最北端一揆~目指せ奥州編 4話
晩ご飯……まま、まっ……ままままま
松茸!松茸だ!松茸……松茸っ松茸がいっぱい―!!
あぁ……政宗さんにも食べさせてあげたい……!!
小太郎ちゃんはみんなと一緒にご飯食べれてるかな!?
みんな……どうしてるかな……!
探してくれてるかな……。
い、いや……甘えない!私が会いに行くんだ!
「おくちにあいますか?」
謙信様が声をかけてくれる。
「はいっ!松茸ご飯なんて何年ぶり……。おいしいです……!」
松茸ご飯に松茸のお吸い物……なにこれ幸せ―!
「それはよかった。」
周りの方は私を少し警戒してるけどね……。
部外者だから仕方ないけどね!
「かすがはいつ戻るのですか?」
「いつかごにはもどるでしょう。」
五日後か。
そしたらすぐ送ってもらえるかな?
疲れてるかな……。
「、おつかれのようですし、たべたらゆっくりおやすみなさい。」
……気遣ってくれてる?
「あ、かすがが報告したんですよね、北のこと……。」
「たいそうなしかけをしたそうで……そのようなかおをしないでください。わたしはあなたにかんしゃしていますよ?おだのやりかた、わたしもきにかかってました。」
政宗さんたちが、越後はまだ大人しいって言ってたな。
まだどこにも仕掛けてないのかな。
武田と一戦交えないのかな……?
疑問に思っても未来のことかもしれないから聞けないし、聞いたとしても私が何かするわけでもないし、考えても仕方ない。
おかわりしたい気持ちを抑えつけて、さっさと部屋に引っ込んだ。
けぇんしーん!
「う……?」
謙信松茸恵んで―!
「……またでかい声で起きた……。」
幸村さんの声じゃないが。
まつ姉ちゃんに頼まれてさ―!
「よく通る声だなぁ……。」
のっそり起き上がって、着物が枕元に置いてあったのでそれに着替える。
お客さんだろうか?
「でも友達って感じだよね。」
普通に過ごしていれば大丈夫だろう、と考えながら、顔を洗いに外へ出た。
丁度朝ご飯を用意してくれていたので、受け取って部屋で食べた。
膳を戻したらまた部屋に戻る。
昨日はかすがにとられてあまり見れなかった防弾チョッキの弾を受けたところの観察をしていると、誰かがどたどたと廊下を走る音が聞こえてきた。
「おぉーい!ってやつ居るか!?」
朝の目覚ましになった声が、すぐ近くに迫っていた。
何で私を呼んでる!?
そろりと障子を開けて様子を見る。
後ろ姿が見えて、束ねた長い髪が揺れている。
羽を頭につけていたり、黄色い羽織にと、なかなか派手な衣装を身に着けている。
何か大きな武器みたいなのを持っているし……。
図体が大きくて少々怖いが、あの謙信様を尋ねる人に悪い人はいないだろう、と思いつつもやはり警戒が解けない。
「松茸狩り行かねぇかって謙信が!」
「松茸狩り!?」
好奇心に負けた!
うっかり飛び出してしまった!
「お!あんたか!」
くるりと振り向いた男は爽やかににこっと笑った。
「客人なんだって!?暇を持て余してるだろうからって!行こうぜ!」
「だ、誰?」
「ん?あぁ、俺、慶次!前田慶次っていうんだ!よろしく!」
なんて友好的な人間だ……。
慶次と名乗った男は早速ジロジロと私を見回してくる。
……そちらもまた、私を警戒してるのか?
大人しくしてるか……。
「へぇ―!本当だ!」
……何が?
「謙信の言ってたとおりだ!何か違うね!雰囲気!」
「雰囲気?」
初めて言われた。
……未来人だからか!?
「そ!魅力的ってことな!」
「どうも……。」
喜んでいいのか?
というわけで松茸狩りへ山へ来たんですが
「わ―!いっぱい生えてる―!」
「なー!よし!採りまくるぞ!」
「採りまくっちゃだめだろ!」
慶次は放置したら松茸すべて持っていってしまいそうな勢いだ。
採り方を教えてもらって、二人で姿が確認できる範囲をうろうろしてとり続ける。
「慶次と謙信様って仲良しなんだ?」
「ああ!あんたはかすがちゃんと仲良いんだって?」
「かすが?うん!友達!」
「かすがちゃん、さっさと謙信に好きだって言っちまえばいいのにな!あんたからも言ってやれよ~。」
……おや、かすがは謙信様が主じゃなくてそういうふうに好きだったんだ……。
あれ?私って鈍い?
