最北端一揆~目指せ奥州編 7話
一体どのくらい眠っていたのだろうか。
腰の傷はまだ痛むが熱は引いている。
この天井は見たことがある。
「信玄様の……ところにいるんだ…。」
着物を着ている。
誰かが着替えさせてくれたのだろう。
ゆっくり起き上がると、傷に一瞬鋭い痛みが走った。
「はー…怪我してばっかり…。」
戦国時代にふらふらしているのだからこの程度で済んでいるのは運がいいほうなのだろうか。
そしてこの怪我もすぐに治ってしまうのだろうか。
「……誰かいないかな……。」
首を回して辺りを見る。
枕元には洋服が置いてある。少し破れた防弾ベストも。
「……。」
周囲はとても静かだった。
しかし外は明るく、部外者を放置にもしないだろうから誰か居るだろう。
起き上がってゆっくりと移動し、障子を開けて外を見る。
幸村が廊下で正座をしていた。
の姿を視界に入れるとすぐに立ち上がって近づいてくる。
「殿!目覚めたでござるか!?」
その声に反応して隣の障子が開く。
「本当か!?良かった!」
慶次だ。
「心配したよ!」
佐助も庭先の塀に現れた。
「うん。運んでくれてありがとう。」
「っ……!と、当然でございます……!そんな、そんなこと言わないでくださいませ……!」
「え?」
幸村が目を潤ませながらを抱え上げ、布団へと戻す。
幸村さんも私の事ひょいっとお姫様抱っこできるんだな~筋肉やっぱり凄い~とのんびり考えてしまった。
佐助と慶次も部屋に入り、幸村が向かって右側、その隣に佐助が座り、向かいに慶次が座った。
を覗き込む幸村の顔は少し腫れていた。
寝ていないのだろうか、それとも殴られでもしたのだろうか。
「……本当に、申し訳ない……。」
声を絞り出すように謝罪する幸村の太ももに手を置く。
「大丈夫!むしろあんなとこに居てごめんね……!」
「いや、で、ですから……!!」
「ちゃん、旦那ねえ、叱って欲しいんだよね。」
「ええ……なんで叱るの……?」
「怪我させちゃったからだよ~。」
「あのなあ!自覚ないみたいだけど!昨日は丸一日……今日でちょうど二日目か……起きなくてびびったんだぜこっちは!!」
「え。」
慶次の言葉にショックを受ける。
そんなに日が経ってしまった!?
「心配かけて、ごめんなさい……。」
その言葉が幸村の何かのスイッチを押してしまったようだ。
溜まった涙が一筋頬を流れた。
「殿―!!何故某を怒らぬ!?叱って下され!殴って下され!」
「え?幸村さんはM?」
「えむとは何でござるか!?異国の言葉で惑わせないで下され! なぜ殿は平気で……!また某に笑いかけて下さるのか!?」
「幸村さんは私に嫌ってほしいの……?」
「そんなわけない!でも……でも!!こんなにお優しい方を!罪のない方を!某は襲ったのでございます!!」
佐助が幸村の頭に手を乗せる。
「ちゃんは心広いね~。良かったね旦那。 あとは伊達と片倉の旦那と……成実のやつもかな、あと小太郎に殴られれば終わりだ。」
「そ、そんな……私生きてるし……。」
ということは少なくとも慶次は幸村を殴って、それで頬の腫れか…と合点してしまう。
小太郎の事が佐助の耳にも入っていたというのは少し驚いたが、特に隠していた話でもないしどこから漏れたのだろうか、
「殿、傷は痛むでござるか?有能な医師を常駐させている故、何かあったらすぐ言うでござるよ……。」
「う……すいません、ちょっと手を貸して……起き上がりたい。」
「痛いだろ?」
「お願い……。」
「仕方ねえ……。」
慶次がの背に手を当てゆっくり起こす。
「あ―……いたたたた……いや、大丈夫……。」
痛いと言えば幸村さんが悲しそうな顔をする……。今は禁句だな……。
「なぁ、ちゃん、何事なんだ?前田の風来坊の説明だけじゃ判らねぇ。何で上杉に?」
「長くなるかも。」
「構わぬ。」
この3人には帰れたことから説明すればいい。
戻って15日を自分の時代で過ごし、でもいきなりで、みんなにまた会いたくて、
約束果たしたくて新月の夜にまたこちらへ戻ってきた。
