逆トリップ編 第12話
政宗と幸村が道場へ着くと、先に先客がいるようで音がする。
扉を開けると、が竹刀を振っていた。
「お~~っすおはよ~~。」
二人に気づくと、手を止めて笑顔を向ける。
「おはようございます!」
「お~珍しいな。朝からやる気満々じゃねえか。」
「君ら待ってるついでにな。」
汗を拭きながらふたりに近づいてくる。
「俺たちを?」
「いや急で、に連絡したらもう家出ちゃったって聞いて。」
「?」
「今日団体さんの予約が入ってここ使えないんだ。ごめん。」
政宗と幸村が顔を見合わせる。
「だから今日はゆっくり観光でもしといたらっ……て?」
がしりと、二人はの腕を掴んだ。
教室で友達と談笑しながら授業の開始を待っていると、から電話が来て、は廊下に出た。
「もしもし?」
「~~あの、一応連絡なんだけど……。」
「あ、うん、道場使えないって話?二人はちゃんと家帰ったかな?」
「あ、ああ……俺の家の方に、来てて……。」
「……は?????」
「どういう生活をしてるか見たいって……いやほんと俺の家普通なんだけどいいのかな……。」
「ごっ……迷惑をおかけして……!?ごめんなさい……!えっ!?」
「まーとりあえずすることなくて困ったらドライブでもしまーす。」
「は授業……!?」
「大丈夫大丈夫。じゃね。」
電話が切られる。
なにしてるんだ……!!と思ってしまうが、男同士で騒ぎたいこともあるんだろうと納得することにして教室に戻った。
部屋に政宗と幸村を案内すると、特に物珍しいものは無いありふれた部屋なのに興味津々に見回している。
「には連絡しといたから。」
「Thanks」
「かたじけない。」
喋りが独特だな……と改めて考えてしまうが、に伝染してなくてよかったなこれ……とも思ってしまう。
「スマホ持ってないの不便だよなあ。なんで?」
「壊れたんだ。」
「俺は実家に忘れてきたのだ!」
「そ、そうなんだ……。」
そういうことにしておこう、とと話していたことをそのまま喋る。
この男なら深く聞いてこないだろうという自信もあった。
「まあここに座って。飲み物何飲む?」
「何があるんだ?」
「色々あるよ。お茶かコーヒーか紅茶か、コーラ、三ツ矢サイダー、ウェルチとかカルピスとかアクエリとか。この前の日曜にちびっこの剣道大会あって。その打ち上げで提供したやつの残り。」
政宗と幸村が腕を組む。
うーん容赦のない言葉の羅列、と悩む。
「俺は、こ、コーラ、を。」
そういう幸村に政宗が小声で話しかける。
「真田なんでそれにした?」
「響きが面白く……。」
「そういう選び方かよ……。」
政宗も顎に手を添えて悩んでいると、がコップとペットボトルを持って部屋に戻ってきた。
「真田はコーラな。はい。」
黒い飲み物が目の前に置かれたコップに注がれ、幸村が一瞬動揺するが、笑顔を張り付けて礼を言う。
コーヒー以外にもこんなに黒い飲み物があるとは。
「伊達はどうする?」
「ahー……アクエリ……。」
「はいよ~。」
紅茶以降の飲み物の名前が最後に言っていたものしかうまく思い出せなかった政宗はそのまま口にする。
「はいどーぞ。」
透明な液体が出てきて政宗は安堵した。
幸村の飲み物は美味いのかどうかが気になる。
「いただきます……。」
幸村が恐る恐る飲み物を口にする。
こくり、と一口飲んだ後、コップから口を離して、飲み物をまじまじと見る。
「しゅわしゅわ……。」
しゅわしゅわ?と眉を顰める政宗と、がぶっと吹き出すタイミングは一緒だった。
「炭酸飲んでしゅわしゅわって……!!真田は可愛い反応するんだな……!!!」
「あ、あ、普段あまり、飲まないもので……!」
「そっかあ。そういえばもあんまり飲んでるイメージないもんなあ。」
どういうイメージなのかさっぱり分からなかったが、政宗はそうだな、と相槌をうっていた。
「ごめんちょっとトイレ。」
