奥州帰還編 第1話
「……。」
長曾我部軍の忍がやってきて、小十郎に文を渡した。
「ねーねー、何て?」
成実は覗き込みたくてしょうがないが、人前なので大人しく胡坐をかいていた。
「政宗様はもうすぐお帰りになるそうだ。迎えをしねえとな。」
「本当!?ちゃんも一緒だよね?」
「ああ。」
「じゃあ安心だね!!」
小十郎も顔には出さないがほっと安堵する。
「明日着の予定だそうだが、暗くならないうちに到着されるといいが。」
「ま、でかい船なら嫌でも目立つさ。朝から馬を出して待機させるよ。」
「お願いします。」
港を見張っていた兵から連絡を受けたのは翌日の昼だった。
小十郎は急いで馬を走らせ、港で成実と合流する。
「あ、あれじゃん?おお~なんかちゃんと武装もしてるねえ。」
成実が港に向かってくる船を指差した。
「ほう……あれが……。」
あらかじめ指示を出していた事もあり、野次馬は少ない。
「着いたらすぐ城に向かおう。先に馬の用意をしてるから片倉殿は皆を連れてきて。」
「わかりました。」
ゆっくりと港に船が止まる。
数人の長曾我部軍の兵が出てきた後に、政宗とが現れた。
「小十郎!」
「小十郎さん!!」
二人揃って小十郎に笑顔で手を振る。
「…………。」
小十郎は口に手を当てた。
政宗様との笑顔……可愛らしい……!!!!
皆で政宗の不在を守り切ったのに自分だけ一足先に癒されてしまってすまない……!!!!!
そう思い涙が滲んだ。
「小十郎?どうした微妙な顔して。」
「無事戻って来たのが嬉しいのです……。」
「ご心配かけてすみません、小十郎さん!」
は頭を思い切り下げるので、静止しようとすると、政宗が小十郎の肩に手を置く。
「俺からの土産話がたくさんある。不在中の話も漏れなく報告しろ。」
「はっ。それについては書面にてまとめてございますので目を通して頂ければ。」
「Thanks.」
が恐る恐るといった様子で頭を上げるので、小十郎はぽんぽんと頭を優しく叩いた。
「のせいじゃねえ。色々なことが重なったんだろう。」
「小十郎さん……。」
「も、城に戻ったら話しを聞かせてくれ。」
「はい!」
はっきりとした返事に、政宗も小十郎も微笑む。
「で、元親のもてなしの準備はどうだ。」
「はあ。文で頂いた指示通りの準備は出来ております。」
「わかった。」
「しかし内容が随分と丁重な……。そのように念押しもされるとは余程のことが?文の内容が最低限のことでしたので小十郎理解が追い付いておらず……。」
「余計な事考えずここの守りに徹して欲しかったんだ。」
「その意図は十分伝わっておりましたよ。」
小十郎が視線を上げる。
の肩に大きな手がぽんと乗る。
「もてなしなんてなあ。気にしなくていいぜえ?それよりを長曾我部軍に引き抜きてえんだがあんたはどう思う?」
元親が笑みを浮かべて小十郎を見つめる。
小十郎は睨みで返した。
「お断りだ。」
「ああそうかい。独眼竜と同じかよ。」
小十郎はすぐに察する。
奥州までわざわざ送り届けてきたのは、の力が大きく関わった。
恩よりもてなしより、を望むような何かを。
「我も問う。貴様にとって愛とは何だ。」
「毛利!!!!お前頼むから奥州に迷惑かけんな!!??」
いつの間にか元親の背後に元就が立ち、小十郎に問いかけた。
「貴様の話は終わっていただろうが我の番ぞ。」
「お前俺が船で送ってやった恩義を大爆破するぐれえのやらかしをやりそうで怖ぇんだよ!!!!!」
先程の不敵な笑みはどこへ行ったのか、元親が慌て、顔色まで悪くなる。
「目を離したすきに奥州に自軍送り込むくれえやりそうじゃねえか!!」
「何を言うか…。そんな準備は無い。その場合長曾我部にそそのかされ仕方なく、という状況まで用意してから行うに決まっているだろう。」
「すぐ不穏になること言うんじゃねえ!」
政宗はため息をつく。
小十郎が困惑しながら政宗に視線を向ける。
「愛とは何か……と言いましたか?」
「答えがあるなら返してやってもいいんじゃねえか?」
「政宗様より毛利元就も来るとは聞いていましたが、この問いは予想外ですが……。」
