奥州帰還編 第2話



城に着いてと別れた後、宴会場に顔をだし、急ぎ武装を外して用意されていた瑠璃色の着物に着替えた。
自身を支えてくれる家臣団だけを集めて、話を始める。

「おかえりなさいませ、政宗様。」
「今戻った。城を空けて悪かった。」
「いえ、政宗様の日頃の業務遂行のおかげでそれほどでは。小十郎と茂庭殿労わってくだされば。」
「大丈夫です……。」
名を呼ばれた茂庭綱元は苦笑いで返し、確かにやや疲れた表情をしていた。

「むしろ政宗様の判断を仰ぎたいものが残っており、認識が甘く申し訳ない。」
「今後はもう少し作業分担しましょう。政宗様の負担が減れば鷹狩りに行って気分転換も出来るでしょうし。」
「Work life balanceてやつだな。いいなそうしよう。」

南蛮語に慣れているわけではないが、政宗からその言葉が出たのが初めてで耳慣れないものだった。
どういう意味だ、と不思議がる家臣に、政宗は笑みを浮かべる。

「生活と仕事を両立するってやつだ。……四百年後に生まれてた概念だ。」
「四百年後……?」
は四百年後から来た。俺は、と一緒に四百年先の未来に行った。」
「!」
驚いて小十郎が目を見開く。
小十郎と成実以外の家臣はすぐに理解も納得も出来ず、困惑した表情をする。

「は……?」
はこっちと未来を行ったり来たりする状況になっている。どこに辿り着くかも分からねえ。見送ろうとしたときにtroubleに遭ってな。俺も一緒に行っての生活を見て来た。」
「ま、まってください、政宗様……。いや確かに我々はあの娘のことは深く聞いておりませんでしたが……。」
「小田原で好みのおなごを見つけて招いたとばかり……。」
「そんな風に思ってたのかよ!!??」
それは小十郎も初耳だった。
「な、なので深く聞いてこなかったのですね……。」
「政宗様も年頃ですし……。」
「あっははは!だったら聞きにくいねえ!」
成実が豪快に笑う。
確かに勘違いされそうな発言はしていたかもしれないと政宗は頭を掻いた。

「とりあえず信じてくれ。いや、お前たちなら信じてくれると思ってお前たちだけを呼んだ。」
「あの娘……あ、いや、、様?に確認は取ってもよろしいですか?」
「もちろんだ。時間の流れが違うらしくてな。十四日間、向こうで過ごしてきた。」
「十四日……。」
様のご両親は心配しているでしょう。ご挨拶されたのですか?」
は事情があってこの状況を隠してる。親とは別で一人暮らしだったから俺の事は説明せずすんだ。」
「そ……そうなのですか……。」
「そこで色々勉強できたんだが……先に戻ってからの話をする。俺たちは長曾我部元親の船に辿り着いた。船に病気の奴がいてな。対処方法をが知ってて助けたんだ。その礼に奥州まで船を出したってわけだ。」
「なるほど。」
を大分気に入って……交渉したら今後の状況に寄っちゃ火薬を分けてくれるそうだ。その時が来たらすぐに動く。覚えておいてくれ。」

を気にいって長曾我部軍に引きずり込もうとしていると言い出しそうになって政宗は一瞬止まった。
落ち着けそれは愚痴だ、と、冷静になる。

「火薬を!?なんと……!」
「それはなんという手柄……!」
「だろ。のおかげだ。だからあいつ咎めるようなことしないでくれよ。」
「も、もちろんです!」

なるほど、だから明かしたのか、と小十郎は納得した。
信用に足る行いをがしてくれたから、政宗を慕うこの家臣達ならの味方になってくれると確信した。

「あの、政宗様、その、四百年先を様と十四日間過ごしたと言いましたが……」
「ああ。気になるだろ。でも長くなるからそれは改めてでいいか?」
「いやっ、その前に、その、ひとつ確認が……」
「ああ?」

政宗は、真田幸村もいたというのは明かさない方がいいだろうと考えていたが、と自身だけというのもまずかっただろうか?と考えながら言葉を待つ。

「その……様のお腹に政宗様の子がいるかもしれない……というようなことは……ありますか……?」
無い、と言おうと口を僅かに開いて政宗は止まった。
「……。」

無いと即答するのは男としてどうなんだ?
いや伊達家当主としてその辺はしっかりしてんだと受け取ってもらえるか?

