ゆらゆら船旅四国編 第5話
政宗と幸村が朝起きるとの姿は見えず、しかしいる場所は見当がついていたので心配せずに着替えを行っていた。
「おい、食堂あるの知ってるか?」
「あるのですか?昨日は部屋に運んで頂きましたが……。可能ならば広いところでゆっくり食べたいですな。」
「もそのくらい抜け出せるだろ。呼んで来い。俺も当番終わったら合流する。」
「かしこまりました。」
政宗に食堂の場所を教えてもらい、病室へ向かえばと元親がいた。
「!」
大丈夫か、と心配して様子を見ると、元親は皆に励ましの言葉をかけているようだった。
傍らで、はにこにこと微笑んでいる。
「……?」
仲良くなっているのか、元気づける為に演技をしているのかはわからなかった。
「、よろしいか?」
「幸村様。」
「政宗殿が、食堂で朝食を頂こうと。その程度構いませんな?元親殿。」
ぴく、と元親が反応するが、すぐに笑顔で振り返る。
「おお、いいじゃねえか!独眼竜の飯も評判いいぜ!食って精つけてこい。」
「ありがとうございます。じゃあ、幸村様、行きましょう。」
にこ、と幸村はに微笑みかけるのを、元親が不思議そうに見る。
「おまえら、仲がいいのか。」
どきっとして慌てそうになる幸村を隠すように前にが立つ。
「政宗様と幸村様は不仲でございますが、俺は幸村様の真っすぐなところが好きで……良くして頂いております。」
「ああ、某もには世話になっているので、この状況でがいてくれて助かっております。」
「……そうか。」
では、と足早にその場を去る。
元親の姿が見えなくなって、すまぬ、という幸村に、はいいえ!と答えた。
「お、来たな。ほらお前ら。」
食堂へ入ろうとするところで、政宗に声を掛けられる。
二人に朝食を渡し、席へと促す。
質素な魚料理が多かったが、政宗に渡されたのはどう見ても鮭のムニエルだった。
「え?バターが?」
「南蛮で商人に貰ったらしいが、よくわからねえから捨てようとしてたんだ。見た目も味もbutterだったからよ。」
「なんと……!」
「食おうぜ。」
政宗にお礼を言って手を合わせる。
そこへ元親がやってきた。
「独眼竜。」
「あ?なんだ。」
「ちょっといいか。飯持ってこい。」
「……おお。」
呼ばれて、政宗は行ってしまった。
三人で食べたかったが、元親の用では仕方ないか、とは改めて食べ始める。
「なんのお話ですかね。」
「さあ……。……美味しい。後で礼をしましょう。俺たちの為に作ってくれたのですし。」
「うん、そうですね……。」
飲料をもっての元へ運ぼうと政宗が準備していると、元親が調理場へやってくる。
「それを持っていくのか。俺が行く。」
「は?いや、果実がそろそろ底つきそうなんだ。と相談しねえと。アンタは次の島の事頼むぜ。」
「寄港のことは問題ねえ。その話、俺も聞く。」
「……おお。」
政宗と元親で病室へ行くと、も家臣も驚いた顔をする。
「えっ?お二人揃って……。ありがとうございます。」
「俺もなんでかわかんねえけどな。、果実がもうすぐ無くなる。どうだ。」
「う~ん……今からこれ飲んでいただいて、一刻ほど経ったらまた作り始めて頂いていいですかね?作り終えた後くらいにまた島寄れそうな感じですよね……。」
「果実の保管庫がちいせえからちょうどいい。それでいく。」
そう言ってまた調理場に戻ろうと思った政宗だったが、ふと、あれだけとべたべたした姿を見せていたのに、このまますんなり別れては急すぎておかしいだろうか、と考える。
「……、少し。」
「はい?」
政宗に呼ばれて廊下に出る。
すぐにの腰に手を回して、愛おしそうな視線で見下ろす。
「朝餉はどうだった?」
もそういう設定だったな!!と思い出して、嬉しそうに政宗を見上げる。
「あの、とても、美味しかったです!」
「おい独眼竜。行くぞ。」
「ん?」
元親は二人のやり取りを気にせず、政宗を引っ張る。
いらなかったか???と二人は思いながら、元親に引きずられる政宗をは見送った。
夜、は異様な空気を察して部屋に戻った。
政宗も現状が分からないといった困惑した表情で部屋で俯いていた。
「政宗殿……茶です……。」
「Thanks……」
