京の祭編 第2話



「あー!もー!!くやしいー!あいつ最悪!!」
成実は慶次に追いつけなかった悔しさで、乱暴に刀を振り回して暴れていた。
「成実様!落ち着いて下さい!」
「くっそー!殿にめちゃくちゃに負けちまえ!!奴はどこ行った!?」
「呼んだか!?しげちゃん!」
ばっと、道の脇の茂みから馬が飛び出す。
「誰がしげちゃんだー!!って……あ!何してんだ!ちゃんを返せ!」
「残念でした!返さないよ!じゃあな!!」
「成実さんー!」
が困ったような声で成実の名を呼ぶ。
だがすぐにその姿は見えなくなった。

「速いなくそ……忍は追ってるのか!?おい!俺にも馬を」
「成実は城で小十郎のsupportしてな!」
同じ場所から今度は馬に乗った政宗が飛び出す。

「……へ?」
成実が目を丸くした。
政宗の姿もすぐに見えなくなる。

「何なの……?」



小太郎はすでに追いついていた。
追いついた瞬間に慶次を攻撃しようとしてに止められ、今はただ追うのみだ。
馬はひたすら山道を走る。
「野菜、届けて戻ってきたの?早くない?」
乗っていたのは前回より一回り小さい馬だったが、変わらず武田のものではないかと赤い鞍を見て思う。
「戻ったのは武田まで!野菜は武田の忍借りて運んで貰ってる!」

上を見上げると、小太郎は凧にくっついて空を堂々と飛んでいた。
政宗に居場所を教えているのかもしれない。
そのおかげか、今では後ろを向くと政宗の姿が少しだけ見える。

……いや、そのおかげというよりは……

「慶次、政宗さんと一定の距離あけて走ってるね。目的は?」
「お楽しみだ!」
「何それ……ただの誘拐じゃないね……。私居候の身で立場弱いのに政宗さん駆り出してしまいアワワワワ……。」

青葉城を飛び出してしばらくはなんでなんで⁉政宗さんに迷惑かける!事情を言え‼と騒ぎ立てていたが、慶次の腕がしっかりとを捕まえて離さず、抵抗を諦めるまでそんなに時間はかからなかった。
しかし事あるごとに情緒不安定になっていた。

「誘拐なんて聞こえが悪い!遊びに行くだけさ!」
それを聞いて思いつくのは一つしかない。
「祭り……?」
「おうよ!」

つまり京の祭りを見て帰れと。
あまりに無理やり、そんな誘い方ある?と思うが、時間のない中政宗も道連れにしたいならこういう方法が一番と思ったのかもしれない。
政宗との距離も安定したところで、小太郎が地上に降りてきて並走する。

「小太郎ちゃん、私、荷物置いてきちゃって……。」
「……。」
こくり
「ごめんね、ありがとう。」

バシュ!という音と共に小太郎が消える。

「あ、そうかぁ……。やっぱ先に言っといたほうが良かったのかね。わりい!」
「とても今更すぎる。」

竹藪を抜け、前方が開ける。

殿ぉ!」
ちゃん!」
「え⁉」

そこに、馬を引く幸村と佐助が手を挙げていた。

慶次が二人の前で馬を止めた。
「え、何?どうして?二人も慶次に誘われたの?え、ここもう上田?」
疑問符を飛ばしまくるに二人が笑った。
ちゃんが怪我して寝てる間に話を決めててね。そんで俺たちはお迎えに上がりました~。上田はまだ先だよん。」
「前田殿が、殿を驚かせようと言っていたのでな!内密に進めてしまい、申し訳ない!い……嫌だったでござるか?」
「嫌じゃないよ!ただ動揺してるよ!!でもみんなの気持ちは嬉しいかな!!」

