逆トリップ編 第1話



「慶次が……慶次が……。」

現代に戻ってきてしまった。
何が起こった?
どうなってしまった?
戻りたい……
戻って、慶次のところに駆け寄りたい。

「落ち着け。」
大きな手が頭を撫でてくれる。
混乱のまま流れる涙を指で拭ってくれる。

「前田殿は、大丈夫でござる。急所をやられたとは思えなかった。」
優しい声で、言葉を発してくれて、

…………え?

「ま、政宗さん……幸村さん……?」

あれ……?ここ……マンションの私の家ですよね……?

「まさか、来れるとはな……。」
「ここが、殿の住む未来?」

連れてきてしまった……?

ちょ……

ちょっと待て……

どう見ても戦国時代へ向かう前にいた場所と同じ光景だった。
家の玄関に三人で座り込んでいた。

「どうなって……?」
ぺたぺたと手のひらで政宗と幸村に触れる。
ちゃんと体がある。

!!!』
窓には変わらず氏政が張り付いていた。

「爺さん!!」
急いで駆け寄って、窓枠に貼っていたお札を剥がす。
近くの神社で気休めで買ったものだが、氏政が入ってこれないということは効果があるのだろうか。
氏政がスウ、と壁をすり抜けて部屋に入ってくる。

『何……何事じゃ……?』
「こっちの台詞だよ!!何で二人がこっちこれるの!?」
『お主の力としか、言えぬだろう!?』

視線を二人に向けると、を不思議な顔をして見ていた。
殿、どなたと、会話を?」
「ジイサンがそこにいるのか?」

二人には見えていないようで、氏政がいる場所より政宗が右側、幸村が上方に視線を向けていた。

「い、いる、ここに……。」
指をさしてみるが、二人の表情は変わらない。
それは見えないなら仕方ないと諦め、氏政に視線を戻した。

「爺さん!!今すぐ戻して!!」
『む、む無理じゃ!!』
「ご先祖様に頼んで!!お願いだよ!!私のせいで、私のせいで慶次が……!!」
『慶次……?前田のか?何があったのじゃ……?』
「お前のせいじゃない!!落ち着け!!っ……!!」

政宗が立ち上がるとすぐに表情を歪ませる。
頭に手を添えて倒れこんだ。

「ぐ……政宗殿もか……。」

二人とも頭痛がするようで頭を抱えていた。
「二人ともっ……!!」
慣れない手つきで武器と防具を外し、肩を貸して立ち上がってもらって、ベッドへ運んだ。

といってもセミダブルベッド一つ……
きついでしょうが、我慢してください……

「頭痛がするの?」
「……ガンガンするぜ……。」
は頭痛などしない。
こっちに来てしまった事による症状だろうか。

『……そやつらは、のおかげでここにいるのだろう。』
「!!」
『それに、、お主の力が、明らかに強くなっている。』
「どういうこと?」
『それは……。』

ピピピピピピ

「わ!!」
目覚ましが鳴って慌てて止める。
「うるせ……。」
「ごめん!!」
!ひとまず大学じゃ!!』
「えっ⁉」

二人の様子を観察する。
顔色はそれほど変わっては居ないが、呼吸は少々荒い。
苦しそうで、不安になる。

「二人の事、放っておけない。」
『休むのか!?』
「一日くらい、平気。」
『真面目なお主らしくない!二人の事はワシが見ている!だから……。』
「こんな状態で大学行ったって、落ち着いて勉強できるわけ無いじゃん!!」

考える事が多すぎて、頭が混乱してしまって叫んでしまう。

「……行け。」
「!」
政宗が、小さくも凛とした声でそう言った。

「俺たちのこと理由にして、やるべきことを放棄するな。」
「でも……。」
「大丈夫でござる。一眠りすれば治るでござる。よく判らぬが、やらなければいけないことがあるなら、行って下され。」
「……。」
……。』

着替えを持って、シャワールームに入る。
急いで、身支度を整えて、冷蔵庫を開ける。

「政宗さん、幸村さん、この箱の引き戸開けると、飲み物あるから、のど渇いたら、これが蓋で、捻って空けて、飲んでて!」
ペットボトルの説明だった。
いいかげんだなあと思ったが、実際に空けて見せると政宗さんがOKサインを指で出した。

「朝ごはんは……。」
「腹減ってないから平気だ……。」
「そ、そっか。爺さん、じゃあ、何かあったら私に伝えに来てよ!!」
『任せろ!』

家を出て、しっかり鍵をかけた。

慶次のことは、きっと佐助と小太郎ちゃんが助けてくれる……
でも、でも、

心配だよ……









がちゃりと音がした。
何の音だろうかと疑問を持ったが、後でに聞けばいいかと思い、目を閉じる。

「政宗殿……。」
「何だ。」
「来てしまったな……。」
「ああ……。」
「あの、暗闇、某らは避ける気になれば避けれたな……。殿だけを狙っていた……。」
なのに、まんまと飲み込まれて
「……あんな、放って置けるか……。」
「確かに……それに、正直、興味もあった……。」
「まあな……。」

