貫きたかった決意編 第6話
「うわぁびっくりした!なんだよ忍!」
「……。」
「小太郎ちゃん、ここどこ?」
樹々が茂る林の中に、小さな小屋があった。
「……。」
小太郎がスッと右を指差した。
細い道が続いていた。
「真っ直ぐ行ったら……青葉城?」
の質問に、こくりと頷いた。
「……あおばじょう?」
「政宗さんのお城だよ、武蔵君。お泊まりしたね?」
「ああ、うん!おぼえてる!野菜おいしかった!」
「そうだね。」
すぐ近くに政宗も小十郎がいる。
は落ち着かない思考を鎮めようと、深呼吸した。
「んで、忍、こっから歩くのか?」
「……。」
小太郎は一度武蔵に視線を向けた後、の耳に口を寄せた。
「え?武蔵君は、ここで寝泊まり?」
「えぇ!?なんでだよ!!」
武蔵は抗議の声をあげ、地団駄を踏んだ。
「そうしたほうが……最終兵器の意味を為す……」
ピクリと反応し、武蔵は大人しくなり、腕を組んだ。
「お、おれさまの価値、わかってるじゃん!」
「……。」
「…………。」
えっへんと腰に手を当てた武蔵をみて、小太郎が微かに笑った。
そんな小太郎を見て、は肩を落とした。
最終兵器の使い道さえまだ定まっていないのに、気が早いものだ、と。
「けど、そうだね……確かに……」
「ねぇちゃん?」
「武蔵君、ここから動くな、とは言わないわ。町へ行ってもいい、修行をしてもいい、けど、役人に捕まったりしないで。」
「うん」
武蔵は素直にこくんと頷いた。
「ねぇちゃんがおれさまを必要としたときに、おれさまがいなかったら不便だもんな。」
「武蔵君……」
武蔵は思った事を口にしただけで、きっと悪意はない。
だが、今のの心にはずしりとのしかかった。
今から自分は目の前の子を、道具として使うようで。
「そうじゃないの……不安で。武蔵君が……」
「おれ、そんなにガキじゃないよ。心配しなくても大丈夫だよ。」
「!」
武蔵がに寄り、優しく肩に手を置いた。
「だからねぇちゃん、おれさまに旨いメシもってきてよ!おれさま、ねぇちゃんのためにはたらいてやる!」
「武蔵君……」
二カッと笑う武蔵が今は逞しくて大人っぽく見える。
「ありがとう。」
は武蔵に笑顔を向けた。
感謝と懺悔の気持ちを込めて。
を抱えて、小太郎は庭に降り立った。
「ありがとう、小太郎ちゃん」
小太郎がふるふると首を横に振った。
すると、それを目撃していた家臣が慌ただしく廊下を走って行ってしまった。
「!」
義姫が動き、こちらに何か情報を流したのかと警戒した。
しかし、すぐに安心する声が聞こえて来た。
「ちゃあああん!遅かったねぇぇぇ!寂しかったあああ!」
「成実さん!」
「てめ、待ちやがれ!!避けろ!成実は避けろ!」
「と、政宗さん……」
に突進する成実を政宗が追っている。
「えと……?」
「ちゃんつかまーえた!」
「shit!くぉら成実!」
どうすればいいか判らないはそのまま成実にがばぁっと抱きつかれた。
それを見て政宗は一度頭を抱えたが、すぐに成実をひっぺがそうと手を伸ばした。
「が困ってんじゃねぇか!」
「困ってないもーん!ねー?」
「困ってないですよーえへへ……」
「……お前なぁ……」
成実を挟んで、と政宗の目が合った。
「戻りました!」
「怪我、ねぇか?」
「うん、無事に来れました!」
「そうか、良かったな。」
「殿とね、ちゃんが来た時にどっちが早く抱き付けるか競争だったんだよ!俺の勝ち!」
「あぁそうかよ!」
「あいた!」
一向に離れない成実を政宗は叩いた。
「どんな勝負ですか」
はクスクスと笑った。
「だって殿が不安がるからそうでも言ってテンション上げないと……あ!また痛い!」
「成実、いいかげんにしろ……」
顔を赤らめる政宗に、は手を伸ばした。
腕に軽く触る。
「政宗さん。」
「お、おぅ。まぁとりあえず休んで、それから話聞かせろ。俺も最近あった事話しておきてぇしよ。」