が部屋から出ると、政宗は俺にも飲ませてくれと幸村からコップを奪う。
幸村も政宗のコップを手にして交換する。
「おお、しゅわしゅわ。なるほど。」
「政宗殿のはさわやかですな。ほんのり甘い。」
の足音が戻ってくると、コップの位置を元に戻して何事もなかったような顔をする。
「お待たせお待たせ。大したおもてなしできないけどまあ寛いで。」
「感謝申し上げる。」
「あの~~~せっかくなんでちょっと聞いていいかなあ?」
でれっとした顔になり、あ、のこと聞かれる、と咄嗟に感づく政宗と幸村だった。
「の部屋ってどんな感じ……?の手料理食べてるの?」
「部屋は……普通に……。」
「俺たちのせいで布団と洗濯物が支配しつつある。」
「それはある。食事はと伊達が作ってくださっている。」
「へえ~伊達も料理するんだ。いいなあ。いいなあ、の手料理……。」
「……あんたは料理しねえのか?」
「俺はあんまり……。」
「……なんでだ?ちょっと外でりゃ食材買えて、火も綺麗な水もすぐ出るってのに。」
「え、なに発展途上国支援とかそういう職でも就いてんすか?」
「自分の血肉になるもんだぞ。旬のもん揃えて美味いもん作りてえとかねえのか?家族に振る舞ったりよ。」
「耳が痛い。」
「俺も少々……。」
幸村とは政宗から視線を逸らす。
「……家事は女がしてんのか。しかし女も仕事や勉学をしてるんだろう……。」
「と付き合ったら俺もやりまあす!!!!」
「遅ェ!!普段からしてろ!あと交際は認めねえ!!!」
「伊達、落ち着いて……この方にも事情があるのでしょう……。」
「あんまり無くて辛い。」
が頭を抱え始めたので幸村がまあまあと宥める。
「誰しも得手不得手ございましょう。剣道はなかなかの腕のようですし、力仕事は出来そうですし……あ。」
幸村が床に置いてある雑誌に手を伸ばす。
「俺たちの服はそなたが選んでくださったのでしたな。服がお好きなのですね。」
「あ。」
ファッション雑誌をめくると、二人の格好に瓜二つなモデルがいた。
「あ、この服……。」
「かんべん……。」
「?」
がテーブルに突っ伏す。
「……俺、大学デビューなんす……。」
「だいがくでびゅー。」
「ちょっと前まで剣道一筋で頭も坊主でおしゃれは必死で勉強して……。すいませんそんなアドバイスしか出来なかったんですよ……。」
「良く分かんねえけど俺はこの服気に入ったけどな。」
「伊達……!ありがとう似合ってると思うよ俺も!!!」
がばあと起き上がって、政宗の手を握る。
こいつに握られても嬉しくねえと口元をひくつかせた。
「最近大学でのとの話も伊達と真田の話ばっかりしててな。」
「へえ、どんな。」
「…………言わない。」
「そこまで言っておいて!?」
守りたいと言っていたなんて悔しくて伝えたくない。
「まあ、仲良いんだな、とは思ってて。二人はどうなの。」
「どうなの、とは。」
「結構無防備だから……不誠実なことしてませんかという。」
「不誠実……?」
は言いにくそうに口ごもるが、視線をそっぽ向けて話し出す。
「……の、着替えとか、風呂覗いたりしてないよな?」
「真田、のそういうの覗いてる奴がいたらどうする。」
「首を刎ねまする!!」
「えっ……こわい……。」
「俺もそんな感じだ。」
「えっ……二倍こわい……。そっか……。ボディーガードみたいな感じか……。ちょっと安心した。」
「ちょっとかよ。」
はは、と笑って、コーヒーを口に含む。
のことなら、政宗と幸村も聞きたいことは多くある。
「そなたは大学でと?」
「うん、そう。飲み会で一緒になって話したのがきっかけで連絡先交換して。」
随分と平和な出会い方だ。
政略も何も関係ない、それが一般的なのだろう。
「失礼だけど見た目のんびりしてんじゃん?だから成績良いのびっくりしたんだわ。俺も負けらんねえって刺激になって。」
「せいせき……?」
「そー。頭良いの。機転もきくし。」
