ゆらゆら船旅四国編 第18話
「」
「佐助……!」
駆け寄って、幸村の事、慶次のことを話したかった。
しかし、空気が重い。
口元は優しげなのに視線が恐ろしい。
「ごめんなさい、あの」
「うちの旦那になんてことしてくれたのかなあ。」
「それは、重々承知で……。」
はその場で俯いてしまった。
怒られることを覚悟していなかったわけではなかったのだが、戦前の大事な時期に連れ去ったのだ。
「幸村さんは私に何も文句を言わなかった。でも私はそれに甘えるだけのつもりはなかったから。私に、出来る償いならします!」
「へえ。」
は言うと同時に大きく頭を下げた。
佐助が立ち上がって、近づいてくる気配がする。
ぽんぽんと、の頭を優しく叩く。
「んじゃ~~~旦那の嫁さんになってもらおっかなあ~~~。」
「ん?」
視線を上げると、先程までの空気は皆無で悪戯っぽく笑う佐助の顔があった。
「もう少し引っ張ろー思ったけど駄目だ小太郎の殺気が最大値だよ。ちょっと懐に入れた物騒な手やめてくれる?」
「…………。」
言われた通り、小太郎は懐に入れていた手を出してそのまま腕を組む。
「未来に行ったって文をもらったよ。不在を謝ってはいたけど、たくさんのものを得たって。」
今度はいつもの飄々とした佐助の声と表情で、に接する。
「でもはどう思ってるのか。それが俺には重要だったのよ。」
「ど、どうでした?」
「良い子で安心したよ。旦那の気持ちも俺たちへの気持ちも大事にしてくれてありがとね。」
「佐助……」
「……俺様の仕事の量が増えに増えたからそのあたりは癒して欲しいけどね~……」
「それはごめん……。ここで美味しいもの食べよ!」
はそう言って佐助に笑顔を向けた後、すぐに真面目な表情をする。
「あの、慶次のこと聞いても良い?」
「風来坊のことね。」
「今、どこにいるの?どうしてる?」
「それは……」
佐助が一瞬目を見開いたとほぼ同時に、の視界が暗くなる。
「え?」
「だーれだ」
上から降ってきた声に反応して、視界を覆った手を反射的にがしりと掴んでしまった。
「慶次!」
「はい正解!」
手が外されて、振り返る。
目の前には嬉しそうに笑う慶次の姿。
「慶次……!」
「よー!元気そうでよかった!」
「慶次も……慶次の方が……!」
の、笑顔になりながら目が潤んだ様子に、慶次が苦笑いする。
「心配かけるような助け方になっちまって悪かったな……。でも俺結構強いからさ。大丈夫だぜ!」
「慶次~~!助けてくれて、本当にありがとう!」
怪我を気遣うように優しく寄り添って、はおでこを慶次の胸に当てる。
慶次は片手でゆっくりの頭を撫でた。
「…………っ!」
港を散策する前に水でも飲むかと一人船を降りて休憩所を探していた元就は、目に付いた小屋へ足を向けていた。
中に人がいるのかと途中で気付き、それが男に寄りそうの姿で目を丸くする。
「……な、んだと……!」
の愛を一心に受ける男が存在していただと……!!!!????
初めて感じる胸の痛みに混乱する。
この感情はなんだ……!?
