奥州帰還編 第4話


元親と元就さんが帰ってしまう。
慶次と武蔵も行ってしまう。

「寂しくなりますなあ……。」
「静かになるじゃねえか。」

は政宗といつきの間に座って茶を飲んでいた。

「おい、いつき、おまえはいつ帰るんだ。」
「もうちょっと居たいんだ。」
「用は済んだくせに。」
「いつきまでいなくなったら寂しい……。」
はお茶を置いて、横からいつきを抱きしめた。

「!!!…!!政宗に寂しい思いさせられてんだな…!?」
「……なんだと?ふざけんなよ。俺らはしょっちゅう一緒に寝たりしてんだぜ?」
「ちょ!!政宗さん!?いつきにそーゆーこと言うのは」
「体と気持ちはまた別だべ!!!!!」

……あっ

いつきちゃん

今、体って言った?

それなりに知識あるのか……と思い、も政宗もそれ以上のことを言うのはやめた。

いつきはアイドルなので、変な発言はさせないようにと。


「………。」
「ん?」
政宗がじっとを見つめた。
「……何?」
「いや。まあ、ちょっと、俺は行く。」
「あ、うん……。」

政宗は立ち上がり、部屋の中に行ってしまった。
「何だべ、政宗。さっきまで、俺とを二人きりにしろ!!って、おらと取り合いしてたのに。」
「あはは、嬉しいよ。」

朝から、政宗は考え事をしているのか、たまにぼーっとしていた。

「おら、本当に邪魔だべか……?」
「ううん。政宗さん、何か考えてるみたい。ほら、領主はいろいろあるわけだよ。……私が、不在にさせちゃったし。」
こそ何いってるだ。領主ったって、いっつも国さいるわけじゃねえ。そんなに影響がでるとは思えねえよ。」
「うん……ありがと。」

今度はいつきがに抱きついた。

って、頼りになるとおもってたんだけど」
「いつき?」
「政宗の前にいるは、何だかとっても可愛いべ」
「は!?」

どういう意味かすぐに理解できなかったが、なんだか恥ずかしくなった。

こ、媚びてたかな!?
無意識のうちに!?
いやそりゃ政宗さんはかっこいいけど、そんな……

「一所懸命で、可愛いだ。」
「え?」

一所懸命……気張ってたかな……?

「政宗さんにしてみたら、どうなのかな……?」
「迷惑?」
「政宗さんは、私が頑張んなくたって、大丈夫だろうし。私は政宗さんが居ないと……」

言って改めて思う。

……そうだね。
私、政宗さんがいなかったら、いつ死んでたっておかしくない。
政宗さんに会うって目標がなかったら、二回目こっちに来た時、どこにも進めなかった。
政宗さんに影響受けなかったら、いつきを助けようって思わなかったかもしれない。


は、政宗がいないとダメなんだべか?」
「……うん、きっと、だめ。」
「でも、それは政宗と会ったからだべ。政宗に会ってなかったら、別な誰かと会ってただよ。」
「!」
「そんな事言ってたって、仕方ねぇだよ。」

いつきってもしかして私よりしっかりしてんな……?

困惑するに向かって、いつきがにっこり笑った。
「でも、政宗は嬉しいべ。こんなにに想ってもらって。」
「……。」

いつきの言葉は素直で綺麗で、本当に恥ずかしくなる。

もし、来た時期が、爺さんが武田との同盟破棄してるときだったら、幸村さんたちと会ってたのかな。
それで、幸村さんや佐助に出会って、今の私にとっての政宗さんみたいな存在になって。

……………本当だ。

考えてもどうしようもない。

私が来たのはここなんだから。

「……そうだね。」

不安になったら、政宗さんの近くに行けばいいよね。
きっと安心する。


。」
「あ、元親。」
ざっざっと足音を立て、庭先に元親が現れる。

「元親、準備終わっただか?」
「今、港で食料調達してんだ。行くか?雪ん子」
「行く!!」
いつきが勢いよく立ち上がった。
船というものを見てみたいと、いつきは朝、元親にお願いしていて楽しみにしていたのだった。

