最北端一揆~目指せ奥州編 4話
晩ご飯、まま、まっままままま
松茸!松茸だ!松茸がいっぱい―!
あぁ、政宗さんにも食べさせてあげたい!
小太郎ちゃんはみんなと一緒にご飯食べれてるかな!?
みんなどうしてるかな……探してくれてるかな……。
い、いや、甘えない!私が会いに行くんだ!
嬉しそうな顔をしたり、悩まし気な顔をしながら食事をするを見て、謙信はクスリと笑う。
「おくちにあいますか?」
謙信はを気にかけ、二人きりでの豪勢な食事の時間を作った。
偉人ではあるが美しさと纏う空気が異次元的な神秘さで、は不思議と緊張せずに過ごせていた。
「はいっ!松茸ご飯なんて何年ぶり……。おいしいです!」
「それはよかった。」
謙信からもを警戒するような態度は一切見られなかった。
かすがへの信頼でもあるのだろう。
「かすがはいつ戻るのですか?」
「いつかごにはもどるでしょう。」
五日後に戻ったら、すぐ送ってもらえるのだろうか。
疲労していればそのあとだ。
奥州で過ごせる時間はわずかだろう。それまでここで何か役立つことができるだろうか。
「謙信様、それまで、私に何かできることがあったら申しつけください。」
「たいかはさきほどいただいています。」
「あの、私世間知らずで、色々勉強したくて。あ、奥州になにか報告するとかそういうスパイ……密偵的なものでは決してなく!」
謙虚な顔から眼を大きく見開いて慌てる表情の豊かさに謙信はふふと笑った。
「それであなたがあんしんするというなら、なにかかんがえましょう。」
「ありがとうございます!」
「ですがほんじつはなにもかんがえずゆっくりとすごしなさい。つかれがあるでしょう。」
「疲れ……。あ、かすがが報告したんですよね、北のこと……。」
「たいそうなしかけをしたそうで……そのようなかおをしないでください。わたくしはあなたにかんしゃしていますよ?おだのやりかた、わたくしもきにかかってました。」
戦の話になり、政宗が、越後はまだ大人しいと言っていたことを思い出す。
武田と戦をするのはいつだろう。
疑問に思っても、知ることができても、自身にできることはなにもない。
おかわりしたい気持ちを抑えつけて、さっさと部屋に引っ込んだ。
けぇんしーん!
「う……?」
謙信松茸恵んで―!
「……またでかい声で起きた……。」
もちろん幸村の声ではない。
まつ姉ちゃんに頼まれてさ―!
「よく通る声だなぁ……。」
のっそり起き上がって、借りた着物に着替える。
お客さんだろうか、着てきた服を洗濯したいが、目立たないところで洗って部屋干しにしよう、と考えながら背伸びをする。
「でも友達って感じだよね。」
それなりの身分の人物かもしれないが今の自分にはあまり関係ない。
未来のものが目につかないように警戒はしておこう。
顔を洗って廊下を歩いていると、女中が膳を運んでくれているところに遭遇した。
お部屋でゆっくりお食べくださいと、謙信様より言伝です、と言われ、部屋で一人で食事をする。
謙信様はみんなでわいわい食事をして楽しんでください、というより、一人の時間でゆっくりしてください、と言うタイプか、助かる、という感想だ。
知らない人との飲み会とか正直苦手なタイプなのだ。
食べ終わり、膳を戻したら、洗濯したい服を持って女中を訪ねる。
たらいと洗濯板を借りて、慣れない手つきで服を洗い、部屋に持ち帰った。
「あ⁉うかつ……!ハンガーなんて無いよね。」
部屋干しはできないし、そもそも城にハンガーを引っかけるなんて跡が残ったらどうするんだ、と恐ろしくなる。
仕方なく、どきどきしながら外の物干し竿に掛ける。
道すがら出会えた女中に仕事はないかと聞いたら困惑されてしまったので、客人が帰ったら謙信を訪ねて仕事を貰おうかと考える。
部屋で防弾チョッキの弾を受けたところを観察をしていると、誰かがどたどたと廊下を走る音が聞こえてきた。
「おぉーい!ってやつ居るか?」
朝の目覚ましになった声が、すぐ近くに迫っていた。
