ゆらゆら船旅四国編 第13話
「長曾我部!!道場を貸せ!!」
「は?」
元就がどこかに消えたと思ったらいきなり怒鳴りながら現れる。
「何に使うんだ?」
「宮本武蔵と決闘する!!」
元就が武蔵の相手をするとは意外すぎて目を丸くしてしまう。
網から逃れた武蔵が毛利と会っちまってブチ切れさせちまったのか?と想像する。
「あいつをお前が相手するたぁどういう風の吹き回しだ……。」
「の愛をかけた決闘だ……‼我は挑まねばならぬ。」
「へーへー、わぁったよ。勝手に使え。突き当りを左だ。」
「うむ!」
すたたたたたと元就がすぐに去ってしまった。
「の愛ねぇ……全く元就は……」
の
愛!?
「「「なんだと―!?」」」
政宗と幸村も敏感に察知し現れた。
小太郎もよろよろとした足取りでやってきたが、政宗が追い返す。
「お前は寝てろ!!俺がを連れてくる!!」
「…………。」
こくり……
小太郎は布団に戻ってすやすやと寝た。
「なんで俺のいないところでを奪われなきゃならねぇんだ!!」
「某だって愛が欲しい!!」
「俺の方が何回もが欲しいって言ってんのにどこで話が進んでやがる!!」
三人が殺気を隠すことなく走り出した。
道場では武蔵に手当を受けていた。
「姉ちゃん、包帯きつくない?」
「はい、大丈夫です。手当お上手なんですね。」
「まあなー。一人で旅してきたし。自分の怪我は自分でなんとかしてきたし。」
「そうなんですか……。」
「だから、俺には必要ねーもんだけど、姉ちゃんが助けてくれたのは普通に嬉しかったぜ。」
元就は武蔵に殺気を向け続けている。
は手当終わったらこんなしょうもないことで戦い始まるの?どうしよう……と冷や汗をかいていた。
「さてと。あんた、毛利元就。よくわかんねえけど俺様が勝ったら姉ちゃんに迷惑かけないってことだな?」
「……は深い愛を持っている…ザビー様にも劣らぬ輝きだ。我が手に入れる!!貴様には一滴たりともやらぬ!!」
武蔵が立ち上がり、木刀を元就に向ける。
元就も輪刀を構える。
「姉ちゃん、下がって。俺負けないから。」
「武蔵さん……あの……。」
いやだからしょうもないのでやめてくれほんとまじでと言いたくて仕方なかったが二人とも表情が本気だ。
「姉ちゃんの怪我の責任は俺がとる!姉ちゃんは渡さない!」
「はっ!!は我のものぞ!!」
「「「な―!!?」」」
政宗たちは丁度勘違いするタイミングで道場に着いてしまった。
「は俺のものだ―!!勝手に決めるな!!」
「某も参戦するでござる―!!」
「待て…は女だ……小姓じゃなくてもいい……俺の嫁になれ!!」
「元親お前……!!は渡さねぇっつてんだろ!!」
政宗と元親が取っ組み合いを始めたが幸村は気にせずの傍に駆け付ける。
「……‼なぜ元就殿と武蔵殿が……⁉」
「なんでだろう……。」
「とてつもなく疲れた顔しておりますな!!??」
の時代で眠気に襲われていた時よりも疲れた顔だ……と幸村が恐れ戦いた。
「フン、貴様らも参戦か。良いだろう……!勝者にはの愛が与えられる!!」
そんな話聞いてねーーーー!!と本人が思っていた。
の隣にいた幸村が、ぎゅっと槍を握った。
「うおおおお!!は某が頂く!!元就殿!覚悟してくだされ!!」
槍を振り回しながら跳躍して武蔵と距離をとった元就に幸村が突進していく。
「背中ががら空きだぜ幸村!!MAGNUM STEP!!」
「何を……!!」
政宗の攻撃を幸村がとっさに防いだが
「うらぁ!!」
「!!」
元親が十飛で二人に襲いかかるが寸でのところで避ける。
元親は着地すると武蔵と目が合い
「鬼こらぁ!!俺と勝負しろ!!」
武蔵は元親にも石を投げてきた。
元就は武蔵への攻撃を止めず、乱闘モードだ。
「……。」
は考える。全員強くて怪我を負わせるのがまず至難の業じゃなかろうか。
少し離脱してもいいだろうか。
「……えっと……なにか飲み物でも用意しようかな。さっきも飲んだけど……激闘だし……。」
立ち上がって、女中を探しに行く。
の少しの現実逃避だった。
勝負がつかずに全員の息が上がってくる。
「……あ?どこ行った?」
そこでやっと政宗ががいないことに気付いた。