いきなり肩に重みがきて、バランスを崩す。
「キッ」
可愛い声で鳴くお猿さんだった。
「手伝ってくれるの?」
「そいつは夢吉。気に入られたな!!」
「ありがとう夢吉~!私も夢吉好き~可愛い~。」
「キ~。」
首を夢吉の方に傾けると、夢吉が私の頬にすり寄る。
「相思相愛!いいねぇ!!俺のことは?」
「いきなり何聞いてんだ!」
「なぁんだよ、勢いで好きって言ってくれるかと思ったのに。は好きな人いないのかい?」
「なっ、な……いないいない!」
思い切り首を振ったら夢吉がびっくりして慶次の所に戻っていってしまった。
「本当かい?何で?恋ってのは良いもんだぜ?」
「……。」
手を止めて慶次の方を見る。
ここ来てそんな事言う男の人初めて見たなぁ……。
「慶次は?」
「俺は、気になってる人なら居る。」
「へえ、どんな人?」
「あんた。」
ビシッと指を差された。
「……そりゃどうも。」
反応に困った。
「あんた忍じゃないよな?ここら辺に住んでる子?会いに来て良い?」
質問攻めが始まってしまった。
恋多き男なのだろうか。
「ええと……ここじゃなくて、奥州の方です。」
「奥州!?竜のとこか?よくかすがちゃんと仲良くなれたもんだなぁ!いつ戻るんだい?」
「すぐにでも戻りたいけど、今危ないらしくて……。」
「へえ……。」
慶次が何かを考え込む。
「……じゃあ俺が連れてってやるよ!」
「え?」
「といっても松茸届けた後になるけど、それでもよければ!」
「でも危ないって……。」
「俺は喧嘩も強い!」
ウインクされた。
確かに、彼は頼りになりそうだ。
「それに行ってみたかったんだよな!奥州独眼竜!どんな男か見てみたい。」
「……いいの?」
「よし決定!じゃ、さっさと採っちまおう!」
「ありがとう!」
かすがには謙信様に言ってもらおう。
とにかく奥州にまた戻りたくて、仕方ないんだ。
「なんのつもりだ、小太郎。」
「……。」
「は無事だ。私が青葉城まで送る。だから大人しくしていろ。……それをしまえ。」
国境を隔てた森の中の対峙。
互いに大木の枝に脚をかけ、いつでも仕掛けられる体勢を取っていた。
かすがとしては移動中に急襲されて、戦う理由には1つしか覚えがない。
の護衛をこの男がするということに現実味を感じていなかったが、こうして実際殺気を向けられては理解するしかない。
の居場所が知りたいのだろうと思い話し掛けるが、武器を下ろす気配はない。
このままやる気なら受けて立つのみ。それだけだ。
だがこの状況が面白くないかと言えば嘘になる。
「……。」
「お前……何をそんなに慌てている?一刻も早く会いたい、か?変わったな小太郎……。」
「!」
「迎えに来ることなど許さない……。謙信様の土地に踏み込むことは許さない……。」
「……。」
小太郎が構えを解き、高く飛び上がって消えていく。
気配が消えるのを確認した後で、かすがもクナイをしまい、ため息をついた。
埒があかない状況に、カマをかけたらこのざまだ。
伝説の忍も人だということだろうか。
「……気持ちは判らないでもない。」
服を着替えると、慶次が興味津々で近づいてくる。
「これ何て服?どこに売ってんの?」
「内緒だよ。」
「えぇ~何それ!」
唇を尖らせて拗ねる慶次は無視して、謙信に挨拶をしようと部屋を訪れた。
「滞在させて頂き、ありがとうございました。」
「いえ、どうかごぶじで。かすがにはわたくしからつたえますので。」
「よろしくお願いします。」
「俺がついてるから心配いらねぇって!」
そう言うと、慶次が得意げに胸を張る。
「たのみますよ、けいじ。」
にっこりと微笑む謙信の美しさに、どきりとしてしまった。
かすががいなくて良かった、と思ってしまった。
こんなに有名な人に信頼されてるなんて、慶次も強い人なんだろう、と考える。
図体もでかいし、きっとこの筋肉も飾り物じゃない。
頼もしい仲間が出来た、と思っていると、ふとフルネームが思い浮かぶ。
前田慶次、って言った?
前田?
そういえば朝、まつ姉ちゃんに頼まれたとか言ってなかった?
……も、もしかして利家とまつ!?
ああああ会いたい―!!
