京の祭編 第4話
「たく、上洛でもないのに京に行くことになるとは思わなかったぜ。」
「「「「……。」」」」
政宗が外に行ってしまって、が追いかけていってしまって、
小太郎が二人きりにしてやれ的な態度をとったので、全員大人しく待ってたら、
政宗はご機嫌で帰ってきた。
何してたんだと気になるが、が、政宗さんご機嫌になってよかったと安心した顔をしてたので、大したことしてないなと判断してみんなで軽く流すことにした。
「……それについては、某と佐助もお館様に言ったのだが……。」
「おう、何て言ってた?」
「大将はたまには遊んでくるが良い!!ってさ。」
佐助が信玄の声をまねして言い、肩をすくめた。
政宗は眉根を寄せる。
「……何考えてんだよ虎のおっさんは……。お前ら越後と徳川のお相手は大丈夫なのかよ。」
「殿を見送ったらすぐに帰る。」
「の前でその言葉吐いたら殺す。」
「はいはい。」
はそれを聞いてしまえば慌ててしまうだろう。
祭りどころではなくなる。
は今入浴中で不在だ。
「裏道通って地味に移動すっから、襲われたりはしないだろ。盗賊以外にはな。」
道の案内は全て慶次頼りにするしかない。
信用しろ!と慶次がにっこり笑った。
「出てきても問題ねぇ。突っ走る。」
確かにこのメンバーなら負けるわけがない。
「ああ……それより問題なのは……。」
慶次が眉をひそめ、
政宗は腕を組み、
幸村は口を堅く結び、
佐助は変わらず涼しい顔をして、
小太郎は静かに闘志を燃やす。
「「「「(殿)の寝床。」」」」
こくこく
はのほほんとみんなと一緒の部屋で寝る~と言った。
これまででこの時代での知らぬ土地での就寝は気を付けなければならないと覚えたからの発言だろう。
布団は向かい合って3つずつ敷いてある。
隣に寝たら何かよいことが起こりそうな気がしていた。
慶次が腕まくりをした。
「男らしく腕相撲といくか?独眼竜を除いて。」
「な……!やはりここは信用に足る人物が隣にいるべきであろう!?政宗殿を除いた人で。」
「んじゃあの湯上がりの姿見てもふつうにしてられる奴にするか?竜の旦那を除いて。」
「何で除くんだ!!」
「……。」
小太郎は自分が除かれなくてほっとした。
「竜の旦那は遠慮してよ~。」
「というか佐助と小太郎殿は布団で寝るのか?」
幸村が不思議そうな顔をした。
「旦那……それは天井裏で寝ろって言ってる?」
「いや、珍しいと思っただけだ。」
幸村と会話する佐助の服をくいくいと小太郎が引っ張る。
「どうした?小太郎」
「……。」
「うーわー小太郎~それはちょっと―……。」
「小太郎殿は何と?」
佐助が困った顔をしながら小太郎の通訳をする。
「小太郎が、を守るのは俺の仕事だって。」
「待てよ小太郎~!!俺達信用しろよ!」
それはその通りだが、慶次は不満そうに頬を膨らませて、ぶーぶー言った。
「……。」
小太郎も頬を膨らませた。
「お前は小太郎に嫌われてんなぁ。」
「何で!?」
「ウチで小太郎で遊んだだろうが。」
「あれは友好を深めるために……っ!ぶぁ!!」
小太郎が慶次に枕を投げた。
「何すんだよ小太郎~!!俺なりの愛情表現だったのに!」
慶次が枕を投げ返した。
小太郎は簡単に避けて、また別の枕を投げた。
夢吉はキィキィ鳴きながら部屋中を走り回る。
「第二回戦か?」
政宗も近くにあった枕を取っていつでも投げられる態勢をとる。
「さらに被害が出たらどうする!?」
部屋の壁は壊れたままだ。
佐助がうーんと唸って