そして戻ってきたら北の農村で一揆に参加し、そこで織田軍から一発受けて、
それを目撃したかすがが助けてくれて、越後で慶次と会った。
それを聞いた幸村と佐助は眉根を寄せる。
「どこにたどり着くか判らないなんて酷だったな……。」
「うん……まぁ……。」
「殿……某との約束を果たすために……!それは、嬉しい……!」
「だから幸村さん、お茶しよ?今から行こ?」
「……嫌です!」
「え!?」
思い切り首を横に振られては目を丸くする。
「旦那?」
これは佐助も予想してなかったようだ。
「はっ、果たしてしまえば……殿はもう某に会う理由がなくなる……!そんなの、嫌でございます……!」
「おいおい!はそのために頑張ってたんだぞ!?」
「そんなこと言ってくれて嬉しいよ。幸村さん、私ももっといっぱい幸村さんとお茶したい。」
「……でも、殿、満月の夜には帰ってしまうのであろう?」
「……。」
本当のことを言ったらみんな心配してくれるのだろうか
まだ判らない。本当の事言うべきなのかどうか。
でも、みんなの顔見たら、嘘がつけそうにない
「もしかしたら、満月に戻って15日過ごしたらまた……ここへ、私の意志とは関係なく来ることになってるのかも。」
「え……?」
「こっちに来るとき爺さんが言ってたの。勝手に空間が歪んだって……。」
3人が黙ってしまった。
「あの……。」
「そんな……。」
「……どこにたどり着くか判らないってのに……?」
「危険だ……!」
確かに今までは運が良かった。
もしかしたら戦場に来てしまったり(あ、それは前回だ
全く判らないところに来てしまったり(あ、それは今回か
「、お願いしな。」
「?」
慶次が身を乗り出して言った。
「気持ちってのは強い。あんたは北条の爺さんの強い気持ちでこっち来れたんだろ?だったら、会いたいと思う奴に、会いたいって願いな。そうすれば、行きたいところ行けるかもしれない。」
「前向きだな~。」
「うるさいな~いいだろ!」
「……。」
そんなこと考えもしなかったは、慶次の言葉を噛みしめる。
「殿がこちらに来る日は判っておる。その日は警戒するでござる。な、佐助?」
「そうだな、……それぐらいしかできない。ごめんな、。」
「むしろ、そんなことしなくていいよ!みんなの邪魔したくない。何とか、小太郎ちゃんに見つけてもらえる工夫をすればなんとか…。」
「何でそんなこと言うんだよ!俺はあんたが危険な目に遭うなんて嫌だ!俺は探して回るからな! いいか!?織田のおっさんとこに迷い込んだら俺の名前出しな!助けてくれる!」
「奥州と甲斐、上杉と、北の領地は大丈夫だな……、なるべく敵は作るな……。ああでも、上層部に接触するまでが大変か。」
「あぁ……やはり早く天下を取らねば……そうすれば殿も安心してこちらに……!」
みんな必死になってくれている。
……私なんかのために……
「ありがとう……。」
なんて幸せなんだ。
「信玄様に会いたいな。お礼言わなきゃ。」
「動いたら痛いでござる!」
「じゃ~手ぇ貸して。」
ゆっくり立ち上がり、一番背が近い幸村に肩を借りる。
背負いましょう!と言われたがそれは遠慮した。
武田信玄の元にを運んだ後、3人は庭に出た。
「……旦那、本気で殺しにいったんだよな?」
「……そうだ。」
「あれだけで済むとは……。ちゃん、やっぱり何か武術を?」
「そんな風には見えないけどな。」
幸村が庭の木に目線を移す。
「一度、槍を使ったところを見せたことがある。」
「おいおい、旦那、まさかそれで避けれたってか?」
「とっさに体を傾けて、斜め前に踏み込んできた。……この武器の形状と某の動作を覚えていたのか……?しかしあれはまるで……。」
忍の動きだった。
そう確信しているのに声に出すのが憚られる。
今、会話をしていたとはまるで別人のように、雰囲気からして異なっていた。
「旦那の殺気にあてられながら、前に踏み込んだ?だったらすげえな。」
「逆に殺気なんか感じ取れないんじゃねぇか?」
慶次と佐助は吹き出した。