「厠じゃねえか?」
元親も肩で息をしながら口を開く。
「そ……そもそもの愛がもらえるとはなんなのですか。がそんなこと言い出すとは考えられないのですが。」
幸村もひと暴れして冷静になってくる。
騒動の元凶となった元就に視線が向かう。
「はこの宮本武蔵をも愛の力で屈服させたのだ。武力を使わずにだ!ザビー様を越える愛ではないか!我が、我が手に入れる……‼」
を……
……ザビーと並べるんじゃねえ……
そう思いながら政宗と幸村と元親は力が抜けて床に手がついてしまった。
「あ、終わった?」
そこにが戻ってくる。
男たちの熱気で温度が上がる道場に足を踏み入れる。
「お水持ってきたよ。」
「助かる……。」
湯呑を受け取ろうとした政宗がの手の包帯に気付く。
盆ごと受け取り、横にいた幸村に向けると、幸村はすんなり受け取って同じく包帯を驚いた顔をして見る。
政宗さんの根っからのお殿様な感じと幸村さんの従者な感じはこんな仕草に出るんだなあとはぼんやり思っていた。
「どうしたんだよ手……。」
「う、うん、ちょっとうっかり。」
「俺の網を外してくれる時に擦れちゃったんだ。」
武蔵が駆け寄って、の手にそっと自分の手を添える。
「治るまで俺が姉ちゃんのお世話するよ。」
「いらねえよ……??」
元親が武蔵の頭をガシリと掴む。
「風呂も厠も飯も着替えもって話になっちまうだろうが……!」
「そうだけど?」
「てめえは帰れこら!!」
「もとはと言えば鬼の罠のせいだろ!」
元親が殴りかかり、武蔵が避ける。
二人は第二戦を始めてしまった。
「このような混戦では優劣が付けられぬではないか……‼」
元就も息を荒げて幸村の持った盆から湯呑をとる。
「それどころじゃねえだろうが…‼」
「む?」
政宗の怒りをこらえるような声に、元就は視線を向ける。
「くそ……‼」
「わ!政宗さん?」
政宗がを抱き上げて道場から出て行く。
「あ、政宗殿……‼」
「来るな。」
拒絶を含んだ声色に、幸村は小さくため息を吐く。
を大切に想っているのは分かるのだが、に関しては言葉の選びが危ういのだ、政宗殿は。
二人きりにさせたくないとか俺も行きたいとかそういう呼びかけではなかった。
「優しく接してくださいませ……。」
もう見えなくなってしまった政宗に呟く。
政宗の部屋に着いてを座布団の上に降ろす。
座り込んだと視線の高さを合わせるように政宗も膝をついた。
「痛いか。」
の手を取って、様子を見る。
包帯をほどいてしまおうかと悩む仕草も見えた。
「大丈夫。皮一枚ちょっと擦れただけです。」
「けどよ……。」
「大袈裟ですよ、政宗さん。」
にこにこと政宗に笑顔を向ける。銃撃を受けたり斬られそうになったりもしたのに、かすり傷でそんなに心配されるとは意外だった。
「俺がいないところで怪我してんなよ……初めてじゃねえけどなあ!危なっかしい‼」
「あっははは!」
それもそうだとは口を開けて笑ってしまった。
しかし政宗が手を離してくれそうにない。
「政宗さん政宗さん、ちょっといい……?」
「なんだ?」
はやんわりと政宗から手を離して着物の襟を緩ませる。
元親に掴まれた肩を見せた。
しかしそこにはただ健康な白い肌があるだけだった。
「……。」
「痛くて、痣になってて、治るまで結構かかるかなって思ってたら、二日後には治ってた。」
政宗が胡坐をかいて座り、肩に触れてやや力を込める。
全く痛くないので表情を変えず、拒むこともしなかった。
「普通の身体じゃないみたいです。やっぱり。幽霊みたいなものなのかも。だからこの傷も、明日には治ってるかも……。」
「、そうじゃねえ。そうじゃねえんだよ……。」
「?」
怪我の心配をしてくれたのだとばかり思っていたは首を傾げる。
「の身体がどうだって話じぇねえ。俺が……の手が好きなんだよ……。だから怪我されたら嫌なんだよ。」
「……え。」
政宗がの襟を直し、また怪我をした手に自身の手を重ねる。
「手が……?」
「言われたことねえか。綺麗な手をしている。水仕事なんてしてねえのかと思ったら結構やってたし、そういう作りなんだろ。」
「初めて、言われたかな……。」
