ゆらゆら船旅四国編 第9話



風雨で雨戸がガタガタと鳴る
しかし急な来訪者のおかげでその音が気にならないくらい、城の中が騒がしくなる。

「あ、愛とは、互いに想い合う事だろうが……?」
「貴様ぁ!!よくもそんなありがちなことが言えるな!!一度ザビー様に謁見してみろ!!!」
「いきなり城に上がり込んで怒鳴り散らしてんじゃねえ!!来客が居るんだ!!」
「来客貴様ぁ!!愛とはなんだ!?」
「貴様じゃねえ!!もうお前帰れ!!」

政宗と幸村とは二人に口を挟みたくて仕方なかったが、タイミングが全く見つけられなかった。
細身で凛々しい顔立ちで、黙っていてくれたら、わあ~毛利元就様!智将感すごい溢れてる!って思ってそうだったなあ=とは思った。

「……なんなんだこれ……お前が呼んだのか?」
「そう見えんのか!?独眼竜!!」
「……全く見えねえ。」

その会話を聞いて、元就がピタッっと止まった。

「独眼竜……?お前が……?なぜ、ここに……。」
元就の目が鋭く細められる。
「いやもっと先に気づけよ。」
「……奥州と繋がりがあったのか。それで?援軍を要請して我が領地に攻め入るか……?」

空気が一瞬にして変わった。
誤解を招いても仕方のない状況だ。
説明は元親に任せた方がいいと三人は感じ、元親もそれは察して口を開こうとしたが先に元就が叫びだす。

「長曾我部お前ぇ!!お前は本当の愛を知らぬ!!」
「お前愛って言いたいだけじゃねえの!?」
「「「……。」」」
ついていけねえ……と元就以外の全員が思っていた。

「その、毛利元就殿、落ち着いてくだされ。某たちは訳あって一時的にここに居るだけでござる」
幸村が背筋を正して正座して、元親と取っ組み合いをする元就と向き合った。

「お前は?」
「某は真田源次郎幸村でございます。」
「……知っている。奥州の竜に、虎の若子……ならば、お前は。」

元就がをじっと見た。

「こいつは、俺の小姓で…という」
政宗が紹介し、は深々とお辞儀をした。

「……ふん、それで、ここで何をしている。」
「……というか、お前こそなんでここに来た?」
「我は……ザビー様と戦をしていたのだ。もうすぐ壊滅という時にだ、我はザビー様と……あの後光溢れるお姿と対峙した。」

元就が口を休めることなく座り込む。
元親は、元就の口から人を敬うための様が出てくるのが気持ち悪くてしょうがなかった。

「あの、輝く瞳に見つめられると…我は、なんとも言えぬ気持ちになる……。」
「見目麗しいお姿だったのですか。思想に共感したのですね。」
はとりあえずキリスト教の人かな?と、かっこいい白人男性を想像しながら話しかける。
「小姓ごときが……気安く我に話しかけるな……!!」
「すいません……。」
「思想に共感だと……それだ……それが問題なのだ……!我は……心打たれたというのか⁉ぐ……あの歌が頭から離れぬ……。」
それもそうだな小姓そんな気安いのだめだなと反省しただったが、しっかり元就が答えてしまって拍子抜けする。
そしてそれって洗脳では?と思ってしまう様子で心配になる。

「毛利……お前……これからどうすんだ?」
「……ザビー様と再度会う他あるまい……。」
「そういうこれからじゃねえ!!!雨強くなってきたぞ!?」
「む、本当だ。」
「本当だ、じゃねえ!!早く帰れよ!!」
「船が出せぬ。今日は泊まってやってもよい。」
「なんでそんなに上目線!?」
「「「……。」」」
三人が口出しするタイミングが全くわからないまま、元就も宿泊することになってしまった。







