逆トリップ編 第6話



同期生と遭遇することなく駅に着き、三人分の切符を購入する。
自分の分は、ここに通すんだよ、と実際やって見せるためだ。
来るときにもやってみせたが、今日はずっと二人と一緒に切符を使おうと決めていた。
ICカードを使わないのは久しぶりだと思うと、切符だって二人にとっては凄い技術なのに変な感じだと思う。

「ようし‼電車だな!!」
そう言って政宗が腕を組む。
「え、どうしたの?」
「気合入れてんだよ!!」
「うむ、来るときは動揺してしまったが、次は決めて見せる……‼」
「うん、何を決めるのかは分からないけどいい傾向だ⁉うん!普通に座ってれば大丈夫!」
到着した電車は空いていて、座れたのでラッキーだ。
来るときに黙って電車に乗っていたが、あ、あれ動揺してたんだ……?分かりにくい……ともそれに動揺する。

目的地に着くと幸村は目の前の建造物を見上げて目を丸くして驚く。
「うわぁ…………これも乗り物なのでござるか……?」
が連れてきたのは、周囲の風景が一望できる巨大な観覧車だった。
教えなければ乗り物だと思わないだろう。

「うん。未来の街を、見てほしくて。」
「でけぇカラクリだな……周囲の建物もでかいが……。どうやって乗るんだ?」
「案内するね。」

案内に従って乗ったは良いが、座席についてひともめし、大きくゴンドラが揺れた。
それに驚いて二人はおとなしくなった。
は空きスペースが比較して広い幸村の隣に座る。
ゆっくり回っていくと、幸村はガラスに額を当てて下を見始める。
政宗は遠くを眺めていた。

「……高い。もう下を歩く人の顔が見えぬ。」
「上から見るとすげぇな……本当に山がねぇ……。」
「……甲斐もこのようになってるでござろうか……。」
「行ったこと無いから判らないけど、ここよりは自然があって綺麗だと思う!伊達のところも!!」
「そうか……。」

二人が外の風景を眺めながら沈黙した為、も黙って外を見た。
良かれと思って見せたのだが、二人にはショックなのだろうか。
無表情の政宗と幸村に、なんと声を掛けたらいいか分からない。

「……こんな世界で生きてたお前にとっては……俺たちの時代など不便極まりねえな。」
「え?」
「お前が元の世界に帰りたかったのは、家族がいて、思い出があって、夢や目標があるからと想像していた。俺たちの時代とはもう根本的に違うんだな。」
「確かに今なら、の気持ちが少し分かる。この環境に慣れた状況であの世は、きっと、もう、どうしたらいいか分からず混乱するだろう……。」
も下を見る。
もうすぐてっぺんだ。

「……ん?」
「んん?」
ふと、政宗と幸村が不思議そうな顔をして風景から視線を外し、を見る。

「そんなに混乱してなかったよな?」
「不安な顔よりも圧倒的に笑顔だった気がしますな……?」
「なんでだ?」
「……え。」

今更だなあ、とは思う。

「政宗さんや幸村さんがいたからです。」

今は人目を気にしなくていい。
は二人の下の名を呼んだ。

「改めて、ありがとうございます。」
膝に手を添えて、頭を下げる。

はきっと、自分たちの時代に来ることを望んでいないのではないか、嫌なのではないか、と思い始めていた政宗と幸村は呆気にとられる。

「いや、そもそも、俺たちだって、来たのがで良かったんじゃねえか……?」
「う、うむ?いや待て、は日常を壊されたわけだが……すまぬ俺が混乱してきた。確かに今のところ以外に出会った人間が来ていたらどうなっていたのだ?」
「いや他の皆も意外と強いと思いますよ。」
「そうか……?そうなのか……?いや、だが……。」
向かいに座る政宗が、を見据える。

以外を俺が助けるVisonが全然浮かばねえんだよ。」
「……。」
未来から来た誰かを面白がって助けるのではなく、私だから助ける?

