京の祭編 第5話



笛や太鼓の音が聞こえ始め

人通りが多くなり

店が活気づいてきて

それを眺めながら男たちはが出てくるのを待っていた。

「いや~、いいよなぁ、こういう時間!絶対綺麗になって出てくんぜ!すっげぇ楽しみ!」
「おい、前田慶次、本気で言ってんのか?」
「ん?当たり前じゃん?」
「俺にはげっそりして出てくるの姿が想像できる……。」

政宗が玄関先に座り込んで遠い目をした。
先ほどから、が準備してる部屋からは

「まままままつさんそんな気合い入れなくていい―!」
「だめです!このかんざしは絶対!!」
「ちょちょちょ……あ―!女中さん!チークは自分で……いや、もっと淡いの……薄化粧でいいですから―!!」

すごくネタバレしていた。

朝、は朝食が終わったと同時にまつに連れ去られていった。
はいつも通りで良いと何度も大声で主張したのだが、まつは全く気にしなかった。

そんなまつを見て、慶次はまさか俺らも……!?と危機感を露にしたが、まつは、男は勝手になさいませと爽やかに言い放った。
そのため男はいつもの格好だ。

慶次が、祭りにはいろんな奴が集まるから、そんなに目立たないし気にする奴も少ないから大丈夫だ、というのでいつも通り。
祭りが終わればすぐ戻る予定の幸村と佐助には好都合だった。

「政宗殿、ちぃくとは何でござるか?」
「頬紅らしいぞ。」
「なるほど、うむ、殿は淡いのが似合う!良い選択でござる殿!」
「旦那、詳しくないのにそんな事言ってると、が照れ隠しで、幸村あんたも淡いのが似合うぜ!とかいって旦那の顔に化粧しだすよ?」
「ひ、否定できぬ!!やりそうでござる!言うのやめる!!」
幸村が本気で怯えた。


ガラ
「お待たせいたしました!完璧でございます!」
まつが非常にさわやかに扉を開けた。
まつの後ろからがひょっこり顔を出す。

「またせてすいません……。」
「おぉ!」
「いいじゃん!」
「……(こくこく)」
「綺麗だぜ!うわ―やっぱいいなー!!」
「うぅ……恥ずかしい……言わせてるみたいでごめん。」
「本心でござる!」

髪はおだんごにして、首もとが少し空いて鎖骨が見える蓬色の着物を着ている。
メイクはナチュラルだが目や眉は人形のように整っていて、潤んだ唇には自然と目線がいってしまう。

「へぇ、可愛いじゃねぇか。」
「!」
幸村は驚いて政宗を見た。

政宗殿……ついに殿に積極的に……

「政宗さんまで……あ、ありがとう。」
「すげえ可愛い。10歳くらい若返って。」
「嬉しくなかった!!10歳って子供的な可愛いじゃないっすかコラー!!」

……政宗殿

お主は本当に阿呆……

ああ、ほら小太郎殿が慰め始めているではないか……

小太郎殿に取られるぞ……

「……。」
自分で思って、心の中で嫉妬してしまった。

「ようし!行こうぜ!そろそろ神輿も出てくるしな!」
「神輿!?見たい見たい!!」
が小走りで前に出た。
「おい、!走るんじゃねえ!」

政宗が咄嗟にの腕を掴んで止まらせた。
「え、でも……私歩くの遅いし……。」
「お前に合わせるっての!折角着飾ったんだから、乱すようなことするな。」
「す、すいません。ありがと……。」