「うん。」
にしがみついたまま、成実はちらちらとと政宗を見た。
「なに、俺邪魔?」
「えっ!そんなことないです!」
「あぁ、邪魔だ。」
「ま、政宗さん!」
成実が大人しくから離れ、また後でね!と言いながらどこかへ行ってしまった。
「……。」
「……まぁ、成実が居なくなっても小太郎は居るわけだが……」
「今回も小太郎ちゃんにお世話になりました!」
「そうか、あのな、……「おや、、やっと来たか。」
政宗の声に被せて話しかけてきたのは、着物姿の小十郎だった。
「……こじゅうろう……。」
「小十郎さん!!」
が笑顔で手を振ると、小十郎が近付いてきた。
「遅かったな、さぁ、立ち話もあれだ、中に入りなさい。」
「そうだな……。」
「はい!」
それにはもちろん小十郎も付いてきて
「、今度はどこからきたんだ?」
「えーとですね…」
小十郎は当然のように茶を持ってきて、と政宗と小太郎と4人で一緒に過ごした。
「と……二人きりになれねぇんだなくそ……!」
政宗は机に頭を突っ伏した。
「何をおっしゃいますか政宗様、ささ、早くそこの書類に目を通して下さい。」
「おう……」
いつも通り、と思えるこのやりとりが、心から嬉しかった。
受けた質問には嘘を織り交ぜながら出来るだけ本当のことを言った。
最初は、山に着いてしまいどこか分からず彷徨った、やっと着いた町で半兵衛に会った、からしか言えなかった。
それを聞いた政宗と小十郎は、心配そうな顔で優しく問い掛けてくれた。
「おい、何かされなかったか?」
「大丈夫だったのか?」
「大丈夫だったよ、だって私本当になんにも状況知らなかったし?」
へらへらと言えば、二人は少し安心したようで、表情が緩む。
「半兵衛さんには、慶次の影響で旅してる、って言ってたし、けど怪しまれて大阪城まで連行されて。」
「長旅だったな。」
「小太郎ちゃんはすでに見つけてくれてたんだけど、なかなか隙が……ね?」
小太郎はの振りに大人しくコクリと頷いた。
「なかなかこっちに来れなくて、それで、なにがあったの?」
はわくわくしながら政宗に詰め寄った。
すると政宗はニヤリと笑い、の耳に口を寄せた。
「細かい事は省くがな、武田・上杉と同盟を組んだ。」
「同盟!」
「半兵衛は何か言ってたか?」
「詳しくは話してくれなかったけど、政宗さんの弱点はなにかみたいなこと聞かれたよ。悔しかったのかな?」
「だろうな!小太郎が豊臣軍を見つけて旗を奪った。豊臣が乱入し、武田、上杉を討とうとしてるのではないか、と考えた俺がそれを阻止するために現れた、って筋書きでよ。」
「凄いね……。」
「上杉の忍が納得してなかったが、自分一人でということで下がったぜ。」
「じゃあ、信玄様とも幸村さんとも佐助とも謙信様ともかすがとも今は仲間なんだね!」
「あぁ今はな。」
小十郎は政宗を見つめる。そんな説明ではあの時の状況は伝わらないな、と苦笑いする。
豊臣軍がいる、と小太郎とその部下の報告を受けて政宗は豊臣を嵌めるぞ、と言い出した。武田信玄と上杉謙信が相見えるであろう場へ隠れながら少数精鋭で進み、機を伺った。ここだ、という政宗の判断で、小太郎と黒脛巾組が豊臣から旗を奪取、川中島へ侵入を企てているかのように動かしたあと、その豊臣軍が攻撃を受けているかのような動きを見せて旗を落とす。
そしてしばし間を置き、武田、上杉が現状確認に動き始めた際に政宗が現れる。
戦を見学させてもらった、邪魔が入りそうだったから一掃しといたぜ、と、言いながら、戦の場である浅瀬の川へ入っていく。
信玄と謙信は政宗を警戒し、武器に手を取る。
佐助はかすがを抑えながら、幸村はすぐに信玄の援助に動けるよう、謙信と政宗の両者を警戒していた。
政宗は、信玄と謙信を見据えた後、その場に膝をついた。
冷たい水に腿から下を浸し、頭を下げ、この戦に割って入ることを詫びた。
