ゆらゆら船旅四国編 第12話
くるくるくるくると
輪刀を腕で器用に回して
ぽーんと頭上に投げて
腕でキャッチしてまたくるくるくる回して
「日輪よ―!!‼‼‼‼‼‼‼」
「うるせえ―!!」
政宗は元就に枕を投げつけた。
元就はいきなり政宗の部屋に入ってきて舞いを始めたのだった。
政宗がまだ寝てるのも気にせず。
「あいにくの嵐の日に我の光で貴様を照らしてやっているのだぞ!」
「いらねえ!!何しに来たんだ!!」
「うむ……。」
元就は神妙な面もちですとんと座った。
政宗は布団から出ず、上半身だけ起こして顔をしかめながら言葉を待つ。
「独眼竜伊達政宗……お前、ザビー様に興味があるのだろう。」
「……。」
そういう設定だ。
「嵐が去ったら共にザビー様のお話を聞きにいかぬか?」
「断る……。」
そういって政宗はもぞもぞと布団の中に入ってしまった。
「なぜだ!?おまえは早々からザビー様の素晴らしさに気づいていたのだろう!そこを我は評価しているのだ!!」
「気のせいだったらしい。」
「そう易々と判断するとは愚かな‼む⁉」
元就が突然政宗から離れて構える。
政宗はあくびをしながら起き上がった。
「遣すなって書いたけどなあ。」
元就の視線の先には、天井から降り立ってきょろきょろと周囲を見回す小太郎がいた。
「忍……?」
元就を気にせず、政宗を見ると近づいてきてじっと観察して
「あでででで!!」
くいくい髪を引っ張って、
こっくり頷いて、
ぽんと政宗の肩をたたいて
「~!!」
多分、~!!と叫んで出ていった。
「お前の忍か?」
「になついてる忍だ。」
「……あの娘が?なかなか人望があるのか。」
「……なかなかってLevelかどうかは考えようだ。」
小太郎は一応俺の心配もしてくれたようだ。
引っ張られた髪の根元を撫でながら、政宗は立ち上がった。
固有の気配を察知してその襖に手をかけて襖を勢いよく開ける。
はまだすやすやと穏やかな顔で眠っていた。
その姿にほっとする。
「……。」
隣に男の気配がするが、この城の主だろうと察する。
をこんな場所に泊まらせるというのは下心があるのではないかと考えてしまうが、何かがあった空気もない。
「……ん?小太郎ちゃん……来てくれたの?え!びしょびしょだよ!?」
目を覚ましたががばっと起きあがった。
「待ってて!タオルもらってくる!!」
そう言っては部屋を出て行ってしまった。
「…………。」
襖が静かに開く。
元親が挑発的な笑みを浮かべながら小太郎を見据える。
「なんだまた客人か?俺に挨拶してからにしてほしいもんだぜ。」
「…………。」
「そいつは風魔小太郎だ。名前ぐらい聞いたことあるだろう。」
「あ?北条のとこにいた伝説の忍って奴か?」
政宗がやってきて、小太郎の紹介を始める。
「お前が雇ったのかよ。」
「いいや。北条のじいさんがにってよ。」
「そんな護衛がいたとは聞いてねえんだが……。」
「いちゃ都合悪かったか?」
「そうだな……今夜こそと思ってたからな。」
「おい……!」
「冗談だけどよ。」
冗談に聞こえなさ過ぎて政宗が顔をしかめる。
そこへが駆け込んでくる。
「政宗さん!元親さん!おはようございます!小太郎ちゃん!!おいで!拭いてあげるから!」
小太郎が元親への警戒を一度解き、に近寄る。
ぽんぽんぽんぽんと軽くせわしなく叩きながら小太郎を拭く。
「小太郎ちゃん!あの、慶次は!?慶次はあの後どうなったの!?あぁ……元親さん~着物貸して~びちょびちょ……あとお風呂……‼あと小十郎さんと佐助は⁉えっとえっとあと……‼」
聞きたいことがたくさんあるらしい。
の落ち着きのなさに笑ってしまう。
「風呂いいぜ!使え!着物も用意してきてやる。」
待ってろと言って元親は部屋を出て行く。