も行くだろ?」
「うん、行く!!」

慶次と武蔵も、乗せてもらう代わりにということで食料調達に行かせてるらしい。
いつきは馬に乗り、は元親に一緒に乗せてもらって港を目指した。







政宗は目的に着き、静かに障子を開ける。
そこには元就が胡坐をかき、目を閉じていた。

「……遅いではないか。」
「お見通しってか。」

その反応に政宗が笑い、すぐに正面に座りこむ。
元就も口元を上げた。

「判ってんなら話は早いな?お前だって豊臣は気にくわねぇだろうが。」
「独眼竜。」
「なんだ?」
「焦るな。」

元就が無表情になり、淡々とした口調で話し始める。

「我は確かに島津となんらかの繋がりはもつ。しかし、あの海賊の馬鹿がそれに危機を感じて三国同盟、などとさっさと進むとは思えん。何よりその前にザビーだ。」
「……元親だって、ザビーを潰したがってる。」
「参加などさせぬ。なんとしてでも止める。四国までザビーに目を向けるなど危険だ。お前の気に食わない奴らがな……。」

政宗が言葉を止めた。

「北から南から挟み撃ち、すぐにそんなことができたらなんと簡単なことであろうな……。」
「問題があるのは判ってる。」
「判ってるとは思えん。お前は焦っている。そんなことを言うからには、武田、上杉、徳川……それに対してはなにか策があるのか?」
「………。」
「……そうだ。言わなくていい。べらべらと喋られては不快だ」
「……軽率だってのは頭にあった。」
政宗ががしがしと頭をかいた。

「ただ、今日お前らが戻っちまう……。何にもせずに帰すのが惜しかっただけなのかもしれねえ。」
「それだけでこんな話を持ち出すとはな。」
「あああうっせ!!判ってる!!」
「……が作った繋がりを信じたか?」
「……。」

元就は相変わらずの自分を馬鹿にしたような態度だったが、雰囲気は悪くなかった。

「この数日の馬鹿騒ぎ……愚かだとしばし思う時も有ったが……」
元就が視線を政宗から逸らした。
「そんなに悪くはない。」
その言葉は本音のように思えた。

「お前のその切羽詰った顔、覚えといてやろう。」
「てめえ……。」

政宗はキッと睨んだが、元就はにやっと笑った。

「独眼竜……お前が望むのはなんだ?」
「天下だ。」
「そうか。我が望むは毛利家の繁栄だ」
「……あっそ。」

政宗は外に目をやった。
皆には、武田と上杉の戦が終わった後、勝者との同盟を考えているとだけしか言っていない。

「お前が天下をとった後、毛利家の安泰を約束できるか?」

小十郎に一度相談すべきだったなと考えていると、その元就の言葉が耳に飛び込む。
政宗は驚いて元就を見た。

「今の言葉、覚えといて良いか?」
「勝手にしろ。」

外から、元就様~と呼ぶ声が聞こえ、元就は立ち上がった。
部屋から出る寸前に肩越しに振り返った。

「しかし、我は豊臣を潰したいとはとは言っておらぬ。竹中半兵衛、あやつはなかなか侮れん。」
「ああ。」
「精々、我のご機嫌取りをするんだな。」
「ご機嫌取りなら任せろよ。こっちにはがいるんだぜ?」
政宗がにっと笑った。
「……それもそうだ。」
元就も微かに笑った。


ギシギシと音を立てて、元就は行ってしまった。

「まー、なかなか上手くはいかねぇし、すぐには信用しちゃいけねえって事だし。」

とりあえず、目先のことからクリアしていかねぇと。
けど、元就は何とかなりそうだ。

「あいつの無防備に感謝か……。」
単純な思い付きだったが、もしかすると実現するかもしれない。
日ノ本、北から南から、豊臣織田を挟み込む。
政宗はごろんと寝転んで、天井を見つめた。
なんと大胆で単純で、駒を進めるのが難しい戦だろう。
今は自分と元就の接触はなんとしてでも隠しておこう。