元親が元就の対応をせねばならなくなり、元親の部屋を後にする。
は政宗と幸村が隣部屋同士だと聞き、一緒に向かうことにした。
政宗の部屋で茶と菓子を頂いて寛ぐ。

「政宗様、長い船旅お疲れさまでした。」
「お、なんだ小姓みてえなこと言い出しやがって。」
「小姓だもん~~えっへへへ。」
「そんなこと言う小姓はいねえな……。」

菓子はカステラが出され、は嬉しそうに頬張る。
政宗もめったに食べないものではあったが、未来で見た食事を思い出すと特に驚きも出てこないものだなと考えながら食す。
元親の周囲には南蛮のものが溢れているが、何を出されても驚くまい、と余裕の表情だ。

「元親さん……様、悪意が無いのは分かるんですが、お隣か~。引き続き気が抜けないやつだ……。」
「今は気を緩めとけばいいんじゃねえか。それに、俺と一緒に寝ればいいじゃねえか。」

茶を二人同時にズ……と啜る。

今凄いこと言われた気がするけど他意はないんだろうなと思うと、他意はなかったんだが今凄いこと言った気がするなと思う政宗は沈黙してしまった。

「……少し、じゃあ、緩めます……。」
政宗に背を向けて、胸潰しのファスナーを開ける。
少しだけだが、開放感ですっきりする、
着物を整えて、政宗に向き直る。

「……。」
女性らしい曲線がある方がやはりいいなと思い、視線が胸へと行ってしまうが、すぐにはっとして視線を外す。

「幸村さんはお隣なんですよね?」
「探検するとか言ってどこか行ってる。」
「……探検、していいんですかね……?」
「……良くねえだろうな。同盟国でもなんでもねえ人んちの城をな。」
呑気なもんだ、と政宗が頬杖をつく。

「しかしまだそれほど戻って日数経ってねえのに色々あったな……。」
「そうですね……。でも本当に、お役に立ててよかった……。」
「大活躍だったじゃねえか。」
「本当?」
自覚ねえのかよ、と政宗が笑う。
は自分の行動の是非は判断付けられず、元親にそんなに恩は感じてほしくないな、と考えてしまう。

「……あれは、笑えたけどな。俺とが、助平なことばっかりしてる、だっけか?」
が茶をのどに詰まらせげほげほと咽る。
「そ、その話はもういいんじゃないかな!?」
「……。」
突然政宗が無表情になり、ににじり寄る。
「え、なに?」
それから逃げるようには後退した。

「元親に、触られてたよな。」
「え、いや、あの、触られ……というよりは、近寄られ……ぐらいの……。」
「普通にブチ切れて終わりにしちまったけどよ……何されてたんだよ。」
「い、いや、だから……。」
「俺が同じことをする。上書きする。」
「そんな、傷ついたわけじゃないし、大丈夫……。」
「俺の気が済まねえ。」

後退し続けたの背が壁にぶつかる。
政宗が壁に手をついて、の逃げ場を無くす。

「本当に……!く、首筋を撫でられた、だけ。」
「ふうん。首筋ねえ。俺が来るのがもう少し遅かったら鬼に噛みつかれてたかもしれねえな。」
「とても怖いんですけど!?」
すう、と指先での首筋を撫でて、政宗が離れた。
それだけで済んではほっとする。
そこへ、幸村の軽快な足音が聞こえてくる。

「政宗殿!一局いかがでしょうか?」
元親から借りてきたのか、将棋盤と駒を持って現れる。
「おお、望むところだ。」

二人とも将棋出来るんだ……とは感心する。

は将棋出来んのか?」
「私出来ません。やったことなくて……。」
は風呂をお借りしてはいかがでしょうか?広そうでしたぞ。誰も利用されていなかった。」
「あ、お風呂……入りたい……。」
「ええ、ゆっくり癒されてくるといいかと。」
「待て待て、元親に一応貸切にさせろって言ってくる。」
政宗が立ち上がる。

「誰か来たらやべえだろうが。立ち入り禁止の札でも下げてもらう。」
「政宗さんありがとう~~~。」
「政宗殿から言った方がいいでしょうから、お願いいたします。」
将棋の準備をする幸村にも、風呂の事を教えてくれてありがとう、と礼を言う。