「……の家は、長屋を、縦にしたみてえな造りで……」
「長屋を縦に!?とは!?」
「城みてえに……高い……四角い箱で……」
「城の様に高い四角い箱!?」
「……そこで、色んな人間が生活してんだ……。だからそういった、軽率なことはしなくて済んだぜ。」
「そうでしたか!いや疑ったわけではないのですが!さすが政宗様!理性的に過ごされて!」
「お……おう。勉強することも多くてな。も勉学に励んでて……凄かったぜ。」
「なんと向上心のある!未来はおなごもそのように教育をしっかりしているのですね!」
様も政宗様に色目使う様子もないので見てて爽やかな関係ですなあ。互いに影響し合えるというのもいい。」

特に含みがありそうな様子もない。
をこれからも傍に置くことに問題はなさそうだとは思うが、今以上の関係になったらどう反応するのかというのは気になる。
しかしそれはこの場で知りたいことではないので胸の内にしまいこむ。

「で、早速で悪いんだが、近々出陣するぞ。」
「はい?」
ひとまずこの場での報告は終わりかと思った小十郎は珍しく気の抜けた返事をしてしまった。

「いや……状況把握する前に出陣の判断とは?」
「そうです、それに小田原に関してもまだまだ行うことが……」
「黒脛巾組から数名出せ。それと風魔小太郎、武田上杉の川中島での戦の偵察に当てる。」
「は……?まさか疲弊時を狙って乱入し、両軍を討つと……?」

悪だくみをしている様子もない。
政宗は至って真剣に、そして確定事項として話している。

「疲弊時を狙って乱入する。そして三国同盟を結ぶ。」

驚きの声が上がる。

「そのようなやり口、怒りを買うのではないですか!?」
「真っ当な交渉じゃ片方と手を結べば他方が敵になる。北条軍はなんだかんだ氏政への忠誠心が強いだろう。掌握するには時間がかかる。」
「先に掌握してからでしたら、我々の武力は……」
「同盟を結び、武田、上杉両軍の強みを尊重し活かしたまま、三国で織田を攻める。」
「!」

どんどん威力を増していく織田軍に対し、小田原を取り込んだ伊達軍、現領主が力を発揮できる状態で武田上杉軍が共闘する。
ならば勝てるのではないかと思わずにいられない布陣だ。

「領土拡充より先に織田滅亡を狙うと。」
「その後の同盟存続を武田上杉が望まなけりゃそこで終わりでいい。叶うならそのまま豊臣も潰してえがな。」
「なるほどねえ。」
成実が腕を組み、納得したように頷く。
こいつなら理解を示しやる気を見せるだろうというのは政宗も予測済みだ。

「織田領地にちゃんが来ちゃったらやばいもんねえ。そこを一番に潰したいと。」
「!」
ちゃんへの愛情しかと受け取りましたよ。」
「何言い出すんだ。」
「あんな健気に慕ってくれる子に情が湧かないわけないんだよなあ。」
「ア?」

そ、そうなのか俺は?と政宗自身も動揺してしまった。
打倒織田は伊達軍共有事項じゃねえか。
万全の状態で潰しにかかれるぜって案出しただけじゃねえか。

「ほら、ちゃんに会う前の殿なら誰の力も借りず伊達軍だけで勝つぜ!って血気盛んだったじゃん。」
「確かに……」
「政宗様もしや様のことを……」
「十四日も二人でいて我慢してたということですか!?」
「落ち着け。」
俺もだ。クールダウンだ。そう思ったのは……そう、
「南からの移動で情報を得た。川中島の戦は決着がつかねえというのが、俺の予測だ。ただ疲弊しただけで終わっちまうより進展があるほうがいいだろ。軍神様は変わってやがるからそういう感情があるか知らねえが。」
「へー。真面目。」
「真面目じゃなきゃてめえらが困るだろうが!俺は奥州筆頭だぞ!」
「ここまでにしましょう!」
小十郎が声を上げる。