「元就がここにいること中国じゃ必死に隠してるだろうし。幸村達から漏れることはないだろう。危ないのは……慶次?」

ふらふらしてる奴だが、半兵衛に早々と情報を漏らすなんて事はしないだろう。

「あ、いっちばんあぶねえの、じゃねえか……。」

忘れてた。
あのお気楽。
さっき名前を出してたのに。
誰にも話さないよう、言い聞かせておかないと。

「……。」

の為に急いてる自分がいる。
の存在が大きくなってる。







港に着くと、元親とは、珍しそうに甲板を走り回るいつきを見ていた。
「わかんねえもんがいっぱいだ!!この部屋はなんだべ?」
「あんまり調子にのんなよ!?あと下手にいじんな!!!」
「ケチだな!!」
「誰がケチだ!!」

は、怒鳴りあう二人が可愛いなあと思っていた。

!!全くお前は傍観してんな!!あの雪ん子大人しくさせてくれよ!」
「いつきーそっちは武器庫だよ!!危ないよ!!」
「武器!?見たい見たい!!」
――――――!!!!!」

は笑っているので口を滑らせたわけではなく、わざと言ったようだ。

「教えんなよ!!!こら小姓になれ!!!」
「むーりーでーすーあははははは!!!!」
「ああ!!!」

の腕を掴もうと伸ばされた元親の手を避けて、は武器庫へと走り出したいつきの後を追った。

「あ、こら!」
元親も仕方なく追いかけた。

ー、あれだべか?」
「うん、入れないから行っちゃダメだよ?」
武器庫の前には兵が見張りをしていたので、いつきは近づけなかった。
「おっきい部屋にあるだな…どんな武器があるんだべ?」
「知りたい?」
「……いいべ。おらはもう戦しなくていいんだから!!敵情視察なんていらねえだ!!」

いつきを後ろからぎゅうと抱きしめて、はそうだねーと笑った。

「でも元親は敵になりそうにねえだなあ。」
「元親ね。政宗さんのことどう想ってるかなあ。」
「仲よさそうだから喧嘩する程度のことしかしなさそうだべ。」
「あーそれでお家を困らせそうね。」
「無駄に金かけてこっちまで来て無駄に戦して帰ってくだべ。」
「宝を貰いに来た!!ってんで小十郎さんの野菜を分けてもらって帰るのね。」
「普通に来ればいいのに……。無駄だべー。」
「無駄ねー。」
「無駄無駄言うなあああああああああああ!!!!!!」
「わあああ!」

追いついた元親はの肩に手を置き、をぐわんぐわん揺すった。
「なあに元親、私にだけこの仕打ち。」
に構って欲しいだか?」
「るせえ!!!」

といつきはあはははと色々と慌ててる元親を見て笑った。
元親は不服そうに唇を尖らせる。

……は俺と二人きりになろうとしねぇしよ…!!!

政宗に頑張れと言われちまったが、船に誘われないようには逃げている。
そりゃしつこくした俺が悪い。でも最後に俺は誠意を見せてえんだよ!

「……。」
「……ん?」

いつきがじいいいいと元親を見つめた。

「仕方ねぇだな……。」
「なんだよ……。」

いつきは突然あ!!と声を出し、港を指差した。
「にいちゃん!!それは何て食いもんだ!?」
「あ、いつき!?」
いつきは船から慶次の食料調達から戻ってきた姿を発見し、走っていってしまった。

