逆トリップ編 第5話



政宗さんと幸村さんが来て初めての日曜日!
何か思い出に残る日にしたくて、人気スポットからどこへ行こうか熟考したんですけどね!
服とか買いまくって金がないから入場料高いところ無理だったんだよね!!!!!!!


「いやぁ、水族館なんて久しぶりだなぁ~。」
悩んだ末、政宗も幸村も、海とはなかなか縁がないようだったので水族館を選んだ。
深海の研究が進むのは二人の時代よりずっと後の話なのだから、未来でしか見れない場所だ。
このあとは観覧車にでも乗って、未来の景色を見せたいという計画だ。

「うおお……。」
「……真田さん。」
「あれがサメ……かっこいい……。」
「真田さん……あの、落ち着いて。」

幸村はゆっくり泳ぐツマグロを夢中で見ていた。

「泳ぐ姿を見るのは初めてだ……凛々しいお顔だ……。」
「……。」
「あ、行ってしまった。またこちらに来るだろうか?」
「うん、来ると思うよ。」
「もう一度拝見したい……。」
動きそうにない。

「伊達もしばらくここでいい……?」
といいながら後方を向くと、先程までいたはずの政宗が居なかった。

「え……、ちょ、真田!ここにいて!!」
「うむ……。」

そう言わなくてもずっといそうだが念のためだ。
政宗が行きそうな場所を考える。
もしくはここまでのルートで足を止めてしまいそうな展示。

クールなものか?

何だろう……クールなもの?

「あ!」
悩みながら歩いていくと、それが思いつくより先に政宗本人を見つけた。
体格と眼帯だけでなく、女性同士で来ていたグループに遠巻きに見られていて目立つ。

あの人かっこいい~と言われているのだろうか。
そうでしょうそうでしょう、政宗さんはかっこいいでしょう、とはなぜか自慢げになる。
そしてナンパから守らないと‼と意気込んで、何かを見つめる政宗に近づいた。

「何見てるんです?」
……。」

隣に並んで政宗が見ていた先には、可愛い可愛い生き物がいた。

「ペンギン……?」

意外だ。

「ペンギンて言うのか……。」
また見つめだした。
ぺたぺた歩くペンギンを目で追う。

「……。」
「……。」

一匹がざぶんと水の中に入り、素早く泳ぐ。

「おお‼やるじゃねえか‼」
「やるじゃねえか?」
「不器用に歩いてるから心配になってたらよ、水の中じゃあんなに速えのか‼」

いやなんと可愛い感想だろうかとはびっくりする。
ひょこ、と顔を水から出すと、きょろきょろしながらパタパタ泳ぐのが政宗のツボにはまったのか、目を細めて笑い出した。

「うわ、これマジかよ‼可愛いな‼」
「う、うん、可愛いよペンギンも……。」

政宗さんもね……という言葉は飲み込んだ。

動き回るペンギンが少なくなってきて、政宗はやっとペンギンから目を離してを見る。

「なあ、ありゃ寝てるのか?」
「寝てるね。」
「ほお、立ったままか。俺には出来ねえ芸当だ。やはり立派な奴らだ。」

は笑い出しそうになるのを必死にこらえた。
政宗は絶対に真面目に言っている。

「真田は?」
「鮫を見てる。まだ見てるよ絶対。」
「さっきのでかい……水槽?だな。じゃあ、行くか。」

休みの日は人が多い。
は政宗とはぐれないようにジャケットの袖を掴んだ。

「こっち……」
「Wait,wait」
「え?」

まだ何かあるのかと政宗の顔を見上げると、人ごみの中で何かを見ていた。
袖を掴んだの右手首に左手を添えて外す。

「?」
「こう……?」
右手と左手を合わせて大きさ比べでもしようとしているのかと、はされるがままにしていると、政宗が手を少しずらしての指の間に自身の指を入れてくる。
「え⁉」
「こうして、こうだな。」
の手を握って、下におろす。

もうわかった。政宗は恋人繋ぎをする男女を見ていたのだ。
政宗の手は少し冷たかった。

「よし、行くぞ。」
「待った!こ、この手の握り方はですね……。」
「あぁ、気に入った。」
「き、気に入ったとか、そうじゃなくて……!」
「いいじゃねぇか。真田の前ではやめればいいんだろ?」