何で私を呼んでる⁉と慌ててしまう。
そろりと障子を開けて廊下を見ると後ろ姿が見える。黄色の羽織に体格の良い男だ。束ねた長い黒髪が揺れている。
聞こえる声からは陽気な印象を受けるが、図体が大きくて少々怖い。
あの謙信様を尋ねる人に悪い人はいないだろう、と思いつつもやはり警戒が解けない。
「松茸狩り行かねぇかって謙信が!」
「松茸狩り⁉」
好奇心に負けてうっかり飛び出してしまう。
「お!あんたか!」
くるりと振り向いた男は爽やかににこっと笑った。
「客人なんだって?暇を持て余してるだろうからって!行こうぜ!」
「だ、誰?」
「ん?あぁ、俺、慶次!前田慶次っていうんだ!よろしく!」
慶次と名乗った男は早速ジロジロとの姿を見回してくる。
そちらもまた、私を警戒してるのかと大人しくする。
「へぇ―!本当だ!」
なんのことかわからず、は首を傾げた。
「謙信の言ってたとおりだ。何か違うね、雰囲気!」
「雰囲気?」
流行りの外見をしていないと政宗に言われたことを思い出す。
それをこの男はどう捉えるのだろうかとどきどきしながら、目を見つめた。
「そ!魅力的ってことな!」
「あ、ありがとうございます。」
お世辞だとしてもその一言で済ませてくれるならありがたいと、はにこりと笑った。
採集道具を借り、慶次に案内されるまま山へ松茸狩りに出かける。
「わ―!いっぱい生えてる―!」
「なー!よし!採りまくるぞ!」
「採りまくっちゃだめだろ!」
本気かどうかわからない言葉に突っ込みを入れると、慶次はへへ、と笑った。
採り方を教えてもらって、二人で姿が確認できる範囲をうろうろ歩いて採取する。
「慶次と謙信様って仲良しなんだ?」
「ああ、あんたはかすがちゃんと仲良いんだって?」
「かすが?うん!良くしてもらってる!」
「かすがちゃん、さっさと謙信に好きだって言っちまえばいいのにな。あんたからも言ってやれよ~。」
その言葉には手を止めて慶次を振り返る。
……おや、かすがは謙信様が主じゃなくてそういうふうに好きだったんだ……。
あれ?私って鈍いのか?
謙信様とかすがならお似合い……と一緒にいるところを想像していると、いきなり肩に重みがきて、バランスを崩す。
「キッ」
可愛い声で鳴く小さな猿が顔を覗かせた。
「あれかわいいお猿さん。手伝ってくれるの?」
「そいつは夢吉。気に入られたな!!」
「そうなの?ありがとう夢吉~!私も夢吉好き~可愛い~。」
「キ~。」
首を夢吉の方に傾けると、夢吉がの頬にすり寄る。
「相思相愛!いいねぇ!!俺のことは?」
「いきなり何聞いてんだ!」
「なぁんだよ、勢いで好きって言ってくれるかと思ったのに。は好きな人いないのかい?」
「なっ、な……いないいない!」
思い切り首を振ると夢吉がびっくりして慶次の所に戻っていってしまった。
「あ、ごめん夢吉……!」
「大丈夫だよ。でも本当かい?何で?恋ってのは良いもんだぜ?」
「……。」
ここ来てそんな事言う男の人初めて見た。
政略結婚、親に決められた結婚、昔というのはそういうことが多いという印象が視野を狭くしていたのかもしれない。
そうだ、いつの時代だって、好きになった人と一緒になれたら幸せだよね。
「慶次は?」
「俺は、気になってる人なら居る。」
「へえ、どんな人?」
「あんた。」
ビシッと指を差された。
「……そりゃどうも。」
反応に困った。
「あんた忍じゃないよな?ここら辺に住んでる子?会いに来て良い?」
質問攻めが始まってしまった。
恋多き男なのだろうか。
「ええと……ここじゃなくて、奥州の方です。」
「奥州⁉竜のとこか?よくかすがちゃんと仲良くなれたもんだなぁ。いつ戻るんだい?」
「すぐにでも戻りたいけど、今危ないらしくて……。」
「へえ……。」
慶次が何かを考え込む。
「じゃあ俺が連れてってやるよ!」
「え?」
「といっても松茸届けた後になるけど、それでもよければ。」
「でも危ないって……。」