「はあ……は、はあ……。」
なんと反応したらいいのか、視線が右往左往してしまう。

「……じゃあ私、戦国で、自分が考えてたより頑張ってたってことなんですかね……?」
「もちろんは頑張ってらっしゃった!」
「ありがとう幸村さん……。」
幸村が狭いゴンドラの中で身を乗り出しての手を握るので背を反らせる。

「そうだな……それに……」
政宗はまた外へ視線を戻す。
脚を組み、わずかな窓枠の段差に肘を置いて頬杖をつく。

「こんな機会をもらえるとはな。」
「え……。」
「天下統一して、ここに近づく。そんなことを考えられるようになるなんて夢にも思わねえだろ。」
「……政宗殿。」
「政宗さん……。」
「見せてくれて、ありがとな。」

はぺこりと頭を下げた。
巻き込んでしまったことを、感謝の言葉で返してくれた。
きっとこれからまた迷惑をかける、お荷物になるかもしれない、でも二人を送り届ける為に私が出来ることはなんでもしようと決意を固めるには十分な言葉だった。

もうすぐ地上に着く。
もう一周しようか?と言うと、あとは地上を歩きたい、と返ってきた。

「あと、お前気にしてるかもしれねえから言うが、手段があったとしても誰が天下統一したかは調べねえ。」
「!」
触れなければそういう思考に至らないのではと思った自分が浅はかだったとは思う。
「うむ、我々がここに来たのは事故だ。そこには触れまい。お館様に決まっているだろうが!」
「いや俺だろ。」
「お館様だ!」
「あああ~~~はいはい、もう着きますよ降りて降りてえ~~!」

二人の手を引っ張って、観覧車から下りる。
下りてからも言い合いをしようとした二人をはにこにこしながら見つめていると、政宗と幸村は調子が狂うと言ってやめてしまった。






観覧車を乗り終えた後は帰路に着いた。
政宗と幸村が興味を持った店を覗きながら、ゆっくりと歩く。
最後に食材を買い足そうと家から最寄りのスーパーに寄る。

「味噌ひとつでもこんなに種類があるのか。」
「うん、これ買う。」
「待ってくだされそんなに迷いなく……‼今どのような選び方をされたのだ⁉」
「え……安いやつ……。」

かごを持ってくれる幸村と話しながら店内を歩くが、政宗が途中で足を止めた。

、真田、俺は外で待っててもいいか?」
が肩越しに振り返る。
「え?いいけど……大丈夫?気分悪くなった?」
「そういうんじゃねえんだが、外の空気が吸いたくてな。」
「えっと、じゃあ幸村さん手伝ってくれるし……15分くらいで終わらせるから!これ持って近くにいてね。」

は腕時計を外し、政宗に針がここを指すくらいだと伝えながら渡す。

「OK」
入ってきた道を戻る政宗を幸村と一緒に見送って、また買い物を再開する。

「政宗さん、大丈夫かな……顔色悪くはないみたいだけど……。」
「多くのものを見すぎて疲れただけかもしれぬ。なに、家に帰ってゆっくりすれば大丈夫だ。」
にこっと幸村が笑顔を向ける。
「うん。ちょっと気を付けて様子は見ておくけど…」
「明日は道場に行く予定だが、伊達の調子が悪そうなら家に戻ろう。」
「お願いします。その時用にお茶菓子買っておこっか。」
「かたじけない!!!!!!!!!!!!!」
幸村の今日一良い声が出た。



政宗はスーパーの外で出て、壁にでも寄りかかっていようかと人通りの少ない場所を探す。

「……。」

豊かな未来だ。
目指すべき場所だ。

決して、羨ましがってはいけない場所だ。


「二人にあんなこと言っといてよ……。俺も悟りを開くような年じゃねえからなあ……。まあ今日ぐらいはいいだろ。」

希望と同時に自身に暗い感情が芽生えるのを感じて達から離れた。
でもまた、が心配してくれたら、なんでもねえよと笑ってやれるんじゃないかと思う。

「ん?」
角を曲がると、突然木々が生い茂る場所が現れて近づいてみる。
子供たちが、色とりどりの遊具で遊んでいた。

「こういう場所もあるのか……。」
は知見を広められる場所を探しがちだ。
こういう近所でもいいのにな、張り切ってんだなあと可愛く感じる。

一人の小さな男の子が、一緒にいた子から離れて母親らしき人物に駆け寄っていくのが目に入る。

「ん……?」

柔らかそうな砂の上で躓いて転んでしまった。
痛いのかびっくりしたのか分からないが、すぐに泣きだした。

「……。」


母親が急いで駆け寄って、子の脇に手を入れ起き上がらせる。
服についた砂を優しくはたいて落として、頭を何度も何度も撫でる。
優しい微笑みで何度も口を動かして、泣き止ませようとしている。
男の子は何度か頷いたあと、涙を手で乱暴に拭いて、母親の手を握った。
そしてその場を後にする。
家に帰るのだろう。
暖かく幸せな家庭なのだろう。