おいおいおいおいおい
なんだかんだ言って
気に入ってるんじゃないか

「佐助……某だんだん、いらいらしてきた。」
「まあまあ、安心じゃない?旦那にも入る隙あるしさ。」
「む……そう言われてしまうと……。」
「俺にもあるし。」
「な……佐助!?」
「ん?何?」
「佐助……殿のこと……。」
「どうだろね?いい子だよね。」
「うむ!良い子……でなく!!佐助!誤魔化すな……って、ああ!!小太郎殿が凄い殺気でこちらを向いているぞ!!」
「あ!忘れてた!!……ってゆか、小太郎!お前は保護者か!!」
「……。」
「お前に言われたくないとか言うな!!」
「三人ともー!!何してるの?早く行こう!!」
叫ぶの元へと急いで駆け寄った。



神輿が男達に担がれ、大通りを進む。
慶次が近寄ると、皆が慶次の名を呼び、さらに盛り上がった。
彼が男女問わず多くの人に好かれていることは一目瞭然だ。
慶次が神輿によじ登る。

「おらー!!乗せろー!!」
「ぎゃはは!!慶次!!重いっての!!この目立ちたがり!!」
「今日は特別な人が来てんだ!!目立たせろー!!」
「本当かー!?なら話は別だー!!いっくぜー!」

大きく神輿を揺らし、大声を上げ、皆が足を止めてその騒ぎを笑みを浮かべながら見ていた。

「わー!!慶次すごー!!目立ちすぎー!!」
が慶次に手を振って叫ぶ。
慶次もさわやかに笑って手を振り返す。

「じゃあ、前田慶次はあのまま置いていこう。」
政宗の無情な一言。
「え!?酷い!」
そしての腕を引っ張る。
「竜の旦那!!勝手に進むな!!人が多いからはぐれる!」
「はぐれりゃ二人きりか?」
「おい!…!…あ~、もう……はぐれたら、あの木のとこに集合な!!」
佐助は町の中央あたりにある、大木を指差した。
慶次にも伝わったようで、両手で大きく丸を作っていた。
と、同時に
「よっと」
「あ?」
「な……‼」
「佐助!?」
「!!」
佐助が政宗からを奪って、どこかに消えていった。

「あの……あの猿……はぐれるどころじゃねえだろ……あいつ……‼」
油断していたとはいえ、手にしていたものを奪われるとは屈辱と政宗が憤る。
「佐助……何をしているっっ!ああ……小太郎殿も消えてしまった……‼」
「……まあ、いい。」
「政宗殿?」
「行くぞ。」
「……ど、どこに?」
「行くんだよ!!」
「ちょ、それ髪でございます引っ張らないでくださいませ!!そしてどこへー!!??」
幸村の髪を引っ張って、政宗が人ごみの中を進む。




「佐助ー!!急にどうしたの!!みんなで遊ぼうよ……って、わああああああ!!!!」
どこに来たかといいますと

空。

「高い高い高い!!!」
佐助はを片手で担いで、もう一方の手で黒い鳥に捕まっていた。
「空中視察。へえ、こんなにちゃんと見たのは初めてだ。京か……こんな形で来れるとはね。」
佐助は至って普通に下を見ているが、は血の気が引いて、眼を開けられないでいた。

、しっかり見るんだ。」
「ででででも……。」
「ここが京。出来る限り覚えるんだ。この地を踏んだら、前田の風来坊を探す。いいかい?」
「あ……そ、そうか、そうだね……情報は多いほうが……でも……た、高い……。」
「うーん、仕方ないな、もう少し高度落とすか。」
ゆっくり降りていく。
ここら辺でいい?と佐助がに話しかける。
が眼を開けると、下に華やかな京の町が見えた。
今度は人通りもきちんと見えるくらいの高さだ。
「わ……綺麗だね……。お祭りだからってだけじゃないね……。」
「そうだね、覚えた?」
「……うん、雰囲気は。」
「あらら、優秀だね、。後は、歩いて覚えましょうか。……よっと!!」
「ほあ?」
佐助は私がGoogle●apの記憶と照らし合わせているなんて思いもしないよなと思っていると、佐助が鳥から手を離すのを視界に入れても気の抜けた声しか出なかった。

