逆トリップ編 第13話



は休み時間に必死に検索をしていた。
また土日が来てしまう。
政宗と幸村をどこかに連れていきたいが、二人からはあまり意見が聞けず、もこれだという案が出てこない。
やたら水族館を気に入ってたので博物館、動物園でもいいのだろうか。
入場料安めの遊園地のアトラクションははしゃいでくれるだろうか。

「うう~~~ん。」
、眉間に皺が寄りすぎだな。」
「気にしないで。」
「相談に乗りますよって話。」

の顔を覗き込む。

「二人を土日にまたどこかに連れていきたいけどどこがいいか……。」
「ひとつ提案。」
「何?もしかしてどこか行きたいって言ってた?」
わくわくしながらは目を輝かせる。

は休みなさい……。」
「え。」
「顔色悪すぎメイクの上からでもわかる……。」
が頬に手を当てる。
最近は政宗も幸村も生活に慣れ、家事を手伝ってくれていた為睡眠も十分とれていると思っていたので自覚がなかった。

「ん~~~なんかまったり過ごせるとこ……そういえば二人ともドライブの時酒の話してたな。飲みたいんじゃない?」
「あっ……私があんまり飲まないから……忘れてた……。」
「酔っぱらいは放置できる。」
「その意見はどうかと。」

がスマートフォンを高速でタップした後、に画面を向ける。

「こういう日本酒飲み比べとか。俺もそんな酒飲みじゃないからな……友達に聞けば適当に揃えられると思うけど。」
「…………。」
どこにダイブするか分からない日を前に、お酒を飲んでリラックス、もいいかもしれない、とは考え始める。

「そうする!」
「そうしろそうしろ。酔い潰しては休め。」
「潰せるかわかんないけど……。」

予算を伝えて、の友人に連絡を取ってもらう。
「……あー、あそこに売ってんだ。なら俺でも……あ、いいの?分かった頼むわ。じゃな。」
「なんて?」
「美味いとこの店長と顔なじみだからバイト前に見繕ってくれるってさ。」
「わー嬉しい。」
「んで俺が取りに行くことになったので一緒に行こう!」
「よろしくおねがいします!」








店長が気前よく酒とおつまみをサービスしてくれて荷物が重い。
のマンションの前に車を停め、が部屋まで運ぶのを手伝う。

の部屋どんなかな~!」
「……布団と洗濯物に侵食されています。」
「…………でしょうね。男二人も……。」

ドアを開けると二人はまだ帰ってきていなかった。
二人きりチャンス!!しばらく帰ってくるな!!とは拳を握る。

「ありがと~!そこに置いちゃって~!」
「あ、あの~トイレ借りてもいい?」
「いいよ~そこのドア!」

無防備だな心配になるなあと思いながらトイレに入る。
侵入成功、と思いながらも心臓がばくばくする。
お茶でも飲んでったら?と、この後なら声をかけてくれるに違いない。
そう思ったところで声が聞こえてくる。

「伊達真田~おかえり~!」
「ただいま。伊達?」
今日早いですな!!真田?」
来てるの。」
「ah?Why?」

二人のタイミング……と顔を手で覆った。

「二人がお酒飲みたいんじゃないかって。美味しいの選んでもらってね、運ぶの手伝ってくれたの。」
「酒!久々だ。」
「よろしいのですか!」
「よろしいでしょうよ……酒癖は知らねえけどに迷惑はかけんなよ……。」

トイレからが出てくる。

二人の格好を見て、うっ、となる。
スウェットのパンツにシャツというラフさなのに妙に似合ってかっこいい。

「俺もそこそこモテるけど天然のイケメンにはかなわねえわ……。」
の家だから酒は諦めてたんだがアンタがアドバイスしてくれたのか?感謝するぜ。」
「そしてその憎めない爽やかな心意気よ。」