「じゃあ枕は絶対下に落とさない。自分のところにきたやつは必ず受け止める。落とさずに残った二人がの両隣に寝れる。これでいこう。」
佐助はそう言うとすぐに枕を掴んで政宗に投げた。
「甘いぜ!」
枕を持っていない方の手でキャッチし、二つの枕を時間差を付けて幸村に投げた。
「落とさぬ!」
「覚悟!」
「!!」
さらに慶次が3つめを投げ、
「旦那!」
「佐助!すまぬ!」
それは佐助が助けに入る。
「ずりぃ!」
慶次が二人を指差して文句を言った。
「小太郎!手ぇ組むか!?」
こくり
政宗と小太郎もタッグを組み
「は!?俺一人!?」
慶次が危機感を露わにすると
「キッ」
「あ。」
夢吉が枕を佐助の足元にボスッと当てて、枕が落ちた。
「うそ―!?」
「夢吉よくやった!」
「キ!」
慶次が夢吉に親指を立てた。
夢吉も飛び跳ねて嬉しそうだ。
「旦那、ごめん!」
「仇はとる!」
「仇!?」
幸村も勝負モードになった。
「そんな殺気だったって怖じ気づくわけねぇだろ!幸村ぁ!っうお!?」
「キィ―‼」
夢吉が政宗の着物の裾を引っ張り、政宗のバランスが崩れた。
タッグを組んだはずの小太郎は夢吉を気に入り、とめることなく夢吉の頭を撫でていた。
「お前はマイペースっつんだぞそれは!!馬鹿野郎!」
政宗の投げた枕は幸村の方には飛ばず、襖の方へ行ってしまう。
「暖まった~!ねぇねぇ、女将さんが」
「あ」
襖が開いてが入ってくる。
「ぷぎゃ!!」
枕が顔面にぶち当たってその場にしゃがみ込む。
「うわ―!湯上がりのにドキリって展開は!?」
佐助が思い切り叫んだ。
思い切り期待していたらしい。
「ゆ、湯上がりの私にドキリ!?なんて青春憧れシチュエーション!!でもそんな自信は無かったのでした!解散‼」
「独眼竜!お前なぁ!」
「猿が悪いんだろ!」
「……キィ……。」
夢吉が落ち込んでしまった。
「政宗さん!何夢吉をいじめてるのよ―!!」
「!怒るのはそこか!?」
が先程ぶつかった枕を手に取って政宗に投げた。
も参戦だ。
「殿!危ないでござる!」
「女をなめんなあぁぁぁぁ!」
枕投げが再開される。
もう寝る場などどうでもよくなり、夜はうるさく過ぎていった。
スッと襖が開く。
「失礼します。申し訳ありませんが、そろそろお時間で……。」
「お、時間……。」
のそっと、が起き上がる。
目が合ったのは、宿のお姉さんだった。
「す、すいません、すぐ準備しますので……。」
目を擦った後周囲を見渡すと
「……ぎゃあああ!!!!」
屍の山
……じゃなくて
「みんななんでそんな突っ伏して寝ているの!?起きて起きて!!もう日が昇ってる!!」
全員うつ伏せで寝ている。
「小太郎ちゃんと佐助まで!!おいおいおい!無防備!レア‼」
とにかくみんなを揺するが昨夜の枕投げで体力使い果たしたかのように突っ伏している。
「朝餉の用意ができていますから。布団はそのままで。お待ちしていますから、ごゆっくり。」
「ありがとうございます……。」
宿のお姉さんの言葉に甘え、この状況を使わない手はないなと考え直す。
それほど広くない宿屋だ。
厠や風呂場を借りずに今のうちに部屋の隅で着替えてしまおうとは着物に手をかけた。
着物着るのもだんだん上手くなってきたし、そんなに時間はかからないだろうと、みんなが起きない事を祈りながら着替え始める。
帯を締めて、自分の姿を見回し、問題がないのを確認する。
「よし!」
「ごちそーさん。」
「おおわ!?」
振り返ると佐助があぐらをかいていた
いいいいいいつから見てたんだよー!?