「ぎゃああああああああ!!」
落下。
を両手でしっかり抱きかかえて着地。

「へーい、ただいま小太郎。」
「……。」
着地した場は先ほど佐助が指差した大木の近くだった。
そこに小太郎が腕を組んで寄りかかって居た。
は口をぱくぱくさせていた。

「あれえ?旦那たちもすぐ来るかと思ってたけど……。仕方ないな、じゃあ、三人でとりあえず……。」
「俺が居なくてどうするよー!!」
慶次が勢いよく走ってきた。
この四人で行動というのは

……未知だ。







「政宗殿。」
「文句あんのかよ。いいから買え。」
「政宗殿には息子がいらっしゃったのか?」
ガツン

呉服屋で政宗が幸村を盛大に殴った。

にだよ!」
「痛いでござる!なぜ殿に!?どう見てもこの着物は男物ではござらぬか!」

先ほどから眺めていたのは一般的な男物の紺色の着物だった。

「あいつに、次来るときは男装させる。なら遊郭に売られる心配も、そこら辺の奴に犯される心配も少しはなくなる。」
殿が男装……できるのか?」
「あいつならやれと言えばやれる!化粧で何とかなるだろ。」
「体格で判ってしまうのでは……。」
「ガキに見えればいい!」

なんと政宗殿……
昨夜あれだけ悩んで出た結果がこれ。
しかも殿が居ないところでこっそり購入?
どうせ、殿に悪態をつきながら渡すのであろう……?
どれだけ素直でないのだこの男……。

「うむ、そうでござるなぁ……。では購入するでござるよ。この色でよろしいのだな?」
「あぁ、頼む。戻ったら金は返す。」
「いらぬ。殿が無事見つかったと、その報告を待っておる。」
「……判った。」
「……。」
「……。」

二人が顔を見合わせた。

「……不思議なものだな。」
「全くだ。」

敵国のものであるのに、が真ん中に居れば、近い距離で共に歩ける。

幸村の顔を見ていると、政宗の頭に同盟という言葉が浮かんだ。
しかし、頭を振って、消す。

まだ、その期ではない。





「わー!!慶次上手いー!!」
「まあなー!!」
慶次は町人と一緒に踊っている。
は座って手でリズムをとりながら、楽しそうに眺める。
「ほいよ、小太郎、一杯くらいいこうぜ~。」
「……。」
佐助と小太郎はその隣で酒を嗜んでいた。

「慶ちゃんの恋人さんかい?これお一つどうぞ。」
「ち、違います!!……あ、ありがとうございます」
は店の気のよさそうなお婆さんから羊羹を受け取った。

「おっと、やっと来たよ、旦那たち。」
政宗と幸村が揃って歩いてくるのに一番に気付いた佐助が手を振る。
幸村が手を上げ返していた。
政宗が手に風呂敷を持っていたので、買い物でもしていたのだろうか。
「政宗さん、良い食材が手に入りましたか?」
「何で開口一番それだよ!?うるせえ!気にすんな!」
「……(政宗殿……いつ渡す気でござるか……?)」

政宗の目線が佐助に向けられる。
「おう、なんだおい、俺にも飲ませろよ。」
「はいはい、どうぞ、竜の旦那。」
佐助が幸村と政宗に盃を渡す。

、酌。」
「某もよろしいか!?」
「はーい!」
「俺も俺も!!」
慶次も踊りの輪を抜けて、走り寄ってきた。
慶次が一杯勢いよく喉に流し込んだあと、どっかり地べたに座った。

「今回は特別にな、夜に花火上げるんだ。」
「花火!?わあ!楽しみ!!」
「花火だあ!?貴重な火薬使って……本気かよ!?」
政宗が呆れた様な顔をした。

「なんで文句がでんだよ!いいじゃねえか!織田のおっさんにも火薬分けて貰ってよ。」
慶次と以外の全員が、ぴくりと反応した。

「信長が火薬を……?」
「太っ腹でござるな……。」
「気に食わないねえ……余裕ありってか?」
「知らねえよ……全く、ピリピリするなよ……!楽しみにしとけ!」
「うん!!」