「俺は喧嘩も強い!護衛にはちょうどいいぜ?」
ウインクをされてしまった。
確かに、彼は頼りになりそうだ。
「それに行ってみたかったんだよな、奥州独眼竜!どんな男か見てみたい。」
「……いいの?」
「俺から申し出てんだぜ?じゃあ決定!さっさと採って城に戻るか!」
「ありがとう!」
かすがには謙信様に伝えていただこう。
お礼は政宗さんに相談して、何か考えよう。
自然と松茸を採る手の動きが早くなってしまう。
傷つけてしまいそうになったところではっとして、もう一度教えてもらえたやり方を頭の中で反芻する。
浮かれすぎだ、私、と恥ずかしく思いながら。
「なんのつもりだ、小太郎。」
「……。」
「は無事だ。私が青葉城まで送る。だから大人しくしていろ。……それをしまえ。」
国境を隔てた森の中の対峙。
互いに大木の枝に脚をかけ、いつでも仕掛けられる体勢を取っていた。
かすがとしては移動中に急襲されて、戦う理由には1つしか覚えがない。
の護衛をこの男がするということに現実味を感じていなかったが、こうして実際殺気を向けられては理解するしかない。
の居場所が知りたいのだろうと思い話し掛けるが、武器を下ろす気配はない。
このままやる気なら受けて立つのみ。それだけだ。
だがこの状況が面白くないかと言えば嘘になる。
「……。」
「お前……何をそんなに慌てている?一刻も早く会いたい、か?変わったな小太郎……。」
「!」
「迎えに来ることなど許さない……。謙信様の土地に踏み込むことは許さない……。」
「……。」
小太郎が構えを解き、高く飛び上がって消えていく。
気配が消えるのを確認した後で、かすがもクナイをしまい、ため息をついた。
埒があかない状況に、カマをかけたらこのざまだ。
伝説の忍も人だということだろうか。
「……気持ちは判らないでもない。」
謙信に事情を説明すると、それはよかったですね、とにこりと笑ってくれた。
かすがに伝えることも了承いただき、奥州に着いたらお礼と報告の文を送ると伝える。
「そうですね。ぜひふみをください。そのほうがあんしんいたします。」
「はい。絶対に無事たどり着きます。慶次と会わせてくださりありがとうございます。」
「であいをいかせたのはあなたのちからです。れいをいうことではありません。」
褒める形で返されて、は照れて俯く。
では、準備をします、と言いながら立ち上がり、謙信の部屋を後にした。
庭に干した服を取りに行くと、大分乾いていたがもう少しというところ。
「あ、いたいた。」
「あ、慶次。」
客間で松茸を持ち帰りの箱に並べていたが終わったのだろうかと振り返る。
「腹ごしらえしてから向かうでいいか?道中の飲み物と握り飯も用意してくれるって!」
「ありがたすぎ……!」
「な!謙信優しいなあ!」
慶次が視線をの後方に向け、ぱちぱちと数回瞬きをする。
「それの服?」
「あ、うん。」
「なんか、見たことねえな。近くに売ってるの?」
「う~ん、内緒。」
「えぇ~何それ!」
少し頬を膨らまし、ふてくされた表情をしただけでそれ以上は何も言ってこない。
ほかの人には出来ないであろう誤魔化し方に申し訳なさを感じながら、慶次その顔可愛い、と笑顔を向けた。
食事の用意が出来たと謙信の部下に呼ばれて客間に向かう。
慶次とは焼き魚の膳を用意され、謙信は梅干しをつまみに酒を飲み始める。
「うまをよういできればよかったのですが。」
「いいって、返すまで時間がかかるし、道中で見つけるよ。」
は話を聞きながら、レンタル馬のようなサービスがあるのだろうか……と想像していた。
「そちらのきんきょうは、いかがですか?」
「利もまつ姉ちゃんも元気だよ。いやあ、織田のおっさんの良い話は無くてなあ……。」
「せいじのはなしはせずともよいですよ。」
謙信がに一瞬視線を向ける。
「……!」
一気に情報量が来て焦ってしまった。
漬物を頬張って表情を隠す。
今更ながら、慶次のフルネームが思い浮かぶ。
前田慶次、って言った?