は元親の背に向けてありがとう~!と叫んだ。
小太郎は、の手を取ってにっこり笑った。
「慶次、無事?」
こくり
「元気……?」
こくり
「本当……?」
こくり
の目に涙が溢れてきた。
「よかった……。」
小太郎がの顔をのぞき込むようにして
みんな待ってる、と
それだけ言った。
はこくんと頷いた。
「……。」
「小太郎ちゃん……?」
小太郎はの肩に頭を乗せて体重をかける。
「ど、どうしたの……!?あ!!」
急いで額に手を当てる。
熱い。
「小太郎ちゃんが風邪ひいちゃった―!!元親さんはやく着物……政宗さん小太郎ちゃんお願いしていい?おかゆ……体温計……‼」
「~!」
は小太郎を寝かせようとしたが小太郎が抵抗した。
「バカだな小太郎……。」
政宗がの隣に座り込み、小太郎を剥がす。
小太郎は政宗に向かい、ゆっくり懐から二通の文を差し出した。
「小十郎と、猿からか……。」
こくん
「全く濡れてねえな。立派だ小太郎。」
ぺこ
政宗が小太郎を褒めると、小太郎は大人しく横になった。
「忍のくせに風邪をひくとは情けない……。」
いつの間にか元就も部屋にやってきていた。
「元就さーん。文句いうならどっか行っててください~。」
「言われなくても……。」
「どうしたのですか?あ、風魔殿!」
出て行こうとした元就と入れ替わるように幸村が部屋に入ってくる。
「幸村さん、私の鞄から体温計取ってくれませんか?」
「わかった!」
「…たいおん、けい?」
元就は聞きなれない言葉に歩みを止める。
「ほら、着物持ってきたぜ!今から新しく布団敷くから!」
元親がぽいっと着物を投げてくるのをが受け取る。
「小太郎、自分で着替えるか?」
……こくり
「小太郎ちゃん、身体ちゃんと拭いてね!!」
政宗から着物と手ぬぐいを受け取ると、一度小太郎がぼふんと煙を出して消えて、戻ってくると着物姿になっていた。
分かっていてもだけがそれにびくりと驚いてしまった。
小太郎はさっそく敷かれた布団に入って丸く縮こまった。
「小太郎ちゃん、体温はかるよ~!脇にこれ挟んで!!」
「……体温を?何になる。」
元就が質問をするが、には振り返る余裕もなく、言葉だけ出す。
「熱がどのくらい出てるか確認するんです。」
「確認したところでどうなるというのだ。」
すぐにぴぴ、と音がした。
「あ……三十七度五分か……様子見てまた計ろうね。」
「……それはどう判断しているのだ?」
「食欲ある?水分も取らないと。果汁がまだあったら飲んで欲しいかも……どうかな小太郎ちゃん……。」
「……体温……。」
「あれ、元就さん出ていくんじゃなかったの?」
「……貴様言うではないか……‼」
看病態勢になったは本当に怖ェな…と政宗と元親は思っていた。
「某が飲み水を持って来る。」
「ありがとう幸村さん。」
幸村の背を見送って、は小太郎に話しかける。
「欲しいものあったら言ってね。えっと、筆談でもいいから……。」
は今なら出してもいいかなと、鞄からメモ帳とシャープペンを取り出した。
「お、未来のもんか。」
「うん。」
カチカチ、と芯を出すと、元親が興味津々に近づいてくる。
「……あ⁉カラクリ……⁉ちょっと見せてくれ。」
「えっ、あ、でも、小太郎ちゃんがこれから……。」
「筆と紙ぐらい用意する。そもそも筆談が必要な忍ってなんだよ……。」
「の耳元なら喋る。」
「職権乱用かなんだそれは‼」
政宗からの情報に元親が小太郎に向かって怒鳴るが、小太郎は「?」という感じできょとんと首を傾げる。
「……天然か。」
「天然だ。」
「ん?どうしたの小太郎ちゃん。」
の裾をくいくい小太郎が引き、が屈んで耳を小太郎の口元にもっていく。
「……これか。」
「これな。」