「お風呂場どのあたりですか?」
「二階下の南方にございました。」
「じゃあ結構移動しますね……。失礼します。」
幸村に背を向けて、胸潰しをまた締める。
幸村は察して顔を赤くした。

「そ、それは、やはり、不快なものですか?」
「ずっと締めてるときつくて……。」
「早くいつもののお姿で過ごされるようにな……る頃にはお別れでございますか。奥州に向かうのでしょうし……。」
まだ船旅すら始まっていないのに、寂しく感じる。
「あ、そうだ……あの、幸村さん私……。」
が話をしようとしたが、外から政宗と元親の声が近づいてきた。
勢いよく襖が開く。

!!風呂入りてえって?なんだよそれくらい俺に直接言えよ!今用意してるから待ってろよ!!」

元親がご機嫌でに話しかける。
隣に立つ政宗は呆れたような顔をしていた。

「さっきまで元就の対応で疲弊した顔してたのによ。」
に頼られたら元気になるぜ!」
「ありがとうございます……。」
「一緒に入るか?」
「おい!」

元親が特に深い意味はないように気軽な様子で一緒に入るかと聞くので、政宗は咄嗟に小突く。

「俺の小姓に気安すぎだろうが。」
「旅の疲れを労わってやりてえ気持ちからだろうが。背中流してやるぜ?」
「元親様にそんなこと恐れ多くて……!」

は眉をハの字にして申し訳なさを演じ始めるので、幸村は大したものだなあと感心していた。

「俺がにしてやりてえんだよ。」
「!」
元親がの頬に優しく触れる。
政宗さんが嫉妬してくれちゃうみたいなのでやめてくれ~~とは思ったが、振り払うことも出来ない。

「元親様の気持ちは嬉しいけど、俺、政宗様以外と入るなんて出来ません。申し訳ありません。」
「そうかあ~そこまで言われちゃ仕方ねえか。」

の言葉に政宗が得意げな顔をしていたが、幸村はそれ演技ですぞ嬉しいのですか?と首を傾げていた。

「んじゃ、貸切にしてやるから、ゆっくりして来い!!」
「ありがとうございます。」
「案内するぜ。あ、独眼竜と幸村も来いよ。ついでに案内する。」
「判った。」

道中、元就は馴れ合うような奴ではないから飯も部屋で済ますだろうから気にしなくていいという説明を受ける。
ザビーザビーと言っていた精神状態は大丈夫なのかとは少し心配になる。

風呂場に行くと、すでに用意が出来ていたので、はそのまますぐに入ることになった。
戸が閉められた後も、元親は風呂場から視線を外さなかった。

は、独眼竜としか入った事ないのか?」
「それは……わっ!」
露骨に不快そうな顔をして何かを言おうとした幸村を政宗が軽く蹴った。

「まあな。おい、元親、何考えてんだ?」
「大勢とわいわい騒ぎながら風呂に入るのは、楽しいぜ?」

……こいつはにその楽しさを教えたいらしいな……

「元親、これは秘密だったんだが……。」
「ん?」

政宗が元親に近づいて、小声で話しかける。

の背には、大きな火傷の痕があるんだ。」
もちろん嘘だった。

「……火傷?戦に巻き込まれて?」
「知らねぇ。会った時からすでについていた。あいつはそのことに触れると口を閉ざすんだ。」
「……だから、着替えを見せたくなかったのかよ。」

お、それはいい解釈だ元親、と政宗は思った。

「そうだ。こんな時に悲しい顔はさせたくねえ。だから風呂は一人で入らせろ。」

幸村も必死でこくこく頷いた。

「そうか。なら可哀想、か。じゃ、が上がったらお前らも入れよ。」

元親は納得したような顔で引き下がる。

「判った。」
「俺はもう一仕事してくらぁ。」

元親はひらひらと手を振って、どこかへ行ってしまった。

「ふむ、なんだかんだ、長曾我部殿は、アニキと呼ばれるだけはあるな!!」
「素直な馬鹿とも言える。」








久しぶりの大きな浴槽にはご機嫌になって一人で笑顔になってしまう。
船内にも小さな風呂があったが、時に人目を避けるように夜中にひっそりと、時に政宗か幸村が見張ってくれて大急ぎで入っていて洗うだけの行為になっていた。