「おい元就!共もねえのに先に行くんじゃねえよ。これ元親が!」
政宗が小走りで元就に追いつく。
胸をおさえ、前かがみになる元就の異変に気付いて首を傾げる。
「ぐうう……。」
「あ?なんだ胸が痛ェのか?知らねえだろうが心筋梗塞とか狭心症とかいう胸の病気だとやべえから療養したほうがいいぜ?」
元親から預かった巾着を差し出しながら、苦悶の表情を浮かべる元就の顔を覗き込む。
「……教えろ独眼竜……」
「何を」
「には思い人が……いるのか……?」
「俺の事か?」
「……。」
きょとんとする政宗の答えに白けてしまい、元就は前かがみになっていた背を伸ばした。
「……いやなんだよ急にスン……ってすんなよ。」
「巾着はなんだ。」
「金と飲み水だよ。貸しだとは言ってたが。」
「ふん……」
奪い取るように巾着を取って、もう一度小屋を見る。
視線の先を政宗も追う。
「あ?前田慶次じゃねえか。猿も。」
「知っているのか。」
くっつく二人を見ても政宗は動じない。
「慶次は庇って怪我しやがったんだ。ずーっと心配してたんだぜ。おい!慶次!」
「……。」
政宗が小屋へと向かって行く。
なんだ、そういうことか、とほっとしてしまう。
「…………だからなんなのだこの感情は!!」
元就は小屋に背を向け、町へと向かっていった。
小屋では政宗の呼びかけに反応して、は離れようとしたが、慶次が手をの頭から離さない。
「おー独眼竜。」
「政宗さん……」
「調子に乗るな。を離せ。」
「感動の再会中だから。」
頬を膨らませる慶次と、恥ずかしさで頬が真っ赤になるを見て、政宗はため息を吐く。
ここで無理やり剥がすのはの為か自分の為か。
「…………。」
「お。」
「いでででででで!?」
政宗が結論を出すより先に小太郎が慶次の腕を捻り上げた。
「あーごめんなさいごめんなさい!容赦ない!」
「怪我の状態分かってるからねえ俺らは~。」
だから加減余裕だよ、と佐助が笑う。
「竜の旦那、ウチの旦那は?」
「もうすぐ来る。戸を開けときゃ気付くだろ。」
「じゃあ待ってよっと。」
は恥ずかしそうに髪を手櫛で整えながら政宗を見上げた。
「あ、も、元親さんは……?」
「まだだろ。家臣に指示してたぞ。」
「そっか。」
「あ、旦那ー!」
佐助が幸村を見つけ、手を挙げて名を呼ぶ。
皆の姿を見つけ、幸村は目を輝かせて駆け寄ってきた。
「佐助!前田殿!」
「来たな。はこの後元親と約束がある。が、話も聞きてえから手短に話せ。」
「と西海の鬼が?」
「えー!?元親って……!なんでなんで!?」
「手短に話せ。」
一番文句言いてえのは俺だとでも言いたげな睨みを受けて、慶次は慌てて話し始める。
「あの後はまつ姉ちゃんに治療して貰って、甲斐で連絡待ってたんだ。」
「明智光秀らは。撒いたのか?」
忍が二人もいれば出来るだろうが、と二人の様子を見ると、慶次を見て呆れたような表情をしていた。
「ん、あぁ、まぁ…ちょっとあいつらに説教したよ。」
「説教でございますか?」
「、俺、あいつらにきつーく言っといたから!」
「え?慶次、怪我してたのに?」」
慶次があ、と小さく声を洩らした。
「かっこよかったよ~風来ぼ「あ~あ~やめろよ!」
にやにやする佐助を、慶次は顔を赤くしながら睨み付けた。
「ありがとう……でも、無理しちゃ嫌だ……。」
「傷は浅かったんだよ。気にすんな!それより、あいつら2人、には手を出すなって言ったから!」
「う、うん……。本当にありがとう……慶次!」
「そーそー!止血して寝て食ったら元気になっちゃってねえ~。」
陽気な声で、佐助がの後方に回る。
肩に手を置いて、気にすることないよ~と明るい声を出した。
「祭りは大成功さ!まつ姉ちゃんにさ~濃ちゃんに告げ口してくれっていったから、二人は怒られてると思うけど!」
「魔王の嫁さんか。」
「そそ!濃ちゃんは信用できるって!それで……」
慶次が政宗と幸村の方を向いて話始める。
「……今度こそ俺が助けるって。」
「!」