政宗は道中、どうするかはその場の空気で決める、お前の行動はお前に任せる、と小十郎に言っていた。ならば、と小十郎もそれに続き、膝をついて頭を下げる。
豊臣軍の行動の問題点を挙げ、この様な場ですら己の利を優先する精神を許す事が出来ない、そして織田、豊臣を倒すために力を貸して欲しいと伝えたのだった。
信玄は目を丸くしていた。
伊達の小倅が、こんなことが出来るようになっていたのか、と親戚のようなことを考えているな、と小十郎は笑いそうになっていた。
謙信はすぐに刀を納めた。
誰の影響を受けたのか、すぐに察する事が出来たから。
「……。」
「そっかぁ、なんか、ほんとかなって思ってたけど、政宗さんの口から聞くと現実味が出て来た。」
「んなもん嫌でも感じてくるぜ。それでだな」
「?」
話はそこまでかと考えていたが、先があるのか、と政宗を見つめる。
政宗がこれまでより嬉しそうな顔をしているので、も笑顔で言葉を待った。
しかし、すぐに硬直してしまった。
「俺の母上がよ、それ聞いて、連絡くれたんだ。」
の脈が速くなった。
何て返したらいいのか判らない。
「……母上って?」
怪しまれないよう声を絞り出す。
「まぁ大した事じゃないんだが、食事に呼ばれた。」
政宗の声はいつも通りだったのだが、嬉しさを抑えているのがすぐに判る笑顔だった。
「呼ばれた?ここで会うんじゃないんだ?」
は思い付く限りの質問を政宗に尋ねた。
「米沢城にいるんだ。も同席、いいだろ?」
「え?それ、いつ?」
素で驚いてしまった。
それは自分が消えてしまう日のはずだ。
「お前が戻る前日だ。満月の夜にどうだと良い誘いを受けたが、そこは調整しちまったよ。一緒に食事して、お前の事、母上に紹介しようと思う。なぁ?小十郎。」
「……はい。」
小十郎は政宗の目配せに返事はしたものの、若干下を向いてしまった。
「政宗さんの、お母様に?」
「今回の事できっと俺を認めてくれたってことだ。だからよ、いい機会だろ。なぁ、小十郎?」
「そうですね。」
「紹介、って……?」
「別に、深い意味はねぇよ。これからますます正室だ側室だうるさくなんだよ。俺のそばにはこういう奴がいるって示しておきてぇっつーか……」
ぶっきらぼうに言いながら、照れているのを隠せてない。
いつもの自分なら、戸惑って、でもそんな政宗が可愛らしく感じてしまって、胸はときめいていたのかもしれない。
今は最悪の状況しかの頭は想像できなかった。
小次郎を思い出して目が潤みそうだ。
今はだめだ。
「政宗さん、あの」
「難しく考えなくていい。ちぃと、後で話がある。それで……」
「やだ。」
の言葉に政宗が止まる。
「は?」
「お食事、行きたくない。」
「なん……なんでだよ?」
予想してなかったのか、政宗は目を丸くした。
しかし小十郎はを見つめてほっとしている。
「政宗さんのお母様、怖いんでしょ?」
「誰に聞いた?」
「調べた……」
は言いずらそうに躊躇いながら、意見を述べた。
「政宗さんのことはともかく、私は余所者だよ?久々の団らんに押しかけて、良い反応してくれるかな……?」
「それは最もです、政宗様。まだを連れて行くなどと向こうに伝えていません。まずは政宗様が、の存在をその会食にて話してからが良いかと。」
「そんな慎重になることか?」
「段階を踏むことも大切です。」
「そうか……?そうだな……」
うーんと唸ったが、政宗は納得したようでそれ以上は言わなかった。
疲れが溜まっているの様子に、政宗は残りの話は明日ということにして解散となった。
夜になり、が寝ようとすると、自室に近付く足音が聞こえてきた。
「?」
酷く焦った足取りだ、と感じた。
部屋の前で、止まった。
「起きてるか?」
「小十郎さん?」
「入っていいか?」
「はい。」
戸を開けた小十郎は、眉間に皺を寄せ、珍しく余裕の無い顔をしていた。
「どうし……」
「年甲斐もなく……と思われても仕方ねぇ。政宗様を見て、我慢しなきゃならねぇとは何度も思った。」