ドン ドンドン ドン

若い衆が息を合わせて太鼓を叩く。

その光景を全員で眺めた。






ぱちぱちぱちぱち

一通り終わると、拍手が起こる。

「かっこよかった!!」
が嬉しそうに感想をいった。
その様子を慶次が嬉しそうに見ていた。

「よし!!じゃあ一通り回って、そしたらあそこ行くぞ!」
慶次が小さな山のふもとに見える、川を指差した。

「あそこが一番、花火がよく見える!」

そこで、を見送ろう。

口には出さなくても、全員の思考は一緒。

全員立ち上がり、京の町をゆっくりと歩く。




お店を見て騒いだり、
若い兄ちゃんにぶつかって喧嘩吹っかけられて、殺る気満々な政宗さんを止めたり、
財布を気にする幸村さんを慰めたり、
人ごみがウザくて、屋根に上りたがる忍を必死に抑えたり、
酒飲みすぎな慶次をどついたり、
楽しんでいたら、時間はすぐに過ぎて、辺りが暗くなってきた。


「おうし!そろそろ川原に……って?」
先頭を歩いていた慶次が、お祭りは一通り周ったし、あとはゆっくりしようと声をかけるために振り返る。

「え⁉」
しかし5人が消えている。
ついさっきまで気配があったのにどういうことだ!と慌てて周囲をきょろきょろ見回す。
しかし別の人間を視界に捉えると、ああ、なるほどな、と納得した。

「おまえ……‼」
「おう!!ちんまいの!!」
「馬鹿にするな!蘭丸って、ちゃんとした名前がある!!」
気分を害したようで、蘭丸が頬を膨らませた。

その後ろに、長い白髪、蛇を思い出させる風貌。

「こんばんは。」
「光秀……。」

皆が居なくなった原因はこれか
というか
「何だこの組み合わせ!?」
「おやおや、おかしいですか?」
「おかしい!!」
「蘭丸様は、信長様と、濃姫様と来たかった!!」
「無理だな~!!大騒ぎになるな~~~‼!!!」

しかし信長と濃姫どころか、蘭丸と光秀だってこんな祭りに興味はなさそうだ。
不思議がる慶次に、明智の口がゆっくりと動く。

「本日の花火……拝見しにね……。」
「んなもん見たがる趣味があんたにあったのか?」
「信長様の火薬で作ったんだろ!?蘭丸は、花火というものを見たことないから……。」

蘭丸が目を輝かせた後、ちらりと光秀を見て、がくんと項垂れた。

「けど、何でこいつと……信長様が、一人じゃダメって……。」
なんだかんだで、おっさんはこいつの事可愛がってんだな……。
……いや!!
そんな事考えてる暇はない!!
これはまずい……
うまく離れたいが……
もし、他の奴らとこいつらが出くわしたら……
俺が一緒に行動して監視したほうがいいか?
いや、判らないか?

考えを必死にめぐらすが、二人には気づかれないよう顔はへらへらと笑い続ける。
ゆっくりと光秀が慶次に近づいた。
「な、なんだよ?」
「聞きましたでしょう?蘭丸が、北の農村で、一揆勢に敗北して……それで蘭丸はひどく落ち込んでいまして。」
「お、おお。」

……が協力したってやつか。

「クク……私はただ連れてけと言われただけですがね。信長公は、花火を見せて、元気付けようとしているのでしょう……。お優しいですね……。」
「本当かよ……そりゃ良い話だ……。」
「一番、よく見えるところは、どこでしょうか?」
「そうだなあ……。」

蘭丸はの顔を見ているかもしれない。
絶対に会わせてはいけない。

「こっちだ。」

川原とは反対方向へ歩き出す。