おろおろした様子はあったが、嬉しい、という言葉が聞けて幸村が安堵する。

「せっ……先日の詫びも込めて、京では某が奢るでござる!」

「ha‼そりゃ嬉しいね!!」

追いついた政宗が、木々の間から勢いよく飛び出した。
幸村を視界に入れるとすぐさま抜刀する。

「真田幸村あああああああ!!!!」
馬に乗ったまま、幸村に突っ込んでいった。
幸村は咄嗟にと距離をとる。

「政宗殿は別でござる!」
「ヒュウ!マジで来やがった!お城は留守にして良いのかい!?竜の旦那!」
佐助と幸村が構える。

「ふん!良くできた家臣が居るんでね!てめえらこそ二人揃って出て来ちまって良いのか!?」
「某達は仕事を済ませてこちらに来た!」
「そーそー。俺らには時間があったからな!周辺の警備だって完璧にしてきたぜ!?」
「ああそうかい!!覚悟しろ!!!」
「ま、政宗さん!?」

馬から跳びおり、そのままの勢いで幸村に刀を振り下ろす。
ガキン!と音を立てて、幸村は槍で受け止めた。

「何で!?戦でもないのにっ……!」
!!落ちるって!!暴れるな!!」

が慶次の前でじたばたと暴れながら叫ぶ。

「……!!」
ぎりっと政宗が歯軋りをし、幸村は力を緩めた。
弾けるように政宗と幸村が距離をとる。

「すまぬ……政宗殿……。」
が全く怒ってねえのがまた気にいらねえ。」

判っていないのか、は。

政宗が大きくため息をついた。

幸村に怪我をさせられたんだろうに。

そのせいで自分が幸村に対し怒っているのだと気付かないのか。

「落ち着け独眼竜!!真田幸村とじゃれ合いたいなら京に着いてからにしてくれ!!」
「……京だと?目的は?」

政宗がひどく不快そうな顔をした。
自分だけ何も知らないのが嫌なようだ。

「祭りを見せてやるぜ!!断らねえよな!?ここまで来ちまったんだしな!」
「政宗さん~!!すいません~!!私のために……‼」
「だっ、誰がてめえのために!?そいつが気に食わなかっただけだ!!」
「ぎゃあー!!勘違いしちゃったよー!!政宗さんのばかー!!話合わせてくれたってー!恥ずかしいー!」

佐助が軽い足取りで政宗に近づいた。
「はは、ちゃんは素直だねえ。旦那の言う事そのまま受け止めてるし。……で、どうすんの旦那?行くでしょ?」
「小十郎には取り返してくる、と言ってしまったなあ……。」

嫌な空気が生まれた。

「拒否するなら、俺と幸村と忍がお相手するぜ?」
「慶次!!ちょっと……。」
さすがにこの三人相手に政宗さん一人は厳しいんじゃないかとは不安になる。

「おお?受けてたつぜ?」
「政宗さん!?」
「政宗殿……。」
幸村は正々堂々と二人で政宗と戦いたいという想いから、露骨に嫌そうな顔をしてしまう。

「しかもあんたに隙あらば、に接吻するぜ?」
「意味わかんねえぞ!!」
が人質扱いになるぞ~?」

慶次も出来れば戦いたくないのだろう。
政宗が首を縦に振るまで無茶苦茶言う気だ。

「うう……ほっぺくらいならいいけどさ……。」
「頑固だな独眼竜はさあ戦おう‼!」
の呟きを聞き逃さなかった慶次は一転して態度を変えた。

「前田殿!!そなた単純すぎますぞ!?」
「本能のままに生きるんじゃねえ!!」

しばし沈黙したあと、政宗は一言、判ったよと呟き、幸村がほっと胸をなでおろす。
政宗がため息をついた後、慶次との元へ歩み寄る。

「ほら。」

に手をさしのべる。
降りろ、ということか。

「あ、はい、政宗さん。」
政宗の手を取ろうとしたを慶次がぎゅううと抱きしめる。
「だあああ!駄目だ!は俺と一緒!」
「ぐえ。」
が嫌な呻き声を上げた。
「なっ、前田殿!ここからは某が殿と一緒に行くと言ったでござろう!」
幸村が駆け寄る。
「そうだっけ……忘れたかな……。」
「前田殿!」

佐助の目がきらりと光った。
「旦那との約束を破ろうなんて、部下として許せないね日頃の怨みいぃぃぃぃ!!」
「最後が本音であろう!?佐助!!」
佐助がクナイを慶次の頭めがけて投げる。