の言葉を遮り、言うと同時にの部屋に入って来る。
何事だろうと、は黙って小十郎を見つめた。
「けど、の顔見たら、の空気に触れたら、耐えられなくなっちまった……。頼みが、あるんだ。」
に近付くと、すぐに腕を掴んで力を込めた。
「一緒に、来てくれ。」
「小十郎さん……」
「頼む。わがままだって判ってる。けれど、もう無理なんだ……我慢できねぇ……!」
「こじゅ……」
「許してくれ……来てくれ……」
この男にここまで言われて、拒む理由がには無かった。
引かれるまま、立ち上がる。
「政宗様に……見つからねぇところへ……。」
「いきなり手の平返しやがってあのアマァァァ‼︎‼︎」
小十郎はドスっと音が聞こえるほどに木に蹴りをかました。
「やりすぎて怪我しないでくださいよ?」
は近くの岩に座り込んで鬱憤を晴らす小十郎を眺めていた。
「はイラッとしねぇか!?同盟の途端に食事だ⁉︎政宗様を翻弄して!」
「翻弄って……お母様じゃないですか。それになんか小十郎さん尋常じゃなく怒ってるから……」
続きを言おうとしてはっとした。
小十郎が怒っているから、自分には余裕があった。
小次郎様が、お母様に持たせたかった気持ちは、これなのだろう。
「私の分まで小十郎さんが怒ってるから、私は平気。」
「そうなのか?まぁ、の鬼のような顔はあまり見たくないがな……」
小十郎は木に向かっての暴力は止め、に近寄る。
「こんなことに付き合わせて悪かったな。」
「誰かに打ち明けると軽くなりますもんね。」
「ああ。内に溜めとくとイライラして仕方ねぇ。」
の隣りに座り込んだ小十郎の顔は、先程よりは余裕を取り戻していた。
「止めたり、しなかったんですね。」
「政宗様をか?」
「はい。」
「止められないさ。本当は、喜ぶべきだって判ってるんだが、素直になれなくてな。」
「そんなに、政宗さん、嬉しそうだったんだ。」
地面を見つめて、は唇を噛んだ。
その政宗の幸せは、勘違いで終わるかもしれないのだ。
そのの表情を見て、小十郎はなんと受け取ったか、ぽんぽんとの背を叩いてくれた。
「不安か?」
「不安……?」
「大丈夫だ。義姫様と政宗様が仲直りしたとしても、への態度は変わらないだろうよ。」
「あ、いえ、政宗さんのことは信用してます。その、そんなに、良い事だらけ続いて、逆に、怖いなって……」
小十郎に、もしこれから起こるかもしれないことを話したらどうなるのだろうと想像する。
きっと小十郎は自分を信じてくれる。
「……。」
だから、言わないでおこう、と思った。
「怖い、か。しかしこの時期に義姫様が政宗様になにかするなんて考えられないだろう。」
「そうですよね。」
「本当に仲良くなればいいが……」
政宗の姿を思い出したのか、小十郎がフッと笑った。
「弟の、は会ったことがないか。小次郎様というお方が居るんだ。小次郎様とも文のやり取りをしてな……」
「え、弟さん……?」
ここで小次郎の名前が出てくるとは思わず、驚いてしまったが、小十郎はそれを気にすることなく話を進めた。
「さすがにこの話で北条のやつらも大人しくなったから政宗様は一度そちらに出向き、その間の外交を小次郎様に頼んだんだ。上杉近辺の細かい情勢は米沢城にいる小次郎様の方が詳しいこともあってな。」
「へぇー。」
「信玄公と謙信公と、小次郎様も交えて宴を行った。小次郎様の秀明さを気に入ってくれたんだ。」
「そうなんだ。」
「政宗様と小次郎様はそんなに仲が良いほうでは無かったんだが、伊達家の為ならと。少しは近付けたようだ。」
「良かったじゃん!」
「このまま家族円満……まぁ悪いことじゃねぇな。」
小十郎はに話したことで前向きになれたようだ。
夜空を仰いで口元が僅かに上がっていた。
は地面を見つめたままだった。
小次郎様が、信玄様と謙信様と仲良くなった……
……準備じゃ、ないよね……?