互いに、安易な行動を取ってしまった。
自分の立場を忘れたわけではないが、闇にのみ込まれることを選んでしまった。

「ここで、視野を広げれば、何か良い思考が浮かぶかもしれねえ。」
「前向きに考えるか……何かを得て帰れれば良いが……。」
「ちょっとした留学だな……。」

何があるのか判らない未来。
本当に戦は無いのか、
ここにいて、何も心配はないのか、
知らないことだらけだが

「政宗殿……。」
「な……んだよ……静かに……。」
殿の、匂いがする……。」
「そりゃ、そうだろ……。」


信じられるものが、一つ。










掲示板の前では目を見開いて困惑する。
本日の講義は1限から3限までの予定だ。
早く帰れる、
が、
「2限休講!?」
あまりに微妙すぎて動揺する。

……家に、一度帰ろうか?
だってここで二人のために出来ることはないし……
そうだ、冷えピタでも買って……
……熱出てる様子はなかったなでも……
痛み止めの服用ってどうなの……?戦国時代の人って……?副作用とかでない??
えぇと……

「休講をそんなに悲しむのはくらいだぜ?」
後ろから肩をぽんと叩かれた。
……。」
「な、車出すから、2限の時間遊ばない?」
「遊ぶって……。」
そんな場合じゃないと眉根を寄せてしまう。

「といっても買い物付き合ってくれって、俺の勝手なお願いだから断っても傷つかないけど。」
肩をすくめてが笑う。
「買い物?」
「スマホぶっ壊れて今日受け取りなんだ。ついでに服でも買ってこよっかなと。」
「服……。」

そうだ、服……
洋服買わなきゃ、二人外歩くの厳しい……

「その際に女性の意見を聞けたら嬉しいでーす。コーヒー奢るからさ~。」
「行く!行く!」
「おぉ!嬉しい返事!じゃあ1限終わったら、ラウンジで会おうぜ!」
手を振ってと別れる。

ナイスタイミングだぜ!!
サイズは、LかLLで大丈夫だろうか?
政宗さんは何でも似合いそうだな。
幸村さんは赤が好きかな?
お金いくら下ろそうかな……

「よし!」
気合を入れて、1限の授業へと向かう。

とにかく、今出来る事をやろう。





が連れて行ってくれたお店は、それほど高い店ではなくての財布に優しかった。

「……。」
「はい?」
「何でお前が男物買うんだよ……?」
「え?」
「しかもなんで俺がトータルコーディネートだよ?」
かっこいいから間違いないかな~と……。」
「棒読みじゃねえか!」

男の人の格好の流行りなどがよく判らないは、二人のイメージを伝えて選んでもらったものをそのまま購入した。
二人分を持つのは重くて幸村の分の荷物を持ってもらい、車に向かう。

「授業、まだあるだろ。車にその荷物乗せたまんまでいいから。」
「ありがとう。じゃあ、帰るとき取りに行くね。」
「送る。」
「へ?」
「重いだろ。」
「ま、まあ……わ、悪いね……。ありがと。」
「今度昼飯おごってくれ。」
「了解!!」

彼の優しさに感謝する。
後部座席に荷物を載せて、また大学へ向かった。

「で、あれ誰の?お前彼氏いたっけ……?にしてもあれは貢ぎすぎだろ……別れろよ。」

その言葉を聞いて笑いそうになる。

貢ぐというのは、なんか間違っちゃいないな……
年貢だ、年貢。
殿、これで勘弁してください!!だ。

「いとこのお兄ちゃんがうちに遊びに来るんだよ。手ぶらで行くから、金払うから着替え買っといてって言われて。」
「そうなのか?じゃあ、俺ちょっとプレッシャー感じるぜ……。」
「文句は言わせないよ。」
「はは、頼んだぜ!」

薬局にも寄ってもらって、眼帯を購入して大学に戻る。
時間はギリギリだった。


3限の授業中に氏政がやってきたから何事かあったのかとは警戒したが、二人とも寝てしまって退屈じゃ~と言ったので殴りたくなった。

『そのままで聞いてくれ、。』

爺さんが頭上から言葉を発した。
小さく頷いた。

『お主の力が強くなった、と言ったな。』
「?」
少し爺さんの顔を仰ぎ見た。
申し訳なさそうな顔。
すぐ首を戻す。

『原因はよく判らんが、やはり、今回の事が関係しているのであろうな……。考えてみれば当然かもしれぬ。そなたは直にご先祖様の力に触れて、第六感を駆使して存在して……。』

開花というか、強くならなくてはいけなくなったから引きずり出されてる、ってことか?

『……これから、今まで見えなかった微量の魂まで見えてしまうかも知れぬな……。』
「……。」

しかし、そのおかげで政宗さんと幸村さんはしっかりと存在しているのだろう?
感覚は分からないけど、二人分なんて、今までの私の力じゃ、無理だったんじゃないかと思う。

『……すまぬな。』
首を少し振った。

そんなのいいから、さっさと戻って二人の様子見てて!!

ノートの端に、すばやくそう書いた。

『承知したぞ!!』

氏政がふよふよと浮かび上がって、天井へと消えた。
は、教授の話をメモしながら、二人への食事は何が良いのか考えていた。