「大事にしろ。早く治るならそれで俺は気にしねえ。」
は膝の上で握られた手ばかりを見つめていた。
視線を上げて初めて政宗が自分の顔をじっと見つめていたことに気付いてどきりとする。
「うん、早く治す。手が上手く使えないのは不便だし。政宗さんが好いてくれてるなら……。」
も政宗の手を優しく握り返した。
そうだ、政宗さんに言いたいことがあるんだ、と思い出す。
「私も政宗さんの手、好き。」
「俺の手はごついじゃねえか。」
「綺麗だよ。いつも守ってくれてありがとう。水族館のときは痛かったですけど!」
「あれは……悪かった。でも加減は覚えたんだ。また繋がせろ。」
「うん……。」
この時代で一人の女が伊達政宗と手を繋いで歩くなんて、誰かに見られたらいけないのではないかと考えてしまうが、人目を避けて繋ぐなら二人の秘密が出来るようで胸が高鳴る。
「政宗さんのね、雰囲気とか、声とかも好きだよ。一緒にいて楽しい。」
「な、なんだよ……どうした。」
「だから勘違いはしないで聞いて。」
が笑顔を消して真剣な顔で政宗を見上げる。
「私、小太郎ちゃん連れて幸村さんと一緒に船を降りる。それで信玄様に会いに行って説明と謝罪してから奥州に向かう。小十郎さんにもお詫びしたら、次は慶次といつきに会いに行く。何があるか分からないって身に染みてるから、戻れたら戻るけど、慶次に会いに行く前にまたねって挨拶させて。」
決して政宗から早く離れることは望んでいるわけではないんだと伝わって欲しい。
「待て。。それは小太郎にもう言ったか?」
「ううん。まだ寝てるから……。」
「武田は戦だ。気持ちは察してやるが我慢しろ。」
「え……?」
「いつ始まるかまでは俺は分からねえがな。そんな時に信玄公に謝罪の時間を貰うもんじゃねえ。時期をみて謝罪に伺うと文だけにしておけ。俺も書く。」
「ゆ、幸村さん……戦……ま……間に合う……?幸村さんが着いたら戦……?」
「着いたら戦なんて段取り組めりゃあいいよなあ。でもまあ、あいつなら間に合わせる。そこは心配するな。」
公園で、祭りが終わったらすぐ戻るつもりだったと言っていたことを思い出す。
それは戦の為でもあったのかと今頃知る。
の手が微かに震える。政宗がの手を包み込むように握り直した。
「前田慶次は奥州に呼ぶ。俺がもてなしてやる。そのつもりだった。」
「え……。」
「いつきも呼ぶ。はこのまま俺と奥州が一番スムーズな移動だ。離れるな。」
「もてなすって……?」
そんなことを考えてくれているなんてには予想外だった。
まだ理解できていない表情で政宗に質問してしまう。
「を庇ったんだ。それぐらいはな。」
「わ、私をって理由で……?それ、みんな……小十郎さんは……許してくれるんですか?」
「あいつ意外とやるじゃねえか、かしこまりました、って言う小十郎しか俺には思い浮かばねえけどな。」
「政宗さんがそう言うなら間違いないのかな…。」
「小十郎だってお前の事は気に入ってる。」
きっと、自分の意志で慶次を呼ぶという形でもてなしてくれるのだろうと思った。
は深々と頭を下げる。
「ありがとうございます!!」
「そういうのはいい。やるなら実現してからにしろ。」
は右手を伸ばして政宗の左手を握る。
両手を繋いで、はへらっと笑った。
「えへへ……。」
「なんだこりゃ。ガキみてえなことしてんじゃねえよ。」
政宗もそう言いながら笑ってしまう。
「次の船旅は楽しもうぜ。ここまでは調理場ばかりででせっかくの海が見えなくて残念だったしな。」
「うん、私も海見たい!」
微かに、部屋の襖が閉じられる音がした。
は気付かない程度の音だった。
「……。」
政宗はわずかに後方を振り向く。
気配からして幸村と元親だ。
覗かれていたのは不愉快だが、聞かれてはいけない会話はしていない。
「どうしたの?」
「いや……。」
今は廊下に誰の気配もない。
自身の子供じみた感情を今なら吐露してもいいのだろうか。
「まさかとは思うが……ずっと前田慶次のことを考えていたのか?」
「ずっと考えてたよ。もしものことがあったらどうしようって。」
あっさりと言われた言葉に、自分でも驚くほどの嫉妬の感情が沸き上がる。
