奥州帰還編 第5話
元親と元就さんが帰ってしまう。
慶次と武蔵も行ってしまう。
「寂しくなりますなあ……。」
「静かになるじゃねえか。」
は政宗といつきの間に座って茶を飲んでいた。
「おい、いつき、おまえはいつ帰るんだ。」
「もうちょっと居たいんだ。」
「用は済んだくせに。」
「いつきまでいなくなったら寂しい……。」
はお茶を置いて、横からいつきを抱きしめた。
「…!!」
「……なんだと?ふざけんなよ。俺らはしょっちゅう一緒に寝たりしてんだぜ?」
「ちょ!!政宗さん!?いつきにそーゆーこと言うのは」
「体と気持ちはまた別だべ!!!!!」
……あっ、いつきちゃん今、体って言った?
それなりに知識あるのか……と思い、も政宗もそれ以上のことを言うのはやめた。
いつきはアイドルなので、変な発言はさせないようにと。
「………。」
「ん?」
政宗がじっとを見つめる。も見つめ返すが、特に言葉は発しない政宗に首を傾げた。
「……何?」
「いや。まあ、ちょっと、俺は行く。」
「あ、うん……。」
政宗は立ち上がり、室内に行ってしまった。といつきはそれを目で追い、障子が閉められて背が見えなくなったところでいつきが呟く。
「何だべ、政宗。さっきまで、俺とを二人きりにしろ!!って、おらと取り合いしてたのに。」
「あはは、嬉しいよ。」
朝から政宗は考え事をしているのか、たまにぼーっとしている。どうしたの?とは聞けても、何かあった?と踏み込むことは出来ないでいた。
「おら、本当に邪魔だべか……?」
「ううん。政宗さん、何か考えてるみたい。ほら、領主はいろいろあるわけだよ。……私が、不在にさせちゃったし。」
「こそ何いってるだ。領主ったって、いっつも国さいるわけじゃねえ。そんなに影響がでるとは思えねえよ。」
「うん……ありがと。」
今度はいつきがに抱きついた。
「って、頼りになるとおもってたんだけど」
「いつき?」
「政宗の前にいるは、何だかとっても可愛いべ」
「は!?」
どういう意味かすぐに理解できなかったが、なんだか恥ずかしくなってしまう。
媚びていたかな、と手を頬に当てると、いつきがふふ、と笑った。
「一所懸命で、可愛いだ。」
「一所懸命……。」
素直に喜ぶことができない。いつきの純粋な心には、私の無様なもがきや不安がそう見えているのではないかと考えてしまう。
「政宗さんにしてみたら、迷惑かな……?」
「迷惑?」
「政宗さんは、私が頑張んなくたって、大丈夫だろうし。私は政宗さんが居ないと……」
言って改めて思う。
……そうだね。
私、政宗さんがいなかったら、いつ死んでたっておかしくない。
政宗さんに会うって目標がなかったら、二回目こっちに来た時、どこにも進めなかった。
政宗さんに影響受けなかったら、いつきを助けようって思わなかったかもしれない。
「は、政宗がいないとダメなんだべか?」
「……うん、きっと、だめ。」
「でも、それは政宗と会ったからだべ。政宗に会ってなかったら、別な誰かと会ってただよ。」
「!」
「そんな事言ってたって、仕方ねぇだよ。」
いつきってもしかして私よりしっかりしてんな……?