利とまつ姉ちゃんって、前田利家とまつだよね?
うわ!ドラマ見たことある!会いたい!
じゃない!
織田陣営だ……‼
焦りで謙信に眉根を寄せた顔で視線を向けた。
「けいじは、じゆうほんぽうなにんげんですからね。はきょうしゅくしなくてよいですよ。」
「自由奔放……。」
「あー、俺はあれ、天下~とか、戦~とか、あんま興味ない。大事な人が危ないなら、守るけど……。」
「そっか。こんな世の中で自分の意志を貫けるって、慶次は強いね。」
「……。」
「え。」
慶次が魚を頬張ろうとした状態で止まり、視線をに向ける。
「あ。」
すぐに我に返って、魚に食らいついて、もぐもぐと噛みしめる。
「無責任、だらしない、遊び人って言葉のほうが慣れてたからちょっとびっくりした。」
「あ~そう思う人もいるのかあ。」
「……。」
慶次は視線だけ天井に向け、苦笑いしてしまう。
謙信もその様子を見てほほ笑む。
『そんなこと言うなんて、ひどい、私は慶ちゃんのこと分かってるからね!』
遊女が自分のご機嫌取りに吐いた言葉を思い出してしまった。
なんだか一緒にいて気楽な子だな。
楽しい旅になりそうだ、と期待してしまう。
服を着替え、見送りに来てくれた謙信にをぺこぺこ頭を下げる。
「いつまでやってんの!早く行くよ。」
慶次に腕を取られ、引かれるまま歩き出した。
「ふたりにびしゃもんてんのごかごがありますよう……。」
「おう!謙信!また来る‼」
「ありがとうございます!(……ビシャモンテンてなんだ?)」
着物より現代の服の方が歩きやすい、と気合をいれて歩き出すが、横で大股で歩く慶次の歩幅に不安を覚える。
ちゃんとついていけるだろうか……。
春日山城からしばらく歩いているが、周囲は木々が並ぶばかりであまり景色は変わらない。
気候は晴天で風も強くない。下り傾斜で、森林浴のような気分で歩けている。
だがしかし、心配した体力よりも大変な問題には悩まされていた。
「……だから愛ってのはさ……。」
止まらねぇこいつの愛語り。
最初はちゃんと聞いて相づちを打っていたが、終りが見えず途切れもしない彼の持論語りに疲れてくる。
間を持たせるために分かりやすい話を振ってくれたのかと最初は思ったが、そういうものではないようだ。
「……やっぱり満たされるんだよな……。だから男と女はさ……って聞いてる!?」
「聞いてます聞いてます……。ね―、夢吉―。」
「キー!」
夢吉は慶次の肩との肩を行ったり来たりして、楽しそうな鳴き声で応えてくれて可愛らしい。
今はの肩で、毛づくろいをしている。
「……と、次の町で馬借りるからな。体力大丈夫か?」
「うん、大丈夫。あの、私、馬に乗りなれてなくて……。」
「あ、そっかあ。じゃあ一頭借りて俺の後ろな。楽しみ~。」
隠さず露骨に喜ぶなあ、と思いながらお礼を口にする。
普通の町娘なら、やだあ、慶次ったら、なんて言って笑うのかもしれない。
「なぁ、はどんな恋愛してきた?」
「わたし⁉え、えっと……。」
馬の話になったと思ったのにまた恋愛の話に戻ってしまった。
「あ、奥手なんだな?」
「……その通りです。」
「モテそうだけどな~!」
こんなに恋愛に燃えるとは……利家とまつが仲睦まじいから影響されてる……とかかな?