この俺はお前の事ばかり考えていたのにか、と怒気を含んで言いそうになるのを必死にこらえる。
握る指に、力が入ってしまった。
「政宗さんのことも幸村さんのこともいっぱい考えて、置いてきちゃった小太郎ちゃんや佐助さんや小十郎さんのことも、それに自分の心配もしとかないとで……。」
は政宗の力が込められた指に気付いていたが、なぜなのかはわかっていなかった。
言葉を続けていると、徐々にそれも緩む。
少しずつ、心配事が解消されて前進できている感触はきっと政宗も同じだと思っていた。
「……お疲れさん。」
「政宗さんも、本当に、ありがとうございます。船の上にきちゃったなんて、ちょっと次が怖くなっちゃったけど……。」
「今は泣き言言ってもいいけどな。」
「お、じゃあ慰めてくださいね。」
「内容による。」
「厳しいな!!!???」
途中まで良い雰囲気だと思ったらこれだ、とは笑ってしまう。
「じゃあいいや。政宗さん見てるだけで勇気は貰えるもん。」
「なんだよ、めそめそしねえのかよ。」
「もうしてる暇ないですわ!元就さんに武蔵さんも来ちゃってなんか政宗さんとゆっくりする時間貴重なのではと!」
「全体的にやかましいよな。」
「嫌いじゃないんですけど!」
しかも全員を気に入っているときた。
小十郎はこれを聞いたら信じてくれるのかと疑いたくなるほどのメンツにだ。
「嫌でも嫌じゃなくても顔を突き合わせる。疲れたら俺の袖でも引っ張れ。部屋に攫ってやるよ。」
「ありがと……。じゃあ政宗さんも疲れたら私の襟でも引っ張ってください。」
「どうすんだよ。」
「え、えーーーと、私の部屋に攫ってやるぜ。」
「言うじゃねえか。」
「あはは!」
政宗がの頬を優しくつねる。
いざ部屋に行ったらきっと、甘い空気になるでもなくお互いに話したいことがいっぱいあって楽しく過ごしてしまうんだろう。
「それで今日この手はどうする。風呂は?元親の女中に頼むか?」
「絆創膏が残ってるのでそれでいけるかなって。」
「巻き直しは俺がしてやる。」
「ありがとう~。お風呂あがったらお邪魔しますね。」
風呂に入った後を考えると、風邪を引いた小太郎が自分の部屋で寝ているのだった、と思い出す。
昨日は断ってしまったが、申し出てもいいだろうかとおずおずと質問する。
「……今日は、政宗さんのお部屋で寝ていい?」
「小太郎がいるもんなあ。」
「うん……。」
「いいぞ。」
すぐに快諾してくれて、が安心の笑みを浮かべる。
「さて……じゃあちょっと行くか。」
「どこへ?」
手の怪我を見て政宗がを攫って行ったと聞いた元親が、政宗の部屋へ走ってしまった。
幸村が止めようと追いかけると、俺の城でやり始めてんじゃねえだろうな⁉と言い出していた。
中の様子を覗いた後、元親の飲みに付き合えという誘いに頷いて、幸村は元親の部屋に来ていた。
「ほう、焼酎ですか。」
「いけるか?」
「ええ、頂きます。」
飲み始めるとしばしの沈黙の時間が流れる。
先に口を開いたのは元親だった。
「……ヤッてた方がましだったーーーーー……。」
幸村がブフウと酒を吹いてしまう。
慌てて口を拭いながら元親を睨む。
「何を言ってるのですか……‼」
「……は俺のもんって言ったじゃねえか。やっぱりあいつにも独占欲はあんだろが‼だから俺は、自分のものだと示そうとに襲い掛かってるんじゃねえかと想像したのに、なのに見たかあの独眼竜の表情……。」
肌を晒しても着物を政宗が戻していた。
自身が怪我をしたかのように顔を歪めていた。
手を繋ぎあって笑いあう姿はまるで幼子の初恋の様じゃないかと感じてしまった。
「分かるかこの敗北感がよ‼いつもの俺ならなんだ独眼竜は奥手なのかじゃあ俺が頂くぜと言うのによ……実際思ったのは……‼」
元親が乱暴に盃を畳の上に置く。
零れましたよと声を掛けたいところだが元親はそれどころではなさそうだ。
頭を片手で抱えて俯く。
「独眼竜があれなら俺が手を出すわけにはいかねえじゃねえかって……‼」
「政宗殿とを普通の男女の尺度で計ってはいけませぬ……。」
幸村も元親の気持ちは少し分かる。
さっぱりした関係の様で信頼しあっていて、好き合っているようで少しずれているのだ。