「小十郎さんがご飯くれて途中で食べてきたからお腹空いてない?わかった。じゃあゆっくり休んでね。」
が小太郎の髪を優しく撫でると、小太郎はこくこく頷いた。
幸村が飲み水を持って部屋に戻り、小太郎の枕元に盆を置く。
「飲みますか?」
「……。」
こくり
のそりと起き上がると幸村に湯呑を渡される。
「……。」
主ではない人間に心配されて小太郎は違和感を感じているのを隠せていないが、幸村の真剣な顔を見て、おずおずと受け取って口にする。
のどの渇きを自覚して、小太郎はすぐに飲み干した。
「こまめに水分摂ろうね。」
小太郎はの言葉にまたこくりと頷いて、横になる。
とりあえずの世話は終わったと判断した政宗が幸村に近づいて、手紙を渡した。
「幸村、猿からだぞ。」
「文?おお……風魔殿、かたじけない!!」
小太郎は無反応だったが、特に気にせず幸村は文を読み始めた。
政宗も目を通す。
「……。」
「……。」
「みんな、なんて?」
政宗も幸村も真顔で読み続けて、は心配になる。
「……佐助から、は、……お館様が、心配していると……ちゃんと栄養のあるもの食べて、気候の変化に気をつけて風邪引かないように……夜はしっかり寝ろと……。」
オカンだ。
「小十郎は……成実様が政務から逃げました。政宗様に目を通していただきたい書類がたまってます。戻ってきたら、大変ですが、頑張りましょう。この小十郎、政宗様のお側に居ます。」
そのお側は監視だ。
「私もおそばにいます!!」
「小十郎とのW監視かよ手伝えよ。あとは……前田慶次のことは、情報が入り次第そちらに文を送るとさ。」
今の小太郎に話は聞き出せない。
詳細が気になるが、回復を待とうとは政宗にわかりました、と伝える。
「文の最後、筆が流れてんのが気になるけどな。」
「え?何で?あの律儀な小十郎さんが?」
政宗は小太郎に視線を向ける。
「大方、書き終わるまで待てねえで、小太郎が小十郎から書き途中奪ってこっち来たんだろうよ。小太郎遣すなって言ったのに来たんだからよ……。」
「戻ったら、私、小太郎ちゃんと一緒に謝ります……‼」
と政宗は、小十郎のご機嫌はどうなってるのか不安でいっぱいだった。
は小太郎のおでこに当てた手ぬぐいがぬるくなったら冷たい水に浸けて絞ってまたおでこに当てていた。
先程よりも熱が上がっている気がする。
閉じてはいるが普段隠している目も見えてしまっているので、あまり見せない方がいいのでは、とと小太郎の二人きりにさせてもらった。
襖がすっと開いて、政宗と幸村が部屋を覗く。
「……飽きねぇなぁおまえは。」
「風魔殿はいかがでござるか?」
「つきっきりじゃなくてもいいんじゃねぇか?」
元親もひょいと顔を出した。
「貴様にうつるぞ」
姿は見えないがどこかに元就もいるらしい。
「そうかな……でも小太郎ちゃんが……。」
「お前忘れてるだろうが忍だぞ?人の視線がある方が休めねえよ。」
「そ、そうか……。」
政宗に言うこともごもっともだと思ってしまう。
「風魔殿はが無事で安心したからこうして寝ているのでしょう。が幸せなら風魔殿も幸せでござろう!かすてらを食べよう!」
「カステラ!たべたい!」
幸村が笑顔を向けてくれて、もぱああと笑顔になった。
「そうこなくっちゃなァ!!茶の用意はできてるぜ。」
元親がにぃっと笑って歩きだした。
幸村と政宗もそれに続くので、は小太郎の頭を撫でてからすぐ立ち上がった。
広間に着くとカステラと緑茶が並んでいる。
「はあ~甘いものおいしい!!お茶ほっとする……。」
「だろ?独眼竜と幸村も食え食え‼」
「このお茶、香りが強いですな。」
「悪くねえな。」
三人がおいしそうに食べるのを確認して、元親がにこっと笑う。
「そうだろうそうだろう。評判のいいもの奮発したからなあ!」