佐助がにだけ聞こえる音量で喋りだした。
口は全く動いて無く、政宗たちは気付かなかった。
小太郎だけが首を傾けた。
「佐助…(腹話術させたい…)。」
「手当てが先だっていってんのに、ずーっと吠えててさ。」
「……。」こくり
「あいつに手を出したら、どこの誰だろうが関係ねえ、殺すってさ……おっかない顔しちゃって。」
「…………。」
佐助はにこにこ笑ったままだ。
慶次は上田城に遊びに行ったりするらしいから、佐助は知ってるのかもしれない。
ねねさんの事、知ってるのかもしれない。
私がねねさんと会えたのは、偶然じゃなかったのかもしれない。
「そっか、分かったよ。」
「うん、知ってて欲しかっただけ。何をするかは任せるよ。」
「……。」
慶次の話を聞き終えた幸村が佐助のところにやって来た。
こそこそ話していたのがばれたかと思ったが、幸村は笑顔だった。
「佐助!お館様は?」
「はいはい、大将は旦那の帰りを待ってるからね。俺がしっかり連れてくからね~。ところでホントに未来に行ったの?」
「うむ!すごかったぞ!何から話したらいいのか、ええと……そうだな……」
「大将が旦那の話楽しみにしてるからね~。聞かせてね?いいよね、?」
「えへへ……そ、そんなに、たくさんは見せてあげられなくて……」
「そんなことない!そうだ!一番凄かったのは、だ!」
幸村はをキラキラした目をして見つめていた。
「わたし?」
「そうだ!は、1人で某と政宗殿の世話をしてくださった!飯も、衣類も、掃除も!そして仕事の無い日は、賑やかな町に連れて行ってくれたし、道場も見つけてきてくれて…!」
「1人で?そりゃ、……悪い事したね~……」
「大丈夫なんだよそれが……簡単に出来るカラクリがあってね……。でも幸村さん達も手伝ってくれたから。」
「え、旦那が家事を……?」
「!!!!!や、やらせてごめんなさい!?」
「いやそこは責めないけど……。」
佐助の前で嬉しそうな表情をこれでもかと見せる幸村を見て、も微笑む。
「じゃあ、こちらでお世話になったお礼できたかな?」
「!」
「何を申しますか!お礼をするのはこちらの方!佐助、文に書いたものは……」
「あ~~~旦那!!これからは予定あるんでしょおおお!?」
そういうのはもう少し雰囲気よくできる余裕があるときにしなさい!と幸村の耳に囁きかける。
「う、うむ?」
「……なんか幸村も用があるみてえだから元親の用はさっさと済ませてこい。」
「うん!元親さんもみんなとお話したいと思うし!」
「……。」
無邪気なことで、と政宗は頭を掻く。
「なんだなんだ、大勢で集まって。」
「元親さん!」
「でけえ男共が集って目立ちすぎだ。女子供が怖がってる。解散しろ。」
「はいはい。じゃあ旦那は俺と話。わかってるよね?」
「うむ!」
「近くの宿の一室借りてるからそこいくよ。」
幸村と佐助が最初にその場を離れた。
「行くぞ、。」
「元親さん、よかったら皆も一緒だと……」
「楽しいってか?俺はと二人きりだと楽しい。」
「え」
の腕を引いて、元親が歩き出す。
「政宗さん、小太郎ちゃんのことお願い……!」
振り返りながら政宗の顔を見ると、何か言いたげに口を開いていた。
後でお話聞かなきゃ、と思いながら前を向いた。
「俺たちはどうする~?」
「小太郎。にお前の事を任された。勝手な行動は禁ずる。」
「……。」
こくり、と小太郎は頷いた。
「……へえ~。」
感心したような声を上げる慶次に視線を向ける。
「なんだよ。」
「は対等な立場なんだな。独眼竜にとって。」
「……そう見えたか?」
「え?うん。も少し偉そうなのかと思った。」
それは余計だ、と慶次を小突き、政宗も街へと足を向ける。
小太郎、慶次もそれに続いた。
皆が視界から消えると、元親はの手を握った。
「も、も、元親さん……」
「前田慶次、元気そうでよかったな?」
「うん!」
「で?あいつらも船に乗せろって?」
「お願いします……。」
「乗せたくなるように俺の機嫌取ってくれよな。」
「努力します……。」