「なんかおかしいなって思ってたんですけど、なにかありました……?」
政宗が茶を一気に飲みほした後、眉根を寄せる。
「元親がすっげえ俺を構う……!!!!!!」
「同じ国主としてお話したいことがあったとかではなく?」
「そんなのひとまとめに言えばいいだろってのをちまちまちまちま呼びつけてだらだら話す……!!島じゃずっと俺の傍で果実採っておかげで幸村とと別れて散策になるしな……!」
「今私たち立場弱いので国政探られてるんでしょうか……?」
「誰が吐くか。誘導されようが気付いてみせるぜ俺は!というかお前らは手を繋いでなかったか⁉」
「坂が急で転びそうになって。」
「某が支えその後も補佐いたしましたのでご安心を!」
「……健全なことで。あーあほんとなら俺がとだろうがよ……。ん?ちょっとまてよ……!?まさか……」
政宗が目を見開いて怯えだす。
「元親……俺に好意が……??????」
「ひゃあ!」
は小さく悲鳴を上げて口に手を添えた。
悲鳴を上げたといっても顔はちょっとにやついてしまった。
「笑うところでしょうか。」
「そうだ!!クソ!!笑え!!!!!」
幸村ははははと乾いた笑いを出して政宗に睨まれる。
元親は政宗の様子を思い出しながら、部屋で酒を飲んでいた。
「んだよ。と離したって平然としてるじゃねえか……。」
政の話をしたところで、が戦や会合に同席した話はでなかった。
武芸を教えている様子もない。
結局、身体しか用がないのか、とがっかりする。
ここに来る前にしていたらしい戦だって、気まぐれでを連れてきたんじゃないかとまで思ってしまう。
「だったら、もらってもいいよなァ……。」
いつもの元親に戻れと言ったのはだ。
「狙わせてもらうぜ。」
月に向かって、杯を掲げた。
が水を変えて部屋に向かっていると、またピーちゃんが部屋の前にいた。
「モトチカ!!!」
「ピーちゃん!」
桶を置いて、ピーちゃんに駆け寄る。
「この場所が好きなの?ピーちゃんは駄目なんだよ。元親のところに戻ってね。」
そう行って手で誘導しても戻ってきてしまう。
「あっ……。」
の頭に止まって、羽を休めてしまう。
「う、う~ん……。」
また元親の部屋に行くしかないのか……と、元親の家臣に扉越しに伝えて、歩き出した。
「元親様、います?」
「入れ。」
声をかけるとすぐ返事が来る。
扉を開けると、元親が書に視線を落としていた。
「すみません、またピーちゃん、病室に来ちゃって……。」
「そうだったか。籠に入れてくれるか?」
「失礼します。」
上手く入れられるか不安で部屋の扉をしっかりと閉める。
飛び立たないようにそろりそろり歩いて、籠に近づいた。
入り口を開けて、頭上のピーちゃんを掴んで、籠に入れる。
大人しくちゃんと入ってくれて、ほっとする。
すぐに水を飲み始めるピーちゃんを観察していると、元親が近づいてくる気配がする。
「可愛いだろ。」
「はい‼ピーちゃんて頭良いんですね。もう俺の名前覚えてる。」
「ああ。俺が教えた。」
「え、そうなんですか?……え?」
振り返ると、元親がのすぐ後ろに座り込んでいた。
を囲むように足を投げ出す。
「元親様?」
「抱きしめてきた奴の部屋に、すんなり入っちまうんだな。無防備って言われねえか?」
「え⁉言われたことないです……‼」
「そりゃ幸せなことだ。」
おろおろしていると、後ろから抱きしめられる。
「元親様!俺、戻らないと……‼」
「長いのか?独眼竜の小姓になって。」
「長く、ないです。俺なんて、まだ、全然教育がなってないでしょう……!」
「じゃあ、まだ、だろ?」
「何が……?」
「あいつへの情はまだ薄いだろ。」
元親の声は真剣で、腕の力を徐々に強めていく。
「俺の小姓になれ。。」
「え……?」
「俺が大切にする。活躍の場を用意できる。奥州なんかでくすぶるな。」
「ちょっと、待ってください、話が急すぎて……‼」
離してくれと抵抗するが、元親はびくともしない。
それどころか、腕の太さの違いにぞっとする。
「俺、孤児なんです……!政宗様が珍しいんだ、俺みたいな親の顔も知らない男を小姓にしてくれて……!迷惑をかける……!」
元親が諦めてきそうな設定を必死で考える。
「俺が嫌なわけじゃあねえんだな?」