「客人を待たせていますから。山岡殿、川中島での戦の件、指揮して頂けますか?」
「ああ、黒脛巾組は任せて欲しい。風魔小太郎に関しては指示頂きたいが。」
「ええ、後ほど仲介いたします。行きましょう、政宗様。」
「おう。他にも同盟を持ち出すのにいいネタがねえか情報収集は絶えず頼むぜ。」

小十郎に促されて政宗は部屋を出る。
宴会場までの道を小十郎と共に歩く。

「随分と先を考えていたのですね。成実様の発言はお気になさらず。織田を倒すのはそもそも掲げていたものです。」
「そうだろ。何も不思議じゃなかっただろ。」
「ええ。しかし天下統一の先がが安心してこちらに来られる日でもあるというのは良いことですね。」
「……十四日……何もしなかった俺……」
「気にして……!?いや分かっております真田幸村がいたからでしょう。未来の生活に慣れるのも大変そうですし。」
「そうだった……」

頭上からカタン、と音がし、政宗の目の前に小太郎が降りてくる。

「話聞いてたな。異論はあるか?」
ふるふる、と小太郎は首を横に振った。
の為にもなるということは理解してくれている。
佐助とかすがに見つかって平気で戻って来れる忍などそうそういないので政宗としても小太郎の戦力は数として入れていたい。

探し優先しつつだ。報酬は払う。」
こくり、と小太郎が頷く。

「助かる。が安心できる時代にしてやる。必ず。」

それを聞いて小太郎が消える。
のところへ行ったのだろう。

「では政宗様、俺は一度台所へ行きます。」
「俺は厠行ってから行く。」

そこで分かれて各々が宴会場に向かった。

襖を開けると、政宗と同じ色の着物を身に纏ったが目に飛び込んできた。
妙なやりとりをしたせいで意識してしまう。



「……。」
そして今は接待をするを眺めながら食事をしている。
未来じゃそういった気分にもならなかったのは、普通の人間の身体じゃなかったからじゃねえんだろうか。
のことは守らねえとと考えてきたのに、男だらけの集まりで話してると据え膳食わねえ情けねえ男と感じてしまうのは良くねえな。
こんな状況でを傷つけるようなことしねえと言ってやりゃあよかったのかも知れねえが、余計俺がに惚れてると思われる可能性があったし。
そっちがいまいちなんじゃねえかと思われるのが嫌っていうところもあるが……

「政宗様、眉間に皺が寄ってますが……呼びますか?」
「は?なんでだ。」
「いや、長曾我部元親と近いのが腹立たしいのかと。」
「あ?いや、接待しろと言ったのは俺だ。どーせ後で元親さんとこんなこと話した~って報告してくるだろうし。」
「おや……。」
随分と可愛らしい関係になっているのだな……と小十郎は微笑ましく感じる。

「信用してますな。」
が俺を信用してんだ。」
そう、四国でそう言っていた。俺を信用してると。
それでいい。の中で俺の存在が大きくなってる。
それで……






「あれ、政宗さん調子悪いのかな……。」
「疲れが出てんじゃねえか?右目がいるから大丈夫だろ。」
は俺たちとお話を任されたんでしょ~もっと話そうよ~!」
「おう!」
「返事の仕方がなんか逞しいな?」

元親と慶次に挟まれて、はせっせと酌をする。
飲むペースが速いが、頬はわずかに赤くなっているだけで口調も普通だ。
止め時がわからない。

「奥州の酒うめえな。も着飾って一層美人だしよ。」
「さんきゅ!」
さっきからなんか逞しい口調なんなの?」
「褒められて照れてるんだぜ!」
「大人しく照れてはくれねえんだなあ。」
「ごめん、あんまりそう、ちやほやされるの慣れてなくて。」
「なんでだ!?未来の男たち放って誰の相手してんの!?あ、いや、かといって未来で彼氏できるのやだなそのままでいてください男たち!!!!」
「慶次落ち着け。」
「キイ~」

船で活躍してくれた姿と比べると、随分とふにゃふにゃして無防備だ。
夢吉可愛いと猿の頭を撫で始める。
こんなの側面も見れて嬉しい……が、奥州にいるから安心して気が抜けてると考えると嫉妬してしまう。