「あ、ごめんごめん、さっき起きたばっかだから安心して。帯に悪戦苦闘してるあたり。」
「い、いや、堂々と着替えた私も悪い……。」
「話しかけなかった俺も悪いしね。」
「着替えてる最中声だして、みんな起きたらもっと厄介。」
「判ってくれるねえ。」
くすくすと佐助が笑った。
「朝ごはん準備してくれてるって。」
「じゃあ、起こすかー……。」
佐助が両手を懐に手を入れて
ばっと
クナイが宙に舞い
全員の顔の横めがけて突き刺さると同時に、全員がばっと起き上がる。
「荒療治……。」
「佐助!普通に起こすでござる!!」
「ごめんね旦那~、いちいち起こすのめんどくさい。」
「猿……まさかにも……って、起きてたのかよ、。」
「おはようございます!!」
政宗は眼帯の位置を確認した後、おはよう、とあいさつを返した。
「のちゅうで起きたかったな……。」
慶次は欠伸をしながら頭をかいた。
小太郎は少しほけっとしている。
「昨夜はやりすぎてしまった……。宿屋の者に詫びをせねば……。」
「お~、しっかりな。」
政宗が手をひらひら振って、だるそうに言った。
「某一人で行けと!?」
「幸村さん!私もいくよ!!」
「殿ー!」
佐助がぱんぱんと手を叩いた
「はいはい、とにかく顔洗って飯!!」
佐助にフライパンとおたまをプレゼントしたいなあとが呟いた。
朝食を頂いて、みんなで(一部強制的に)宿の方々に昨夜は申し訳ありませんでした、と頭を下げ、壊した部屋の修理について幸村さんが話した後(政宗さんと慶次がびくびくしながら話を聞いていた)、出発する。
結局、幸村さんが全額支払ってくれる事になりました。
ありがとうございます、幸村さん……。
幸村が馬に先に乗り、に手を差し出した。
「殿、前へ。」
「え?私後ろでも大丈夫ですが……。」
「大丈夫でござる、さあ、早く。」
は幸村の手をとって、佐助に手伝ってもらって乗った。
「平気?」
「うむ!!」
幸村は、にっこり笑った。
「ちっきしょ……。何だよあいつら……。あんなんで仲良くなって……。」
そういえば小十郎もそうだった。
気が付けばいきなりと仲良くなって……。
「ちっ……気にいらねえ。」
を見定めて拾ったのは俺なのによ。
その政宗の独り言を慶次は静かに聞いていた。
「も人だってことだ!まさか、独眼竜、はこの時代、守られなきゃ生きていけないとでも思ってるか?」
「あぁ!?当然だろうが!あいつ、弱ぇし警戒心ねえし、この時代の常識はねえし!」
「はは!独眼竜は過保護だな!」
「なんだと……?俺は……。」
「は、お前が知ってる以上に強いよ!!」
「……。」
のことは
俺が一番知っているはずだ
一番近くにいたのだから……
「気に入らねえ……。」
「だったら、満足いくまでを見つめてな!そんなもんじゃ何も判れねえと思うけどな!」
……俺は
の何を知っている?
「さあ、早く向かおう!」
「お前が言うな、真田幸村!!」
馬が走り出す。
昨日とは比べ物にならない速さで
「久々にきたなこのスピードー!!!!!」
速いよ――!!!とがを大声を上げた。
怖がるを幸村が腕を回してしっかりと支えていた。
日が沈んで、周囲が暗くなった。
京にはまだ着かない。
「前田殿!まだでござるか!?」
「もーちょい!!止まらずいける!!」
視界は月の光でぼんやりと見える。
「……。」
は無言で空を見る。
「。」
「う、うん!?」
いつの間にか佐助がすぐ隣を走っていた。
「もうすぐ満月、じゃない。まだ欠けてる、だ。楽しもうな!!」
「っ……はい!!」
「当然よお!!……前夜祭は無理だけど」
「まだ気にしていたでござるか!?」
「……。」
「…………?」
政宗は黙っている。
小太郎はその様子を不思議そうな顔をして見ていた。
「慶次!!今夜は?宿とってあるの?」
「とっておきのを用意しといたぜ!!飯は楽しみにしてな!!」
「期待の飯……⁉というとまさか……?」
馬から下りて、京の町に入った。
提灯が所々にあるが、明かりはついていない。
祭りの前であるが、外を出歩いている人は居なかった。
しばらく歩くと、慶次が足を止めた。
頬から冷や汗が出ているので、何事かと全員が警戒すると、前方に見える民家の入り口に、エプロン姿のまつが仁王立ちしていた。
「慶次!!!!!なぜこんなに遅くなったのです!!?」
「まつさん!!」
「ま、まつ姉ちゃん……ごめん、いや、あの、な?話が弾んじゃってな?」
「前夜祭などとうに終わってしまっています!!ご飯も冷めてしまい作り直ししております!!」
「そんな、まつさん、冷めてても構いませんよ?」
「まあ、さんに言ったわけではございませんのに……お優しいのですね。しかし、冷めたものはもったいないのですでに犬千代様がお召し上がりになりましたのでお気になさらず。」