「何百面相してんだよ!ほら行くぞ!」
慶次に腕を取られ、引かれるまま歩き出した。
「あっ!ご、ごめん!早く出発しなきゃね!」
「ふたりにびしゃもんてんのごかごがありますよう……。」
「おう!謙信!また来る!!」
「ありがとうございます!(……ビシャモンテンてなんだ?)」
大股で歩く慶次に不安を覚える。
ちゃんとついていけるだろうか……。
謙信のところを出てしばらく歩くが、周囲は木々が並ぶばかりであまり景色は変わらない。
あまりの大自然にまだ慣れてはいなかった為、景色を楽しみながら歩くことができた。
下り傾斜のため、まだまだ息切れするには至らない。
だがしかし、心配した体力よりも大変な問題には悩まされていた。
「……だから愛ってのはさ……。」
止まらねぇこいつの愛語り。
最初はちゃんと聞いて相づちを打っていたが、終りが見えず途切れもしない彼の持論語りに疲れてくる。
「……やっぱり満たされるんだよな……。だから男と女はさ……って聞いてる!?」
「聞いてます聞いてます……。ね―、夢吉―。」
「キー!」
夢吉は慶次の肩との肩を行ったり来たりして、楽しそうな鳴き声で応えてくれて可愛らしい。
今はの肩で、毛づくろいをしている。
早く着ける様に途中で馬を借りて時間短縮には成功中です。
馬に乗ってる間も楽しそうに語るしな。
歩いてる間も休むことなく……。
「なぁんだよ夢吉。俺よりと仲良くなっちゃって……。なぁ!はどんな恋愛してきた?」
「わたし!?え、えっと……。」
「照れることないじゃん!あ、奥手なんだな?」
「……その通りです。」
「モテそうだけどな~!」
こんなに恋愛に燃えるとは……利家とまつが仲睦まじいから影響されてる……とかかな?
……慶次の話を小十郎さんに聞かせてやりたい。
「じゃあさ、松茸届けるついでに、うちの利とまつ姉ちゃんに会ってけよ!おしどり夫婦でよ、幸せそうで……絶対、あんな風になりたいなって思う!」
「ぜひ会ってみたい!」
「よし!じゃあ急ごう!それから奥州だって……。あ、ところで奥州のどこまで行けばいいんだ?」
「青葉城。」
しまった!と思って
「……の下町。」
ぎこちないと思いながらも、付け足した。
あまり害は無いように思えるが、戦国時代だ。
政宗のことをどう思ってるかわからないし、あまり接触させない方がいいのではないか、と咄嗟に考える。
青葉城近くで別れたほうが、政宗に迷惑かけてしまうこともないだろう。
「へぇ、あそこかぁ。……なぁ、行ったら家泊まって良い?」
「はぁ!?」
慶次は遊び人か!?と思う前に冷や汗が凄い!家なんて無いから!
「え?……あ!そうじゃない!何するでもなくて!多分着くのがな、予想だと夜になりそうだし、遊びたいし……。判った!今のなし!近くに宿ある!?」
あぁ、良かった……。え?宿?知らん!
「や、宿ね~……。うん、私、あの、最近引っ越したばっかりで……わからない、かな。」
私嘘が下手くそ!
慶次が首傾げて怪しんでる!
「じゃあ泊めて。」
顔笑ってないよ慶次!
「あんた親しみやすいから忘れてたけど、忍の友達で謙信が信用するような人間だろ?普通の町娘なわけねえ……。嘘つくなよ。」
「う……。ごめんなさい……。」
真剣に問われたら嘘を通せない。素直に降参することにした。
「独眼竜の血縁者か?それとも関係者?」
「うーん。関係者?関係者……っていうか……政宗さんは、恩人だから。伝えたいこと伝えに。」
……あれ、そういえば
お別れ言いに来たんだけど
次また現代の満月の日に来ることになるかもしれないのだった。
……いや、どこに飛ばされるか判らないんだ……。
その度政宗さんにお世話になるわけにもいかないだろ……。
どうしよう……。
「独眼竜が恩人?へぇ~、そんで何で謙信とこ居たの?」
「戦に遭っちゃって、危ないところをかすがに助けてもらったの。」
「戦ぁ!?良かったな、無事で!」
「うん!かすがも恩人だ~。お礼しなきゃ!ごめんね、嘘ついて……。」
「独眼竜のことを案じてついた嘘だろ?なら可愛いもんだ。嫉妬はするけど怒りはしないよ!」
「あ、ありがとう……。あれ?あれは町?」
狭い林道が終わり、民家がぽつぽつと見え始めた。
は嬉しそうに走り出した。
民家の並びをいくつか抜けると店が並んでいた。
店には主に海の特産物がたくさんあり、買おうとする町人で賑わっている。
海が近いのか?
「ここを抜けて、次の町だ。日が暮れないうちに着きたかったら休む暇ないぞ?」
興味津々で覗き込もうとしていると、後ろから慶次の声が掛かる。
「む、そうなのか。了解した!行こう!」
「おっ、根性あるな、じゃあ早速」
「「「慶ちゃーん!」」」
複数人の女の子の甲高い声に呼ばれ、慶次が振り返る。
も突然のことに驚きながら、声の主たちに視線を向けた。
町の女の子たちが、嬉しそうに笑いながら一緒に叫んだようだった。
まるでアイドルのような扱いだが、慶次のキャラに合っているように思えた。
「あ、あぁ!」
慶次も笑って手を振る。
「モテるんだね、慶次。」
思ったことをそのまま声に出すと、慶次が焦ったように振り向く。
「ごっ、誤解すんな!?」
「誤解?」