奥州の筆頭だからな……とは何となく察して密かに思っていた。

「ごめんね気が付かなくて。明日にでもゆっくりと思ったんだけど今日飲みたいかな?」
「~~~!!こらこら!!」
「え?」

に耳打ちする。
「酔い潰して休めって話だろ!明日!!」
「あ、そか。」
「なんだよ。」
「……は今日体調悪そうだから明日にしろって。」

幸村が目を見開いてに駆け寄る。

「体調が……。早く横になった方が……。」
「や、私自身は結構平気なんだけど、顔色悪いって言われて。」

政宗も口には出さないが心配そうな顔をしている。

は、ほんっっとに愛されてんな……と思うと同時に、酒強そうだし変に絡んだりしなさそうだな、と安心する。

「じゃあ俺はそろそろ。」
「いつも本当にありがとね!そろそろお昼奢らせて?」
「ウ゛ッ!!!!!」
「う!!??」
なんだそれ言い方が可愛い……と思いながら靴を履く。

政宗と幸村も今のは鳩尾に入るやつだな……と思っていた。

を見送って、日本酒とつまみの確認をする。
「oh……またこういう美味そうなの……。」
「明日楽しみ?」
「楽しみだ。の前に産地確認させろ。」

勉強熱心だな……と思いながら政宗を見ていると、幸村に腕を引かれる。
ラベルを読み始める政宗を置いて、リビングへと向かった。

「そうでしたな。はあれでしょう、あの、霊感を、俺と政宗殿にどーんと使ってらっしゃるのでしょう?常に非日常でしたな……。」
「でも二人とも協力してくれて助かってるよ。楽しそうなの見てるの嬉しいし。」
「明日は俺と政宗殿は酒を楽しませて頂きます故、はゆっくりしてくださいませ。」
先程まで酔い潰せという話が出ていたのに罪悪感が出るくらい優しい捉え方だ。












翌日。
洗濯や掃除を終えると、テーブルに日本酒を並べ始める。

、もう一度確認するが。」
「はい。」
「この酒は、どれか一本を選べというわけではなく、すべて飲んでOK。味の違いを楽しむもの、だな?」
「はい。」
「清酒、五本、も。」
「……はい。」

朝から聞かれて三回目の問答だった。
聞かれすぎてはさすがに気にしないわけにはいかなかった。
何か問題があるだろうかと考えて、保護者組、小十郎と佐助の顔が思い浮かぶ。
そういえば武将のお酒の失敗エピソードをバラエティ番組で見たことがある。

「……はっ!!もしかしてこれは武将をダメにする遊びなのでは!?小十郎さんと佐助に怒られるのでは!?」
「何をおっしゃいますか!!俺はこのようにが気を遣ってくださって嬉しい!いやはや飲み切れるでしょうかねえ政宗殿!?」
「いや全くだ!!しかも銘酒とは悪くねえselectだ!まあ俺にゃ珍しくはねえけどな!!」
数本回収しようとが手を伸ばすと、幸村と政宗が立ちはだかりガードされてしまった。

「こんなところでそんな二人の結束を見れるとは……!」
はゆっくり休め……!俺たちの事は気にするな……!!」
政宗がの肩に手を置いてベッドへ誘導する。
「くっ……!あまり嬉しくない優しさ……!!まあでもベッドは待って。お刺身昨日冷凍したの今解凍してるから……。」
「「刺身!!!!!!」」
政宗と幸村が膝から崩れ落ちる。

「面白いくらい喜んでくれる……。」
「ここは天国か……!!!!」
は二人のリアクションに付き合っていると時間がかかると思いスッとキッチンへ向かう。

政宗に頼まれて買ったイカの塩辛もここで役立つとは、と小皿に大葉を乗せてその上に盛り付ける。
「居酒屋っぽーい!あと昨日……チーズと……手羽先サービスしてくれたんだった……。」