「あぶねっ!」
慶次がギリギリかわし、掠めた髪が一房舞う。
そして木に刺さると思っていたクナイは、後ろから荷物抱えてちょうど飛び出してきた小太郎に向かっていった。

「!」
宙に浮いていて逃げ場がない。

「あ。」
「小太郎ちゃん‼」

ガッと手でクナイをキャッチする。

「……。」
着地すると、からんと地面にクナイを捨てる。

「げ……さすが小太郎……。」
「小太郎ちゃん凄い!!」
がパチパチと拍手をすると小太郎が照れた。

「俺は小太郎に勝ったのによ……。」
「某だってあれくらい……。」
政宗と幸村は互いの呟きを耳にして、目線を合わせた。

「「……。」」

ばっと飛び上がり距離を置き、

「奥州筆頭伊達政宗……‼推して参る‼」
「真田源次郎幸村がお相手いたす!!」

武器を出して戦闘態勢に入った。

「ええ!?また何してんの!?」
がまた慌て、慶次もこれには困惑した。
「やめろって言ってるだろ!!」
「「凄いと言われたい!!」」

変なところで二人は気が合う。

「そんな暇あるか!!早く京に向かおうぜ!!」
「ならば早々に殿を離すでござる!!」
「えっいやそれは……は誰の馬に乗りたい!?」
「選んでいいの?じゃあ、乗った事ないから幸村さん!!」
「「なんだとー!?」」

即答したに政宗と慶次が驚き

幸村は喜び

佐助はと密着して上司が死なないか不安だった。





「あああああの、殿、やはりもう少し離れて……。」
「HANARETE‼??馬上で⁉落ちます!我慢して幸村さん!」
「真田幸村……んなこと言うなら代われや。」
「嫌でござる!!」

佐助はため息をついた。
を前に座らせれば近すぎるでござると騒ぎ、後ろに乗せてが幸村の腰に手を回すと破廉恥でござると騒ぎだした。
今はが幸村の肩に手を乗せているだけという状況。
おかげで早く走れない。

前夜祭は間に合わない……と慶次ががっくり肩を落とした。
佐助と小太郎は三人の後ろを並んで進む。

「もっと女性に強ければなぁ。でもそんなの旦那じゃないか……。」
「……。」
小太郎が不思議な顔をする。
「旦那が今まで以上に反応しすぎだよね。いや~、良いことなんだけどね?ちゃんを意識してるってことだし。」
「!!」
小太郎が口を開けて驚いた。
「何よ!?もしかしてあんた気付いてなかったのか?おいおい!お前なあ、そういうのは……って……。」
「―!!」
小太郎が勢い良く飛び出して幸村に向かっていった。

「うわ―!小太郎落ち着け―!ちゃん一緒に……旦那逃げてぇぇ!!」
佐助が小太郎を捕まえに飛び出す。
「待てー!!これ以上厄介事増やすなー!!いつ京に着けるんだよ!!」
慶次が思い切り顔を上げて叫んだ。

「小太郎殿!!すまぬ!やはり某が殿を傷つけたのを怒っておられるか!?」
「当たり前だろうが!!」
「政宗さん……。」
「だいたいなあ……てめぇら普通にし過ぎなんだよ!もう少しぎくしゃくしろや!」
「無理だよね―?幸村さん。」
「うむ!無理でござる!」

が幸村の顔をのぞき込むように首を傾けたと同時に、幸村が首だけの方向に向けて笑った。
顔が近い。

「…!!」
幸村が真っ赤になる。
「?」
そのまま固まる。

……殿は普通でござるっ……
うぅ……緊張してるのは某だけでござるか……?