「……。」
元親はいつきに感謝し、がしい!!との腕をしっかり掴んだ。
「うっ!!」
…」
「えーと?」
「話を聞いてくれ。」

改まった元親の態度に、は目を丸くする。
想像していた話ではないのかもしれない、と思い大人しく元親の言葉を待った。

「……ありがとな。本当に。何度言っても言い足りねえんだ。」
「元親さん……。」
「俺と出会ってくれて感謝してる。そりゃあ、俺の船に乗ってくれたら嬉しいって気持ちに変わりはねえが。」
俺はなんとに言えばいいのかとずっと考えていた。
お礼が言いたかった。
そして、の力になれる言葉を贈りたかった。

「俺の船に一緒に乗ってくれねえか。」
が目をぱちくりさせる。
問いかけではなかった。棒読みだった。

「答えは要らねえ。ずっと考えていてくれ。」
「え?」
「ずーっと返事しなくたっていい。感謝とか恩とか抜きにしても、お前の事好きだ。もう俺の仲間だと思ってる。だから、この先もし俺を頼りたいことがあったら遠慮なく言え。……はっきりさせたら、お前絶対遠慮すんだろ?」

こくりとが頷く。
正直、元親にははっきり言って、もし瀬戸内のほうに行ってしまったら元就の元へ行こうかと思っていた。
でも、言いづらくて逃げてしまっていた。

の力になりてえ。俺の船を使ってくれ。」
「……元親に、甘えてるみたいじゃない?」
「違う。俺の我がままに付き合ってもらってんだ。」
「………。」

は一度俯いて考えた。

「元親……。」
「おう?」
「私も、元親のこと、仲間だと思っていい?」
「当然だ。」
勢いよく顔を上げ、は目を輝かせた。

「私も元親好きだよ!!嫌いだから断ろうとしたわけじゃないからね!!!」
「何言ってんだ!!んなの最初から判ってるぜ!!」
「さすが……さすが元親アニキだー!!!!!!!!!!」

この世で一番海が似合う男は?
アニキー!!!!!!!!!!
と、元親との大声が聞こえ始め

「……おいおい、ありゃあ何か新しい宗教じゃねえよな?」
を信じるしかないですなあ、政宗様。」

遅れてきた政宗は、その光景に呆れていた。
元親はまあ、言いたいことは言えたんだろうなあと感じながら。







、元親。」
「あ、政宗さん!」
「おう、独眼竜。」
政宗が船に乗ってきて、二人に声をかける。

「話は終わったのか?」
「ああ。」
「もしかしてみんなもう準備できた?」
「もう少しで運び終わるそうだ。、行くぞ。」
「はーい!」

政宗が手招きすると、はトタトタと足音を立てて行ってしまった。

「懐いてるねぇ……。」
ありゃあ勝てねぇか…と元親は頭を掻いた。






「慶次!武蔵君!!おつかいお疲れ様ー!」
「姉ちゃんー!」
「お、、と、政宗……と、元親。おそろいで。」
「おう。」
元親が、慶次達が大量に買い込んだ食物を見渡した。
「こんだけありゃあ十分だ。昼過ぎに出港することにしたからな。」
「昼過ぎ。」
が太陽を見た。
「……。」
「判りもしねぇことしてんな。」
時刻を確認しようとしたが無理で、固まったを政宗が小突いた。

。」
「あ、そだ。」
慶次が武蔵に気付かれぬ様、背後からちょいちょいと指を差していた。

「武蔵くん、道中気をつけてね。」
「心配いらねぇよ!!」
「慶次の言うこと聞くんだよ。」
「え。」
「迷子になったら大変。」
「おれさまじゃなくて慶次のほうが迷子になりそうじゃないか?」
「そりゃねぇよ武蔵。」

慶次が先程まで武蔵を指してた指で武蔵の頭をつついた。

「あはは、まぁ安全第一かな。二人共、また会おうね。」
「なんだよ姉ちゃん、しんみりするなよ―。おれさま、姉ちゃんの笑った顔すきだぜ?」
「「「「!!!」」」」
武蔵の口からそんな言葉が出るとは…!!と政宗、慶次、元親が驚愕する。

