……疲れた……。」
思い返すと自分は大したことしてないのに、この怒涛の展開に体が重い。
少し休憩しようと、ごろんと横になった。













「うあああああ~ん!~!!」
「泣くなよ!蘭丸様と戦えよ!……勝たなきゃ……信長様に怒られ……う、ひく……!!」

うあああああん
あーん
びえぇぇぇぇぇぇ


「うるせー!ガキ―!」

全く話が聞けない。
「だからは大丈夫だっていってんだろ!あいつは簡単に死なねぇから!」
「しっ、死んじゃいやだ―!うあああああ!!」
「聞けって!ああもう!成実!お前ガキ好きだろ!?」
「そんなことないよ。」
「好きになれ!行け!」
「無理やりだな!仕方ないな~……ね、大丈夫だよ、絶対ちゃんはぴんぴんしてるから。だから泣きやんで?ちゃん、何か言ってなかった?」
「……辛いときこそ笑えて……う、そだな……おら……もう泣かねぇ……!!」
ぐしゃぐしゃになった顔を平手でパンパンと叩いて、いつきが前を向く。

「お侍さんたちは、何しに来ただ!?」
「……やるな、成実……。」
ちゃんは良い仕事するよね……ほら、織田の君も!男の子だろ!?負けを負けだと認めるのも立派なことだぞ?」
「だって……信長さま……。」
「よしよし、大丈夫。」
成実が蘭丸の頭を撫でる。
大丈夫そうだな、と確認し、政宗はいつきに向きなおす。
「ah~……ここにが居るって聞いてな……あいつは俺たちの仲間なんだが。」

助けに来たとは決して言わないところが政宗様らしいです……。
小十郎が密かに拍手を送る。

「何があったんだ?」
いつきが政宗をまじまじと見る。
「?」
「青いお侍さん……おめえさんか……から聞いたべ……!」
「っ……!あいつ俺の事なんて……?」

あぁ政宗様、顔がにやけてますそんなに期待しない方が……

「……強くて優しい」
おや!?、素直じゃないか!
これは政宗様も喜ぶ……!

「けど高飛車で高慢知己な猫ちゃんだっていってただ。」

―!!!

「おら、猫ちゃん好きだ!ネズミとってくれるからな!ネズミに米食われたらたまんねぇからな!」

話逸れてきた―!
政宗様は微妙な顔して固まってるし!

「……は、四日位前に村に来ただ。」

あぁ話し出しちゃった!
政宗様!聞こえてますか!?

政宗の体を揺すって、しっかりしてください、と声をかけた。

「小十郎……が、俺が強くて優しいって……。」

あぁよかった!自分に都合の良いところしか耳に入ってないようだ!
さすが政宗様!
さっきの表情は照れていたのですね!

「ガキ!四日前だと……?」
あっ!?聞いてらしたんですね!
さすがです!
「四日前とは……が消えた翌日ですね。誰かに攫われたのでしょうか?そのようなことは言っていなかったか?」
「さっ……さらわれ……うあああああ!」
地雷踏んだ―!

「なんなんだ!」
はっ……!おらをかばって……鉄砲に……背中……撃たれただ……。」

全員が目を見開く。
「いてぇはずなのに……おらの心配してくれただ……。大丈夫?って、頭撫でてくれて……。」
「……遺体……は……?」
「言うんじゃねぇ!まだ話は終わってねぇ!」
「雪がぶわって舞い上がって……誰かがを連れてっちまった……。」

を知っている者は限られる。
その中にそんな行動をするものに心当たりがなく、小太郎に視線を向けるがただ無表情で居るだけで心境が分からない。

「姿は見たか?」
「わからねえ。見えないくらい速くて……。」
「……OK、十分だ。そんな事ができるのは忍だ。」
「猿飛佐助……でしょうか?」
「いや、やつらは戦が終わったばかりだろ。考えにくいな。」
「……。」

小太郎が消える。
説明してから行け、と思ってしまうが期待できねえよなあと政宗は頭を掻いた。

「お侍さん……は大丈夫だべか……。」
「……俺が探すんだぜ?見つからないわけがねぇ。大丈夫だ。」

いつきが必死な顔をして政宗を見上げる。

「おら……に言ってねぇだ……一番言わなきゃなんねぇこと……お礼しなきゃなんねえ。こんなに、死人が出なかった戦初めてだ……。のおかげで……。」
「罠は、の提案か。」
「そうだ……。が、いっぱい、悩んで、考えてくれて……!!」
「よくやるよなぁ、あいつ。」

負けてられない、と政宗が勢いよく立ち上がる。

「おい、ガキ……いつきと言ったか?」
「あ、あぁ。」
「俺はに負けねぇ。」
「え?」
「負けねぇくらい、平和を目指す。」

いつきは政宗を凝視したまま動かない。
「事の原因は一揆を起こそうとしたこと……忘れてねぇよな?」
「……うん。」
「だからもう、んなことやめて大人しくしてろ。俺がをここに連れてきてやる。俺が一揆なんて必要ない世にしてやっから!待ってろ!」
「……本当だべか?」
「ああ!よっしゃ!奥州に戻るぞ!……成実?」
「あちらで雪合戦を始めようとしています。」
蘭丸がいつの間にか泣き止んで、成実ときゃっきゃと雪玉を作っている。
「成実がガキか!」
「いえ、雪玉に石仕込んでるあたり大人かと。」
「汚ねぇ!ってゆーか大人げねぇ!」

急いで止めに外へ向かう。

「待つだ!」

それをいつきが止め、屋敷のほうに行き、何かを取り出す。
伊達軍の者なら大体知っている。
“ばっぐ”だ。

の忘れ物だ。」
「あぁ、預かるぜ。」
受け取って、中身を見る。
iPadを見つけて電源を入れる。
……動く。

……?」

戻れたのか?

そう考える暇もなく、ざくざくざくと雪を踏みしめる音と、大声が近づいてくる。

「政宗様!至急城へお戻りください!」