美しい光景だなと思う。








反吐が出そうなほどに、眩しい。















買い物を終え、荷物は幸村が持ってくれた。
外で待っていた政宗と合流し、家に帰る。
冷蔵庫の前に荷物を置いてもらったら、二人には早くルームウェアの着替えるよう促した。

「今日は慣れないことさせちゃったから疲れたよね!夕ご飯は胃腸に優しいお粥にします!」
「ほう、粥!良いですな!」
「今から作るので、えっと、お二人どちらか先にお風呂入ってもらっていい?」
「俺は手伝う。幸村先に行け。」
「かたじけない!では、風呂の用意も俺がする故、お料理に専念してくだされ。」
そう言って幸村は着替えをもって風呂場へ行ってしまった。
は予定とは違うな~~~と思った。

「あの、むしろ政宗さんに休んでほしかったので、お手伝いは大丈夫だよ。たまご粥でいい?」
「別に疲れてねえし。たまご粥でいい。」
「じゃあよかったらリビングで休んでてよ。いっぱい慣れない靴で歩かせちゃったし。珍しいものもいっぱい見せたし。」
「……。」
喋りながらも調理器具と材料をがさっさと出す。
風呂場からは湯張りの音と、衣類の擦れる音がかすかに聞こえた。

「……甘えて、いいか。」
「うん、もちろんもちろん!お粥失敗したことないもん~!とりあえず薄味で作るね!足りなかったら後から付け足す感じで……。」
米櫃から人数分の量を取り出し、調理台に置く。
政宗が近づいてきて、はそうだ、暖かい緑茶欲しいかな?と政宗に振り向く。

「ん?」
振り返ると政宗の顔は見えず、目の前に政宗の胸があった。
そのまま抱きしめられて、は目を見開く。

「えっ……あ……?ど、ど、ど、どうし……?」
後ずさろうとするが、すぐ後ろは調理台だ。
そして最初は優しく触れる程度だった政宗の腕の力が段々強くなる。

、少しでいい、俺の背に、腕を回してくれねえか……。」
「え……。」
顔が熱くなってしまっていたが、その言葉に、甘えるってそういうこと……?と察した。
そろそろと政宗の背に手を乗せ、そのまま上下に擦る。

「政宗さん、どうしたの?大丈夫?」
こくん、と頭だけが動く。
は今度は優しく、ぽんぽん、と背をたたく。

「あの、もしかしたら、今は私がここの主だから、色々我慢してくれてるのかもしれないけれど……」
それを聞いて政宗は、そういえばがここの主だと一度も思ったことなかったな、と思った。

「何か、不満があったら言ってね。家を広くしろとかは無理だし、身の危険になりそうなことは反対させてもらうけど、何かあったら聞くから……」
「ああ。……ぷ……」
「ぷ?」
政宗がを離す。口を押えて笑っていた。

「ああ、じゃねえや!わり、俺お前が主だ従わなきゃ……なんて一度も思ったことねえや!」
「えっ!!そうなの!?ええーー……私が主なのに……。」
威厳がないのかな……とが下を向く。
政宗はもう一度、ふっと笑って、の頭を右手で撫でた。

「俺がこっちにいるならお前の傍にいるってのが当然すぎてな……主にお世話になってるって感覚ねえ。」
「いや正直私もお世話させてもらってますって感覚のが強いけどーー!もー!!なんか無理させちゃったかと思った!」
「はは。じゃあ粥作るか。それか俺が汁物作るか?」
「一気に元気になってるようなのでじゃあお願いします!」