「ザビーとやらが言う愛ってやつの洗脳が入ってるんだと。がちょっと優しくしたら、ザビーの仲間か愛を語れとか言い出してよ……。」
「なんと。」
長曾我部元親ですでにめんどくさそうなのに毛利の意味不明の言い寄りは心労だな……とに同情した。
「毛利元就。愛について知りたいのか。」
「呼び捨てとは立場をわきまえよ。しかし続けて良い。お前は何か知ってるのか。」
無礼は置いといてそれより愛を知りたいのか……とは元就に感心しそうになっていた。
「愛ってもんが何なのか、気になって仕方が無い。」
「……うむ。」
「その執着も、1つの愛なんじゃないのか?」
「な……!」
元就がよろける。
「我の中にもすでに愛があると言うのか!!」
「俺にはそう見える。」
「くっ!!やめよ!我は……我は……ザビー様によって与えられたとばかり……気付かされただけだっただと……!」
「政宗様これいつまで続ければよろしいでしょうか。」
「もう少しの気がするから頑張れ小十郎。」
「成実様が馬を用意して待っています。」
「お、じゃあ行くか。元就、続きは城でな。」
「え……嫌なんですが俺が……。」
「く、くう……道中己と向き合うか……!」
「成実さんもお迎えに来てくださってるんですね!」
が困ってるだろうから対応したのだが、当のはそんな元就にすでに慣れているような様子に心配することなかったかな……と小十郎は思い直した。
「あっ!片倉さんどーもどーも!」
船から慶次と小太郎が降りてくる。
「元気そうだな。猿飛の報告は聞いている。を急に攫ったことは怒りてえが……」
「ごめんなさい小十郎さん!慶次、私の為に……」
間にが入る。
下船が今になったのは小太郎が包帯を取り換えていたからだ。
「……前田慶次ももてなしの相手だ。楽しんでいってくれ。」
「わーいありがとう片倉さん!」
「小十郎さん……!」
「もてなしー!?美味い飯くれんのか!?」
遅れて顔を出した武蔵が期待に満ちた視線を小十郎に向ける。
「……大所帯ですな。」
誰だ……?と考えるがこの男も何かの恩があるのやもしれないと何も言えない小十郎だった。
「流れだ仕方ねえ。行くぞ。」
武蔵のこと小十郎に伝えるの忘れてたなそういえば……と政宗は思った。
馬を待機させる成実の姿が見えると、は大きく手を振った。
「成実さん!」
「殿~~~!ちゃん~~~!」
成実も大きく手を振り返した。
そして駆け寄って嬉しそうに政宗との顔を交互に見る。
「すげー元気そうじゃん!心配したんだよ!いっぱいお話聞かせてね!」
「はい!心配おかけしてすみません!」
「頑張ってくれたみてえだな。」
「もちろんだって!ささ、行こ行こ!後ろの皆さんもようこそ奥州へ!」
明るい表情で後方へ目を向ける。
長曾我部元親と毛利元就、前田慶次が揃っている。
「わあ~……」
ここで首が獲れたらなあ……と武人の血が騒ぐ。
「成実、もてなしだぞ。」
「あ、うん、うん。もちろん分かってるってえ。」
その反応には、すごい人たち連れて来ちゃったからびっくりしたかな?と思っていた。
「さてどうする?」
「俺と小十郎が先導するから後方を成実が頼む。」
「了解!」
の背後に小太郎が立つ。
「……。」
「小太郎、道中話がしてえ。は俺の馬だ。小太郎も成実と一緒に後方からの護衛を頼む。」
「小太郎ちゃん、お願いします。」
「…………。」
「城に着いたらお前も話し合いに参加。」
「え……。」
「……。」
「天井裏でいい。」
小太郎がなまえを見る。
理由が分からず困った顔をしていたが、やはり、お願い、と呟いた。
こくん、と頷く。
小十郎の指揮で隊列が組まれる。
政宗が先に乗り、に手を差し出すと、元親と慶次が眉根を寄せる。
それを察した政宗はため息をついた。
「おい独眼竜……」
「が誰の馬に乗るか揉めるのは遠慮しろ。道中話がある。」
「ねーちゃん馬乗れないの?」
武蔵の悪気のない質問に、が反応する。
「そ、そ、そうですよね私甘えて……馬に乗れるように努力しなきゃいけないのに私……」
「えっ!?いやなんかごめん!?」
「いつ練習する暇があったよ……。だとしても俺たちに追いつけるspeedだすには何年もかかるぞ。諦めて甘えろ。」