政宗さんを殺す……準備じゃないよね……?
(そんなのやだ……)
用意周到にこんな計画を進めてるなんて、考えたくなかった。
(もっと、突発的なものだったら……まだ救われようがあるのに……)
にとって、今まで以上に非日常だ。
「……?」
「えっ、あ、なんですか?」
小十郎に話しかけられ、は勢いよく顔を上げた。
「疲れているか?すまねえ、もう部屋に戻ろうか。」
「あ、すいません……」
小十郎が背をの背を優しく押し、はゆっくり立ち上がった。
「疲れてる、のかもしれません。今日は早く寝ます……」
「そうだな。それがいい。」
が空を見上げると、星空の中に一筋の影が通り過ぎる。
小太郎だろうな、と思った。
とくに心配することもなくその方向に背を向ける。
「ところで。」
「はい」
「どうして食事を断った?」
歩きながら小十郎がそう問う。
「不思議ですか?」
「いや、ならそういうのは人脈!とか言って承諾しちまうかと思ったぞ。そんなに恐ろしい人間として義姫さまは伝わってんのか?」
「そういう訳ではないですが、なんか、嫌だったんです。そんな簡単に、間に入りたくなくて。政宗さんと、義姫様の間……」
「正解だと思うぞ。」
小十郎の顔を見上げると、苦笑いをしていた。
「政宗様は珍しく焦っちまってな、俺が反対したら駄々っ子のように嫌だと言ったんだ。」
「焦ってる様子は無かったような?」
「にまで俺と同じことを言われたら、さすがに考え直すさ。」
「そか……」
部屋に着き、小十郎に送ってくださりありがとうございます、と言おうと振り返ろうとすると、小十郎はの横を通り過ぎた。
中に入り、蝋燭に火をつけ、に手招きをした。
「小十郎さん?」
「やっぱり、いいな。」
「?」
小十郎が穏やかに笑うので、も笑顔で首を傾げた。
「がここに居るのは、とてもいい。」
そんなことを言われ、は目を丸くした。
「また、明日な。」
「お、おやすみ、なさい……」
「おやすみ」
小十郎の背が見えなくなるまで見送った。
見えなくなったら、布団にもぐりこんだ。
「………。」
目を閉じて色々考えようと思うが、なかなか上手くいかない。
何も悩みたくないと、細胞が拒否しているようだ。
「……小太郎ちゃん……」
ぼそりと呟く。
「小太郎ちゃん、小太郎ちゃん……一緒に寝よ……」
聞こえているはずがないだろうと、冷静な自分が言う。
しかしトン、と小さな音がして、かちゃかちゃと甲冑を外す音がして、すぐに隣にぬくもりが現れるから不思議だ。
「ありがと……」
ぎゅうっと抱きついて、しっかりしろと自分に喝を入れる。
大丈夫だと、自分は皆と離れられると、言い聞かせた。