困惑するに向かって、いつきがにっこり笑った。
「でも、政宗は嬉しいべ。こんなにに想ってもらって。」
「……。」
いつきの言葉は綺麗で真っすぐで、耳に触れると素直に照れてしまう。
もし、来た時期が、爺さんが武田との同盟破棄してるときだったら、幸村さんたちと会ってたのかな。
それで、幸村さんや佐助に出会って、今の私にとっての政宗さんみたいな存在になって。
……………本当だ。
考えてもどうしようもない。
私が来たのはここなんだから。
「……そうだね。」
不安になったら、政宗さんの近くに行けばいいよね。
きっと安心する。
「。」
「あ、元親。」
ざっざっと足音を立て、庭先に元親が現れる。
「元親、準備終わっただか?」
「今、港で食料調達してんだ。行くか?雪ん子」
「行く!!」
いつきが勢いよく立ち上がった。
船というものを見てみたいと、いつきは朝、元親にお願いしていて楽しみにしていたのだった。
「も行くだろ?」
「うん、行く!!」
慶次と武蔵も、乗せてもらう代わりにということで食料調達に行かせてるらしい。
いつきは馬に乗り、は元親に一緒に乗せてもらって港を目指した。
政宗は目的に着き、静かに障子を開ける。
そこには元就が胡坐をかき、目を閉じていた。
「……遅いではないか。」
「お見通しってか。」
その反応に政宗が笑い、すぐに正面に座りこむ。
元就も口元を上げた。
「判ってんなら話は早いな?お前だって豊臣は気にくわねぇだろうが。」
「独眼竜。」
「なんだ?」
「焦るな。」
元就が無表情になり、淡々とした口調で話し始める。
「我は確かに島津となんらかの繋がりはもつ。しかし、あの海賊の馬鹿がそれに危機を感じて三国同盟、などとさっさと進むとは思えん。何よりその前にザビーだ。」
「……元親だって、ザビーを潰したがってる。」
「参加などさせぬ。なんとしてでも止める。四国までザビーに目を向けるなど危険だ。お前の気に食わない奴らがな……。」
政宗が言葉を止めた。
「北から南から挟み撃ち、すぐにそんなことができたらなんと簡単なことであろうな……。」
「問題があるのは判ってる。」
「判ってるとは思えん。お前は焦っている。そんなことを言うからには、武田、上杉、徳川……それに対してはなにか策があるのか?」
「………。」
「……そうだ。言わなくていい。べらべらと喋られては不快だ」
「……軽率だってのは頭にあった。」
政宗が眉根を寄せ、がしがしと乱暴に頭をかいた。
「ただ、今日お前らが戻っちまう……。何にもせずに帰すのが惜しかっただけなのかもしれねえ。」
「それだけでこんな話を持ち出すとはな。」
「あああうっせ!!判ってる!!」
「……が作った繋がりを信じたか?」
「……。」
元就は相変わらずの自分を馬鹿にしたような態度だったが、雰囲気は悪くなかった。
「この数日の馬鹿騒ぎ……愚かだとしばし思う時も有ったが……」
元就が視線を政宗から逸らした。
「そんなに悪くはない。」
その言葉は本音のように思えた。
「お前のその切羽詰った顔、覚えといてやろう。」
「てめえ……。」
政宗は目を細めて睨むが、元就はにやっと笑う。
「独眼竜……お前が望むのはなんだ?」
「天下だ。」
「そうか。我が望むは毛利家の繁栄だ」
「……あっそ。」
政宗は視線を外へ向ける。
武田、上杉との同盟、それが叶えば小田原の状況も変わるだろう。さらに毛利、長曾我部、島津と連携……などという構想はやはり規模が大きすぎるか。
元就に焦った姿を見せてしまった後悔で眉間に皺が寄る。
「お前が天下をとった後、毛利家の安泰を約束できるか?」
小十郎に一度相談すべきだったなと考えていると、その元就の言葉が耳に飛び込む。
政宗は驚いて元就を見た。
「今の言葉、覚えといて良いか?」
「勝手にしろ。」
言い終わるとすぐに元就は立ち上がった。
部屋から出る寸前に肩越しに振り返った。
「しかし、我は豊臣を潰したいとはとは言っておらぬ。竹中半兵衛、あやつはなかなか侮れん。」
「ああ。」
「精々、我のご機嫌取りをするんだな。」
「ご機嫌取りなら任せろよ。こっちにはがいるんだぜ?」
政宗がにっと笑った。
「……それもそうだ。」
元就も微かな笑みを向けて歩き出す。
政宗はその背を見送った。
「まー、なかなか上手くはいかねぇし、すぐには信用しちゃいけねえって事だし。」
とりあえず、目先のことからクリアしていかねぇと。
けど、元就は何とかなりそうだ。
「あいつの無防備に感謝か……。」
単純な思い付きだったが、もしかすると実現するかもしれない。
日ノ本、北から南から、豊臣織田を挟み込む。
政宗はごろんと寝転んで、天井を見つめた。
なんと大胆で単純で、駒を進めるのが難しい戦だろう。
今は自分と元就の接触はなんとしてでも隠しておこう。
