ゆらゆら船旅四国編 第8話
もうすぐ四国に着くという元親の知らせを受けて、政宗、幸村、は部屋の片づけをしていた。
持ってきていた救護用品はほとんど使ってしまい、の鞄は大分軽くなっていた。
どこかも分からない山の中などと比べれば、元親の船に辿り着いたことは幸運だったのだろうか、と思えてくる。
三人が無事だったから言える、結果論であったが。
港では船を迎える人々で賑わっていた。
は土地勘はなかったが、松葉杖と担架が歩きやすそうなルートを探して誘導をしながら陸へと向かっていた。
途中で元親が合流する。
「おまえら。」
「へい!アニキ!!」
「この病から生還したことは、まだ誰にも言わないでくれ。頼む。」
「あ!すいません……嬉しくて騒ぐ気満々でしたが……そうですよね、変な噂が立っちゃいけねえし……。」
はその会話を聞いて、考えてしまった。
助けない方がよかったとは思わない。
しかし、元親に、長曾我部軍に壊血病の正体を教えてしまったのだ。
たしかこの時代は解決策が見つかっておらず、苦しむ船員が世界にいるはずだ。
「元親様……あ、あの、俺……。」
「どうした?」
相も変わらず元親は優しい笑みを向けてくれる。
「なんで、彼らを助けられたのか、聞かないんですね。」
「……言いたくなったら聞くぜ。」
強引なことをするくせに、こういうときは強く出ない。
優しいのだな、と改めて思ってしまう。
倉庫の一部に寝台を用意してもらい、一時の休憩場所として使うため向かう。
船の荷を下ろしたら、彼らは家へと送られる予定だ。
「俺が責任もって、毎日飲料を届けさせる。」
「誰か、お家へ様子見に行くことも出来ますか?」
「ああ。一緒に治療にあたった奴らが担当する。」
「そっか……!」
よかった、とが微笑む。
「おい元親!客人扱いはいつからだよ!」
荷運びを手伝わされる政宗は、と会話していた元親に横から声をかけた。
「荷を……降ろして……城に案内してからだなあ……。」
「微妙に先でございますな。まあしかし、お世話になった船、出来ることあれば喜んで手伝いましょう!」
「お!いい心がけじゃねえか!」
二ッと歯を見せて笑う元親を見ていると、幸村は言葉以上に褒められた気分となって照れたように笑う。
さすがこれだけの人望を集める御仁だ、味方となると頼もしい、と考えていた。
「さて?俺もなにか運ぶの手伝えるかな?」
患者を見送って、はきょろきょろと周囲を見回す。
「にぜひ運んでほしいものがあるぜ?」
「なになに?」
「今回の旅の目的ともいえるものでなあ……もし見ちまったら俺の小姓になるしかねえんだけど……。」
「そんな角度から攻めてくるんです?」
「、あちらにオウム殿の籠がありましたぞ。」
「ピーちゃん!運ぶ!!」
オウム殿って呼ぶ奴初めて会ったな、と元親は幸村を見てしまった。
はピーちゃんの籠を見つけて走って行ってしまった。
「……おい、元親。」
「なんだ?」
「さっきからちらちらを見ている奴がいるのはなんだ?あいつらも勧誘か?にしちゃお前との温度差がすげえぞ。」
政宗が顎で指したのは、の活躍を良く思っていない家臣だった。
政宗には、言っておいてもいいかもしれない。
どういう感想を抱くのかも気になる。
「あいつらは壊血病を克服したのはあくまで長曾我部軍の功績としたい奴らだ。」
「なんだそりゃ。」
「が自分のお陰だと言い出さねえか不安なのさ。そんなことする奴じゃねえのにな。」
「……アンタが小姓にしたがってるのはそういう思惑もあるわけか?」
「おっと。」
確かに、そう捉えられてもおかしくない流れか、と思い肩をすくめる。
「俺はが救ってくれたと思ってるぜ。小姓になってもそれは変わらねえだろう。」
「俺の小姓だけどな。」
「……奥州では、を疎ましく思う奴はいねえのか。」
「……。」
政宗が黙る。
敵を露骨に作る人間ではないが、いないとは言えないのかもしれない。
「だって聖人君主じゃねえんだよ。」
政宗は友人に困ったり怒ったりするの姿を思い出す。
「あいつも言わねえだけで嫌いな奴はいるだろうさ。好かれるばっかりが良いことじゃねえ。」
「……確かにな。」
それもそうだ、と、ピーちゃんの籠を楽しそうに運んでくるを見つめる。
「お前もしつこすぎて嫌われねえように気をつけろよ。」
「はあ?俺が?」
「……よくそんな風に言えるもんだ。」
政宗は呆れた顔をして、荷を持って行ってしまう。
はピーちゃんを運びながら、空を見上げた。
どんよりと曇って、雲の流れが速い。
「……わあ。急いで運ばないといけないな……。」
お城は岡豊城という名前だと教えてもらったが、には四国のどのあたりなのか判らなかった。
ある程度を運び終えると、政宗、幸村、は城へと案内される。
政宗と幸村は挨拶をするというのでついていこうとしたが、待機を命じられてしまい、は大人しく待つことになった。
親信に通された十畳ほどの部屋で、座布団に座っているとお茶の用意をしてくれた。
「ありがとうございます。」
「このまま、こちらの部屋でお泊りください。」
「え……?このような個室を?」
ちょっといい旅館に来たようで、遠慮するより先に高揚してしまう。
「後ほど元親様がいらっしゃいますので。それまではゆっくりしててくださいね。」