「調子に乗るでねぇ、武蔵…。」
いつきが呆れてため息をついていた。
その後方には小太郎がいて、そうだそうだとこくこく頷いている。

「何を固まっておる。感動のお別れか?大袈裟な。」
「あ、元就さん。」
元就も馬に乗って現れる。トンっと身軽に降りて、ふん、と笑った。
「出航はまだか?」
「荷を運んだらだ。ちいと待てよ。」
「……ならばもう少し時間をずらして来るべきだったな。おい、どこか休む場所は?」
「元就さんも、元気でね。」
「……我にそのような言葉、不要だ。」
「ええ~?雰囲気じゃないですか。そういう。」
「不要だ!!!!」

そうに言って、元就は背を向けてどこかへ行ってしまった。

、気にすんな。」
元親はの肩にぽんと手を置いた。
は、あれは悪くない、と笑ったので、元親は首を傾げた。
「元就さん、照れてたよ。」
「まじか?」
「お別れのときもっと言ってやろーっと。」
何を言おうかな……と楽しそうに考えるを見て、こいつ強ェな…と元親は思っていた。


はくるりと政宗を振り返り、声をかけた。
「そういえば小十郎さんは?」
「海賊のやつらが心配だから町を見回ってるぜ。」
「おいおい、んなに暴れん坊はいねえよ。」
元親は心外だと眉根を寄せた。

「まー、まだ時間あるし、俺らも町、うろうろするかー?」
慶次がさりげなくのそばに移動し、背に手を当てた。
「いいねー。小十郎さんに会えるかもね」
「元就さんにもね。」

そんな二人に文句を言ったのは元親だった。
「おいおいおい、てめえらはお気楽でいいだろうがなあ、俺はここから離れられねえんだぜ?俺を仲間はずれか?あ?」
「アニキー、俺達だけでも大丈夫ですぜー!!遊んできたらどうですかい!?」
荷を運ぶ船員が笑いながら叫んだ。

「だがよ……。」
「俺達は昨夜遊ばせていただいたんでー。」
「はあ!?」
船が心配だから、と昨晩港に残った家臣達は楽しそうに笑っていた。

「て、てめえら…?」
「あ、アニキ、でも番はしっかり代わる代わる……。」
「遊ぶぞおお俺は遊んでくるぞおおおおおお!!!!なんだ手前ら畜生ー!!!!!!!!!!!!!!」
「おわ」
「あ」

元親はそう叫んで、慶次からを奪ってどかどかと大股で賑わう町へ進んでしまった。
いきなり奪われた慶次は、待ってー、とその後を追った。

「元親もしっかり城で遊んでたじゃねえか。」
「なかまはずれがきらいなんだな!!鬼は!!」
「断るけど、一応誘って欲しかったんだべな…」
こくり

だんだん、元親のことがわかってきた四人だった。








大通りを不機嫌そうに進む元親は、町人の視線を集めていた。

「元親ぁー、もう少しゆっくりー…私転びそう。」
「ああ!?ああ、悪いなあ!!、どっか楽しいとこはどこだ?」
「楽しいところ?元親の楽しいところ……?どこかなあ……?」
「宝探しか?」
追いついた慶次は元親の服を引っ張り、落ち着いてゆっくり歩きなよ、と言った。

「宝ねえ。」
「あ、じゃあ、小十郎さんと元就さん探ししようよ。」
「おう!!そりゃいいな!!って、言いづらいんだが……」
元親は眉根を寄せてしまった。
「じゃあ、見つけられなかった奴、全員に何か奢るってのはどうだい!?」
「おお、いいじゃねえか」
「え!?」

慶次と元親はまだいいが、は文無しだ。
政宗に借金しなくてはならなくなる、どうしよう……と思ったが、元親と慶次が、じゃあ開始!!と同時に言って走って行ってしまったので、はうわあ!!!と叫んだ。

「どどどどうしよ……見つけなきゃ!!自分が言い出した事だけど……よ、よし……。」
「おや、。」
「わああああ小十郎さん!!!!!!!」
が慌てていると、近くの店から小十郎が出て来た。
急いで駆け寄って、袖を掴んだ。