そう言うと二人で調理を開始した。
狭いが、段々お互いの動きが分かってきて、調味料や器具の受け渡しのタイミングも合ってきた。
しかし二人は気付かなかった。

甘えていいか、なんて初めて言ったぜ……と照れる政宗に対し、

政宗さんって意外と甘えん坊なんだなあ~奥州では誰に甘えてたのかな小十郎さんかな?想像したらかわいい~~とにこにこしていたことに。


幸村が風呂から上がるころには、キッチンに良い香りがたちこめていた。

「俺も何か手伝えるか?」
「テーブル拭いて、冷蔵庫から漬物とかなんか出して頂けるとありがたいです~もうすぐ出来ます!」
「任せて下され!」
幸村が冷蔵庫を開け、適当におかずを見繕う。
は、今までこんなに献立一生懸命考えたことなかったけど、なんとか乗り切れそうで安心したな、と思う。

。冷蔵庫にもっと入るだろうに、もっと食材を買い足さぬのはなぜなのだ?備えあった方が良いと思うが……。」
「ああ……あの、うん、何が起こるか、分かんないもんな~って改めて思いまして。次に戦国時代に行く時までの、分にしたんです。」
が言いにくそうに途切れ途切れ話す。

「何がとは。」
「今回は政宗さんと幸村さんが一緒ですっごい安心してはいるけど、明智さんの件があって。お金もない、殺してもなんの功績にもならない対象を、襲うことがあるんだなって思ったし、次またちゃんと、戻れる保証もなくて……。」
……。」
政宗が味見の手を止めてを見る。
至って普通そうに話してはいるが、やはりどうしようもなく不安ではあるのだろう。

、すまない。」
「え、いや幸村さんのせいじゃ……」
「……もし、がこの時代に戻れず、ずっと某たちの時代にいることになったら……きっと某は、嬉しく思う。」
「……幸村さん。」
「この時代で生き生きとされるを見てもなおそう思うのだ。呆れてくださっていい。」
「……。」
「おい、が困ること言うんじゃねえよ。」
「すまない。でも俺は、かっこつけた言葉は言えぬし思いつかぬし、感じたときに言わねば……返答はいらぬので、知っていてくださったら、嬉しい。」
へら、と幸村は笑って、おかずを運ぶ。

「……。」
政宗は、俺だってそう思う、と言えばよかったのだろうかと考える。
しかし幸村とこんな感情が一致するのも初めてで言うことに抵抗がある。
ちらりと横でお茶を淹れるを見る。
もまた黙っている。
幸村の言葉に何か考えてる様子でもなく、きょっとーんとした何考えているのかさっぱり分からない顔で。

お茶を運んで、夕食の準備が整った。

三人で、いただきます、と声を揃えて食べ始める。

「……あの。」
「ん?」
一口、政宗の作った味噌汁を飲んだ後、は二人の顔を交互に見る。
「なんだ、味噌汁口に合わねえか?変わったことはしてねえが……。」
「あ、違うの。お味噌汁はとっても美味しい!ありがとう!」
「お、おお?」
こんなに素直に言われると、当然だろが!って言えねえもんだな、と政宗が思う。

「どうされた?先程俺が言ったことが、気にさわっただろうか……。」
幸村が、こんな時に言うことではなかっただろうか、と先が気になり話を促す。

「小田原で、帰れなくて泣いちゃったけど、帰れないのが辛かったより、あんなにみんな協力してくれたのにできなかったのが申し訳なくて……。」
言おうかどうかを迷っていたのか、言い出せばの口からすらすらと言葉が出てくる。
「でも、やっぱり戻れたら嬉しかった。知ってる風景ってこんなに安心するんだって思ったし、ベッドですっごい良く眠れたけど、黙って戻ったのが凄く嫌だった。爺さんに何度かキレた。」
爺さん……氏政殿……と二人はちょっと同情した。

「私、今、ここに戻れなくなったら嫌だけど、戦国時代に行けなくなるのも、嫌、って思うよ。」
「「……。」」
「これが今の私の気持ちかな……。贅沢で、ごめん。」
「いや……。嬉しいな、政宗殿もそう思うだろう。」
「お前が俺に振るのかよ……ま、まあ、いいんじゃねえか?」
そういいつつ顔は満足気だな政宗殿、と言うのは我慢して、幸村はお粥を口に掻き込む。
「優しい塩気が美味しいでござる!」
「わ~ほんと?よかった~!あ!!」