「普段は奥州で何して過ごしてんだ?」
「女中さんに家事のやり方教えてもらってやってみたり、政宗さんの政務手伝ったりしてるよ。」
「政務手伝ってるの?」
「書類まとめたり、重要そうなのとそうじゃないの仕分けたりぐらいだけどね。」
「いいなあ独眼竜……。」
「あ、護身に政宗さんとチャンバラやったりもした。」
「あっっっぶね!!??」
「怖くないの!?」
「いや手加減してくれたし……。でもそのくらいだな。また私、戻って、どこか違う場所に来るんだろうし。」

元親と慶次が顔を見合わせる。
は怖がっているので励まさねばならない。
でも俺たちにとってはを国に招く機会がそこだ。

「大丈夫だって。どこに辿り着こうが西海の鬼の名を出せばなあ。」
「前田慶次って名前出してよね。人脈広いんだよ俺。」
「うん。二人の名前も出させてもらうね。ありがとう。」

にこ、と微笑み、また酌をしてくれる。
酒が余計に美味く感じる。

「あ、元就さんもいかがですか。」
「うむ。」
「あんな不愛想な奴のところ行かなくていいだろ。もっと俺たちと……」

元親が立ち上がろうとするの腰に腕を回して制止し、頬に手を添え間近で見つめ合う。
「あ、ちょっと元親さん!」
「キィ!」
そこに女中五人が小走りで寄ってくる。
「まあまあ皆さま綺麗に召し上がってくださって!」
「いかがでしたか?どれも政宗様おすすめの食材でございます!」
「この後湯浴みはいかがでしょう?長旅の疲れが取れるかと!」
「お、おう?」

ささ、どうぞどうぞと問答無用で誘導される。
元親と慶次は、この奥州に居る奴ら全員、全力で政宗の味方か……と敵の多さを感じる食事だった。




が女中と仲が良いと言っていたのを覚えていた元親は、敵に回せねえなと誘導されるままついて行く。
が背中流しに来てくれねえかな……と淡い期待を抱いていたが、入り口で察する。

「男湯と女湯があるのか。」
「はい!元々は殿方が使う湯でございましたが、私たちの仕事の活力にもなると知って、仕切ってくださいまして。」
「へえ。最近か?」
「そうです。脱衣所に諸々の準備はございますので、どうぞごゆっくり。」
最近ならの影響だろうな、と元親は察した。
先に元就と武蔵が脱衣所に入っていく。

「夢吉も入っていい?」
「キイ!」
「はい。桶がございますので、それに湯を張って頂ければ。」
「よかったな夢吉!」
「キ~」

戸を開けると、おお、と声が漏れてしまった。
掃除の行き届いた綺麗な脱衣所だ。
すぐに服を脱いで布を一枚手に取った。
浴室に入ると湯気が立ち込め、檜の柵が女湯との仕切りを作っていた。

「おーおー隙間なくしっかりとした仕切りで。こりゃ覗けねえな。」
「もー元親さん変態みたいなこと言わないでよ。誰もいないでしょ。ねえねえここで身体洗えってさ。石鹸ある!」
「はいはい。船旅続きだからなあ。ゆっくりするか。」
楽しそうにはしゃぐ慶次の身体が視界に入る。
「それが明智光秀にやられた傷跡か?」
「え?あーそうそう。その時武田の佐助と小太郎さんが迅速に手当してくれたみたいなんだよね。だから大事無くてさ。」
「綺麗に治りそうじゃねえか。よかったな。」
「そうだねえ。まあ怪我のひとつやふたつ気にしないけど……。」

傷が残ったらは、申し訳なさそうな顔をするんだろう。
頑張って綺麗に治さないと。

「軟膏とかくれたんだよねえ。優秀な忍ってすげえのな。」
「……が俺の軍に入ったら、風魔小太郎も付いてくるのか……。」
「なにそのお得だなみたいなやつ。」
「それを叶えてんのがここ奥州……はーあ羨ましい。」

身体をざっと洗って湯に浸かる。
「お……」

水質に柔らかさを感じて気持ちがいい。

「いい風呂だ~!」
「あ?おい武蔵!」
武蔵が楽しそうに泳ぎ出し、波が生まれる。
それを避けるように場所取ると、元就の隣になってしまった。
慶次は夢吉を丁寧に洗い始めていて、湯に入るには時間がかかる。
目を閉じてゆっくり温まる元就から、自身との距離を嫌がるような雰囲気は感じられない。