「小十郎さんつかまえたー!!」
「ん?どうした?政宗様は一緒じゃねえのか?」
「政宗さんは港に……。小十郎さん、一緒に行動していい?」
「?ああ、構わねえが」
「よかったー!あのね、元親と慶次とね、小十郎さんと元就さん探ししようってなって、見つけられなかったら何か奢らなきゃで……。」
「ああ、じゃあ声かけねえ方がよかったか?」
「なんでよ!!!!!」
小十郎がははは、と笑った。

「いや、負ければ政宗様に借りるだろ?」
「そりゃ、そう考えてました。」
「政宗様はに頼られると嬉しいだろうからな。」
「え。」
「あ、政宗様。」
小十郎の声に反応し、が勢いよく振り向いた。

「おう、小十郎。」
政宗は小太郎といつきと武蔵と一緒に歩いてきた。
、あの二人は?」
「元就さん探しに行きました。」
「ふーん。」
、いろんな奴らに振り回されて大変だべ……。青いお侍さんは落ち着いてるし……。」
いつきがキッと政宗を睨んだ。

「なんだよ。」
「守ってやらなきゃダメだべ!!」
「………。」
小太郎は自分にも言われてる気がしてきた。

「いつき、守ると束縛は違うぜ。」
「だけども……。」
「………。」
小太郎はまたもや自分にも言われている気がした。

「あーもー、いいじゃんなんでも!!!姉ちゃんーおれさまはらへったー!!団子くおう!!なあなあ、買ってー団子ー」
武蔵はの腕を引きながら、小十郎におねだりしていた。

「仕方ねえな。買ってきてやる。」
「ありがとな!!」
「小十郎さん、すみません!」
は小十郎にお礼を言った後、武蔵をじっと見た。

「どうした?姉ちゃん?」
「武蔵君は、いいなあ……。」
「?」
頼られると嬉しいだろう、といわれても、自分は武蔵のように無邪気におねだりなどできない。
これ以上迷惑はかけられない、という気持ちがまだあるのだろう。

「どうした?二人とも?」
しっかり全員分の団子を買って、小十郎がすぐに戻ってきた。

「小十郎さん、そのうちまた相談していい?」
「ん?答えられるかどうかは別だぞ?」
「ありがとうございます……。」

ちらりと政宗を見て、は、素直に甘えられない自分にため息をついた。

「……俺見てため息ってなんだよ…」
「あひゃ、ふいません……」
政宗はの頬をきゅっとつねって引っ張った。







皆で座って団子を食べていると、元就が目の前を走って通り過ぎた。
「あ、元就さんだ。」
「何してんだ?」
政宗は立ち上がり、Hey!元就!!と声をかけると、元就は急にターンをし、政宗に寄って来た。

「皆ここにいたのか……よし、我を助けよ!!」
「偉そうだな。」
「やかましい!!」
そういうと元就は、の背後に回りこみ、身を屈めた。

「元就さん?」
「や、やつらが……目覚めおったわ……。」
元就が恐怖におびえた顔をしてうろたえている。珍しい。
何が起こったのだ、と全員が警戒すると大声が聞こえてくる。

「元就どこだあああああああああ!!!!!」
「元就さーん!!!!俺が先に見つけたよね!?出てきてよ!!元就さーん!!!!!!!!!!」
「うるせー!!元就ィー!!!俺のとこに来いー!!!!!」
慶次と元親が、だだだだと走って、そう喚いていた。
あんな風に叫ばれては、勘違いするだろう……。

「大丈夫、元就さん。」
…?」
はすううと大きく息を吸った。
「けーいじー!!!もーとーちーかー!!小十郎さんも元就さんも私がみっけ!!!!」
「「ええー!?」」
二人は急ブレーキをし、たちの方を振り返った。