「う、うん……。お城への道で報告とかしちゃうから、着いたらお話しましょう!元親さんも慶次も!」
「我は。」
「意外な申し出!!元就さんもじゃあお願いします……。」
また余計な気遣い回しやがって、と思いつつ、後ろに乗ったがしっかり腰に手を回してくると、安全運転してやらねえとな……という思考に切り替わる。
全員が乗馬したのを確認し、進み始める。
小十郎に祭りの夜のこと、未来へ行ったこと、戻った場所は元親の船の上だったこと、どうしてここまで元親が送り届けてくれたかということを説明しながら。
「……なるほど。質問したいことは山ほどございますが……わかりました。」
「猿飛佐助が報告したって?」
「ええ。辻褄を合わせて未来の事は隠して皆に説明することも可能かと。」
「そうだな……。」
ははらはらしながら政宗と小十郎の表情を交互に見る。
「、俺と小十郎は戻ったらまず皆を集め話をする。は後ろの奴らの対応任せていいか?」
「お酌とかすればいい!?」
「ああ。あとはあいつらがお前と話したくて寄ってくるだろうよ。悪い。」
「大丈夫!」
こくこく頷くに小十郎が笑いかける。
「あと一人、接待をお願いしたい奴が城に来ているぞ。」
「え?」
「もう居るのか。」
「政宗様の文が届く前に、すでに来てたんです。に会えるまで帰らないの一点張りですから……。」
青葉城が見えてくる。
待ちきれない家臣たちが門の周りに待機していた。
「筆頭!!」
「ひっとおおおお~~~~!!!」
「待たせたなお前ら!!」
政宗の顔を見て、涙を浮かべる家臣たちが寄ってくる。
政宗は爽やかな笑顔を皆に向ける。
よかった。
戻って来れてよかった。
政宗さんの言葉を信じて、未来を見せれてよかったとも思っていいのに、
やっぱり巻き込んでしまった、迷惑をかけたという罪悪感が出てしまう。
「……。」
政宗さんはうじうじしてる人嫌いなんじゃないだろうか。
この気持ちはばれないようにしないと。
馬を止め、先にが降りる。
近くにいた家臣が手を貸そうとしてくれたが、は断って自分で降りた。
「あ?おい、!」
政宗は慌てた様子で声をかけながら降りる。
「何?」
「着物破けてる。船で銃弾受けたところだ。」
「えっ!」
その言葉に元親がぎくりと肩を震わせた。
が確認しようとするより先に政宗に手を引っ張られる。
「どこだっけ……。」
確認しようと視線を着物に向けるが、歩きながらだと上手く探せない。
「小十郎!客人の案内頼む!まず着替えさせる。」
「かしこまりました。」
小走りで屋敷を進む。
の部屋に着いて、すぐに中に入る。
「恥ずかしい……昨日縫ったばっかりだよ。縫い方下手だったかな。どこ……。」
「いや、破れてねえ。」
「はい?」
「泣いてやがる家臣見て罪悪感感じただろ。」
早速の図星すぎて目を丸くしてしまう。
「え、いや、私、堂々と奥州くるって、決めてましたし……」
「嘘つけ。手に力入ってたじゃねえか。」
「それだけで……?」
「これだけ一緒にいたらそのくらい分かる。」
政宗がの肩に手を置く。
屈んで顔の高さを合わせて、瞳を覗き込む。
「忘れてんなよ?も巻き込まれてる側だってことをな。」
「わたし、も」
が政宗の腕に手を添える。
「女中に挨拶もして来い。その後客間。」
「うん。」
政宗が離れようとするが、は逆に政宗の腕を握った。
「少し……」
「ん?」
「いいですか……」
「何がだ?」
一歩、政宗に近づく。
頭をぽすんと政宗の胸に当ててもたれ掛かり、着物を握った。
「!」
少しだけ、少しだけ、政宗さんはすぐ行かなくちゃならないから、と、言い聞かせて離れようとする。
政宗がに手を回し、抱きしめ返す。
「……抱きしめ返してくれると嬉しいよな。俺は嬉しかった。」
「!」
「また後でな。」
政宗が離れて部屋を出て行く。
こくこくと頷いて、も着替えをせねばと箪笥に向かう。
「さん。」
「!!篠さん!」
「お元気そうで……!本当によかった!お着替えですよね?手伝います。この着物はいかがですか?」
すぐに瑠璃色に白い百合をあしらった着物を出し、に差し出す。