「ありえる……鈍そっ!」
「最大の武器であり最大の弱点ってか?」
二人の会話を幸村は上の空で聞き流してしまう。
未来から来た、というものだけでも奇跡のような話だ。
神がかり的な何かに守られているか、憑依されているのだろうか。
「……原因は、何であれ!二度とあのような目に遭わせたくない!もっと精進せねば!前田殿!手合わせ願う!」
「っしゃあ!そのために外に出たんだろが!」
ガキィ!と、刃の交わる音が館にまで響く。
武田信玄と向かい合って座る。
怪我を案じてくれて、無事でよかったと言ってくれた。
「先の戦にての勝利、噂にてお聞きしております。おめでとうございました。」
「うむ。幸村も気が立っていたのだろう……。主としてわしからもお詫び申す。」
武田信玄が小さく頭を下げた。
急いでやめて下さいと言った。
「いえ、戦後すぐであるにも関わらず、こちらでこのような扱いをして頂いて……感謝しております。不用意に森をさまよった私にも非が御座いました。」
「広いお心を持っておられるな。治るまでゆっくりしていくと良い。安全は保障しよう。」
「その様に言っていただけて、とても有り難いのですが、私は奥州に向かわねばなりません。もしよろしければ馬を一頭貸していただけないでしょうか?」
「そのような怪我でか?」
「え、ええーーーと?怪我の様子見ました??」
途中まで真面目に話せた!!と思ったのに、怪我を把握しているかのような言葉に乱れてしまった。
「安心せい。見ておらん。あやつらもな。医者に聞いただけじゃ」
「で、ですよね……!えっと怪我は大した事ありません。大丈夫です。南方に片倉小十郎殿がいらっしゃると聞いたので、彼と合流したいのです。」
「確かに居るのう……。しかしそろそろ独眼竜の元へ戻るはず。ならば仕方ない。明日、ここを発つと良い。」
「ありがとうございます!」
痛みが出ない程度に、前のめりでお辞儀をした。
退室しようと右腰をかばって立ち上がる。
信玄様が手を貸そうと立ち上がろうとしたので手で制した。
それほど重傷ではない。
庭から金属音がするのは3人の誰かだろう。
障子を開けると佐助が立っていた。
手にお茶の乗ったお盆を持って。
「話終わった?」
「うん。明日奥州に向かうよ。幸村さんを説得してとりあえず今日中に団子食べたいな。」
「やっぱり?そう言うと思った…こっちおいで。」
佐助の後ろをついていくと、幸村と慶次が真面目な顔をして戦っていた。
「旦那、すごいよね。」
「うん、かっこい―。」
「ちゃんはあれを避けたんだよ?一歩間違えれば死んでたよ。だから怒っていいんだけど?」
「ちょっとー!気をつけてよー!!!って?」
「緩っ!!」
佐助が腹を抱えて笑い出す。
しかしにはどういうテンションで幸村に怒りを抱けばいいのか本当に分からなかった。
政宗同様、会いたいと思っていた人だったのだから。
佐助が歩みを止め、その先を見ると大量の団子とお茶が用意されていた。
「これ……。」
「急いで買ってきたよ。ただし俺と風来坊の分もあるけど。二人きりにはさせないよ?」
「ありがとう佐助さん―!!団子代は…」
「ああ、旦那の財布スって買ってきたから心配いらないよ」
「やるなぁ……。」
佐助が大声を出して呼ぶと二人はすぐに武器飛んできた。
「佐助でかしたぞ!」
「腹減ってたんだ!」
幸村と慶次が縁側に腰掛け、佐助はあぐらをかく。
は用意してもらった座布団に座り、横座りになった。
「「「「いただきます!」」」」
みんなで両手に一本ずつ持って食べ始める。
「おいしい!」
「殿、いっぱい食べて怪我を治すでござる。」
「はー!?怪我には米だろ!」
「……肉じゃない?」
「……ど、どれも大事!喧嘩しない!」
色とりどりの団子がどんどん減る。
桜色の団子をとろうとしたら、幸村も狙っていたようで、取る寸前での手と触れた。
「あ!すまぬ!」
幸村がばっと手を引っ込め、が串を取る。
そしてその団子を幸村に向けた。
「はい、あーん。」
「まっ、また……殿……!」