未来から来たからというだけでなくこの時代でも頭がいい方なのか、と政宗と幸村も驚く。
ならば尚更、織田や豊臣に感づかれるわけにはいかない。
「だ、だからもしが俺の彼女になってくれたら、俺もっと成長出来るんじゃないかなあって思ってて……。」
「おい童貞。」
「酷い!!!???」
政宗が軽くを足で蹴る。幸村も妄想を始めるを目を細めて見つめていた。
「は渡しませぬ……。」
「真田まで⁉い、いやいや、選ぶのはだし!」
のスマートフォンから音が鳴る。
「おおおおっとお‼だ‼」
政宗と幸村がびくりとする勢いで手を伸ばして着信に出る。
えっなんでわかった?キモ!!とちょっと引いていた。
「どうした!!俺の家は平和だ!え?お昼?ああ……どうすっかな……。出前でもとろっかな。」
キッチンにが向かう。
だがすぐに戻ってきた。
「どっちかに代わってくれって。」
差し出されたスマートフォンを、政宗が受け取った。
幸村も耳を近づけて、の声を聞こうと試みた。
「どうした。」
「ま……伊達!に迷惑かけてない?」
「変な話聞かされて俺の方が迷惑してる。」
「どういうこと⁉そんなキャラだったかな⁉」
伊達と呼ぶからには周囲に人がいるのだろうか。
その状況で電話を掛ける用事はなんだろうと不思議がる。
「な~お昼どうする?ピザとか頼む?」
キッチンから声がして、政宗がぴざ……?と呟く。
「ピザってね、パンみたいなものの上に、トマトとかチーズとか乗ってる南蛮の料理なの!色々種類やお店のこだわりあるから写真見せてもらって大丈夫!」
昼飯の解説をするためか、と察する。
いい仕事するな、と感心した。
「あとラーメンなら近いから結構早く来るな。」
「らーめん……。」
「ええっとうどんみたいな……細くて弾力のある麺にお肉とかネギとか卵とか乗ってて、スープは塩味とか醤油味、味噌、魚介とかある!大体なんでも美味しい!」
「あとは丼系とか普通に弁当。」
「丼……。」
「丼って、お椀の大きい版で、ご飯の上におかずが乗っちゃってるの!牛丼豚丼はそれぞれ牛と豚のお肉、天丼はてんぷら乗ってたり、海鮮丼、鉄火丼って言われたらお魚!親子丼は鶏肉と卵!」
「あとカレー!!」
「カレー」
「カレーの説明!!!!!!??????」
「カレーはお前食わせてくれたから知ってるな。」
落ち着いてくだされ、と幸村もに向かって声をかけた。
「ぴざってやつ食ってみてえ。いいか?」
「俺は構わぬ。」
「うん、ピザあの、手で食べるの。箸持たないでお願いします。」
「直にか?わかった。」
「難しくないからが食べるの真似すればいいよ!あと、ドライブって言われたら車でお出かけってことね!じゃあ楽しんでね!」
電話が切れる。
二人で立ち上がり、の元へと向かった。
「あ、通話終わった?」
「ぴざを頼む。」
スマートフォンを返しながら、が手に持つ紙を覗いた。
「はいはい。どれにする?」
チラシを差し出され、ピザの写真を眺める。
種類が思ったよりも多い。
「俺はこれがよい。」
幸村はトマトとバジルのピザを指差した。
政宗は赤が幸村の色という印象が強すぎて、青いピザはねえのかな……と考えてしまっていた。
「俺は……なんでも……。」
「じゃあクワトロにすっか。」
すっか、と言われてもよく分からないのでとりあえず二人は頷いた。
注文はに任せて、二人は部屋に戻る。
「……俺はもうがあっちで無知でも馬鹿にしねえことにする。」
「いやそれは最初からそうするべきでしょう……。」
今頃気付くな……と幸村は思っていた。
「ピザそんな待たずに来そう。食ったらドライブでも行く?」
早速言ってる……と二人は思いながらも行きたい、と同意した。
「……。」
「ん?」
幸村はファッション雑誌をまたぺらぺらとめくり、政宗もそれに関心を示していると、が二人を凝視し始める。
「どうされましたか?」