「ありがとうございます。あの、この度は、ご迷惑かけて……。」
「いいえ、政宗様とさんなら絶対に無事戻って来れると信じてました。」
心から嬉しそうに笑う篠の姿にも救われる。
「客人はさんが接待すると聞いています。さあ、はやく着替えましょう。髪も結んでよろしいですか?」
「はい。」
手際よくに着物を着せ、髪も低めの位置でお団子を作り簪を刺してくれる。
は荷物に忍ばせていた化粧品を取り出して、肌と眉を整えた。
先に台所に行き挨拶をすると、女中皆嬉しそうな声での名を叫ぶ。
落ち着いたらお話をしましょうと言ってくれる皆にうんうんと頷いた後客間に向かう。
すでに飲み会が始まっているようで、陽気な声が聞こえてくる。
「失礼しま~す。」
部屋に入ると、すぐに甲高い声がした。
そしてに突進してくる。
「ーーーーー!!!!!!」
「え!うぐう!!??」
そして腹にぶつかってきたのは、銀髪の可愛らしい少女だった。
「い、い、いつき!!!」
「わあああああああ!!!!会いたかっただ!!!!」
「来てくれてたの!?」
「昨日からいたんだ!!まってた!!!」
「そうなの!ありがとう。ごめんね、あの後全然連絡できなくて……。」
「いいだよ!が元気ならおらそれだけで……!」
何度も何度も名前を呼ぶいつきの頭を必死に撫でる。
周囲を見回すと、元親や慶次が杯を掲げながら、先に飲んでるぜ~とに向かって言葉を放つ。
「一緒にご飯食べるべ!おらの隣!」
「あ、でも私みんなにお酌したり働かないと。」
「やだー!と一緒に食べたくておら待ってたんだー!!!!一緒にたべる!!」
「いつき……!」
「!その嬢ちゃんと飯食ったら酌してくれよ!」
元親が声をかける。
一番のお礼の対象者にそう気遣われては頭を下げた。
いつきの隣に座り、きょろきょろと周囲を見回す。
「政宗さんは……」
「さっき顔出して先にご飯楽しんどけ~言ってただよ。」
「お話があるからか……。じゃあ食べよっか。」
いつきと一緒に、いただきま~すと手を合わせた。
「小十郎さんのお野菜~!」
味噌和えを食べてその美味しさに笑顔になってしまう。
「白米はおらたちが持ってきたんだ!食べてけろ!」
「いつき達のお米えええええ!!!」
「えへへ。青いお侍さんとこの魚もなかなかだな。」
向かいに座っていた慶次は二人のやりとりを見て癒されていた。
元親はが化粧し髪を整えている姿を早く近くで見たくてそわそわとしながら飯をかっ食らう。
いつきとは食事後にゆっくりお話をしようと、早めに食を進める。
もうすぐ食べ終わるというところで、小十郎が姿を現した。
の姿を見ると、酒の追加を持ってきた篠に話しかけていた。
「の着物は貴女が見繕って?」
「はい。お話が聞こえてしまって。」
周囲に聞こえないよう小声になる。
「……さんを口説くという話をしている殿方がいらっしゃって……。政宗様のものに手を出すとは奥州の女としては見過ごせませんね?」
「……は、はあ。」
笑顔に迫力を感じて小十郎が後ずさる。
の背後の襖が開き、政宗が姿を現した。
が振り向く。
政宗が見下ろす。
政宗も瑠璃色の着物を身に纏っていた。
「あ。」
「お。」
見せつけられたかのような元親も慶次も目を細める。
しかしは慌てて声を上げた。
「政宗さんと色被った!!」
「丸被りだな。」
「ごめん!そうだよねこんないかにも伊達軍ですって色!政宗さんが着るよね……。」
小十郎の隣で篠が顔に手を当てて、さん……と呟いた。
揃いでお似合いな二人を演出したのににそんな色気のある思考はなかった。
「着替える?」
「別にいいだろ。」
「そのままでいいべ!夫婦みたいで素敵だよ!」
篠が拳を握って、いつきちゃん……!と呟いた。
さすがのもその言葉に状況を客観視し、恥ずかしさに顔を赤くして下を向いた。
「おい、いつき。そういうことをこういう場で軽々しく言うな。」
「え、ほんとのことだべ。」
「…!そ、そうだよ。夫婦じゃないし……。」
は残っていた漬物を食べ終わると、接待するぞぉと元親達の元へ向かった。
迷惑そうに言葉を発した政宗にやや傷付いたような表情を見せ、いつきは余計な事言っちまった……と眉をハの字にする。