良いとか悪いとかじゃなくて……
政宗さんの手にすっぽり自分の手が収まってしまっていて
ドキドキしてしまうではないですか……

「……お前もああいうこと、よくやってんのか?」
「……え?どういう?」
恥ずかしくて下を向いていたので一瞬反応が遅れながら、政宗の声に顔を上げる。

指さす先には

「うっ……‼」

照明の暗い壁際で、数回のチークキスをするカップルがいた。

普段ならスルーするところだが、公の場でやるんじゃねえええええ!!と、飛び蹴りをしたい気持ちになってしまう。

「し、しない……‼早く行こう!真田が待ってるよ!」
「何でだ?恋人同士、さっきからたくさん見かける。自由に恋愛が出来るんだろ?何でお前はしない?」
「何でって……。」

からかわれているのではない。政宗はこの話をやめるつもりはない。
立ち止まってしまって、が手を引いてもびくともしない。

「霊が見えるのを気にしてんのか?」
「そんなの隠し通せるよ……。」
「……相手に言う気はねぇってか。じゃあなぜ?」

政宗がそんなに知りたがる理由は分からないし、だって別にそのことに大そうな理由があるわけではない。
恋人を必要としない人だっているのだ。
でも、子孫を残すことが普通の環境で育っているだろう政宗に伝わるのか?

「自由に恋愛は出来るけど、必ずしなきゃいけないわけじゃない。」
「世の中の話じゃねえ。お前の話を聞いている。」
「私は、初恋は、告白せずに終わったし……。」

そこまで言って、なんでこんなところで自分の恋愛惨敗話をせねばならぬのか⁉と気付くが、政宗は最後まで聞くまでここを動かなそうだった。
展示と展示の間の空間で、人通りの邪魔にならないのが救いだ。
会話を聞かれたくなくて、政宗の傍に寄る。

「で、次に好きになった人には、すでに相手がいたの。」

奪い取らねぇのかとか根性無しとか言われるかと思ったが、政宗は黙って聞いていた。

「それ以降は、特になかったかな……。どうも臆病になっちゃって、積極的にいけなくて……。」

制服デートが羨ましくなかったかと言われれればそんなことはなかったが、どこか冷めていた。
言う気はなくても、どうせ、霊が見えると言えば天然不思議ちゃん扱いで離れていくんだろう、と思っていたのかもしれない。

「ごめんね。面白い話は全然ないんだ。」
「……そうか、お前はしてないんだな。……信じるぞ。」
「信じる……?」

どういうこと?と頭に疑問符をたくさん浮かべながら政宗を見上げると、先程までの真面目な顔は気が抜けたように優しく笑っていた。
と繋がれた政宗の手がゆっくりと暖かくなっていった。

それは無意識にも安心したことをに伝えていたが、二人とも気がつかなかった。

「……。」
「……。」
そこから先の言葉が出ず、見つめあって沈黙してしまう。

「……さ、真田のところ早く行こう。」
もちろん先に耐えられなくなったのはだった。

「別に置いてったってあいつなら探せるだろ。それまで二人で回ろうぜ。」
「は!?なにいっちゃってんの!?」
「真田だってガキじゃねぇ。」
「いやでも合流しないと……‼」

抵抗するに、政宗が逃がさねえとばかりに手を握る。

「まっ、オ゛ッ……‼」
「ん?」

の口から普段聞くことのない謎の声が出る。

「手っ……!いったい……かんべ……おゆるしをっ……!」
「ah?」

政宗の握力がを襲う。
耐えきれず膝を地に着けてしまうと、水族館のスタッフがどうされましたと近づいてきて、政宗は手を離した。
は咄嗟に大丈夫です、と笑顔を向けて立ち上がった。

「どうしたんだ?」
「あああああいやどうしたもこうしたも良く考えたら伊達さんって刀を指の間に入れて振り回してませんかそれかなり指の力強いですよねえ今ぎゅってしたのほんっっと指の骨がどうにかなるんじゃないかと思いましてひいいい私の手無事‼なんとかおっけー‼」
早口でまくし立てるに、政宗は自分の手を見る。

「そんなに痛みが……。ということは他の奴らも痛みを耐えながら繋いでいるということなのか?」
「いやなんでそう解釈したか謎謎謎の謎なんですけど政宗さんの手が異常なんであって、皆さんはこう、愛をこめて、こう、ふわっと、ふわっとね⁉繋いでいるはずなんです!!」