……慶次の話を小十郎さんに聞かせてやりたい。
「じゃあさ、じゃあさ、松茸届けるだけじゃなくて、うちの利とまつ姉ちゃんに会ってくれよ。おしどり夫婦でよ、幸せそうで……絶対、あんな風になりたいなって思う。」
「うん。ぜひ会ってみたい!」
「よし!じゃあ急ごう!一泊して、それから奥州だって……。あ、ところで奥州のどこまで行けばいいんだ?」
「青葉城。」
口にして、すぐに、しまった!と頭の中で叫ぶ。
「……の下町。」
ぎこちないと思いながらも、付け足した。
あまり害は無いように思えるが、戦国時代だ。
政宗のことをどう思ってるかわからないし、あまり接触させない方がいいのではないか、青葉城近くで別れたほうが、政宗に迷惑かけてしまうこともないだろうと考える。
「へぇ、あそこかぁ。……なぁ、行ったら家泊まって良い?」
「はぁ⁉」
会って間もない女の家に泊まりたいという慶次に、素のリアクションをしてしまう。
家などない、そもそも女の一人暮らしに泊めてなんて非常識だ。
「え?あ、だめか。多分着くのがな、予想だと夜になりそうだし、遊びたいし……。じゃあ近くに宿ある?」
平然としている慶次の姿にはっとする。
あー違う戦国時代だ!女の一人暮らしって珍しいのでは⁉家族がいると思って普通の声掛けだったのでは⁉と頭を抱えてしまう。
「や、宿ね~……。うん、私、あの、最近引っ越したばっかりで……わからない、かな。」
動揺の連続で、は上手く誤魔化す言葉が出てこなかった。
視線が泳いでしまい、慶次が首傾げて怪しんでしまう。
「じゃあ泊めて。」
真顔で発せられ、はうう、と唸ってしまった。
「あんた親しみやすいから忘れてたけど、忍の友達で謙信が信用するような人間だろ?普通の町娘なわけねえ……。嘘つくなよ。」
「う……。ごめんなさい……。」
真剣に問われたら嘘を通せない。素直に降参することにした。
「独眼竜の血縁者か?それとも関係者?」
「うーん。関係者?関係者……っていうか……政宗さんは、恩人だから。伝えたいこと伝えに。」
……あれ、そういえば
お別れ言いに来たんだけど
次また現代の満月の日に来ることになるかもしれないのだった。
……いや、どこに飛ばされるか判らないんだ……。
その度政宗さんにお世話になるわけにもいかないだろ……。
どうしよう……。
「独眼竜が恩人?へぇ~、そんで何で謙信とこ居たの?」
「戦に遭っちゃって、危ないところをかすがに助けてもらったの。」
「戦ぁ⁉良かったな、無事で!」
「ごめんね、嘘ついて……。」
「大丈夫。織田側の俺に気軽に言えねえだろ。独眼竜のことを案じてついた嘘だろ?」
「あ、ありがとう……。あれ?あれは町?」
狭い林道が終わり、民家がぽつぽつと見え始めた。
「お、そうそう。飲み水も調達するけど、長居はしないよ。」
「わかった!」
町に入り、民家の並びをいくつか抜けると店が並んでいた。
店には主に海の特産物がたくさんあり、買おうとする町人で賑わっている。
湧水を汲んで、ちょっと補充しよう、という慶次に着いていき、食料を買う。
慶次が支払いをしている間にほかの商品を見ていると、3人の女の子が通りがかる。
「「「あ!慶ちゃーん!」」」
声をそろえて慶次の名を呼び、会計を終えた慶次を取り囲む。
お茶しようとか、旅の話を聞かせてとか会話が聞こえるのをはぼんやりと見つめる。
頬を染めて嬉しそうな女の子に囲まれて、まるでアイドルのような扱いだが、慶次のキャラに合っているように思えた。
「あ、あぁ!ごめんな、今ちょっと急いでるんだ、またな。」
「えーそうなの?」
慶次は女の子の輪を抜け、手を振りながらに近づく。
おっ、待って、あの子たちに嫉妬されたくないからまっすぐこっちこないでくれるとありがたい、と考えるが、慶次はお待たせ~との元にやってくる。
お待たせという言葉は小声で、慶次はを女の子から隠すように立って、店から離れるよう手で背を優しく押して促してくれて、女の子たちの反応は見えなかったのだが。
「モテるんだね、慶次。」
思ったことをそのまま声に出すと、慶次が焦ったように声を荒げる。
「ごっ、誤解すんな!?」
「誤解?」