「はは!冗談だ。じゃなくてあいつらに機嫌取ってもらうぜ。」
元親はに笑顔を向けながら、町へと向かって行く。
最初は引っ張られるように歩いてたも、元親がと歩く速度を合わせ始めたので隣を歩くことが出来た。
賑わう町の大通りを進む。
元親が立ち止まったのは、茶屋の前だった。
「まあまずはここからか。何か食うか。」
「……あの、奢って頂くことになってしまいますが……?」
「奢りじゃねえ。報酬と思えよ。」
「ほうしゅう……」
「これまでやってきてくれたことを考えたらこれくらい当然だ。誘ったのは俺だしな。」
の手を引いて元親が中に入る。
慶次の話も、離れる際に政宗が何を言おうとしたかも気になっていたが、今は元親との時間を楽しもうと切り替えた。
政宗と慶次と小太郎は店先の商品を眺めながらうろうろしていた。
「南蛮のものが結構あるじゃねえか。」
「結構流れてくるみたいだねえ。元親も顔知れてるみたいだし交易が盛んなのかね。」
「Umm...」
政宗が普通に品を手に取って悩み始める。
人目が多くてそわそわしている小太郎には気を向けずに集中して物色し始めてしまい、慶次が小太郎をなだめ始める。
「小太郎さん、気持ちは分かるけど、いきなり消えたりしないでね!が心配するからね!」
「…………。」
独眼竜が任されたことなのになあと思いつつ、面倒見が良い慶次には放っておくことも出来なかった。
しばらく町を散策していると、元親と袋を抱えたと合流する。
「政宗さん!これ元親さんが買ってくれた!」
「おおよかったじゃねえか。」
すぐに政宗に駆け寄って報告するを見て、親子か????と元親は目を細めた。
「慶次は体調大丈夫?」
「もちろん。独眼竜が茶奢ってくれてゆっくりしてたよ。」
「政宗さんお金……。」
「小十郎が文と一緒に届けてくれたんだよ。」
慶次と小太郎と話始め、元親は政宗に近づいた。
「甘味食いながら話しててよ、俺がどこの国行ったことあるのかとかカラクリのこととか目を輝かせて熱心に聞くからちょっといい感じじゃねえか?とか思ったんだがよ……」
「それは単細胞なんじゃねえか。」
「その後俺が、の好きなもの買ってやるよ、って言ったら、前田慶次の話を聞きながらみんなで食う茶菓子だと。」
「ふっ……。」
政宗は思わず笑ってしまった。
装飾品をねだる女の方が元親には扱いやすかったのかもしれない。
「そろそろ船に戻る時間か?」
「まだだ。もう一件に用があってね。」
元親はに近づき、抱えた袋を取って小太郎に持たせる。
「えっ。」
「従者だろ。」
「いや、ちが……」
「まあそれはどっちでもいい。もう少し付き合ってくれよ。」
そしてまた元親に腕を引かれる。
今度は政宗、慶次、小太郎も後をついて行く。
「ふらふらしただけで分かるぜ。は見る目がある。」
「未来人的に?」
「それもあるな。飛びつくものは最近南蛮から入ってきたものが多い。」
「え?それで今からどこへ?」
「すぐそこだ。」
元親が大きい屋敷を指差す。
お金持ちの人が住んでそうなんですけど……?とは冷や汗をかいた。
「今日もやってんのかい?」
「これはこれは元親様。」
屋敷の中では南蛮の商人が品を広げていた。
木製のインテリア、ガラスの陶器、絵画や織物、ぬいぐるみまである。
「わあ……!」
「そちらのお方は?」
「目利きに長けた女だ。同席してもいいだろ?」
「元親様のご紹介でしたらぜひとも。」
家主らしき初老の男性に一礼をし、元親に好きに物色してくれと背を押される。
ついてきた政宗と慶次も興味津々に品を眺める。
小太郎は外で待機をしていた。
「なんだこれ?」
早速政宗が品の前で商品を手に取る。
それを慶次が覗き込む。
「織田のおっさんとこでみたことあるぜ!」
「何に使うんだよ。」
「……さあ?」
も政宗の隣にしゃがみこんで商品を見る。
「あ、スパイスケースだよ!ほら、日本だと……胡椒とか塩とか。」
「ああ、なるほどな。」
「俺すぐなるほどって思えないんだけど!」