「未来では学問に勤しむ時間が長く、政宗殿との時間が多かったのですが……。」
「なんか話したのか。」
「は最初に小田原での戦に現れてしまい、北条の者と思って人質にしようと拾ったのが最初と。」
「そこからあんなになってんのかよ。」
「風魔殿の奇襲を避けようとしたが、その際が政宗殿をかばおうとしたそうで……。」
元親があっぶね……と呟く。とてもじゃないがが忍の前に出て無事で済むというのは想像できない。
「それで、興味を持って、と。」
言いながら、幸村も思い出す。
ふと時々考えてしまうのだ。
なぜ俺はあの時、を殺せなかったのだ?と。
もちろん殺したくなかった。でも避けられるような攻撃も躊躇いもなかったのだ。
北条の何かがを守ったのではないかと、そう想像することしかできない。
「お前は?」
「え?」
「幸村もが好きなんだろう。何かきっかけがあったのか?」
「某は、良い方であるなとは最初から思っていて…一度、敵と間違えてを攻撃してしまったのだ。大事には至らなかったのだが……。」
元親が一瞬身を乗り出すが、すぐに引く。
「お前……‼……って言いてえところだが俺ももう人の事言えねえな……。」
「は某を咎めては下さいませんでしたから、そういわれた方が心が軽くはなりますがね。」
「咎めなかったのか。」
「あんなところにいた自分が悪いと……。なぜ、そう思えるんですかね。愛しくもなり、償いたくもなりました。」
「そうかよ……。」
元親が酒を豪快に飲み干す。
二人の様子は何もなかったと言えるのに、まるで失恋でもしたかのようだなと幸村は笑いそうになる。
「政宗殿はに厳くもあります。風呂場での騒動でが元親殿の部屋に行こうとしたとき、謝るのか?と問うておりました。」
「!」
「謝ると言っていたら行かせなかったでしょう。はそれは言わないと言ったので許したのです。」
「俺のご機嫌取りにゃ予想外すぎる最高の言葉だったぜ。」
「の強さです。その強さを確認して……にまた、会いたいと思っているのです。」
一人でこの時代に降り立ち、政宗を目指せる強さがあると。
政宗が求めるものは押し付けでも我儘でも独占欲でもない、奇妙な状況に置かれたが迷った時、寂しくなった時、辛い思いをした時に、導いてくれる希望なのかもしれない。
「おい元親入るぞ!」
まさに話題の中心の人物が勢いよく襖を開けて、元親と幸村が驚いて仰け反るどころか部屋の隅に逃げ出した。
「なんだよ二人でこそこそ酒飲みやがって。俺も呼べよ。何の酒だ。」
「え……どうしたの二人とも部屋の隅に……。」
政宗の後方からもひょっこり顔を出した。
「お前は連れて……どっか行っちまってただろ!」
覗いてたくせに何言ってやがると思うが、は知らないだろうし耳に入れる必要も感じず黙る。
二人の盛大に驚いた顔が見れて満足したのでそれでチャラにしてる、とニヤリと笑う。
「元就さんと武蔵さんは?」
「武蔵にも部屋をやった。家臣に案内させてる。」
「ありがとう元親さん……!」
「大人しいなら構わねえよ。」
元親が廊下に出て家臣を呼んび、盃を2枚追加を指示する。
「焼酎ですぞ?飲めるか?」
「焼酎……‼一口だけじゃあ。」
は立ち上がって自分の部屋を覗く。
まだ眠っている小太郎の額や頬に触れると、先程よりも熱は引いてるようだった。
幸村も小太郎の様子を見にの隣に座る。
「風魔殿はどうだ。」
「治ってきてるみたい。よかった。」
「治ってくれねえと困るぜ。この調子なら明日出航だ。」
「ほんと!?」
家臣から報告を受けた元親の知らせにが大きな声で喜んでしまう。
小太郎が目を開ける。
「風魔殿。」
「あ……起こしちゃった?ごめんね。」
ふるふると小太郎が首を横に振る。
「夕食は食べようね。今日はこのままここで眠ってね。」
こくりと小太郎が頷く。
「私は政宗さんのお部屋で寝るから安心してね。」
「‼!!????」
小太郎はそれ安心なのか⁉と驚く。
幸村と元親はどうせ健全に寝るのだろうなあと学習していた。
「なんだよ幸村と元親のその反応は……。」
なんでてめえの部屋なんだよと文句を言われると思った政宗は拍子抜けしてしまった。