「独眼竜、どう思う?」
答えが返って来なかったらそれでいい、と考えながら話しかける。

「……現状報告にしては宴会にくるのが遅かった。未来に行った報告が求められていたならもっと時間がかかるはずだ。」
言葉が返ってきて、元就に顔を向ける。

「だよな。何の話だったのかね。」
「中国に影響がないなら我は様子見だ。」
「……まあ、俺のとこもしばらくは敵に回さねえだろうよ。」
「小田原の統治は北条氏政は素直なものの、抵抗する者が存在し、思ったように進んでいないとは耳にした。」
「へえ。」
「北の大地……春になるまで南方に兵を送る余裕はないだろうな。」
「なんだよ、良く喋るなあ。」
「奥州の動向は放置でよい。我らの注意は豊臣でよい。」
「おー…そうだな。」
「貴様はもう少し自覚を持て。四国が豊臣の手に渡ろうが我には関係ないが策略の選択肢が減るのは良い気分ではない。」
「海とられちまったらきっついもんなあ。まあそのあたりは任せろよ。その程度守れねえ奴がが安心して遊びに来れる場所になれるわけねえだろ。」
「……。」

ふざけたことを言うなと呆れる声が聞こえてくると元親は考えた。

「……そうだな。」
「!!!!」

素直な返答に驚きを越えて恐怖を覚える。

「お、おう……。」
愛だなんだというわけでもなく素直に。
確かには元就に睨まれても対応は変わらなかった。
それに本当に絆されたとでもいうのか?


「俺も入るよ~。お邪魔しますっと!」
「キイ!」

夢吉を桶に入れて慶次が入る。
桶を傾けて少しずつ湯を入れ、丁度いい量入ったところで、夢吉が嬉しそうに万歳をした。

「じゃあ夢吉はここでゆっくりな!」
桶を湯船の縁に置いて、慶次もゆっくりと寛ぎ始める。

「うわあ~いい湯だ~~」
「本当にな……。」
「……ねえ……何か欲しくなんない?」
「そりゃお前……」
元親の反応に、慶次がにんまりと笑う。
「俺ちょっと貰ってくるから夢吉みてて!」







食材の状況を見ようと訪れた台所で、風呂を満喫していると思った慶次の背中を見つける。
「おい前田慶次、もう上がったのか?」
「あ、独眼竜!へへ、もう少し酒飲みたくなっちゃってさ。」
「そりゃ構わねえけどよ。気に入ってくれてありがとよ。」
「ありがとねえ!!元親さん達と飲むよ!」

嬉しそうに駆けていく慶次を見送る。
「もう風呂はいいのか。じゃあ……」
政宗はの部屋に向かう。
呼びかけてから襖を開けると、いつきと一緒に着物を並べて眺めていた。

「何してたんだ?」
「どんなのがあるのかなって……」
、さっき青いお侍さんと着物の色同じになっちゃったの気にしてるだ。」
「あっ、い、いつき……」
「主様と同じだと怒られるんだべか?」
「良くないんじゃないかなと。居候の身で……。」

政宗が、というより周囲の目のことを言っているのだろう。
そしていつきの政宗向ける視線が気になる。
に言葉をかけろという圧力を感じる。

「似合ってたし問題ねえし」
「そ、そう?」
「変な事言う奴が居たら俺に言え。」
「そんな告げ口みたいな……。きっと政宗さんの為に言うんだと思うし……」
「ならこの話は後だ。元親ら風呂から上がったから二人で入ってゆっくりして来い。」
「お風呂!行くべー!」
「あ、うん。え?後って……?」
「その時に声をかける。」
「……はい。」

政宗が去っていく。
は顔を手で覆った。

「わあ……なんか慰めて欲しい人みたいになって……!!」
のこといじめる人がいるんだべか……?」
「いや、今はいない、けど、政宗さんと一緒に居るの良く思ってない人はいるだろうなって思って。」
「えー?誰?」
「それは……政宗さんに、どこかのお姫様を正室にって思ってる人……。私の事邪魔って思ってるよ……。」