「はい!」
政宗さんと幸村さんと一緒に来てくれるのかな、と考えながら、一口お茶を飲む。
窓は台風への備えか、しっかりと戸が閉められて外は見えない。
そこそこ階段を上がってきた気がするので、晴れてたら景色も最高なのではないか。
「また、機会があったら、ゆっくり遊びに来たいな……。」
叶うのは夢のまた夢にも思えてしまうが、願うだけならいいだろう。
政宗と幸村も話を終えて個室をもらい、文を書いていた。
情報があれば、慶次の状態を教えてくれとも書く。
政宗は悩む。
自由に動ける小太郎が来れば色々と助かることもあるだろう。
だがの忍であることを隠してくれないのではないか。
は小姓だ。小姓が伝説の忍を手中に収めているとは違和感がありすぎる。
「仕方ねえ……。」
小太郎は遣すな、と書き加えた。
書き終えて、再び元親を訪ねて文を渡す。
元親は家臣に早急に送るよう指示した。
「あとはゆっくりしてろよ。何かやりてえことはあるか?」
「その前にはどこだ?」
「どこだろうなあ?」
「……おいおいおい、ふざけてんのか?」
しとしとと、雨音が聞こえてきた。
政宗から殺気を感じ始めて、元親ははは、と笑う。
「隣だぜ。」
「……は?」
政宗は立ち上がって、元親の部屋の襖を開ける。
「ん!?」
そこに、畳の上にごろんと寝っ転がるがいた。
「元親の隣の部屋とはどういうことだよ!?」
「恩人だぜ?このぐれえの待遇しねえと。」
「すっごく油断していたあ!!??」
は恥ずかしそうに起き上がる。
「え、ここ元親様のお隣……?」
「今気付いたのか!?」
「今気づいた!!!!」
は男の演技をせねば再度気合を入れる。
俺の近くだったら胸潰し外せる時間も作ってやれたのに何してんだと政宗は怒る。
「政宗様のお部屋は?」
「ひとつ下の階だ……ありえねえ……。」
「遊びにいってもいいですか?」
「ああ、来い来い。むしろずっといろ。」
「やったー!」
「こらこらなんじゃそりゃ。妬くぞ。」
船旅が終わり、元親とも仲良くなって、の雰囲気が柔らかくなってしまう。
政宗もその空気は好きだったが、念のため気合入れなおさねえといけねえか?とも思う。
「元親殿、文が完成いたしました。……おや?」
幸村も元親の元を訪れると、はここにいたのかと視線を向ける。
「の部屋が元親の隣なんだとよ!」
「……元親殿……それはやりすぎでしょう。政宗殿の小姓でもあるのですぞ。」
「はっはっは!まあこの城は俺のもんなんでね!好きにさせてもらうぜ!」
元親が豪快に笑った後、外から雷の音がし始め、雨音が強くなってきた。
「お。降ってきたな。すぐ過ぎればいいけどな……。」
「すでに対策はとられているのですね。」
「それなりにな。もし良い案があるなら教えてもらいてえけどよ。」
元親がちらりとを見る。
「おう……。」
そんなに期待されても、なんでもかんでも詳しいわけではない。
「瀬戸内の戦はどうなったんだ。」
無茶ぶりだ、それは、と思いため息をつきながら、政宗が話題を変える。
「ああ、南蛮人も粘ったようだぜ。決着つかず、引き上げてったそうだ。」
「……なんだ、つまらねえな。」
「まあまあ、政宗様……。」
元親が政宗に目線を向ける。
「そういや……独眼竜、お前あの胡散臭い南蛮人に興味あんのか?」
「……。」
また、"そういう設定"の話だ。
南蛮人より、南の情勢に興味があっただけなのだが、豊臣の事もありそういう設定だが、そんなに広まっているのか?
「ま、まあな。おいおい、胡散臭いのか?ンな事まで知らねえよ。」
「関わんねぇ方がいいぜ?ザビーって奴は、愛を信じなさいと言いながら、バズーカぶっ放すんだぜ?それに、俺はあいつらには借りがある……俺が絶対潰す……!!」
「ばずうか……?」
「Bazooka……?」
「バズーカ……?」
バズーカって第二次世界大戦とかそのあたりのものじゃ……?
「おい、、Bazookaとは何だ?」
「えーっと兵器の名前で、こう、おっきい筒状で、ロケット弾を放てる……」
「政宗殿ーー!!!ー!!!!!!」
「「あっ」」
政宗は普通にに聞いて、も普通に返してしまった。
幸村が慌てて二人を元親から隠すように前に出た。
「詳しいなくそ……!!うらやましい……!!どこからくる知識だよ!!」
「……こいつは本をよく読むんだ。」
今のは俺も悪い、と政宗はフォローに入る。
「だからって……」
「奥州じゃ、この程度、珍しくない。」
「なんだと……?」
幸村とは政宗が大きく出たので、大丈夫か……!?と不安になる。
元親があぐらをかいて、腕を組んだ。
「ちっ……こりゃ、奥州に行くのが楽しみだ……。」
「……それで、ばずうかとは、つまり」
「それは!愛!!!!!!!」
幸村の言葉の後は、部屋の外から聞こえてくる。
「……!?」
とっとっとっとっとっとっと、軽い足音が近づいてくる。
「な、何!?」
「あァ~……。」
元親が俯いて、手で顔を覆った。
バアン!!と襖が開く。
「……お前は。」
「??」
「緑……?」
現れたのは
「長曾我部ェェ!!!!!!!愛とは、愛とはなんだ!?お前にとって、愛とは!!!???」
「毛利様!!風邪をひきます!!」
元親の家臣に心配されても気にもせず、ずぶ濡れのまま、愛を問う中国の智将だった。