「元就がここにいること中国じゃ必死に隠してるだろうし。幸村達から漏れることはないだろう。危ないのは……慶次?」
ふらふらしてる奴だが、半兵衛に早々と情報を漏らすなんて事はしないだろう。
「あ、いっちばんあぶねえの、じゃねえか……。」
忘れてた。
あのお気楽。
さっき名前を出してたのに。
誰にも話さないよう、言い聞かせておかないと。
「……。」
言葉に出すと無茶言ってるって実感しちまうな。
言っちまったのが毛利だったのは逆に良かったのかもしれねえ。
冷静になってくるのを感じる。熱くなって、焦ってたのか。
少しでも早く、多く、が安心できる場所を作りてえって。
港に着くと、元親とは、珍しそうに甲板を走り回るいつきを見ていた。
「わかんねえもんがいっぱいだ!!この部屋はなんだべ?」
「あんまり調子にのんなよ!?あと下手にいじんな!!!」
「ケチだな!!」
「誰がケチだ!!」
は、怒鳴りあう二人が可愛いなあと思っていた。
「!!全くお前は傍観してんな!!あの雪ん子大人しくさせてくれよ!」
「いつきーそっちは武器庫だよ!!危ないよ!!」
「武器!?見たい見たい!!」
「――――――!!!!!」
が口を滑らせたのはなくわざと言ったというのは、にこにこした表情で分かってしまう。
「教えんなよ!!!こら小姓になれ!!!」
「むーりーでーすーあははははは!!!!」
「ああ!!!」
の腕を掴もうと伸ばされた元親の手を避けて、は武器庫へと走り出したいつきの後を追った。
「あ、こら!」
元親も仕方なく追いかける。
「ー、あれだべか?」
「うん、入れないから行っちゃダメだよ?」
武器庫の前には兵が見張りをしていたので、いつきは近づけなかった。
「おっきい部屋にあるだな…どんな武器があるんだべ?」
「知りたい?」
「……いいべ。おらはもう戦しなくていいんだから!!敵情視察なんていらねえだ!!」
いつきを後ろからぎゅうと抱きしめて、はそうだねーと笑った。
「そりゃそうだ。戦は俺たちみてえなのに任せとけよ。」
追いついた元親はの肩に手を置く。
「出来れば皆にもしてほしくないけどね……。」
「織田と豊臣をなんとかしねえと今は難しいぜ。」
「そっか……。」
話しをしながら、いつきを離そうとしない。
は露骨に元親と二人きりになること避けていた。
政宗に頑張れと言われちまったが、難しい。
そりゃしつこくした俺が悪い。でも最後に俺は誠意を見せてえんだよ!
「……。」
「……ん?」
いつきがじいいいいと元親を見つめた。
「仕方ねぇだな……。」
「なんだよ……。」
いつきは突然あ!!と声を出し、港を指差した。
「にいちゃん!!それは何て食いもんだ!?」
「あ、いつき!?」
いつきは船から慶次の食料調達から戻ってきた姿を発見し、走っていってしまった。
「……。」
元親はいつきに感謝し、がしい!!との腕をしっかり掴んだ。
「うっ!!」
「。」
「えーと?」
「話を聞いてくれ。」
改まった元親の態度に、は目を丸くする。
想像していた話ではないのかもしれない、と思い大人しく元親の言葉を待った。
「……ありがとな。本当に。何度言っても言い足りねえんだ。」
「元親さん……。」
「俺と出会ってくれて感謝してる。そりゃあ、俺の船に乗ってくれたら嬉しいって気持ちに変わりはねえが。」
俺はなんとに言えばいいのかとずっと考えていた。
お礼が言いたかった。
そして、の力になれる言葉を贈りたかった。
「俺の船に一緒に乗ってくれねえか。」
が大きく瞬きをする。
問いかけではなかった。棒読みだった。
「答えは要らねえ。ずっと考えていてくれ。」
「え?」
「ずーっと返事しなくたっていい。感謝とか恩とか抜きにしても、お前の事好きだ。もう俺の仲間だと思ってる。だから、この先もし俺を頼りたいことがあったら遠慮なく言え。……はっきりさせたら、お前絶対遠慮すんだろ?」
こくりとが頷く。
元親にはっきり船員にはなれないと言ってしまえば、もう期待させてしまうような行動はしないようにしないと、という思考になるだろう。 もし瀬戸内のほうに辿り着いてしまったら、元就の元へ行こうと考えるはずだ。
それでも問題ないかもしれない。けれどももう会えないのかと考えると寂しくて、発言を避けて逃げ回ってしまった。
「の力になりてえ。俺の船を使ってくれ。」
「……元親さんに、甘えてるみたいじゃない?」
「違う。俺の我がままに付き合ってもらってんだ。」
「………。」
は一度俯いて考えた。
「元親さん……。」
「おう?」
「私も、元親さんのこと、仲間だと思っていい?」
「当然だ。」
勢いよく顔を上げ、は目を輝かせた。
「私も元親さん好きだよ!!嫌いだから断ろうとしたわけじゃないからね!!!」
「何言ってんだ!!んなの最初から判ってるぜ!!」
「さすが……さすが元親アニキだー!!!!!!!」
この世で一番海が似合う男は?