「元親様は、良い人だと思う!でも俺は政宗様が…!」
「独眼竜は、おまえを将来側近にするかも怪しいだろう。あいつには堅物の右目がいる。それでなくてもお前の使い方を間違っているとしか思えねえ。」
「使い方……?」
「それとも、おまえは独眼竜に抱かれるのだけが喜びなのかよ。」
そんなことを言われて、耳まで赤くなってしまう。
違う、誤解だ、設定だと言ってしまえればこの状況から逃れられるかもしれないのに、政宗と幸村のためにそんなことはできない。
「政宗様は、そんな方じゃない……!俺の事、いつも気にかけて助けてくれます……!」
本心がこぼれる。
そうだ、気にかけてくれたから、守ってくれようとしたから、こういう設定になっているのだ。
政宗にそんな印象を、誰一人持ってほしくない。
元親がを振り向かせる。
「……ふうん。まあ、素質はあるんだろうよ……俺に抱きしめられてそんな顔になっちまうんだから。」
「……え?」
自分はどんな顔をしているんだろう。
顔が熱くて、目が少し潤んでしまっているのはわかる。
「いいぜ。俺もそっちの世話だってする。ならいける……自制がきかなくなるくれェ俺も滾るだろうよ。」
何の話をしているのか、もう考えたくはなかった。
元親が舌なめずりをして、の首筋を指で撫でる。
「……!」
胸潰しをしているが、それより下に触れてほしくない。
「元親様!もうやめ……あ。」
「あ?」
元親の背後から光る爪が飛び出してくるのが見えた。
「MAGNUM STEP!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「「ぎゃーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」」
寸でのところで元親がとピーちゃんの籠を抱えて避けた。
「どどどどどどどど独眼竜おまえ……!!」
「てめえが俺になにか言える権利ねえからなあ!!!???人のもんに手を出しやがって!!!」
政宗がに駆け寄り、身体を支えて起き上がらせる。
「ま、政宗様……!」
「お前の戻りが遅いって聞いて来たんだよくそ……!!」
を連れて扉まで来たところで政宗が振り返る。
「まさかアンタの狙いが俺じゃなくてだったとはなあ!!!!」
「独眼竜狙ってると思われてたのか!!!!????」
二人が嵐のように去った後で、元親は呆然としていた。
しかし時間が経てば、笑いに変わる。
「はは!!こんなところでこんな宝に出会っちまうとはなあ!!」
ピーちゃんの籠を元に戻して、考えを巡らせる。
「悪かったな、を連れてくるのにお前を利用してよ。」
「!」
「おまえもが好きか?俺も好きでな、欲しいんだ。」
「!ホシイ!」
「そうだ。まあまだまだ時間がある。頑張ってみようじゃねえか。」
政宗はの手を引いて、どすどすと船内を早足で進んだ。
は引きずられそうになるのを、小走りでついて行く。
「政宗様……。」
「お前もお前だ!!もっと警戒しろ!」
「すいません!ピーちゃんを、返しに行ったら……。」
「Shit!それも元親の策じゃねえのか⁉」
「そんな、そんなことしません!元親様は‼」
向かっていたのは三人の寝室だった。
乱暴に扉を開け、二人で入るとすぐに大きな音を立てて扉が閉められる。
は説教をされるのを覚悟した。
「おい!あのなあ!!」
「はい!!」
政宗が掌で壁を叩いた。
どん!!とまた大きな音が出て、はびっくりして肩をすくめた。
「敵は作らないほうがいい、それは俺も判ってる!でもなあ、限度がある!!」
「は、はい……。」
「そんなに、簡単に気に入られてんじゃねえよ……あんなこと許すな……。俺を頼れって、言ったじゃねえか……‼」
「政宗さん……。」
「お前の帰るところは奥州だ……!!忘れんな……!!」
「は、い……。」
それだけ言って、政宗は行ってしまった。
政宗が出て行った後、はしばらく政宗がいた場所から視線を外せず、ぱちぱち瞬きをしていた。
「……嬉しくなる事言われた気がする。」
頭の中で反芻する。
"お前の帰るところは奥州だ"
「……承知しております、政宗様。」
もう少しで、四国に着くから
一緒に帰ろうね、政宗さん