「そうなの?ありがとう元親さん。」
「食ったからには未来の話してくれねえと割に合わねえな!」
そういうことかよ……と三人は食が止まった。
「我はまだ信じておらぬ、おとぎ話を聞けというのか。」
今は元就の強い言葉が少しありがたかった。
「まあでもここまで言って聞かないでっていうのもひどい話なのかな……。」
が政宗と幸村の様子をきょろきょろと首を動かして見る。
一体何の話が興味を引くのかの判断がには難しい。
「平和な世だった。からくりは今の比ではない。」
幸村の開口一番がそれなので元親は身を乗り出す。
「どんなカラクリが?」
「の家はこの広間ぐれえだ。」
カラクリというから電車や車の話をするかと思ったら、政宗は家の話を始めては首を傾げる。
「ん?家?」
「その中に風呂や調理場、厠に寝る場所も娯楽もあって一人で生きれる。」
「……は?」
「ああ~~。」
そうか、確かにそれすらも驚くところだったのだろうなあとは思う。
「手で機械をちょいと扱えば、明かりもつく、水も出る、湯も出る、火も出る。遠くにいる人間の顔を見たり話したりもできる。世の中で何が起こっているのかもすぐ分かる。」
「な、なんだそりゃ……⁉」
「本当にな。」
元親は元就をちらりと見る。
元親と同じく想像が出来ずに首を傾げているので少し安心した。
元就の頭脳でも予想が難しいのだろう。
「仕組みは分からぬがその程度、手段があれば必ずや誰かが発明するものであろうな。」
「そうですね。私の時代の生活必需品になっています。」
「他には。」
「何に興味がございますか?」
「そうだな……。」
元親ははっとする。
自分より元就の方がの話を引き出そうとするような関心の示し方をしている。
「そうだ乗り物はどうなんだ⁉」
元就が言う前に先に元親が質問をする。
「でかいもんからちいさいもんまで……。」
「面白かったですな!くるま、ばいく、でんしゃ、かんらんしゃ……でしたっけ?」
「どういうもんだ?」
「日常使いは車輪がついたもんだった。一番快適だったのは車だったか。四角い箱見てえなもんに乗って、一人が操縦する。かなり長距離楽に移動できたな。」
「が操縦したのか?」
「私は免許持ってるけど車自体を持ってなくて……結構高価だから。友達に乗せてもらって。」
「の友達……⁉お、おまえら未来で女遊びしてきたのか……⁉」
「してねえよ。」
「男性でございます。」
「の男か⁉」
「いや友達……。」
「もう少しまともな質問をしろ長曾我部。」
「毛利に叱られるだと⁉」
気になるもんは仕方ねえだろうが……と元親は唇を尖らせる。
しかしせっかくの自分の専門分野だ、何か自分でも参考に出来るものがあるかもしれない。
「動力は?」
「先に行っとくけど私の方がカラクリ専門外です。漠然とでいい?」
「おお、構わねえ。」
「ガソリンって、石油。」
「がそりん。」
元親がうーん、と悩んでしまう。
「車輪、ってことは、障害物はどうする?」
「通る道は舗装されてます。車同士がぶつかったら大事故だから、道の右側、左側を白線で区切って、同じ方向を進むようになってます。」
「なるほど。想像出来てきた。車輪か……俺がこれから作る……。」
元親の口がぴたりと止まり、元就を見る。
それを見た元就はニタ、と笑う。
「我に構うな長曾我部。何を作るかに自慢してよいぞ。」
「知られたら真っ先に対策と破壊しそうな奴が隣にいて話せるか!!!」
「は聞きたがっているというのに。」
「そういう時だけを使うな!!」
騒ぐ二人を政宗が微妙な顔をして二人を眺めた。
「……お前らは仲がいいのか?」
ここは豊臣に近く、どちらも狙われているという噂は聞く。
織田も無関心ではないだろう。