アニキー!!!!!!!!!!
と、元親との大声が聞こえ始め
「……おいおい、ありゃあ何か新しい宗教じゃねえよな?」
「を信じるしかないですなあ、政宗様。」
遅れてきた政宗は、その光景に呆れていた。
元親の奴、ちゃんと言いたいことは言えたんだろうなあと感じながら。
「、元親。」
「あ、政宗さん!」
「おう、独眼竜。」
政宗が船に乗ってきて、二人に声をかける。
「話は終わったのか?」
「ああ。」
「もしかしてみんなもう準備できた?」
「もう少しで運び終わるそうだ。、行くぞ。」
「はーい!」
政宗が手招きすると、はトタトタと軽い足取りで行ってしまった。
「懐いてるねぇ……。」
ありゃあ勝てねぇか…と元親は頭を掻いた。
「慶次!武蔵君!!おつかいお疲れ様ー!」
「姉ちゃんー!」
「お、、と、政宗……と、元親。おそろいで。」
「おう。」
元親が、慶次達が大量に買い込んだ食物を見渡した。
「こんだけありゃあ十分だ。後は任せろ。おーい!これ運んでくれ!」
大声を上げると、元親の部下が2人、返事をしながら勢いよく走ってくる。
すぐに荷を担いで運び始めた。
「、。」
「あ、そだ。」
慶次が武蔵に気付かれぬ様、背後からちょいちょいとを突く。
「何?」
「武蔵に俺の言うこときけってお願いしてくんない?」
「私が?」
「そう。の言うことなら聞くって。」
大丈夫かな、と思いつつ、は武蔵に近づく。
お、姉ちゃん!と笑顔を向けてくるので、も穏やかな笑顔で笑いかける。
「武蔵くん、道中気をつけてね。」
「心配いらねぇよ!!」
「慶次の言うこと聞くんだよ。」
「え。」
「迷子になったら大変。」
「おれさまじゃなくて慶次のほうが迷子になりそうじゃないか?」
「そりゃねぇよ武蔵。」
そんな風に見られてたのかよ、と慶次は項垂れる。
「あはは、まぁ安全第一かな。二人共、また会おうね。」
「なんだよ姉ちゃん、しんみりするなよ―。おれさま、姉ちゃんの笑った顔すきだぜ?」
「「「「!!!」」」」
武蔵の口からそんな言葉が出るとは…!!と政宗、慶次、元親が驚愕する。
「調子に乗るでねぇ、武蔵……。」
いつきが呆れてため息をついていた。
その後方には小太郎がいて、そうだそうだとこくこく頷いている。
「何を固まっておる。感動のお別れか?大袈裟な。」
「あ、元就さん。」
元就も馬に乗って現れる。トンっと身軽に降りて、ふん、と笑った。
「出航はまだか?」
「荷を運んだらだ。ちいと待てよ。」
「……ならばもう少し時間をずらして来るべきだったな。おい、どこか休む場所は?」
「元就さんも、元気でね。」
「……我にそのような言葉、不要だ。」
「ええ~?雰囲気じゃないですか。そういう。」
「不要だ!!!!」
そうに言って、元就は背を向けてどこかへ行ってしまった。
「、気にすんな。」
元親はの肩にぽんと手を置いた。
は、あれは悪くない、と笑ったので、元親は首を傾げた。
「元就さん、照れてたよ。」
「まじか?」
「お別れのときもっと言ってやろーっと。」
何を言おうかな……と楽しそうに考えるを見て、こいつ強ェな…と元親は思っていた。
はくるりと政宗を振り返り、声をかけた。
「そういえば小十郎さんは?」
「野菜が欲しいって言われて運んでんだ。もうすぐ来るだろうよ。」
「小十郎さんのお野菜大人気だ。」
はちらりと元親を見る。
それに気づいた元親は口元を上げた優しい表情でのことを見つめて待つ。
「……野菜食べるのも、もちろん良いことだから。」