「……俺の家臣も女中もいるんだ。普通に照れるだろうが。」
「青いお侍さんはそれ最後まで早口でいうべきだっただよ!!!???」
に教えてあげないと……!といつきは立ち上がろうとしたが、は慶次と元親に挟まれて談笑を始めてしまっていた。
先に自分とご飯を食べることを了承してもらった手前、これ以上割り込むのは気が引ける。
「俺もちいと。」
政宗も立ち上がり、酒を持って元親らの席に近づく。
それを見たはすぐ元就と武蔵の方へ移動した。
「おら、俺からも。送ってくれてありがとよ。」
が注いだ酒は一気に飲み干し空にして、政宗に差し出す。
「はいはい。無事ついてよかったなあ。」
「俺も合流出来てよかった~!」
政宗が元親と慶次の盃に酒を注ぐ。
「はーあ。同じ色の着物なんか着やがって。」
「偶然だ。」
「独眼竜もほら。」
「ん。」
元親が政宗の盃に酒を注ぎ、乾杯をする。
「魚は獲れたてとは言えねえが、じっくり煮込んで味が染みてる。野菜は小十郎が作った一級品だ。悪くねえだろ。」
「ううううそれは美味いよ……。のことで敵視したいけどこの美味しさの前では政宗ありがとうだよ……。」
「前田慶次に同意だよ。米もうめえよ……。」
満足そうに政宗は笑って、元就と武蔵の元へ向かう。
「おい……」
「米おかわり!」
武蔵にも酌してやるかと近づくと茶碗を元気に差し出されてしまった。
「俺に言うな。」
「私が!」
「えっ姉ちゃんが!?わり……優しい……。」
「なんで城主よりに恐縮してんだよ。」
呆れながら、まあ楽しんでけよ、と武蔵に酌をする。
元就は黙々と食事をしているが、政宗が横に膝をつくと顔を向けた。
「アンタをこんな形で招くとは思わなかったが。」
「我もよ。の愛の前には仕方なし。」
「……。」
安芸の毛利元就。
最初から気が合うとは思ってなかったが、真面目に領土防衛の策の話などしてみたかったように思う。
頭叩いたら正気に戻ったりしねえかな……と物騒なことを考えた。
「部屋は案内済んでるな?風呂も解放しているから自由に過ごしてくれ。」
「おいおい随分俺たち信用してるなあ?」
「忍の数は多いからなあ。今は風魔小太郎もいるからよ。」
妙な事したら一発退場ってことかい、と元親は唇を尖らせる。
席に戻り、またいつきに声をかける。
「北はその後どうだ。」
「戦の傷跡は大分よくなったけんども……雪がなあ。」
「そうだな……。」
小十郎が政宗の横に座り、酌をする。
「……いつき。」
「なんだ?」
政宗がちらりと小十郎を気に掛ける。
「下がりますか?」
「……いやいい。お前も食え。心労かけた。」
「ありがたきお言葉。」
再度いつきに視線を向ける。
「……俺とが夫婦だと……素敵、なのか?なぜ?」
「ん?」
小十郎は口元が緩みそうになるのを必死に耐えた。
そんなことが気になるんですか政宗様可愛いですねと考えてしまう。
「お似合いだべ!」
「見た目、か?」
「見た目……というか、そうだな、例えば、おらたちの米の出来が良くなかったとするべ?」
「おう。」
「そしたら青いお侍さんはおらたちに喝入れる、は励ましてくれそうだ!」
「……。」
「青いお侍さんは戦で忙しいかもしれねえけど、は米作ったことなくても、誰かほかの人にもっと良い米の作り方はねえかって、調べてくれそうだ。」
北で、織田軍から身を守るために必死に沢山の言葉を交わし、の知恵を知ったのだろうと想像出来た。
「豊作なら二人とも喜んでくれる!悪いことも良いことも、ちゃんと向き合ってくれる人達がおらたちの土地統治してくれんなら、いいなって。そう思うんだ。」
「……そうか。」
「確かに政宗様とならそのあたりの配分がちょうどいいな。」
「そう思うべ!?」
「俺も……」
米を持ってきたは武蔵に渡してすぐ元親と慶次に呼ばれて間に座る。
小太郎が酒の追加を持ってきての近くに置いた。
「隣にがいると……心が安らぐ……。」
「……。」
ここに来る前、報告会と称した集まりは当初政宗から文で指示を受けた人員よりも少数で行われた。
信頼できる家臣団を集め、まさかと思ったが、最初に話されたのはの素性だった。