「めちゃくちゃ嬉しい……。貸切……。」

気が済むまで体を洗い、熱めのお湯に肩まで浸かった。
明日も貸切にしてくれると良いなあと、贅沢な期待を持った。

「……。」
一人でゆっくり、これからやることをおさらいしてみる。

まずは慶次がどうなったか、これは幸村さんのことが落ち着いたら小太郎ちゃんに慶次の居る場所に連れて行ってもらおう。
明智のとこでも構わない。

あと、いつき。
彼女には私が無事な事を伝えなきゃならない。
出来れば直接会いたい。


「どっちも出来るかな……残りの時間で……。」
「残りの時間?」

ガララと、戸が開いた。

は驚いて体を丸めて腕で隠し、いきなり入ってきた人物を見た。
湯気のおかげで先に目に飛び込んだのはシルエットで、しかしすぐに一糸纏わぬ姿だと察知して目線を逸らす。

「元親様!?か、貸切、じゃ……?」
湯に浸かりながら、戸から離れた場所へとぱしゃぱしゃ音を立てて移動する。
「おいおい、そんなに逃げんなよ!!……俺、知ってるから。」

何をですか

え、え、女だって、やっぱりばれてた!?

だったらおかしいでしょ……!?なんでここに入ってくる!?騙しやがったなってこと⁉

「な、なにを、知ってるって!?俺、政宗様以外とはって、さっき言いましたよね……!?お願いします近づかないでください!!」
「そんなに、見られたくないのか。予想以上だな。」

だから何!?と再度聞き返したかったが、元親が湯船の端に座り込む音を感じて硬直する。
そのまま入ってくるの??え??まって???と混乱する。

「政宗に、聞いた。火傷の事。」

火傷!?

「背中に、大きいのがあって、見られたくないんだろ?」

ああ、そういう設定か。

ええ!?元親に背中を隠さないといけないのですか!?
前を隠したいんですがね!?

「落ち着いてくれ。俺は無理やり見る気はない。」
「どういうことですか……!」
「出来れば、おまえから見せて欲しい。火傷があることが、お前をどんな気持ちにさせているのかは知らねぇ。でもよ、そのせいで顔を曇らせたり、独眼竜に心配かけるのは、なんか違うと思うんだよな。」