このくらいの言葉なら言ってもいいかなと悩みながら発する。
「!」
元親は目を丸くした後、その意味を嚙みしめるように頷いた。
「分かった。ありがとよ。内部の事もやること山積みだぜ。」
「ん。応援してる!」
気が付くと陸にいる長曾我部軍の兵もどんどん少なくなっている。
出航の時間が近づく。
小十郎も政宗を見つけて駆け寄り、政宗と言葉を交わした後で元親と向き直る。
「気をつけろよ。」
「世話になったな、独眼竜。また来るぜ。」
「ああ。」
元親と政宗は軽く握手をし、互いににっと笑った。
「前田慶次、お前、たまには家に帰れよ。」
「片倉さん……やめてよそんなお父さんみたいな……。」
「武蔵!!おめえ、次に会いに来るときはもう少し紳士になってなきゃダメだ!!」
「なんだようっせえなあ…おれさま、しんし、じゃねえか。」
「……意味わかっていってるだか?」
皆、各々別れの言葉を言い合う中、は元就に言葉を贈る。
「元就さん……ザビーさん?に、負けないでね。」
「当たり前だ。こちらにまで届くような完璧な勝ち戦にしてみせよう。」
「良い知らせ、待ってるよ。安心して待ってられるけどね……!!」
「当たり前だと言っている。」
は元就が最初に出会った時よりも口調が柔らかくなっていることを嬉しく思いながら褒め言葉を並べていく。
満更でもない元就の様子を見ながら、政宗は笑い、元親は恐ろしいものでも見たかのように固まった。
「~。元就さんばっかりずるい!!」
慶次が唇を尖らせて間に入る。
「あはは、ごめんごめん、元親、慶次、武蔵君、元気でね」
「ひとまとめかよ!!」
元親はひでえ!!と言ったが、は優しく微笑んだ。
「またね!!」
が笑うと、武蔵も慶次も元親もふっと笑った。
「じゃあな。」
「またね、姉ちゃん!!」
「行ってきます、ってね。」
「……ふん。」
四人が船に乗り込むまでずっと手を振り、船が見えなくなるまで、たちはずっと同じ場所に立っていた。
「行っちゃったー……。」
「行っちゃったなー。」
こくり
しんみりするといつきと小太郎に政宗が声をかける。
「さっさと帰るぞ。」
「あ、うん……。」
政宗はすぐに振り返り、馬を止めた場所へ向かってしまった。
小十郎もすぐに政宗を追った。も行こうとすると、いつきがぎゅっとの手を握った。
「いつき?」
「おらももうすぐ帰らなきゃ。」
「……そっか。」
「明日の朝、帰る。」
「うん。あれ?いつき、一人で来たの?」
「来たときは何人か一緒に来たけど、皆仕事があって、先に帰っただよ。」
「……一人。」
は小太郎に視線を向けた。
「小太郎ちゃん、いつき、送っていってくれない?」
「…………。」
小太郎はすぐにこくりと頷いた。
「え?」
「女の子の一人旅は、危険だよ、いつき。」
「……に言われたくねえ……。」
それもそうだ……というと、いつきはあはは、と笑った。
「、ありがと!!優しいだな!!」
にこお!!と満面の笑みを浮かべ、早く城に戻ろうとの手を引いた。
政宗たちに追いつくと、すでに馬に跨っている状態だった。
いつきはから手を離し、政宗から借りた馬の元へと走っていく。
は政宗に近づくと、ほら、と当然のように手を差し伸べてくる。その手をとって、政宗の馬に乗った。
「よろしくお願いします~。」
「おう、任せろ。」
城に戻り、明日帰る、といつきが政宗に言うと、そうか、とそっけない返事が返ってきた。
しかし、その夜の夕餉はいつもより豪華な食事が出て来た。
「青いお侍さんは態度で示すだな。」
いつきは嬉しそうにもくもくと食べていた。