が光るスマートフォンに目を移した。
誰かからの連絡だろうか、もしやあの男の……と身構えるが、はテレビをつけはじめる。

殿?」
「速報はいった!あ、速報ってあの、急いで周知させたい情報、なんですけど、この前ここの近くで、殺人事件……人殺しが出て……」
「物騒だったのか。」
「うん。あ~逮捕された~よかった~。」
「そうだったのですか。……たいほ?」
幸村が首を傾げる。

「事件を起こした人を、警察って国の組織が捕まえて、調べて、え~~っとそのあと色々あって、法律に基づいて裁かれるの。」
「国……法も国が?」
「うん。」
「そうやって法で守られているのか……。俺も天下統一の暁には着手してえな。」
「お館様が作った方がよいと思いますのでやはり武田軍の天下が必要でございます。」
「なんだと……?」
「ああ~~~はいはい、食後のデザートにペンギンお饅頭食べちゃお。」
「おっ!!いいねえ!!よし早く食うぞ!」

今度は政宗が、ペンギン可愛すぎて食えない……とまんじゅうを前に頭を抱えるのを幸村と笑いながら、水族館の感想を話し合った。







食事が終わり、、政宗の順に風呂に入る。
政宗を待つ間、は戦国時代の法律を調べていた。

分国法というものがあるのか。

「…………。」

条例みたいな……うん……ふうーん……明智さんみたいなのも元気に動き回れるやそりゃ……と目を細めた。

「……慶次。」
慶次のことを考え、ぼそ、っと、名前を口にしてしまった。
幸村に聞こえただろうかと、慌ててベッドで寛いでいた幸村に視線を向ける。
「あれ。」
すやすやと寝息を立てていた。
「……幸村さんも、いっぱい気遣ってくれてるよね。優しいな……。」
顔にかかる髪を優しく払う。
政宗より柔らかい輪郭が寝顔を幼く見せていた。
「かわいい……。」
「あ?幸村そこで寝たのかよ。」

政宗が肩にタオルをかけて風呂から出てきた。

「うん。今日は交換で政宗さんがお布団でいい?えーとシーツ替え……。」
「お前が布団使え。……今日俺、心配かけただろ。」
「……何かあったのか聞いても……?」
「……綺麗事だけで収まらなかっただけだ。この世が羨ましいと思いそうになったんだ。」
「政宗さん……。」
「もう大丈夫だ。俺はちゃんと、奥州背負ってるぜ。」
「そ、そっか。でも、気にしないで。政宗さんがお布団に……。」
「あるじさま、おふとんおつかいください。」
「棒読み。」

しかし丁度昨日、通販で注文した拡げるタイプの小さなソファベットが届いていた。
そんなに不快にはならないだろう。

「じゃあお言葉に甘えて。政宗さんはこれね。」

テーブルを端に寄せ、ソファーベットを拡げて掛布団と枕を用意する。
「はい出来ました~~かーんたーん!」
「……。」
「寝心地どうかな、ねえ政宗さん寝てみて……」

政宗がソファベットに膝をつく。

しかし政宗は寝床を見ていなかった。
の肩に手を置いて、顔を覗き込む。

「え?」
肩に置かれた手が、ゆっくりとの腕を下になぞる。
「……ん?」
「ん?」
「いや俺何してんだ?」
「いやこちらの台詞……。」
政宗がはっとした顔をして、から離れた。

「ここで、寝てみろって話だったな⁉ああ大丈夫だ問題ない俺はこのまま寝る。」
「あ、はい。私も布団で、寝ます……おやすみ……。」

の不思議そうな視線は背で受けて、政宗は横になる。
電気を消して、同じく布団に潜り込むの気配を感じた後、目を閉じた。

今日の俺はおかしかった。
隙あらばに甘えようとしてんじゃねえ。

「……。」

は俺のおもちゃでも、母親でもない。

だからこそ、手を伸ばしてしまうのかもしれないが。