は自分の左右の手で指を絡ませて再現して見せる。

「愛……。」
「なんでそんな愛に眉根寄せた今⁉」
政宗は話に聞くザビー教を思い出したからだったが、はそんなことは分からなかった。

「じゃあ、頼む。」
政宗がに手を差し出す。
「このくらいでいいんだよ。離れなければいいんだから。」
が政宗の指に自分の指を軽く絡ませる。
「分かった。行こう。」
「ならよし!行こう!!は⁉」

流れでまた恋人繋ぎを今度は自分からしてしまったことに気づいて、こいつやるではないか!!とは無性に悔しくなった。

しかしかなり時間が経ってしまって、幸村が自分たちを探し始めているのではと心配になりながら、幸村の居た水槽に辿り着く。

「ああ、また来てくださった!何度見ても飽きぬなあ……。」
「……。」
「あっ!」

べったりと水槽に張り付いた巨大なエイで幸村の視界が遮られる。

「む、むう。申し訳ない、そなたもさぞ名のあるものとお見受けするが、俺はサメをみたいのでどいては頂けぬだろうか……。」
「……。」

エイに話しかける幸村を見ながら、あんなに真田が待ってる真田が待ってる言ってたのに実際は全く待ってなかったって笑えるな、と思ったが、政宗との会話の疲れでの顔は無表情だった。

こちらに気づかないので悪戯してやろうと、政宗に、静かにしててね~と声をかけてそろりそろりと幸村に近づく。
分かりにくいよう、甘えたような声色に変えて話しかける。

「あの~そこのお兄さんかっこいいですね~!お一人ですかぁ?私と甘いもの食べに行きませんか~?」
「えっ!!??いやすまない俺には好いた方が……‼」
そう言いながら幸村が振り返る。
「え。」
「あ。」

好きな人いるんだ……と思うと、のことなのにそれを本人に言ってしまった幸村が固まる。

「ごごごご誤解でござる……。」
幸村の顔が真っ赤になる。
「断るための嘘くらい……俺にも出来る……。」
ぎこちなく首を動かして、政宗に視線を向ける。
助けを露骨に求めていた。

「……ああ、その、俺が、もし出先で女に声かけられでもしたらそう言えって昨日言ってたんだよ。」
「‼」
「そうなんだ~いい案だと思うよ‼伊達もね!さっきめっちゃ女の子に見られてたし‼」
政宗がまともにフォローしてくれたことに幸村は感謝した。
政宗はこの勢いで、好きな方というのはでござる!などと喋りだされてはめんどくせえと思っていてのフォローだった。

「ア?あれはそういうことだったのか。複数の視線には気づいたが殺気はなかったから放置してた。」
「伊達にかかればこの手の話はそんな話になるんだなあ!!いやさすが育ちが違うわ……。」
は色んな意味で感心しながら水族館のマップと入り口で配られていたチラシを取り出した。

「でもほんとに甘いものは食べに行こうよ~。サメケーキが食べられるって。」
「さめけーき⁉とはなんだ⁉しかしとにかくサメなのだな!行きましょうぞ!!」
「ペンギンケーキはどうだ。」
「無いね……お土産売り場にペンギンクッキーとかならあるかもしれない。」
あったら買ってあげるね、と政宗に言った次の瞬間、幸村に腕を掴まれて引かれる。

!限定と書いてある!急がねば‼こちらの方向ですな!」
「あ、はい!残ってるといいね~。」
「おい真田……。」
そして腕を組むような姿勢になり、くっつきながら政宗を置いて小走りで行ってしまう。

「おいこら!俺を置いていくな!」
はその声を聞きながら、それさっき逆の立場であなたやろうとしてたではないですかちょっと反省してねと思いながら幸村に身を任せていた。

最後の一個のサメケーキを注文すると、サメが口を開けた顔を立体的に模したものだった。
お目目が点で描かれて可愛いそのケーキを、可愛くて食べられないでござる~~と言う幸村に、政宗とが、じゃあ俺が……じゃあ私が……というどこかで見たことがあるネタをして食べるのを促した。




「さてさて、お二人お気に入りのサメとペンギンは登場しませんがイルカショーを見に行きましょう。」
「いるかしょー。」
幸村の復唱は何度聞いても可愛いな、とは満足そうな顔をしてしまう。
「そーこっちこっち付いてきて~。」