「ずるいよ旦那!」
「またって何!?!」
幸村が少し顔を赤くして、ぱくっと食べた。
噛むたびに顔の赤みが増す。
「おいしい?」
「う、うむ。」
「ちゃん~。」
「~!」
あーと佐助と慶次が口開けた。
「迫るなよ!怖いよ二人!」
「だっ…駄目でござる駄目でござる!某にだけじゃなきゃ嫌でござる!」
「ぐばぁ!!」
怖いと言いながらも慶次と佐助に団子を差し出そうとすると、幸村がに飛びついてそれを阻止する。
「そこはアカーン!いってええええ!」
「わ―!すまぬ殿―!」
「何気に独占欲丸出しじゃん旦那!!」
「はっはっは!賑やかじゃのう!」
どすんどすんと、貫禄たっぷりな歩き方で武田信玄がやってきた。
「お館様!」
幸村はすぐにから離れて姿勢を正す。
「どうしました?大将」
「、前田の風来坊!望みどおり、駿馬を用意したぞ!!なに、期待は裏切らんわ!!」
「さっすがぁ!ありがとな!」
「……いつここを発つのでございますか?」
慶次がの腰を見る。
「…ちょっと今乗ってみて様子見るか?」
「うん!」
「そう言うと思ったわ!!」
信玄が合図をすると、家臣が二人乗りには十分すぎる大きな馬を連れてきた。
「乗るが良い。」
まず慶次が乗り、次にが補助を受けながら乗る。
最初はゆっくり歩かせる。
「へぇ、風来坊、あんたそんな丁寧な乗り方できんだ。」
「おいおい!人をなんだと思ってやがる!」
「……某も……殿と乗りたいでござる……。」
「ゆきむるぁあ!ならば男らしく誘うが良い!」
「さっ……誘う!?」
少し馬が歩みを早める。
夢吉が馬の頭に乗って楽しそうにしている。
「どうだ?」
「あれれ!?大丈夫!もっと振動きても平気だと思う!」
「本当か!?じゃあ……」
今すぐ行っちまうか、と言おうとしたが、空が赤く染まっていた。
「早朝に出よう。いいよな!?おっさん!」
「うむ!せっかくじゃから宴を開こう!」
やったぁ!と4人と1匹が万歳して喜んだ。
夢吉言葉判るんか!?
夢吉はノリがいいんだよ!
すげぇ猿だ!
宴の前に医師のおじいさんが部屋に来て、の包帯をほどいて傷の様子を見る。
は道具箱の中身が気になってちらちら覗き見ていた。
「……なんと治りの早いことか。持ってくる薬を間違うてしもうたわ」
「……そうですか?」
「そのまましばし待っておれ。」
おじいさんが出ていってしまった。
傷口はわき腹の方にも少し及んでたため、仕方なく下着姿だ。
下は袴を借りていた。
「自覚はあったけどやっぱり人に見せないようにした方がいいかな…。」
腕の怪我も見てみると、きれいさっぱり消えてる。
「!」
「慶次このやろう。」
「こわっ!あれ、ゴメン!じいさん出てったから終わったのかと思った!」
慶次が障子を開けて、ごめんと言いながら部屋に入って来る。
「え……ちょっと!遠慮して!」
すでに敷かれていた布団をたぐり寄せて頭からかぶった。
「うーん、でも目的地までもうすぐだし。顔見れなくなるの寂しいからさ……。」
「それは嬉しいけどさ~。」
「……、肌白いのな……触りたくなる……。」
「!!」
突然甘えた声でそんなこと言われ、の顔が赤くなった。
慶次が調子に乗って手を伸ばしてくる。
「おじーさーん!早く薬っ……!!変態がいますー!!」
どうすればいいか判らず、思い切り叫んだら障子が開いて
「変態!?大丈夫でござる某が守っ破廉恥でござる―!!」
「ゆっきむっらさーん!守ってくれよ!」
スパァンと障子が開いたかと思ったら速攻で閉められた。
「相変わらずだな真田幸村!おもしろっ」
「そう言わないであげて……。」
「おや、若いもんはええのぅ……しかし今はわしに遠慮してくだされ。」
気がつくと医者が荷物を持って部屋を覗いていた。
「あぁ、わりぃ、俺にかまわずやってくれ。」
「そう言うわけにもいかんなぁ……。」
「そうだ!出てけ!」
慶次が仕方ない、といった様子で立ち上がる。
「……、しっかり治せよ。」
そう言った慶次の顔はにやりと笑っていた。
……何だろう?