「態度で示されるのは嬉しいよね。」
「素直じゃねえ奴の典型だべ。」
「おいこら聞こえてるぞお前らー。」
政宗は、といつきが並んで食事をしている向かいに座って同じく食事をしていた。
小十郎と小太郎は、何か用があるようで、今は一緒ではない。
「朝飯は要るのか?」
「くれるなら欲しいだ!!」
「OK。楽しみにしてろ。」
政宗の気配りが微笑ましい。
「……。」
このように客観的に見ていると、政宗はかなり優しい。
自分にもこういった気配りをしてくれてるんだろうな、気付けていないものもあるのかもしれない、と思うとなんだかお礼を言いたくなる。
だが、いきなり有難うといわれても困るだろうし、私だって、何度言っても足りないだろうから……
「……。」
いつか、自分も気持ちを態度で示せればいいな、と思った。
「何にやにやしてんだ気持ち悪い。」
「………気持ち悪いて……。」
気配り……してくれている……はず……。
………………………多分。
今日もはいつきと同じ部屋で寝てしまった。
政宗は一人、廊下に出て煙草を吸っていた。
「政宗様。」
「……小十郎。」
「なかなかとゆっくりできませんな。」
「仕方ねえだろ。」
政宗が苦笑いした。小十郎は空を見上げた。
「……明後日ではありませんか。」
空に浮かんでいるのは細い月。
「……なあ、小十郎。」
「はい。」
「俺はあいつの笑った顔が好きでな。」
「……ええ。」
「ずっと見てても飽きねぇんだ。」
フー、と煙を吐き出した。
「でも、それは俺だけじゃねえな……。」
「そうですね。」
当たり前の事だったんだな、と言い、ククッっと笑った。
「じゃあ、俺は……あいつの困った顔も、怒った顔も、泣き顔も好きになるさ。」
「皆と同じなど、つまらないですものね。」
「ああ。」
今まであいつに、いろんなものぶつけてきた気がする。
でも
「……まだまだ、ブン投げさせてもらうぜ。」
それしか出来ねえんじゃねえか、と思うようになった。
あいつへ抱くこの感情を言葉にしろといわれても、頭がごちゃごちゃしちまうから、俺は俺がそのとき思ったことを。
俺はお前がどんなに悲しんでも、俺に怒りを覚えたとしても、受け止めるよ。
そうして積み重ねる時間の先に、何が待ってるかなんて全く見えねえけどよ。
「小十郎はの味方について宜しいですか?」
「的確な助言をするならな。」
それについて報告義務を課すほど、俺は鬼じゃねえから安心しろ、と言い、政宗は自室に戻っていった。
「も大変だ……。」
明日からの食事は大盛りにしてあげよう、と思いながら、小十郎も部屋に戻る事にした。
「小太郎ちゃんー、頼んだよ。」
こくり
「ーまたなー。」
小太郎に背負われながら、いつきはに手を伸ばした。
はその手を握り、またね、畑仕事頑張ってね、などお別れの挨拶をした。
「青いお侍さんもー。ありがとなー。」
「美味い米作れよ。」
「頑張る!!」
小太郎は会話が切れるタイミングを見計らって消えていく。
「お客さんみんな帰っちゃったねー……はくしょん!!」
「?」
「風邪か?」
がうう~…と唸り、手で口を覆った。
「なんかさー…昨晩身震いがしてさ…へくしっ!!風邪じゃないとは思うけど……寒かったのかな。」
「………。」
はなかなか敏感だな、と小十郎は思った。
「、身震いついでに。」
「う?」
「政務手伝え。」
「……風邪だ!!寝なきゃ!!」
「もう遅いぜー?」
「え、ちょ、うわあああ!!!」
政宗は問答無用での腕を取って思い切り引いた。