「こっちはアンティークのサイドテーブル!おしゃれ~!アンティーク?いやこの時代なら新品……?」
「、日本語使って!」
「あ、ごめん。えっと……」
前田慶次邪魔だな……とも思いつつ、の反応の良さに元親は満足気に笑う。
南蛮から正しく商品を広めようとここへ来るものもいれば、価値の分からないものを騙そうとする者もいる。
この家の主人は南蛮の商品を店で取り扱いたいと積極的に業者を呼んでいると聞き、すぐににも見せたいと思ったのだ。
「この中で買うならどれだ?」
「え、私が?どうしよう……どれも珍しい?」
「そうだな。」
「絵画は詳しくないからな……。織物が綺麗!」
「……どう使うんだ?」
「スカーフにしたり……どうかなどうかな。」
が淡い紫の織物を肩を覆うように巻き付ける。
政宗が贈った紺色の着物と同系色で合わせ、くるりと一回転をした。
「可愛い。」
元親は素直に感想を漏らした。
「ありがとう。」
「和洋のMIX合うな。流行るんじゃねえか?」
「じゃなかったら違和感かもよ。はもう合うってわかってて自信満々に着こなしてるじゃん。」
「じ、自信満々……。」
そういわれると恥ずかしいな、とは俯いた。
「なるほどなあ……。」
「ガラスの器もあるね。でもどうなんだろう。日本だと地震がいっぱいあるから陶器とか木製の食器のがいいのかな。でも色んなものあった方が文化の広がりってのはでるよね。」
「ん……?日本だとってなんだ?南蛮は地震がねえのか?」
元親だけでなく政宗も慶次もの方をじっと見て答えを待ってしまった。
はっとして口を押さえるの反応を見て政宗は我に返り、守るように腕を伸ばす。
「あんまりに聞くんじゃねえよ。」
「あ、わ、わり。、とりあえず俺の嫁になれよ。」
「戯言は一人の時に言えよ。」
こんな女他にはいねえな…と目を輝かせプロポーズをし始める元親を政宗が阻む。
「俺たちにとっちゃ知識の宝庫なんじゃねえか……!感動するだろ……!!」
感動して結婚しろと言い出すってどういう感性なんだよと思いながら、家主のもとへと行く元親を目で追う。
「決めた。知らねえものに当たりも外れもねえな。自分で良し悪し確かめねえと。数点買わせてもらうぜ。船へ運んでくれ。」
「ありがとうございます。すぐに手配いたしましょう。」
スカーフを畳みながら、が呟く。
「そっか……こういうことで役に立てる方法もあるんだなあ。」
「!」
深く考えず声に出たものだったが、政宗が反応する。
「……」
「あ!!それ戻さなくていい!持ってけ!」
「え?スカーフ?」
「おう。やるよ。」
「え、い、いいの?ありがとう!」
叫ぶ元親と、嬉しそうにスカーフをまた巻くに言葉を続けることをやめてしまった。
まあ、今じゃなくていいか、と政宗もガラスの器を手に取る。
の部屋にもあったが、重さが随分と違うんだな、と眺める。
「俺も買うかな。ご新規さんはお断りか?」
「いいや、俺が紹介すりゃいいだろ?気に入ったもん買いな。」
政宗も商品を漁り始める。
は慶次の隣に立った。
「慶次は?」
「俺は~~~……買うのはちょっとお値段がねえ。」
だからちょっと会話に入れなかった、と苦笑いをする。
「でも本当に似合うよその、すかーふ?明るい色も似合うけど、大人っぽく見えるな!」
「ありがとう!お買い物もう少しかかりそうだから私小太郎ちゃんのところ行くね。」
「俺も行く~。」
外へと出る前に振り返る。
政宗が元親と一緒に嬉しそうに南蛮の品々を見ている。
「……。」
その笑顔を見ると、未来へ連れて行ったことも四国へ着いてしまったことも良かったことの様に思えてしまう。
「(それはよくないな……。)」
その目に色んな世界を見せてあげたいと考えてしまうのは政宗の立場を考えたら迷惑でしかない思考だ。
「!小太郎さんちゃんとそこで待っててくれてるよ。門番みてえ。」
「門番……だったんだろうねえ氏政じいちゃんとこで……。」
気を張り詰めて警護しているのだろうか、ならば早く行ってあげよう、と小走りで向かった。