攻めて来られた時に、こいつらは協力するのだろうか?という疑問だった。
「良くねぇ。」
「良いわけがなかろう。」
二人は即答だった。
「ふん……こんな姫若子……仲良くしても役に立たぬ。」
「ばっ……!」
「姫若子?」
が反応した。
「姫若子って?」
「長曾我部のことよ。色白軟弱の話はしたな?そう呼ばれていたのだ。」
「はああああ⁉いつおま、そんな話…‼!!」
「の裸体を覗いて落ち込んでいたときよ。」
「元就さんその表現語弊がありますよ‼!!????」
は私の身体が酷いみたいじゃん!と言いながら自分の身体を抱きしめる。
「そんな……はとても良きお身体をしていると思うぞ!」
「幸村、ド変態なフォローやめろ。」
「幸村さんはその、悪気はないと思うんですけどやめてね。今のスルーでいいんですよ。」
「え……⁉申し訳ない……‼」
元親が落ち込み、流れ弾を受けて幸村も落ち込んでしまった。
しかし元親はすぐに持ち直す。
「今はちげぇからいんだよ!!俺は「鬼ぃ!!」……そう、西海の鬼!!……ん?」
聞いたことない誰かの叫び声が外から聞こえる。
風雨がやや落ち着いていたが、まだいつ強まるか分からない天候だ。
「外に誰かいるの?危ないよ……。」
が小さな窓の雨戸を開けて外を見る。
元親、政宗、幸村もに続いて外を見る。
一人の男が何かを探すようにして外を走っていた。
「俺と勝負、しろおぉぉぉぉ!!どこだ西海の鬼!!」
櫂と木刀を振り回している。
城からは顔は見えず、派手に縛った髪が雨に負けずに逆立っていた。
「あいつまた……。気にすんな。城には入れねえよ。」
「え、でも……。」
「危険人物ではないのですか?」
「宮本武蔵とかいうただの決闘好きだ。前カラクリで追っ払ってやったのに懲りねえな。」
はつい口を開けて驚いてしまった。
あれが宮本武蔵!?
「それにあいつは馬鹿だから罠に引っかかる。」
「うわああああ!!!」
「な?」
叫び声のする方向にが視線を向ける。
罠という言葉に元就が反応して、元就も外を覗く。
網にすくわれてしまった武蔵がじたばたと宙でもがいていた。
「幼稚な罠よ……。」
「平和な感じじゃないですか!」
「しかし嵐が来てるというのに乗り込むとは……よっぽどのことがあるのでは?」
「よっぽどケンカしたかったんだろうな。」
幸村が心配するが、元親はそういうだけだ。
あまり関わりたくないのだろう。
はじっと武蔵の様子を見た。
元就の視線はに移り、阿呆め、とだけ言った。
ザアアアアと雨音は激しく、風が強くて傘が意味ないなと思い、そのまま出ようとすると声を掛けられた。
「貴様まで風邪をひく気か。」
背後から元就が現れて、はびくりと驚いた。
「元就さん……。」
「貴様の考えることなどすぐ判るわ。まあ、暇つぶしに丁度良い。」
片手には傘をもっている。
の隣に立つと、傘を広げてくれた。
「宮本武蔵……あんな野蛮な奴が大人しくおまえなんぞの話を聞くとは思えないな。」
「元就さん、一緒に来てくれるの?」
元就がにやりと笑った。
「良い子ぶる貴様に馬鹿を服従させる楽しみを教えてやろう。」
「い、いらない……。」
武蔵はなかなか網から抜け出せなくて暴れていた。
「だぁぁ!卑怯な鬼め!!」
「ふん……無様だな。」
元就が武蔵に冷酷な笑みを向ける。
「お前……毛利元就だな!?なんでここに!?」
「ほう、我を知っているか。ただの阿呆ではないようだな。」
は元就の後ろで傘を持ち、元就に向けて傾けて共有しながらそのやりとりを見ていた。
「この網はずせ。」
「それが人にものを頼む態度か。」
「……。」
目の前の剣豪宮本武蔵はの想像する人物とは違っていた。
やんちゃ坊主にしか見えないが、彼が本当に現代でも多くの作品で愛される有名な宮本武蔵なのだろうか。