会場に着くと、イルカショーを待つ人たちで見やすそうな場所は埋まってしまっている。
後ろから立ち見でもいいかな、と思ったが、水しぶきを浴びてしまう前の席が空いていて悩む。

「あのステージ……丸い、水槽のなかでイルカさんがジャンプしたりするんだけど……この辺からとあの前の方でどっちから見たい?」

の口で説明されても、まずイルカという生き物が分からない。
しかし説明する様子もないということは見るまでのお楽しみ、ということなのだろうか、と政宗と幸村は推測する。

「折角なら近くで見たほうが良さが分かるのではないか?」
「そうだな。前の方へ行くか。」
「わかったよ~!」

前方列に向かい、荷物を置いて政宗と幸村を座らせると、は財布とスマートフォンを持つ。

「レインコート買ってくるからここで待ってて!」
「レインコート?」
「水被っちゃうと思うから。」

買ってきてから説明する~と早歩きで行ってしまう。
政宗と幸村は二人きりになり、周囲を見回す。

「……いるか、という者がじゃんぷするのをこんなに沢山の方が心待ちにしているのですね。」
「イルカはまだ見てねえよな?」
「ええ……記憶にございません。」
「水がここまで来るってことは迫力があるのかもしれねえな。」
「巨体か素早さを持つ者ということでしょうか……!!」
そう考えるとまだ見ぬ生き物が舞う姿、楽しみかもしれない、と二人は考えだす。

「そもそも面白くないものをが見せようとは思いますまい。海の中のあの幻想的な風景はそこにあるだけで美しかった。」
が面白いと思っても俺たちがそう思うかは別だ。そんな期待は持つな。にはプレッシャーだろ。」
「ぷれっしゃ……?」
「圧力かけるってことだ。負担になるだろ。」
「ああ、なるほど。かしこまりました、覚えました。もちろん、分からねば某の理解不足と思います。」
「お待たせ~!」
は笑顔で買ってきたものを胸に抱えていた。
座席に袋を置いて、中から物を取り出す。
「まず飲み物ね。受け取って。」
「かたじけない。」
幸村がペットボトルを二本受け取り、一本を政宗に渡した。

「これがレインコート。こうして……。」
がレインコートを広げ、着て見せる。
二人に渡して、同じく身に纏っていると、もうすぐ開演のアナウンスが流れた。
政宗と幸村が一席空けて座っていたのでが真ん中に座る。

「あ、出てきたイルカ~!」
指差す先を見ると、黒い塊が泳いでいる、というくらいしか分からない。
トレーナーも現れ、音楽が流れだす。
「可愛くて頭もいいんだよ!」
「頭がいいのか……。」

腕を組んで目の前の風景を静かに見ていた政宗は、最初にイルカが高々とジャンプする姿に一気に前のめりになった。

「お……」

トレーナーの合図を見て、二頭が一緒に回転しながら飛び跳ねたり、立ち上がって水面を走る。

「おお……!」

すぐ正面で餌をもらうためにひょこ、と顔を水面に出したイルカを見て、可愛い、と声に出してしまう。
比較的大きなイルカが目の前でジャンプし、水しぶきが盛大にかかった。

「うおお冷てェ!」
「おおきい尾びれですな!!」

目を細めて笑いながら屈んで、水浸しになったレインコートから水滴を払う。
輪をくぐったり、2頭が同じ方向へ同じ高さで飛び上がるのを声を漏らしながら目で追った。

「どうどう?」
「あの巨体であそこまで飛ぶなどなんという素晴らしい筋力!」
「そ、そんなことを感じて……!」
「真田!情緒がねえな!まさか海の生き物の舞に感動するとは思わなかったぜ……!すげえcombinationだ!」

トレーナーがイルカに乗り、水面を走ったり一緒にジャンプすると、周囲に合わせて二人も拍手をする。
は、二人が喜んでくれてよかった~と安心した。




ショーが終わって二人を見ると、興奮した様子で微笑む。

「すげえな!人間の指示に従って動いてたんだよな?」
「うん!」
「どれほどの鍛錬を積んでいるのか……!なんと素晴らしい!」
「ね~すごいよね~!」
政宗に相槌を打った後、幸村に視線を向けると、政宗がの手をがしりと掴む。