「どこ行こうかなあって……人多いとこ行っちゃうと逆ナンされそ。」
「ぎゃく……?」
「困るだろそういうの……?俺もに怒られちゃうかも……怒った顔も可愛いかも……。」
「話をおかしな方向にもっていくな。」
「すまん……つい。そういうときすんなり断れる?」
「申し訳ない……ぎゃくなんとはなんでしょうか。」
「えっ。」
は察する。真田はこの口調といい、きっと田舎育ちのお坊ちゃんで世間知らずなのだと。
「あ、あの、知らない女の子に声かけられるやつ。どこか一緒に行きませんかって。」
「罠か。」
「罠!?伊達まで!?いや、罠にはめたいならもっと怖くない人狙うと思うんで……二人に来たら、お近づきになりたいな~って人だと思うけど……。」
「ああ、あれか。」
政宗は水族館での話を思い出した。
「断ってよろしいのでしょう?ならば問題ない。」
「あ、ああ……そう……しっかりしている……。」
ちょっと感覚がずれているなあと感じながらも、都会で育ったは地方だとそういう感じなのかな、で済ませていた。
「も友達に二人紹介してって頼まれまくってんの上手く回避してんだよなあ。」
「そうなのですか?」
「ちょっと前にさ、一人、のこと悪く言い始めちゃったやつがいたんだけど、はわざと口の軽い奴にあの二人には5年付き合ってる彼女がいるし、連絡先の交換嫌だっていってきかないから、傷つくの見たくなくて、って言ってそれ流させて仲直り。」
「は?」
「あ、聞いてない?言っちゃダメだったかな?直接言うより他人から聞いた方が説得力あるってことあるよな~わかる。上手いことやったなって思ったよ。」
「……を悪く……?首を刎ねます……。」
「お、落ち着いてください真田君。」
きょとんとした幸村の顔が一気に殺気を帯びて、は慌てた。
「5年付き合ってる彼女なんていないんだろ?」
「がそうだったかもしれねえ。」
「どういう返答だよ。なんだかんだ肝が据わってんだよな。。」
「「……。」」
小さい頃からずっと死んだ人間が見えてたら、肝も据わるかもしれないな、と二人は思った。
「それは、他の人間よりもか?」
「俺が出会った人の中ではそこそこ。」
「が、優しいのは?」
「あ?すっげえ優しいよな!?だから俺安心して話せるの!」
やはり、未来の人間だからじゃないのだ。
だから惹かれたのだと政宗と幸村は確信し、なぜかハイタッチをしてしまった。
「え、何そのテンション?」
「なんでもねえ。」
ピンポーンと呼び鈴が鳴る。
ピザ来た、とが立ち上がった。
「話が聞けてよかったですな。」
「まあ俺の目に狂いはないと思っていたが。」
「来た来た~~平日の昼間にピザ‼最高‼」
「ほう。」
はだらだら出来て最高、という意味で言っていたが、二人は贅沢品なのか、と勘違いした。
ぱかっと箱を開けると、チーズやトマトの香りが広がる。
「どーぞどーぞ。」
「いや、殿、お先に。」
「いいの?じゃあ俺これにしよ。チーズ!!」
除菌シートで手を拭くのを真似る。
そして手づかみでピザを一切れ取ると、チーズが伸びる。
「うおおお伸びておる!」
「はははすっげ伸びる!実は俺これ初めて食うんだ~!」
政宗は良く見ると体に悪そうな色してねえか……?と不審がっていた。
「うまーい!」
嬉しそうに食べるを見て幸村も手を伸ばす。
真っ赤なトマトのピザを手に取り口に運ぶ。
「!!美味い!!」
「じゃあ俺も……。」
一番野菜が多そうだと思って手にしたには、アスパラとベーコンのピザだった。
いつも小十郎に野菜ばかり食わされて飽き飽きしていたが、こんな時には野菜を求めてしまうとは…と思いながら食べる。
「……うん、美味いな。」
しかし脂っこい。
食べて何事もなければ、徐々に慣らしてくれたのおかげだな、と思う。
「ようし、ベタだけどレインボーブリッジでもドライブ行こうかね!行ったことある?」
「ない。」
「ないでございます!」