「旦那ぁぁぁぁ!小太郎を忘れるな!」
佐助が小太郎に追いついて、なんとか前に回り込んで止めていた。

「小太郎ちゃんはみんなを傷つけたりしないよ?ね?」
「!!」
小太郎がびくりとした後

幸村を指差し

困った顔をして

おとなしくなった。

「こ、小太郎、冷静になれよ……ちゃんは恋愛に関しちゃ素晴らしい鈍さがあるだろう……。」
「……。」
「心当たりあるんかい!!薄々気付いてたがやっぱりそうか!!お前がちゃんのことどう思ってるかは読めないが、お前本当に職権乱用してちゃんに手を出したりするなよ!?」
「…………。」
「心当たりあるんかい!!」

羨ましいぜ畜生!!










「は、半分も来てない……前夜祭、間に合わない……。」
慶次が再びがっくり肩を落とした。

暗くなってしまったため、通りかかった町の宿に泊まることにして団体客用の広い部屋を借りた。
その隅では縮こまる慶次を慰めていた。

「祭りに間に合えば大丈夫だよ!」
「でもよ……に見てもらいたかったんだよなあ……。」
「慶次の気持ちが、凄い嬉しい!」
……。」

政宗は混浴じゃないと知るとつまんねぇと呟いてすぐに風呂場へ向かってしまった。
幸村は町を一回りしてくると行ってしまい、佐助と小太郎は馬の世話をしている。
広い部屋に慶次との二人きりだ。

だからって慶次、調子に乗って私に寄っかかるな。 重い。

「優しいなあは~。ほんといいな~。好きだな~。」
「も~人の良い部分を抜粋して好きというとは、本当に調子良いなぁ!」
「む。」

まさかそんな風に返されるとは思わなかった。
素直に受け取ってくれたらいいのにと思う反面、考えてみると確かに言葉足らずだ。

「無鉄砲なとこも、訳わかんないとこも、変なとこも好きだけど……。」
「えっ!!そういう目で私を見てたの!?慶次に言われたくないわ!」
「もっとの事知りたいって、俺の事も知って欲しいって俺が言ったら、困るだろ?」
がきょとんとした顔で首を傾げる。

「慶次ってさ」

軽く言い過ぎたかと頭を掻く。
遊び人だねとか言われたら正直へこんでしまいそうだ。

「もしかして寂しがり屋だね?」

あぁ、ほらは訳わかんない。
なんでそうなるんだ。

「いいよ!というか今そばに居るじゃん~!そういえば慶次の事、あんまり聞いてなかった!ごめんね?教えて、慶次の事!!」

が慶次の頭を撫でる。

俺がただ単に聞いて欲しくてそう言ったとでも思ったのか
しかし知って欲しいとも思ってしまう。
でも……

「慶次は、天下には興味ないの?」
「ない。けど、楽しく恋も出来ない世は嫌だ。」
「わぁ、本当に恋愛には真剣だね!慶次に愛される人は本当に幸せだよ!」
「……。」
先を言いたいような
言いたくないような

「慶次?」

黙った俺をがじっと見つめる。

「俺が、初めて真剣に、本気で好きになった人は」

口が勝手に動いたような感覚

「秀吉の妻……ねね……だ。」

どう想われてもいいと思った。
に聞いて欲しい。
その想いだけで俺は今口を動かしている。
不思議な感覚だった。

「俺は、ねねが幸せなら、ねねが笑ってるならそれで良かった。」

が慶次から離れ、正面に位置する。
表情が見えるように。

は意地悪だ。
こういう時は、とても優しい顔をする。
こんな顔俺だけの特別なものなんじゃないかと思ってしまうくらい。

「なのに秀吉は……ねねを殺したんだ……。」
「……え?」

きっと片思いだと思っただろう。
は驚いた顔をしたあと、眉根を寄せた。

「竹中半兵衛だって!あいつだって!秀吉を止めなかった!何がっ……何が友だ!!」
「慶次……。」
「ねねは……ねねは秀吉の事……。」

溜まった涙で視界がぼやけてくると、は慌てたように手を動かすので慶次は視線を落とした。
「わ……わり……急に大きな声出して……。」
慌てて目を押さえた。
「そ、そんな感じなの俺は!びっくりしたよな……。」
が慶次の頭に手を乗せて優しく撫でる。
「……ねねさんは、慶次にこんなに思われて幸せ者だね。」

視線を上げるとはふわりと優しく笑っている。
ねねの笑顔も愛らしい花のようだった。
けど、同じ笑顔とは思えなかった。

何が違うんだろう?