伊達の宴をバカ騒ぎというなら武田は和気藹々とした雰囲気だった。
ゆっくりと時間の流れる楽しい宴だ。
一部分を除いて。
「ちょっと!前田の風来坊!それ俺の!」
「おかわりすりゃいーじゃん!」
「殿ぉ…飲んでらっしゃるか?某が酌をいたします……。」
「幸村さん酔ってる?」
「はっはっは!今宵は無礼講じゃ!」
幸村はの隣にべったりついて、今にも寄りかかってきそうだ。
酌をしてもらったお酒を一口飲む。
お酒自体はそんなに強くはないようだが、幸村がこんなになってるんだ。
気をつけねば。
「……殿に食べさせてもらうと……いつもよりもおいしく感じます。」
「昼間の団子?」
幸村の目がトロンとしている。
「某……殿の心の広さに感服したでござる……殿……。」
「……。」
やばくないか。
幸村さん、頬を紅潮させて、下から私の顔をのぞき込むようにして……
完全に酔っている……
「幸村さん、お酒はほどほどに……。」
今でさえそんな状態なのにさらに飲もうとしている。
「殿と飲む酒はうまい……なんでしょう、この気持ちは……。もしかすると某……殿の事……。」
「キー!!」
夢吉が幸村の顔にとびかかる。
払いはせずに優しく引っ張っているあたり、理性はちゃんとあるようだが。
「何でござるかぁ!殿ぉ!続き……某は……某は……!」
「旦那旦那。ごめんちょっと大事な用ね!」
佐助が幸村の耳元で囁く。
「酒の勢いで告白は印象悪いからね!」
「む……。」
幸村がすくっと立ち上がる。
「酔いを醒ましてまいります!!」
「急に!?」
の元から走り出して外へ行ってしまった。
「え、幸村さんどうしたの佐助さん…?」
「ちゃんともっとちゃんと会話したいんだよ。べろべろになってごめんねえ。」
「私は構わないけど……べろべろの幸村さんも結構会話通じるし……。」
佐助がの隣に座る。
「竜の旦那にも何か約束してたの?奥州まで律儀に戻るなんて。」
「うん。戻れるときは、ちゃんと挨拶してから帰るって約束したのに、黙って帰っちゃったから。」
「不可抗力だったのに?」
「うん。」
「はあーーーよくやるねえ。」
「怒ってるかもしれないけどね。」
苦笑いすると、佐助がポンポンと頭を撫でてくれる。
「ちゃんがいい子で良かったなほんとに……。」
「ん?」
「怪我させた代わりに……ってたちの悪い条件出されたら場合によっては俺とどめささないといけなかったかもだし。」
「……。」
が漬物を食べながら佐助をじっと見る。
忍を傍に置く人間だ。このくらいの言葉で動じられてはこの先不安だよ、と思いながら言った言葉だったが、からは動揺は感じられない。
「小太郎ちゃんもそんな感じなのかな……。」
「小太郎?」
「主と定めた人の為に、人を殺したり……。」
「ああ…。」
怖いとか怖くないとかでなく、俺の言葉から忍を理解しようとしているのか、と察する。
「小太郎制御出来てないの?といっても北条に行ったりもしてたよな?そんなまだ一緒にいないか。」
「もう色々説明しなくても分かってらっしゃる……。」
「まあね。小太郎も隠す気ないみたいだし。」
「でも、爺さんに聞いた小太郎ちゃんは、強くて頼りになって……腰とか肩とか揉んでくれてたらしいし……。」
「……いやそれはまあ使い方というか……。小太郎は戦じゃ脅威だよ。それだけは言える。戦がなけりゃ可愛い奴だ、そういうことじゃない?」