この人数分のご飯を⁉
「は、はあ、では、あの、じゃあ、ね?うん、みんな、まつさんに甘えようか……。」
慶次は、利の腹大丈夫か……?と呟いて、手で顔を覆っていた。
家の中に入って、みんなで改めてまつに挨拶をする。
「まつ殿……お久しぶりです。世話になるでござる。」
「ああ、武田の……いつも慶次が申し訳ありません……。」
「あれ?二人は知り合い?」
……っぽいけどなんか空気が……
「あ、あの、慶次が……その、上田城によく遊びに……。」
「……荒らしに、の間違いでは?」
珍しく幸村さんが強気だ……
「ああ!恥ずかしゅうございます!本当に申し訳ない!よろしければこちらの茶菓子を……‼」
まつが幸村に、いっぱい小さな袋が並べられたお盆を差し出した。
「…………う、うむ、では、頂くでござる。」
幸村は一つ取って、早速封を空けて食べ始めた。
中身は煎餅だった。
幸村さんって餌付けされてるんじゃないだろうかとは心配になった。
「……伊達政宗だ。が世話になったようだな。礼を言う。」
政宗は少し躊躇いながら名を言った。
「あら、お礼を言われる事はしておりませぬ。こちらこそ慶次がお世話になりました。お野菜もあんなに沢山頂けるとは思いませんでしたわ。」
「小十郎の野菜は格別だ。堪能してくれ。」
「ええ、ええ。もちろんでございます!あまりに素晴らしくてどう調理しようか迷うほどです!」
「や~、どうも、改めまして猿飛佐助と風魔小太郎でっす。いやあ、悪いねえ?忍にまでこんな暖か~な歓迎してくれちゃって。」
佐助は表情はのほほんとしているが、口調は少々強い。
「関係ありませぬ。どうか今日は長旅の疲れをここで癒してくださいまし。」
まつはその態度にも気にせずに対応している。
「しかしねえ、あんたらが魔王に報告しないとは限らないよな?」
「え……?」
そういえば利家は織田信長に仕えているのだったとは思い出す。
佐助にそう言われても、まつは動揺することなくにっこり笑った。
「ふふ、私は皆様のお世話をするために慶次に呼ばれましてございます。信用できぬのならば、どうぞ監視してくださいまし。少しでも怪しい行動を取ったならば、お持ちの武器で攻撃してくださいませ。」
「まつさん!!」
「まつ姉ちゃん……!」
佐助はしばらく沈黙した後、お手上げのポーズをとった。
「はいはい、悪かったよ。じゃあ信用しちゃうからね?」
「はい、では、こちらでお待ちになって下さいませ。準備をしてまいります。」
とたとたと、まつが去っていった。
「かっこいいなあ、まつさん……。私もあんな風に……。」
「「「「ならなくていい(でござる)!!」」」」
こくり……
夕食にはふぐやらホタテやら高級な海産物が登場し、が歓喜の声を上げる。
「こ、こんなに食べていいのですか!?」
「あら、遠慮する事はございませんわ。」
「殿!!前田殿が狙ってる!躊躇ってはいけないでござるー!!」
「おわー!!誰がやるか!!ここもある意味戦場か!?」
慶次が箸をの皿にのばしてきたので、急いでその皿を持ちあげて避ける。
「おい、静かに食えねえのか……。」
政宗さん、満足そうですね。
よかったね、良い物食べれてね……
……政宗さんて人の事言えず結構単純だよな……。
そう思い政宗の事を見ていると、死角から箸が伸ばされた。
ひょい
ぱく
「慶次!!あんた……って、小太郎ちゃん!?何してんの?そんなにお腹すいてるの?」
「?」
「いやいやいや!可愛く首傾げないの!!小太郎ちゃんのご飯はこっち……‼」
「小太郎!毒味なんてしなくていい!まつ姉ちゃんはそんな事しない!」
慶次の言葉に、動きを止めた。
「……え?毒味?」
だってだって、え?ちょっと待って?
こんなに、みんなで、騒いで
楽しいなーって思って
なのに、そんな時にも
小太郎ちゃんは毒味なんて
命賭けるようなことして
「??」
小太郎がぼーっと一点を見つめ止まってしまったの頬をつねった。
「こ、こら!痛いから!!」
政宗や幸村や佐助も、食べる前にやたら匂いを気にしていたことを思い出す。
そりゃみんな偉い人だし
戦国時代だからって、思えればいいんだけど
……なんか、嫌だな。
ここでは男女別々に部屋が用意されいたので、は嬉々としてまつの隣の布団に潜り込んだ。
「寝間着姿のまつさん……これまた綺麗だなぁ……。」
「いやですわ、そんな事を言っても何も出てきませんよ?」
まつが髪を小さくてかわいい櫛でとかしているのをはを見つめていた。
「お世辞じゃないです!あの、どうすればまつさんみたいに色気が出ます?」
「まぁ、そんな、照れてしまいますわ。特別なことはあまり……。そのようにさんが言ってくれるとするなら……。」
まつさんがぽっと頬を赤らめた。
「犬千代様の……愛の力でございましょうか……。」
おおっと、のろけだ―!!