「ねねさんも、慶次の幸せ願ってるよ。」
先ほどまで部屋の中をちょろちょろ動き回っていた夢吉が、いつの間にかの頭に座っていた。
「過去も未来も今この時も、ねねさんは慶次の幸せ願ってくれてるよ。」
……。」
「だから、生きてる時間を大切にして欲しい。泣いたって良いけど、一人でめそめそ泣くなよ!今みたいに、誰かに感情ぶつけて泣け!私は慶次の味方だからね!!」

が慶次の手を取った。
冷たいひんやりして、今の自分には気持ち良い。

「豊臣秀吉さん、と、いろいろ、あったんだね。話してくれてありがとう。私も、慶次の幸せ願ってるから、だから、あの……えと……。」
が小さく下を向いたり上を向いたり首を動かした。
夢吉は楽しそうにバランスをとって遊んでいる。

「元気出して……欲しい……。いつもの、元気な慶次……が私は、好きだし……。」
「え……。」
慶次が身を乗り出した。

「……あ―!待った!ちょっと下手すぎる言葉並べて‼もう一回!えと、なんて言ったらいいかな……慶次は、あの」
「こっ……。」
「え?」
慶次がの肩をがしっと掴んだ。

「告白……してくれた……?」
「え?」
「俺も好き。」
「落ち着いて慶次、あの」
好きは告白の好きではなく、好感がもてるのほうだ。

!!」
ガバッと慶次がを抱きしめた。
夢吉がキィ!と飛び降りた。

「けっ、け、慶次!!」
慌てて慶次を押し返す。
もちろんびくともしない。

「嫌だ!離さねぇ!」
「慶次!落ち着いてえええ!!私と会って大して時間経ってないよ!」
の好きなところ、今すぐ二十個は言える!それだけじゃ足りねえか!?」
「慶次……‼まっ、待て……ねねさんの話したばっかでこんな展開はありえねー!!」
への気持ちはねねの代わりじゃない!そこは信じて‼」
「PHANTOM DIVE!!‼!!!!!」
「「ぎゃあ!!!」」

お風呂から戻ってきた政宗が爽快に一発繰り出した。
政宗に引っ張られて、慶次から離される。

「油断も隙もありゃしねぇなこいつ!人のものに手を出すな!」
「ひっ……人のものって何だよ!!はてめえのもんじゃない!!というかまで巻き込んでたぞ大丈夫か‼」
「てめえに心配されなくてもは外してるわちゃんとな‼」
「はーーー器用なことで‼!!いーい雰囲気だったのにな!!!!」
政宗と慶次がけんかを始めてしまった。

一歩下がったところでそのやり取りを夢吉と並んで見た。
「あああどうしよう、夢吉……。私に止められるかな……。」
「キィ……。」
「……無理だな。」
すぐには諦めて、夢吉の頭を撫でながら現実逃避を始めた。

は俺のこと好きって言った!」
……俺のことも好きだよなぁ?」
慶次に威嚇していた政宗がゆっくり目線を移す。
「??うん!」
「ほらみろ!はてめえに特別な感情はねぇんだよ!」
「そ、それって独眼竜にも特別な感情はないってことじゃ……。」
「………………。」

政宗の機嫌が今までになく悪くなった。






「はぁぁぁ……無い……見つからぬ……。」
そこそこ大きい町だ。
もしかしたら、という希望を胸に、幸村は書物を見に来ていた。
ひたすら巻物を広げている。

「こっ、こんな知識はすでにある!違うのだ……。」
ぶつぶつ独り言をする幸村を店の者が迷惑そうに見ていた。
しかし着物からして身分が高いと判るため、文句が言えない。

「あの、旦那様、何をお探しで?」
「恋の戦術についての記述がある巻物は無いでござるか!?」
「それは旦那様の心に自ら書き記さねばならぬものです。」

店員はウザそうに良いことを言った。

「おお……。」

幸村は店員に尊敬の眼差しを向けた。