刺身はパックのまま、手羽先は温めて、チーズは皿に適当に盛り付ける。
それをリビングに運ぶたびに二人が目をキラキラさせて出迎えた。

「うーん複雑。」
「まあまあも体調大丈夫だったら一口位付き合えよ!」
「うん、チーズ美味しそ。飲みすぎないでね?」
「心得ております!!」

も座って、日本酒を選び始める。
「どれにしよー。」
「政宗殿、まずは一本ずつ味を確かめませぬか?」
「おーいいぞ。最初の一本選べ。」
「じゃあこれ。」

の選んだ酒をあけて、三人で酌をしあって乾杯をする。
政宗と幸村は一口飲むと、天井を仰いだ。
「?」
「うめえ……。」
「いやほんとに美味しい……。」
「それは良かった。」

幸せそうにする二人を見ていると、小十郎さんと佐助に怒られてもまあいいかと思ってしまう。

チーズをつまみに一杯を飲み干すと、は背伸びをした。

「じゃあ私ベッドで寝てますんで、何かあったら起こしてね。」
「おう、お休み。」
「おやすみなさいませ!」

酔っぱらう二人も見てみたいけど、それには時間がかかるだろうとは横になった。








「…………。」
「あ゛あ~~~~織田のおっさん殴りてえ~~~~~~」
「お館様にお会いしとうございます~~~~!!!!!!!」
「小十郎元気か~~~~???野菜…野菜は食ってんだろ肉も食わせろ……。」
「佐助は、甲斐にもどっているだろうか~~~~!!あ、ちがう、時のながれが、ちがう……さすけ今止まってるのか……??」

飲み始めて二時間もしないうちにすっごい酔っぱらってる!!と思ったのもつかぬ間、ホームシックが始まった。

は罪悪感で心が痛む。

しかしこの酔いの速さといいあの喜びようと言い、まだ希少なものだったのだろうな、飲むぺース間違えたんだなと思う。

……起きてるか……?」
「は、はい!」
政宗に呼ばれて返事をしてしまったが、寝たふりのがよかったのではないか?とすぐに感じる。

「大丈夫かお前が心配だ~~~!!!!」
「あ、ありがとございま…ああああああああ!!!!」
政宗がベッドに乗ってに覆いかぶさる。

「酒くさいです……。」
「酒すげえ全部うまい……ありがとな……。」
「いえ……!?」
むにゃむにゃしながら政宗がベッドの中に潜り込んでくる。
「ちょ……!!」
「小十郎にも飲ませてやりてえな……。」
「お……。」

政宗の行動に恥ずかしさで慌ててしまうも、小十郎の話が出ればよしよしと慰めたくなる。
複雑だ。

「まさむねどのなにされておるのか!はれんちでございます……!!」
「あ、幸村さん……!」
助けてくれる、と思い幸村に視線を向けたが幸村も掛布団を持ち上げて中に入ってくる。

「セミダブル!!!!!!!!!!!」

はなぜかベッドのサイズを叫んでしまった。
シングルを買おうとしたに、ベッドはゆったりがいいよとアドバイスをくれた友人に感謝したが、セミダブルでもこれは狭い。

「俺もまぜてください……。」
「む、むり……」
が起き上がろうとすると、政宗が腕を回して制止されてしまう。

、ふわふわ柔らかいでございますな……。」
「脂肪、脂肪ね…。あああくすぐったいです……!!」

もはや無意識にも見える幸村がの腹部に手を這わせる。
シャツがめくれ上がってしまいそうだ。

「どういう状況~~~!!」
しかも絶対酔いがさめたら覚えてないやつだこれ!!とは直感する。

「…………。」

ならば、
ならば、素面の時には聞けなさそうな質問を投げてもいいのだろうか。

「……ふ、二人とも、なに、ふつうに、女遊びとか、するんだ⁉」

言って自己嫌悪だ。
二人とも立派に一国を支える人間なのだから、そういう遊びだってするだろう。
でもあまり考えたくなくて、実際一緒に暮らしても男女の意識なく楽しく過ごせたから二人とも人格者だと思ってしまう。

酔っぱらった勢いで、事に及ぶことももしかしたら、

「あ?女遊び?なんで……?」
「俺が触れたいのはだけでございます~~。」
「え……。」

政宗がの背に回した手に力を込め、幸村ものウエストにしがみつく。

「興覚めすることいってんじゃね~~~よ!なんでがいるのに他の女が……ほかのおんながなんだって……?」
「いやでしょうか……?でも、でも俺は、に触れているとしあわせなのでございます……。」
「あ、ちょ、すいませ、まって……。」

こんな状況でそんな事を言われるとは予想してなかったは顔を真っ赤にする。
泥酔状態は本音を出すか心にもないことを言ってしまうか、この二人はどっちだろうか?