ソウダネ

「重いもん溜め込んでるなら、ちいと俺に分けろ。一緒に持ってやるから。だから、から俺に心開いてほしいと思う。」

元親、良イ事言ウネ

「……どうだ?……背中は見ねえ。顔は見せてくれよ。そっちに行っていいか。」

だめでーーす!!!と気軽に言えたらどんなにいいか……!!!とは目をきつく閉じる。

「……。」
「!」
ざぶん、と元親が湯に入る。
そしてそのまま、ざばざばと音を立てて元親が近づいてきた。

「待って……!!」

もう、私は女だと言ってしまいたい。
見られるよりは、個人的には良い。
でも、政宗さんと幸村さんの嘘がばれてしまうのは嫌だ。

「元親様!お願いします来ないでください!!」
……。」

泣きそうな声で叫んでしまった。
拒絶されたと思ってしまっただろうか。
元親は、こんな形で会わなければ、面倒見の良いお兄さんとして慕いたかったのに。

「!!」
ざぶざぶという音が早くなり、湯が大きく波打った。
元親の影がすぐそばに立つ。
手が伸びてくる。

!俺は……」
「いや……!!」














政宗と幸村は、部屋に戻って将棋を指していた。

「文はいつ頃届くだろうか?」
「さあな。今日中には届くといいな。」

「……あ、待つでござる。」
「待ったなしだ。お前、ストレートすぎだ。」

「……もう一回。」
「その前に参ったって言え。」

「……嫌だ。」
「お前なあ……。」

バタバタバタと廊下から羽音が聞こえてくる。
あのオウムだ。
二人の居る部屋に入ってくる。

!!!」
はいねぇよ」
「はは、賢いオウムだ。某は幸村と言う。ゆ、き、む、ら」
「ユ……!!」
「ha!!お前の名前は覚えたくないってよ!!」
幸村が頬を膨らませた。
「たくさん教えれば覚えてくれるでしょう!」
「……なんだ?ってことは、はいっぱいそのオウムに名前を教えたって事か?」
「そんな暇がありましたか?」
~~?」
は風呂だよ。」
「モトチカモ、フロダヨ~~~~~?」

オウムが首を傾げながら不穏なことを口にする。

「はは……まさか……いや、まさか……。」
「はは……全くだぜ……中途半端に変な言葉覚えやがって……。」

二人が静かに立ち上がり、同じ方向に歩みを進める。
もそろそろ上がるでしょう。ええ、お部屋まで護衛いたしまする。」
「そうだな、何もなけりゃそれでいい。別に元親を疑ってるわけじゃねえそうだな。そんなことしねえだろさすがにそんな……。」
話しながら、段々と早足になってしまう。









脱衣所の戸を開ける。
開けたと同時に頭を抱える。
先程まで着ていた元親の着物があるのだ。

「何してんだあいつ……!!」
……!!」
一歩、脱衣所に踏み込むと叫び声が響いた。

「ほぎゃあああああああ!!!!!!!!!」
「うわあああああああああああああ!!!???」
「いや元親は叫ぶなよ!?」

そしてどだだだだと大きな足音が聞こえ、湯殿の戸を全裸の元親が目を丸くしたまま勢いよく開ける。

「お、お、おまえ……本当に鬼だな……!?」
「ま、ま、待ってくれ……?え?……胸が……?いや、俺が、なんだ、好きすぎて幻覚を……?」
「……見たのかお前……。」
政宗の低音に弾かれたように頭を上げる。

「ちが、た、谷間が……それだけだ……。」
「てめえ……。」
「政宗殿……長曾我部殿を懲らしめたいのが先でしたら先に長曾我部殿を連れて部屋に。」
幸村がため息を吐く。
頭に血が上るのもわかるが、が浴室で怯えたままかもしれない。
こういう時に女性が近くにいないのは不便だ。

!大丈夫か!?こちらに一人で来れるでしょうか?長曾我部殿はこちらで抑えているので、落ち着いたら服を着て!」
「う、うん……大丈夫……!!」
の声はまだ動揺していた。

「俺が出口で待っていますので!焦らず!」
「ありがとう幸村さん……!」

幸村が政宗と着物を雑に羽織って整える元親の背中をぐいぐい押して廊下へと追い出す。
元親はまだ混乱していた。

は……女なのか……?」
どちらにでもなく問いかける。

「……女だが、そりゃあ偽るだろ。アンタが俺の立場でもそうさせてたさ。」
「ああ、そりゃそうだ、あんなところに、女一人なんてな……。」

政宗もを待っていたい気持ちはあったが、元親を落ち着ける人間も必要だと分かっていた。
男だと思っていたから、怒鳴り、壁に叩きつけたことは謝罪と少しの後悔で、強引に迫ったことも笑い話になると思っていた。

「……いや、城に着いた時点で俺が説明しても良かった。しかしなんで風呂に行ったんだよ……。」
「背中の傷なんか大した事ねえ……はすげえ奴なんだからよって……俺が、前向かせてやりたかったんだよ。」
「予想以上の面倒見だな。」
「あーーーーくそ……。」

両手で顔を隠し、元親が前のめりになる。

「おい、とりあえず俺の部屋に……。」
「待て、すまねえ、考えたい。一人の時間をくれ……。」

そう言ってよろよろと元親が自室へ行ってしまう。
政宗は仕方なくその背を見送った。