「よーしそうしよ!!」
はに送るメッセージを作成していた。
講義終わったよ。今どこにいる?家に向かえばいいのかな?と打っている途中で着信が入る。
「もしもし。」
「。」
「あれ、政宗さん。」
「大学の、駐車場、に向かってる。そこで待ち合わせだ。」
「分かった!」
政宗と普通に大学帰りに約束をしていたみたいだ。
一人でにこにこと笑ってしまう。
小走りで駐車場へと向かった。
車を停め、政宗と幸村が先に降りる。
きょろきょろと見渡していると、50mほど先の木陰から、同じくきょろきょろと首を動かすを見つけた。
幸村が両手を上げて、ー!と叫ぶ。
それを見つけたはぱあっと笑顔になって駆け寄ってくる。
「三人でお出かけしてたの?」
「はい!れ、れ……」
「Rainbow bridgeを暴走してきた。」
「法定速度だわ!!!!!やめて!!!!!!」
が慌ててドアを開けて顔を出す。
「今日は一日ありがとう。」
「いや俺もすっげえ楽しかった!」
「よかった……。」
はに駆け寄り、こそこそと何かを話す。
その様子に政宗と幸村はむっとしていた。
「今日いくらくらいお金かかった?私管理しててあんまり二人に渡してなくてごめんね……。」
「いやでも出かけ先では俺全然払ってないよ。ピザぐらいだしそれくらい平気。」
「でも……。」
「じゃあ今度デートな!」
「あはは、またそういうこと言って。」
「どうせならみたいな女の子乗せてレインボーブリッジのが俺は……。」
そこまで言って、政宗と幸村にジト目で見られていて止まる。
がいいくせにみたいな女の子とか言うわ、またということは何度もこの調子でデートしてとか軽い男に見える言動してんのかこいつ……と呆れていた。
「しがらみがなさそうですのに、この時代も恋愛とはこのように難しいものなのですな……。」
「いやほとんどあいつに問題がある気がするが。」
会話が止まって、は不思議そうに首を傾ける。
「あ、あー……その、じゃあ、乗って。送るから……。」
「え、そこまでしてくれるの?なんか悪い……。」
「いいからいいから。伊達と真田も乗って……ください……。」
「敬語⁉」
政宗と幸村は、大学に着く前に、今日俺が話したことはには内緒にしてねと念押しされていたのだった。
それに対して政宗は、考えておく、という非情な返事をしていた。
の家に着き、は改めて礼を言う。
はへらへらと笑った後、ちらりと政宗と真田を見た。
「お、お頼みします。」
「分かった分かった。あと、お頼み申し上げます、と言え。」
「なにが……?」
「は気になさらないでください。ささ、行きましょう。」
「うん、じゃあまたね……。」
手を振って別れ、家に入る。
「プリン食うって話だったな?幸村用意しろ。」
「お任せくだされ!」
「じゃあ私飲み物……。」
「は座ってろ。今日俺と幸村は体力有り余ってる。」
「そっか……ではお言葉に甘えまして……。」
はちょこんと座って、二人が用意してくれるのを待った。
不思議な感じでソワソワする。
部屋干ししていた衣類を手に取って、畳みながら待った。
すぐにプリンとお茶を持って、政宗と幸村が戻ってくる。
「どれがよろしいでしょうか?使うのはお店で頂いたすぷーん、でよろしいのだろうな?」
「そういえば煎れちまったが緑茶は合うのか?」
「緑茶とプリン!いいんじゃないかな!」
食べるプリンは幸村が先に選べと政宗とが意見を一致させるが、なかなか決められず、あみだくじをが紙に書く。
結果、幸村はクリーム入りのプリン、政宗がカスタードプリン、が小瓶のプリンになる。
「では、いただき……」
「待って……。」
が顔を手で覆う。
「どうした。」
「……プリンと政宗さんと幸村さんかわいい……。写真撮っていい?」
「写真、でございますか?ここで?」
「よくわからねえがそうしたいならそうしろ。」
「やっっっった!!!!!プリン持って持って!!」