「え。」
!」
「なになに?」
「イルカ一頭欲しい。」
「えっ……。」
「あとペンギン二頭。」

何その殿様みたいな欲求……と思ったがそういえばこの人殿様だったなと思い出す。

「どうにか飼えねえかな。どこに生息してるんだ?」
「お気に召したようで。……ま、待って。飼うなら生態を知らないと……!」
「おおそうだな。情報をくれ。」
「え、ええと……とりあえずイルカさんと触れ合えるので行きましょうか……?」
「なんだと……!おい真田!行くだろ!」
「もちろんでございます!素晴らしき芸を見せて頂いたのです!感謝を伝えねば……!」

その会話を聞いていたトレーナーがくすくすと笑うので、は苦笑いして一礼をした。


イルカとの触れ合いコーナーには多くの家族連れが並んでいたので、は一番最後列に並ぶ。
二人がおかしなことを言ったときに耳にする人は少ない方が良いだろう。

「イルカに触れるのか。」
「私も実は初めてなんだ~。」
も!一緒に体験できるとは嬉しい!」

そこへ先程笑っていたトレーナーが時間を持て余したのか三人に近づいてくる。

「ショーいかがでした?」
「素晴らしかったです!」
幸村が相手の姿を目視するより早く反射的に言葉を口にした。

「良かったです~。」
「凄かったです!あの、二人水族館初めてだったので、見せれてよかったです。」
「あ、そうなんですか?初めてに当館を選んで頂いてありがとうございまーす!」
「イルカもう気に入っちゃって……。」
が政宗に視線を向ける。
「ペンギンもだ。」
「そうでしたね……。」
「次の方どうぞ!」
「ん?俺か?」
「あ。」
何をするのかを説明する前に、政宗がスタッフに誘導されてしまった。
まあすぐ終わるし大丈夫か、とは幸村と並んでそれを見守る。

「ここでちょっと前に屈んで待っててください。」
「……ここにか?」

言われたまま水槽の近くに立って前屈みの体勢を取ると、まさか水に落とされねえよな……!?と不安になる。
ちらりとを見るとにこにこと笑っているだけなので害はなさそうだが、覗くと底は深く、イルカが多数泳いでいるのだろう。
万が一落とされて襲われたら勝てる気がしない。

「……こ……小十郎……。」

その呟きがの耳に聞こえる。

「え、えー!!不安で小十郎さんの名前を呼ぶの……?可愛い……。どんなことするか教えなくてよかった……。」
はたまに鬼になりますな。」

政宗の不安を他所にイルカが水面から顔を出す。

「き、来たな……!あ!?」

政宗の頬にちょん、とキスをして、口を開けて笑ったような顔になり可愛い声で鳴いて、水中に戻っていった。

「……。」
政宗は頬に手を当てた。

「次幸村さん行く?」
「では俺が!伊達?終わりましたぞどいてください。」
「……。」
「え……?伊達どうしたの?」


イルカとの触れ合いを終えた後、政宗は休憩所に座り、考える人の銅像のようなポーズになった。

「……イルカ三頭、ペンギン五頭欲しい……!」
「増えた。」
「増えましたな。」











お土産売り場にも寄って、水族館を後にする。

「ペンギンのお饅頭あってよかったね~。」
「帰ったら食べる。」
「うん。お茶も……えーっと、茶葉まだあったよね確か……。」
、サメケーキの甘さが凄かったのだが、なんと申しておったかあの白いふわふわ……。」
「生クリーム?」
「なまくりーむとは、庶民にも買えるものだろうか?」
「めっちゃ買えるけど……一つ買って帰る?でもあんまり食べると太るし健康によくないよ。」
「太る……!いや、いやいやいや伊達と明日手合わせすればきっと……‼」
「俺との手合わせにそんな理由付けるんじゃねえ。」

政宗の声が明らかに不機嫌な低音になり、幸村が慌てて謝罪する。
それをは笑いながら、次の目的地へ向かうために駅へと歩みを進めると、見知った顔があった。

「あれ。」
「あっ!‼」
「あっっっれ~~~~~???じゃん??どうしたの偶然~~~~‼」
大学で同じ学科の女の子達だった。

「偶然……?いやでも私昨日皆に水族館行くんだ~って言った気がするな…皆も?」
「えっ⁉そうだっけそうだっけ?さっき私たちは買い物してて偶然会ってさあ~この子はサークル帰りで……。」
「この時間に?偶然の重なりが五年に一度レベル……。」