「二人して私に何か奢るがよい!!ふはははは!!」
は悪の大王をイメージ笑いで二人に叫ぶ。

「あ、団子美味そう。」
「俺も食うー。」
「あ!!話逸らした!!」
慶次と元親も店先の椅子に座り、団子を注文した。

……奴らにそのような扱いをされてまで、我を助けようと……」
「……もうどうでもいいっすわ。」

元就はの背後で感動していた。

「瀬戸内に来たら、我を探すのだぞ?。」
「ありがと、元就さん。」
元就は身を屈めたまま、を見上げて、優しい言葉を言い出した。

「……は何回ミラクルを起こすんだ?」
政宗はその元就の態度が信じられない。
「ははは、まあ、ですからな。」
小十郎の言葉に、こくこくと小太郎は元気に頷いていた。








昼になり、出航時間が近づいてきた。
皆、埠頭に集まり、言葉を交わしていた。

「世話になったな、独眼竜。また来るぜ。」
「ああ。」
元親と政宗は軽く握手をし、互いににっと笑った。

「前田慶次、お前、たまには家に帰れよ。」
「片倉さん……やめてよそんなお父さんみたいな……。」

「武蔵!!おめえ、次に会いに来るときはもう少し紳士になってなきゃダメだ!!」
「なんだようっせえなあ…おれさま、しんし、じゃねえか。」
「……意味わかっていってるだか?」

皆、各々別れの言葉を言い合う中、は元就にたくさん言葉を送っていた。

「元就さん……お別れさみしい……」
「え、ええい、今生の別れではなかろうに……!!」
「ザビーさん?に、負けないでね。」
「当たり前だ。こちらにまで届くような完璧な勝ち戦にしてみせよう」
「良い知らせ、待ってるよ。安心して待ってられるけどね……!!」
「当たり前だ……。」
は元就が照れるのが楽しくて仕方ないらしい。
そんなに、政宗は笑い、元親は口を尖らせた。

!!元就ばっかりずるいぞ!!」
「あはは、ごめんごめん、元親、慶次、武蔵君、元気でね」
「ひとまとめかよ!!」

元親はひでえ!!と言ったが、は優しく微笑んだ。

「またね!!」

が笑うと、武蔵も慶次も元親もふっと笑った。

「じゃあな。」
「またね、姉ちゃん!!」
「行ってきます、ってね。」
「……ふん。」

四人が船に乗り込むまでずっと手を振り、船が見えなくなるまで、たちはずっと同じ場所に立っていた。

「行っちゃったー……。」
「行っちゃったなー。」
こくり

といつきと小太郎はしんみりしていた。

「さっさと帰るぞ。」
「あ、うん……。」
政宗はすぐに振り返り、馬を止めた場所へ向かってしまった。
小十郎もすぐに政宗を追った。も行こうとすると、いつきがぎゅっとの手を握った。

「いつき?」
「おらももうすぐ帰らなきゃ。」
「……そっか。」
「明日の朝には、帰る。」
「うん。あれ?いつき、一人で来たの?」
「来たときは何人か一緒に来たけど、皆仕事があって、先に帰っただよ。」
「……一人。」
は小太郎に視線を向けた。

「小太郎ちゃん、いつき、送っていってくれない?」
「…………。」
小太郎は笑って、こくりと頷いた。
判ってます、といった感じだ。

「え?」
「女の子の一人旅は、危険だよ、いつき。」
「……に言われたくねえ……。」
それもそうだ……というと、いつきはあはは、と笑った。

、ありがと!!優しいだな!!」
にこお!!と満面の笑みを浮かべ、早く城に戻ろう!!との手を引いた。






馬のもとへいくと、政宗たちが待っていた。
いつきはから手を離し、政宗から借りた馬の元へと走っていった。
ほら、と政宗が当然のように手を差し伸べてきたので、は当然のようにその手をとって、政宗の馬に乗った。
こういうのなら遠慮なくできるんだよな、と思いながら。