実際何かされたわけでもない。
そういう人って漫画だと絶対いるでしょ?という知識だ。
今までは、別に恋仲でもないし、ただ住まわせてもらってるだけだし、むしろ仕事手伝ってるし、と考えていたものが、政宗を長期不在にさせたことですべての言い訳が通用しなくなってしまった気がする。

「や、何もなければいいんだけど。政宗さんに良くない噂が立ったりしなければ、私は何言われても。かといって考え無しの行動は控えないと、って話で。」
が傷つくのは嫌だ……!青いお侍さんに絶対相談しなきゃだめだべ!」

話をしながら部屋を出て湯に向かう。
男女で仕切りが出来たと聞いていたが、男性陣とは時間をずらす配慮をくれた上、相談にも乗ってくれるというのは政宗さん優しすぎでは……とまたを悩ませる。









「はあ~~やっぱりいい!ゆっくり湯に浸かりながら美味い酒!」
男湯は政宗の予想に反して賑やかだった。
風呂に酒を持ち込んで楽しむ。

「あ~~極楽かよ~~」
元親と慶次が豪快に盃を飲み干す。
元就は気を緩めすぎている二人に呆れながらも、慶次の注いだ酒を受け取り口にした。

「武蔵も飲むか~?」
「俺これから成実の兄ちゃんと決闘だからいらねー。つか飲みすぎんなよー。」
「決闘だ?」
「そー!俺様と戦えー!って言ったらいいよーって言った!」

楽しそうに風呂を後にする武蔵の背中を見送る。

「……あいつ、ガキが調子乗って、と思ってたが、一直線というか……。」
「何を今更見直しているのだ。」
「は?今更ってなんだよ。てめえはとっくに見直してるみてえな言い方……」
があの男を知っていた。歴史に名を残す男ということなのだろう。」

元親と慶次の動きが止まる。

「なんだその顔は。」
「え、あーーーいや、そう、そうか。何百年も先の未来から来たって、そういうことか……だから政宗ももてなしてるんだ。どんな人になるか聞いたのかな……。」
「いや待て、聞いてねえよ絶対。独眼竜の態度は初めて武蔵と会ったときと変わってねえ。ついてきたからついでにって顔してたぜありゃ。」
「あ、じゃあ政宗もそこまで考えは至ってないんだな?」
「どうだか……。察してて……聞いてねえって可能性の方が……」

を政治利用しないために、気になっても聞かないようにしているのかもしれない。

「となると……戦に、行かないでってに言われたら……」

そこが、死地ということになるのだろうか。
政宗はそれも覚悟の上で、を大事にしているのだろうか。
そんなことを言われたからって、戦に赴くのを止めるような性格をしていないくせに。

「安心しろ、長曾我部元親という名は伝わってないかもしれんだろう。」
「んんんんなわけねーーーだろ!!!」
「あはは!国主様は無いでしょ!一番可能性高いの前田慶次って名前だな~~……」

一瞬妙な空気が流れたが、元就の一言でまた賑やかになったのは意外な状況だった。
そこへ女湯の方から声がして、一気に黙る。


「わあ~!おっきいお風呂!」
「いつき、背中洗いっこしようよ。」
「うん!」

女湯にといつきが入って来た。
元親と慶次がゆっくり手で口を押さえるのを、夢吉が真似をする。
男湯に誰もいない、いつきと二人という状況で湯でゆっくりと過ごす時間なら、が現状の本音を話すこともあるのではないだろうかと、考えは一緒だった。
あからさまな様子に、元就もそれに付き合ってやるかと、小さくため息をついた後に手で口を押さえた。

しばらく他愛のない話をしながら身体を洗う音が聞こえた後、ちゃぷんと湯に浸かる音がした。

「気持ちいい~!」
「うう~疲れが取れる~~!」
「長旅だったんだってな!お野菜の人から聞いただよ!」

お、このまま旅の思い出話始まるか?と期待が高まる。

「いつきもここまで歩きだったんでしょ?お疲れ様でした。」
「えへへ~ありがと~。と会えると思いながらだったから辛くはなかったけどな!」

ぐう、と声が漏れそうになるのを耐える。
ほのぼの会話が過ぎる。

「ふふふ~!」
「え、なに?そんなにお風呂嬉しいの?」
、おっぱい大きいな!頭よくって美人さんで、色気もあって……そんな友達できたの嬉しいんだ~!」
「え?む、胸?そうかな?」