「うん。私、可能な限り、平和に事が進むように努めるよ。」
「無理はしない。小太郎が誰かを殺めたとしても自分を責めない。」
「佐助さん……。」
「じゃないとちゃんの身が持たないよ。」
佐助がの膳に自身の煮物の小皿を置く。
「怪我が早く治りますように。食べて食べて。こっちも食べれる?」
「お魚はちょっとお腹いっぱいかな……!じゃあ煮物だけいただきます。ありがとう佐助さん!」
にこりと佐助に笑いかけると佐助も笑い返してくれる。
そこへおでこに手を添えて下を向いた幸村が戻ってくる。
「幸村さん酔いさめました?」
「……醒めてきて冷静になりました。」
「テンションすごく下がってる!?」
あんなことがあったばかりに告白など俺何考えてる……と反省した幸村は大人しくの隣に座った。
「お、何々、俺も話にいーれて!」
慶次もの向かいに座り、酒を飲む。
「幸村さんと佐助さんは私が最初に来た時に氏政爺さんと接触するために手伝ってくれてね。本当にまた会えて嬉しい。急に戻ったって、うまく日常に戻れなくてさ…。」
「へ~。そっか、ちょっと前まで同盟組んでたもんなあ。」
「竜の旦那は何で何にも言ってくれなかったんだ。ちゃんの話なら別だろ。」
「政宗殿も事態が飲み込めていなかったのかもしれませぬな。」
「まあそりゃあそうか。」
話がきけるとも思っていなかったが、二人も政宗の様子は分からないのか、と考えてしまう。
あんなに急にいなくなったんだから、政宗がどう思おうとも、待っていなくたって謝ってこれまでのお礼も言うべきだ。
そんな迷惑な存在はお断りだと言われれば、これからは小太郎に見つけてもらって爺さんのところか武田にお邪魔させてもらって、現代に戻れる日まで何か仕事の手伝いだ。
幸いなことに、文字が書けるだけでも重宝されるようだし、頼めば出来る仕事はたくさんありそうだ。
「……政宗さん、怒ってたり、呆れてたり、するのかな…。」
過ごした日々の政宗を想い出せばそんな薄情な人間ではないと分かっているが、不安にはなってしまう。
「安心してくれよ!この前田慶次が一緒なんだよ!女一人守れないような奴なら殴ってやるからさ!」
「ええ!殴るのはちょっと……!」
悪戯っぽく笑う慶次に、はおろおろしてしまう。
幸村と佐助は顔を見合わせて、ふっと笑う。
「……お館様が申しておりました。あのような北条氏政を久しぶりに見たと。」
「え?爺さん?」
幸村の言葉に、が前のめりになる。
「同盟を組んだばかりの頃の、小田原を守るために突き進んでいた頃を思い出したと。間違いなく、殿のおかげです。」
「そーんな子を放り出すお殿様なんて見る目ないよ。その時は離れられたなんて幸運!ってうちに来なね。」
信玄がそう言うならばきっと、自身が必死に紡いだ言葉は氏政に届いてくれたのだろう。
小太郎は氏政とゆっくりとした時間を過ごすことは出来ただろうか。
そして佐助にそう言われて想像してみても、そんなことをする政宗が想像できない。
「……幸村さんと佐助さんに会わせてくれたんだもん。私は政宗さんに感謝するだけだよね。」
「む。」
「そうくるか……。」
「政宗さんがどんな態度でも平気だもん。」
笑顔になって、佐助からもらった煮物を頬張る。
「……どんな男か楽しみだなあ……独眼竜……。」
の態度を見て、慶次も微笑む。
健気な彼女がこんなに思いを寄せる男はどれほど良い男なのか期待を大きくしていた。