城に戻り、明日帰る、といつきが政宗に言うと、そうか、とそっけない返事が返ってきた。
しかし、その夜の夕餉はいつもより豪華な食事が出て来た。

「青いお侍さんは態度で示すだな。」
いつきは嬉しそうにもくもくと食べていた。

「態度で示されるのは嬉しいよね。」
「素直じゃねえ奴の典型だべ。」
「おいこら聞こえてるぞお前らー。」

政宗は、といつきが並んで食事をしている向かいに座って同じく食事をしていた。
小十郎と小太郎は、何か用があるようで、今は一緒ではない。

「朝飯は要るのか?」
「くれるなら欲しいだ!!」
「わーったよ。」
政宗の気配りが微笑ましい。

「……。」
このように客観的に見ていると、政宗は随分と優しい。
自分は政宗によく締められたりしているが、やはり自分にもこういった気配りをしてくれてるんだろうな、と思うと、なんだかお礼を言いたくなる。
だが、いきなり有難うといわれても困るだろうし、私だって、何度言っても足りないだろうから……

「……。」
いつか、自分も気持ちを態度で示せればいいな、と思った。

「何にやにやしてんだ気持ち悪い。」
「………気持ち悪いて……。」

気配り……してくれている……はず……。
………………………多分。






今日もはいつきと同じ部屋で寝てしまった。
政宗は一人、廊下に出て煙草を吸っていた。

「政宗様。」
「……小十郎。」
「なかなかとゆっくりできませんな。」
「仕方ねえだろ。」

政宗が苦笑いした。小十郎は空を見上げた。
「……明後日ではありませんか。」
空に浮かんでいるのは細い月。

「……なあ、小十郎。」
「はい。」
「俺はあいつの笑った顔が好きでな。」
「……ええ。」
「ずっと見てても飽きねぇんだ。」
フー、と煙を吐き出した。

「でも、それは俺だけじゃねえな……。」
「そうですね。」
当たり前の事だったんだな、と言い、ククッっと笑った。

「じゃあ、俺は……あいつの困った顔も、怒った顔も、泣き顔も好きになるさ。」
「皆と同じなど、つまらないですものね。」
「ああ。」

今まであいつに、いろんなものぶつけてきた気がする。
でも

「……まだまだ、ブン投げさせてもらうぜ。」

それしか出来ねえんじゃねえか、と思うようになった。
あいつへ抱くこの感情を言葉にしろといわれても、頭がごちゃごちゃしちまうから、俺は俺がそのとき思ったことを。
俺はお前がどんなに悲しんでも、俺に怒りを覚えたとしても、受け止めるよ。

だから俺を選べ。


「小十郎はの味方について宜しいですか?」
「的確な助言をするならな。」

それについて報告義務を課すほど、俺は鬼じゃねえから安心しろ、と言い、政宗は自室に戻っていった。

も大変だ……。」

明日からの食事は大盛りにしてあげよう、と思いながら、小十郎も部屋に戻る事にした。






「小太郎ちゃんー、頼んだよ。」
こくり
ーまたなー。」
小太郎に背負われながら、いつきはに手を伸ばした。
はその手を握り、またね、畑仕事頑張ってね、などお別れの挨拶をした。

「青いお侍さんもー。ありがとなー。」
「美味い米作れよ。」
「頑張る!!」

小太郎が、会話が切れるタイミングを見計らって、消えていった。
「お客さんみんな帰っちゃったねー…はくしょん!!」
?」
「風邪か?」
がうう~…と唸り、手で口を覆った。

「なんかさー…昨晩身震いがしてさ…へくしっ!!風邪じゃないとは思うけど……寒かったのかな。」
「………。」
はなかなか敏感だな、と小十郎は思った。

、身震いついでに。」
「う?」
「政務手伝え。」
「……風邪だ!!寝なきゃ!!」
「もう遅いぜー?」
「え、ちょ、うわあああ!!!」
政宗は問答無用での腕を取って思い切り引いた。