はスマートフォンを掲げて、ここを見て、とカメラを指す。
政宗と幸村はプリンを軽く持つ。
は瓶を頬に寄せて笑顔を作った。
カシャ、とシャッターを押す。
「ああああああああたいせつにしますありがとう……。」
「おい一人で満足するな。見せろ。」
「俺も見たい!できれば分けて頂きたいが……そのカラクリが無ければ得られないでしょうか?」
「あ、じゃあ明日印刷してきます!印刷って、こう、紙に……。二人にお渡しします。」
「楽しみにしている!プリンはもう食べてよろしいか?」
「もちろん!」
今度こそいただきます、と言い、封を開ける。
念願のプリンであった幸村は目を輝かせた。
「美味でございます~~!」
「何でプリン知ったの?」
「テレビです!!」
「そっかあ。色々興味持ってくれるの嬉しいね。政宗さんはどう?」
「とろとろしてうめえな。」
「よかった……!」
「しかしこんなにうまいもん食ってていいのかね……。舌がこれに慣れちゃ戻ったら苦労しそうだ。」
「何をおっしゃいますか、政宗殿。ここはこのような食事が流通できるように努めようと意気込むところです!」
「うっわあんたにそんなこと言われるとはな。それもそうか。」
プリンをあっという間に完食し、夕食はどうするかと聞くと、昼のピザとドライブで寄ったショッピングエリアでちょこちょこ食べて腹が空いてないと言う。
ならばとは簡単に残り物でチャーハンを作って食べた。
洗い物は幸村がプリンのお礼も兼ねてと担当してくれたので、は大学の予習の為に専門書を読み始めた。
そこに政宗がすぐ隣に座ってくる。
「ピザ以外何食べてきたの?」
「た、たこやき……だったか?」
「ええ~たこ焼き食べる政宗さん?見たかったなあ!」
「ちいせえと思ったらなかなか腹にたまるもんだな。」
「お口には合いました?」
「まあまあ。」
ふふ、とが笑う。
「……その、店、歩いてたら女に何度か声かけられた。」
「え。だ、大丈夫でした?」
「あの男が、俺達には5年付き合ってる女がいると解説してくださったぜ?」
「オウフ」
二人に言ってないのに君その話題出さないで欲しかったなあ~~~!!!とは脳内で叫ぶ。
「大学でトラブルがあったんだろ。俺たちに言えばよかったのによ。二度と立ち上がれねえくらいの言葉浴びせたのに。」
「こわい。……いや、いや、私が嫌だったの!だって、友達の恋人でも気に入ったら平気で色目使う人なんだもん。政宗さんと幸村さんとあいつが話すところ想像しただけで駄目!!どんな言葉でも!姿を目に映すのもだめ!!」
「お、そんなにか。」
「男の話以外なら気が合うんだけど!」
「複雑だな。」
「そうなの……。」
今度は政宗がふっと笑う。手を伸ばして、の頭を優しく撫でる。
「?」
はなぜ撫でられているか分からないという顔をするが、途中から照れて下を向く。
「愚痴でもいいから聞きたかったんだよ。」
「そんな二人の耳に入れるほどじゃ……。チョロかったし……。」
「それでも。今日あの男からの話を聞いたが、やっぱり、俺たちがに協力したのは未来から来たってだけじゃねえ。だから協力しようと思ったんだよ。」
「え、どんな話を……?」
「人より肝が据わってるってな。」
「そんな話を。」
もう少し褒めてくれてたんじゃないかと思ったは思い切り頬を膨らませる。
それを見て政宗は、やめろやめろと言いながら笑った。
撫でる手を止めて、手を下す。
「俺と向き合うと言ってくれたな。俺も、と向き合いたい。」
「政宗さん……。」
「これからも、よろしく頼む。」
「っ……はい‼」
が嬉しそうに微笑む。
俺だってあの男の事を悪く言えねえようなへの感情持っちまってるが、きっと、変わっていけるように思える。
「なんのお話を?」
「たこやき食った話。」
「ああ!あれも面白い食べ物でしたな!」
洗い物を終えた幸村も話に入り、今日の話に花を咲かせた。