「え。」
考え込んでいると、元就が突然武蔵の首を掴んだ。
「なんっ……だ……いきなり……‼」
「これ以上の無様を我に晒すくらいなら自害せよと言っているのだ。」
いつの間にそんな話になってたんだ⁉とは驚いて、傘を投げ出してしまった。
「元就さんやめてください!!」
「貴様は黙っていろと言ったはずだが?」
「女うるせえぞ!助けろって言ってない!」
「言われてないけど見過ごせないんです!!!!!ええ~~~い‼」
元就の腕を引っ張っても剥がせなさそうだったので、は元就の弁慶の泣き所を思い切り蹴る。
「ぐ⁉」
元就はまさかの攻撃にしゃがみ込んで蹴られた場所を抱える。
「武蔵さん大丈夫ですか?」
そう声を掛けながら、は網がどこに繋がれているのかを視線で辿る。
「あ、あった……‼」
大木の根元に金具に結ばれた縄を見つけた。
外せばきっと武蔵を下せると、手で支えながら少しずつ短刀で縄を削っていった。
「んん……。」
「姉ちゃん、降ろしてくれるの?」
「まって……あ……‼」
てこの原理でなんとかならないかと期待したが、武蔵の体重を支え切れず、切れた縄はの左手を勢いよく滑っていった。
「っ……‼!ごめんなさい武蔵さん!」
「うお‼」
網と共に、武蔵が勢いよく地面に落ちるが、すぐに受け身をとって衝撃を免れていた。
さすがの身体能力といったところか。
「助けろって言ってねえけどありがと姉ちゃん……ん?」
手を抑えて苦悶の表情をしたに武蔵が駆け寄る。
「怪我したのか?縄で擦れた?見せて。」
「あ、大丈夫……です。少しだから……。」
「いいから‼」
武蔵がの手首を掴んで、手のひらを見る。
皮膚が擦れて血が滲んでいた。
「……え……手ちっちゃ……‼うわ……めちゃくちゃ痛そうじゃん!」
「すぐ、治ります……。」
「俺を助けようとして怪我したなら俺を罠にはめた西海の鬼のせいだな⁉」
「いやなんという責任転嫁。いやいや私が無理したから……。」
「姉ちゃんたちあっちから来たよな?城入れる?俺が手当てする。」
脛の痛みが引いてきた元就が立ち上がる。
「我の邪魔をするからよ……。」
「おいお前‼俺を城に案内しろ!」
「む……?」
武蔵がの手首を優しく掴みながら元就に迫る。
「長曾我部と決闘か。」
「それどころじゃねえもん!」
「む……?」
嵐の中でも決闘を求める馬鹿と聞いていたしそうだと自身でも思った元就の顔が曇る。
「姉ちゃんの綺麗な手が怪我したんだ!早くなんとかしねえと‼」
「武蔵さん……。」
元就が眉根を寄せる。
先程までの馬鹿面はどこへ行った。
なぜ突然、凛々しい顔を向けている。
「…………やはりお前か……‼」
「えっ何。」
は手のひらがひりひりして痛いので話はそこそこにして城に入りたいと思っていた。
元就が心臓に手を添える。
「この感覚……ザビー様を初めてお見かけした時の衝撃と同じではないか……‼」
「だから私ザビー教関係ないですよ⁉」
「教か……‼」
「いや私宗教やってないです!!」
「その愛……しかと見届けた……‼!!」
「聞いて‼!!????」
話を聞かずに元就が感動してふるふる震えだし、は嫌な予感がして仕方ない。
「‼お前の道を我に話せ!我が深く理解し、この日ノ本に広めて見せようぞ!ザビー様をも圧倒する思想となろう!!」
「元就さんめっちゃ怖い‼!!!」
「何言ってんだ!?姉ちゃんは俺が世話するんだ!」
「ならば宮本武蔵!!の愛の伝道師の名ををかけて我と戦え!!」
「話噛み合ってない!!」
元就がびしっと武蔵を指差し宣戦布告をし、武蔵も良く分からないながら受けて立つと言い出してしまった。
「う……うん……?」
は今が過去一番政宗さん助けてと思ったかもしれないと考えていた。