吹き出しそうになったのは慶次だったがなんとか耐える。
まさか触らせてけろ~とか始まるのか、触った感想とか聞けちゃったりするのかと期待と静寂を保てる自信がない不安とで心臓がばくばくと早い鼓動を打つ。

「あんまり言われたことないから実感が……」
「えっ、そうなんだべか?え……もしかしておらが小さすぎ……?」

お前ガキだろうがそんな心配十年ぐらい早いだろうがと言いたくなるのを耐える。

「小十郎さんの方がお胸大きいのよね絶対。」

そしてはなんの話だ。

「刀とか、農業とかで胸の筋肉鍛えてるからね。いつきも日々鍛えてるから慌てなくても大人になったらすっごい素敵な女性になるよ。」
「そ、そうかな?」
「うん。私はみんなが羨ましい。強くて、戦えて……」

が黙ってしまう。
ああそうだ、きっとそれが一番の愚痴だ。自分自身への。
独眼竜の愚痴でも聞けねえかな、と考えていたがにそんなもの期待する方が間違っていた。
自分のことを誰も知らない世界で、最初に手を差し伸べてくれた人間だ。
守られっぱなしで平気でいられる奴じゃねえんだ。何か役に立ちたいと、ずっと考え続けているんだろう。

「元親さんも胸板厚くてすごいよねえ。」

いやもう男の胸の話はいいから。そして俺かよ。

「海賊の兄ちゃんもおっぱい大きいなあ。」

はちゃんと胸板って言っただろ!おっぱいって変換するな!!

「慶次もあんな大きい武器振り回してるし……」
「きっと大きいな。」
「元就さんは……」

元親と慶次がちらりと元就を見てしまった。
おいおいおいおい話の流れからすると元就は貧乳ってことになるぞ、こいつそれ黙っていられるか?
っていうかやめてほんとやめて吹き出しそう笑っちゃいそう。

「めっちゃくちゃスタイルいい……!!」
「すたいる?」
「体型が、すっごいすらっとしてさ、綺麗ってことね。」
「わかる!憧れる!」

目を丸くしてしまった。
そんな目でみてたのか??
え、は元就に睨まれても嫌な事言われても、元就さん綺麗だな~って思ってたってことか?
それは強いな……!?

元就を見ると満更でもなさそうな顔をしていていらだってしまった。

「青いお侍さんは?」
「!!」

政宗は着込んでるだろ。
もしが答えたら……いや、客人の前以外ではだらしねえってことだな!?そうだな!?

「政宗さんも引き締まってるよ~。」
「へえ~。見た事あるのか?」
「うん。お背中流したことあるよ。」
「え?一緒にお風呂入るのか?」
「えあ、いや!?私は服着てるよもちろん!?忙しくしてるから労いたくて。」
「ふーん?まあでも、と青いお侍さんは仲良しだな!」
「そう、かな?一緒にいる時間が長いし……」
「さっきおらが夫婦みたいって言ったとき、そんなこと言うな!って強く言ってたの、嫌がったんじゃなくて照れてたんだべ。だからほんとに気にしなくてええだよ。」
「そうかなあ……。」
「いや青いお侍さんが自分でそう言ってたんだよ。」
「そうなんだ!?」

紛らわしいな~!と言うの声は安心したようだった。

「……うう、気持ちいいんだけども……おらにはちょっと湯が熱いな……」
「あ、のぼせた!?大丈夫?上がろう!」
「うん……お部屋でもっとお話するべ~。」

二人が風呂から出て行く音を確認し、口から手を離す。
はあ、と息を吐いた。

「お二人はのぼせてない?」
「問題ねえ……。」
「そんなヤワではない……。」
慶次の問いに、二人は疲れた口調で返した。

「普通に雑談聞いただけで終わったが、聞けて良かった部分もあったな。」
「元親さん助平……。の胸が大きいって……。」
「そこだと断言してる時点でてめえが助平なんだよ!違ェ!なんではこの毛利に優しくできるんだって疑問の答えだ!」
「我が綺麗とはこれは安芸に来いと言ったら来てしまいそうだな?フフ」
「な、なんか毛利が調子に乗ってて腹立つ……!!」