同級生の喋りのわざとらしさで大体察する。
後ろの二人を紹介して欲しいのだ。
いや普段君らもっとカジュアルだろと突っ込みたくなるほど可愛らしいワンピースや肩や脚を露出した服装にばっちりとメイクを決めていてこいつら強っ!!と思っていた。
どうしようかなと内心汗をかく。

「ああ、彼女らは、大学でと一緒にいた……。」
幸村の言葉に、皆が目を輝かせる。
「そうなんです!覚えててくれたんですか?」
に近づく者は警戒もが」
、話は終わったのか?次行かねえと。」
政宗はの立場もあるだろうと幸村の口を手で塞ぎ、早々に退散しようとする。

、次どこ行くの?うちらそこのカラオケ行くんだけど、従兄弟さんも一緒にどうかな?」
「二人ともすっごい声がいいですよねー!聞きたーい!あ、そいえばお名前は……?」

囲まれだす二人を見て、フォローはしようと思うが、交流を制限するのは違うかな、と思う。
皆、可愛い子たちなのだ。話して悪い気はしないかもしれない。
しかしカラオケは、歌うよりも会話目当てのような気がして、ボロが出る確率が高い。

「私たちこれからご飯で、お店三人で予約しちゃってて。」
困惑する幸村と眉根を寄せる政宗を見て、やはりここは回避だろう、と嘘をつこうとした。

「右目どうしたんですか~?私、良い眼科知ってるんで、連絡先教えてくれたら送りますけど……。」
「‼!!」
政宗への言葉に、が目を見開く。
なんで触れられることを予想できなかったんだ。
やっぱり早く離れるべきだったんだと、それ以上その話題にならないよう、間に入ろうと一歩踏み出す。
その瞬間、を見る政宗と幸村も表情を険しくする。

「悪い。」
「すまない。」
人の間をすり抜けて、の元に来て、
「え。」
そのまま歩みを止めることなく、政宗がを抱え上げた。
「行くぞ。」
「失礼いたします。」

会話を強制終了し、早足でその場を去る。
はおろおろしながらも、あ‼時間か‼ごめーんカフェの予約あってー!!と叫んだ。
友人が見えなくなったところで、幸村が、もう大丈夫だ、と言うと、政宗がを下す。

「ごめん……友達が失礼なこと言ったよね……。」
「違う。」
が悲しそうな顔をされていたではないか。」
「ん?」

二人は私が顔をしかめたので表情を険しくしていたのか?
私の心配をして連れ去ってくれたのか?

「…………。」

それは、嬉しい。

「ありがとう……。でも、あの、よかったの?皆可愛かったでしょ?服装とかも、現代はああいうのが流行ってて。二人から見てどうでした?」
「ha?」
「え?」

もおしゃれは好きだが、先程の同期は堂々として、自分の魅力を全面に出していた。
今日の服は花柄のひざ丈スカートにブラウスで、良く言えば清楚、悪く言えば地味だ。

、そ、その、言っていいのかどうか分からず今更になったが、その服装、とても、かわいいと思う。」
「‼あ、ありがとうございます……‼」
幸村が顔を真っ赤にして褒めてくれる。

「さっきの奴らと俺らの会話が成り立つわけねえだろ。お前が話してたから立ち止まったんだ。名も名乗らず妙に馴れ馴れしい……。」
「あっ!名前は私が紹介しなきゃいけなかったね……。」
「いらねえよ。さっさと次の場所に案内してくれ。」
「待って、今どの辺にいるか確認するね。」
は慌ててスマートフォンで現在位置を見る。
電車に乗らなければいけない。
政宗も横から画面を覗いて、の作業を見ていた。
幸村は二人の顔の距離が近くて動揺したが、次の場所へ行く為になにかをしているということは分かっていたので指摘することはやめて背を向ける。

「先程の方々とまた遭遇しては厄介になるな?俺が見張りをする。」
「ありがとう。ちょっとまってね~今ここだから、こっち回りで駅に戻れば……。」
「……。俺はあんな風に右目の事言われても何にも感じねえよ。気にしすぎだ。」
「!」
政宗がにだけ聞こえるように、耳元で話す。
「……でも、ありがとな。」
「いえ……。」

私が守っているつもりだったのに、二人はこんなに自分の事考えてくれている。
卑屈な気持ちになってごめん、と、へらっと笑った。