……ちなみに利家さんは食べ過ぎで倒れているところを慶次に救助されました。
「さんは、好きな殿方はいらっしゃいますの?」
「え、いや、その、みんな……好きです。優しくしてくれて……。」
聞かれるとは思わず、かなりどもっておかしなことを口走った。
まつは動揺するに優しい笑みを浮かべた。
「いつか、さんにも、心から愛せる男性が出来ますわ……。」
「だと、いいのですが……。」
想像つかないな……
今までの人生、交際とかは無縁で……
「慶次でしたら私は嬉しいのですけれど。」
「なっ……。」
「ふふ、一つの選択肢として考えてやって下さいませ。」
まつも就寝の準備を終え、布団に入る。
横になる前に、の方を向く。
「でも、さんは今のままで十分魅力的ですわ。それ以上何をお望みに?」
「え!?そ、そんな事ないですから!」
顔が赤くなるに、またにっこり笑う。
「明日は、思い切り楽しんできてくださいね。」
「は、はい!!おやすみなさい!!」
がばっと布団を頭から被った。
佐助と小太郎は警戒して、天井裏で寝ている。
政宗と幸村は慶次の部屋に用意された布団で横になっていた。
まつと会えたことで気が緩んだのか、慶次は気持ち良さそうに大の字で寝ている。
「政宗殿。」
「んだよ。」
布団の中で、右を向いたり左を向いたり、落ち着かない政宗に幸村が起き上がって話しかけた。
「今日はゆっくり寝たほうがいい。明日、そなたが疲れた顔してたら、殿だって楽しめぬ。」
「……なんで俺次第であいつの気分が変わるんだよ。」
その返答に幸村がむっとした。
「判らぬなら、結構でござる。」
「俺はよ。」
幸村の機嫌はお構いなしに、政宗が話し出す。
天井を見つめたままで。
「あいつに、飯を食わせて、この時代で、居場所与えてやった。」
「……う、うむ?」
「恩着せるつもりはなかったが、頭ん中は飼い主気取りだ。んなこと、誰でも出来んのにな。」
「政宗殿?」
「もし、てめえのとこにが来ていたら、歓迎してたな?」
「まあ……最初は警戒はするだろうが、あの人となりを見れば敵ではないと判断するのに時間はかかりませぬ。身寄りがないと言われれば、お館様に言って……。」
「だろ?」
そう言ったきり、政宗は黙ってしまった。
「ま、政宗殿、某は、意味が判らぬ。どうなさった?」
「……俺は、あいつのために何が出来る。」
自分に問いかけているような口調で
「あいつが隣に居ると、楽しい。」
眉根を寄せて
「そんな、形のないものもらっちまったら、俺は何を返してやればいい?」
眼帯に触れて
「あいつはまた、知らないところに現れて、不安な想いするんだろ……俺に会いに、また今回みたいに苦労して……。」
手に力が入って
「ちきしょ……あいつのために、俺にしか出来ない事、あいつのためになる事……何かしてやりてえのに……。」
眼を閉じて
「何も思いつかねえ……。俺が持ってんのは、あいつにゃ迷惑になるような感情ばかりだ。」
苦しそうな声で
ああ、この男は本当に
「阿呆でござる。」
「あァ!?」
その言葉に政宗が飛び起きた。
「勘違いでござる。殿は、某に会いに来るでござる。政宗殿はついででござる。」
「なっ……何言ってやがる!!てめえこそ勘違いだ!!」
幸村は仰向けに寝転び、後頭部で手を組んだ。
「先ほどの言葉、殿に言えばいい」
「ふざけんな!!誰が言うか!!また可愛いとか訳判んねえ事言い出すに決まってる!」
「そして、笑って、喜ぶのであろう?」
「そりゃ……。」
容易に想像できる。
「殿の情報は得たら必ず伝える。そなたが悲観的でどうする?……くだらぬ。寝る。」
幸村は布団を勢いよく被り、眼を閉じた。
「うるせえっ……!!判ってんだよ……!!」
政宗も布団を頭まで被り、目を閉じた。
幸村は一つ学んだ。
恋は人の心を乱し
強く強く、眼に見えぬところで輝いて
こんなにも暖かい