どちらにせよ、今聞く話題ではなかった。
政宗も幸村も眠そうに、言葉にならない声を出している。

……。」
「!!」
政宗に耳元で囁かれて、びくりと震えてしまった。
それに反応したのか、幸村がゆっくり起き上がる。

「……俺のとこに来てくれて、ありがとな……。」
「まさむねさ……」
その言葉は嬉しい、と思った瞬間、政宗がの首筋に唇を当てる。
ちゅう、と吸われて、は目を丸くした。

「あ……。」

起き上がった幸村にしっかりそれを見られていた。
キスマークがついたんじゃないかというのも気になってしまう。

幸村はへらっと笑って、の髪に手を伸ばした。

「……そのように色っぽい反応は……俺には毒ですなあ……。」

の髪を一房手に取り、幸村は自身の唇に押し当てるようなキスをする。
幸村の目はずっとを見つめていた。
もその幸村の視線から目を逸らせずにいると、今度は額にキスを落とす。

「ゆきむらさ……」
……」
頬に手を添えようとした瞬間に、ドサッと幸村が倒れこむ。

「ん……!?」

政宗も幸村も、すやすやと寝息を立てていた。

「…………。」

なんでこんなことになったか、どうしたらいいか混乱する。

「……ようし!!酔い潰した!!!!」

そう叫んで、も目を閉じることにした。










スマートフォンのバイブレーションの音でが目覚める。
起き上がると、夕方の5時だった。

「ひえー洗濯物……。」
隣には寝返りをしてに背を向ける政宗がいた。

「幸村さん……?あ。」
幸村はベッドから落ちてマットの上で眠っていた。

立ち上がって、幸村に身体にそっと毛布を被せる。

テーブルの上は空の酒瓶はひとつ転がっていたがはいたものの、予想よりも綺麗な状態だった。
数本の酒は半分ほど残されていたが、おつまみはすべて食べ尽くされていた。
残して放置されていなくてよかった、と思いながら皿を片付ける。
ついでに洗面台で鏡を覗くと、首筋にキスマークは付いてなくて安心する。

「……。」
ちょっと悔しいが、あんな状態でも政宗と幸村の体温は心地よくて、熟睡してしまった。
今は頭がすっきりしている。
洗濯物を取り込んで、空いているスペースにとりあえず置いて、皿洗いを先に済ませようとキッチンへ向かう。
そこで幸村がのそりと起き上がった。

「む……?……。」
「あ、起こしちゃった?」
「いえ……?が寝るはずでしたのになぜ俺が寝て……?ベッドに政宗殿……?」

ほらねー!!覚えてないよね!!とは思うが想定済みだ。

「酔っぱらって眠そうだったからお譲りしたんです。覚えてないんです?」
「そうであったのか……すまない……。」
幸村が政宗の肩に手を添えて揺すり起こす。
「政宗殿。」
「う……?なんだ……?」
「日が落ちている……酔って寝てしまったのだ。片づけをせねば……。」
「ああ、そうか……。あ?なんで俺ベッドに……は……。」
「…………私ソファベットに移動したんです。覚えてません?」
「まじか……取っちまって悪かったな……。」
「いえ!」
「でも、ちゃんと覚えてるからな……。」
「え。」

政宗の言葉にドキリとする。
何を……と身構えるが、政宗はふふ、と笑った。

「酒の味。」
「さけのあじ。」
「それでしたら俺ももちろん!!つまみも!!どれも美味でございました。俺は特にこの口当たりが……。」
「それもよかったが、俺はこっちのすっきりとした味わいがたまんねえよ!」
「わかります……!こちらはコクがありましたな!!」
「ヨカッタデスネ。」